陽が傾きかけた空の下、乾いた風が荒野を吹き抜ける。かつては穏やかな村だったはずの場所――今では、ただの廃墟と化していた。
リリシアは歩みを止め、焼け焦げた家の残骸を見つめる。崩れ落ちた屋根、ひび割れた壁、そして、土に埋もれるように転がる道具や壊れた咎霊器の残骸。
この村には、もう誰もいない。
「……やっぱり、遅かったのね」
彼女の声は、乾いた風にかき消されるように小さく響いた。
隣でアリセアがそっと頷く。彼女の紫の瞳には、慎重な警戒の色が浮かんでいた。
「この村……技術派の人々が暮らしていたはずよね?」
フローリアが問いかける。彼女の淡い銀髪が、沈みゆく陽の光を受けて儚げに揺れる。
「ええ。辺境で独自に技術を発展させていた人たちの村よ。魔法に頼らず、自分たちの手で生きることを選んだ人たち……」
リリシアはそう言いながら、地面に半ば埋まったままの金属片を拾い上げた。それは、技術派が「廃棄された咎霊器」を修理し、再利用しようとした痕跡だった。
だが、その結果は――この村の有様が物語っている。
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村の中央へと進むにつれ、異様な光景が広がっていった。
地面には、奇妙な黒い痕跡が点々と広がっている。まるで誰かが苦しみながら這いずったような跡。
「……これ、咎の影響ね」
アリセアが低く呟いた。
「この村の人たち、咎霊器を修理して再利用しようとしたんでしょう。でも、咎の力は制御しきれなかった……」
リリシアは胸の奥が重くなるのを感じた。
都市国家では、咎霊器は厳重に管理される。しかし、この村では「魔法に頼らずに生きるため」、危険を承知の上で廃棄された咎霊器を修理し、道具として利用しようとしたのだ。
その結果――村全体が、咎狂に飲み込まれた。
「これが、技術派の“自立”の結末……?」
フローリアがぽつりと呟いた。
「違うわ」
リリシアはきっぱりと否定した。
「これは……“誰も助けなかった結果”よ」
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リリシアの脳裏に、かつての光景が蘇る。
都市国家セレスティアの高い壁の内側。そこでは、魔法によって都市の秩序が維持され、魔導士たちが咎霊器の管理を徹底していた。
だが、魔法派は技術派を「危険な存在」として見下し、彼らを都市に迎え入れることはしなかった。
一方で、技術派の人々も魔法に頼ることを拒み、独自の道を進もうとした。
その結果――この村の人々は、誰の助けも得られぬまま、咎の力に飲み込まれた。
「技術派のやり方は確かに危険よ。でも、魔法派だって……」
リリシアは、自分の手を握りしめる。
「ただ“危険だから”って理由で、彼らを見捨てたのよ」
技術と魔法。
どちらも人々を救う可能性がある。
だが、どちらもまた、人々を破滅へと導く可能性を秘めている。
それなのに、どちらの陣営も「自分たちの正しさ」に囚われていた。
――この村の惨状は、その歪んだ対立の犠牲なのだ。
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「……誰か、生き残っているかもしれないわ」
アリセアが周囲を見渡しながら言った。
「可能性は低いけれど、まだ完全に咎狂が支配したわけじゃない……」
リリシアとフローリアも頷き、村の奥へと足を進めた。
その時――。
ガリッ……ガリッ……
かすかな音が、廃墟の奥から響いた。
「……!」
三人は、反射的に身構える。
音の方を見やると、倒壊した家屋の陰から、何かがゆっくりと這い出してきた。
それは――人だった。
いや――かつて人だった者。
肌は灰色に変色し、腕は異様に長く歪み、目は虚ろに光っている。
咎狂。
かつてこの村で暮らしていたはずの人間が、咎の影響によって異形化し、理性を失った存在。
「……やっぱり」
リリシアは、深く息を吐いた。
もはや、言葉は通じない。
リリシアは、そっと手を合わせ、目を閉じた。
「ごめんなさい……」
次の瞬間、アリセアの右手が紫の炎を纏う。
フローリアが静かに呪文を唱え始める。
そして、リリシアもまた、胸の奥で「覚悟」を固めた。
――この悲劇を、これ以上繰り返させないために。