霊刻の咎(れいこくのとが)   作:くにゅたろ

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第64話: 貴族たちの思惑(リリシア視点)

冷たい大理石の床を踏みしめながら、私は貴族会議の広間へと足を進めた。

 

天井には豪奢なシャンデリアが輝き、壁には歴代の支配者たちの肖像画が整然と並んでいる。

 

この都市の権力の象徴。

 

けれど、その豪奢な装飾とは裏腹に、会議の空気は張り詰めていた。

 

長い円卓の周囲には、この都市を動かす貴族たちが座っている。

 

男も女も、着飾った衣の襟を正し、目の奥には打算の光を宿していた。

 

私は、そんな彼らの前に立ち、息を整えた。

 

「魔導者は、都市の礎です。」

 

大広間に、私の声が響く。

 

「魔導者なくしてこの都市の防衛は成り立たず、咎狂の脅威も払えません。ですが、彼らの扱いはあまりにも不当です。」

 

一瞬の沈黙が広間を包む。

 

貴族たちは互いに視線を交わし、私の言葉を慎重に吟味している。

 

「それは、魔導者自身の選択の結果だろう。」

 

円卓の奥から低い声が発せられた。

 

ロクス・エリオン伯爵。

 

この都市で最も影響力を持つ貴族の一人。

 

彼の瞳は鋭く、微かな侮蔑を含んでいる。

 

「彼らは自ら魔法を手にし、咎を受け入れた。我々が提供したのは力の行使を認める場であり、報酬だ。だが、その力が制御できず異形化する者がいるのも事実。魔導者が管理されるのは当然のことだ。」

 

私は即座に反論する。

 

「では、管理の名の下に自由を奪い、道具として扱うことが正義なのですか?」

 

「正義?」

 

エリオン伯爵は鼻で笑った。

 

「これは秩序の問題だ。我々は秩序を守る側であり、魔導者はそのための手段にすぎない。」

 

別の貴族が頷く。

 

「都市国家の存続を考えれば、魔導者が制御されるのは必然。我々の管理の下で生きることこそが、彼らの安全の保障でもある。」

 

「しかし、その管理が彼らを苦しめているのです。」

 

私の声には、明確な怒りが滲んでいた。

 

「彼らは"人"です。ただの兵器ではありません。」

 

すると、別の貴族が皮肉めいた口調で言った。

 

「"人"か。だが、異形化した魔導者も"人"と言えるのかね?」

 

場の空気が凍りつく。

 

私は奥歯を噛んだ。

 

確かに、異形化した魔導者の末路は悲惨なものだった。

 

都市国家では、異形化した者は管理不能とみなされ、時に処分されることさえある。

 

彼らは、都市を守るために力を振るった者たちだった。

 

だが、その代償を支払うことになったのは、彼ら自身だった。

 

その現実を突きつけられてもなお、私は視線を逸らさなかった。

 

「ならば、その"異形化"が避けられる道を作るべきではありませんか?」

 

「何を言う。」

 

エリオン伯爵が嘲笑するように言う。

 

「それは、魔導者自身の責務だろう。我々に何をしろと言うのだ?」

 

「私は、貴族のあり方を変えます。」

 

私は静かに、しかし確固たる決意を持って宣言した。

 

「魔導者を人として扱う社会を作ります。」

 

会議室がざわめく。

 

「私が、貴族を変えてみせます。」

 

私はそう言い切ると、静かに席を離れた。

 

背後で、貴族たちの議論が再び始まる。

 

だが、私の決意が揺らぐことはなかった。

 

それは、ここにいる誰よりも、私自身が知っている。

 

——私は、魔導者を守る。

 

そのためならば、貴族であろうと、変える覚悟があるのだから。

 

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