霊刻の咎(れいこくのとが)   作:くにゅたろ

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第68話: 静かなる反乱(リリシア視点)

都市の空気は、張り詰めた糸のように緊迫していた。

 

セプタ・アエテルナの中央議会の建物の前には、武装した兵士たちが整列している。

 

その向こうには、杖や剣を握りしめた魔女たちの群れ。

 

彼女たちの顔には、抑えきれない怒りが浮かんでいた。

 

「もう耐えられない!」

 

群衆の中から、誰かが叫ぶ。

 

「私たちはずっと、戦場の駒として扱われてきた! 貴族どもは都市の中でぬくぬくと暮らし、私たちだけが命を削られている!」

 

その言葉に、周囲の魔女たちが一斉に拳を振り上げる。

 

「もう十分だ!」

「私たちも対等な権利を持つべきだ!」

 

私は、ゆっくりと彼女たちの前に歩み出た。

 

「待って」

 

一瞬、沈黙が走る。

 

私の姿を見た魔女たちは、一瞬戸惑いの表情を見せた。

 

「……リリシア様?」

 

私は頷き、深く息を吸い込む。

 

「私は、あなたたちの怒りが理解できる」

 

私は、彼女たち一人一人を見つめた。

 

「これまで、魔女たちは咎の力を制御するために都市の防壁となり、多くの犠牲を払ってきた。それなのに、私たちに与えられたのは、貴族の命令と、監視の目だけ……」

 

誰かが唾を吐く。

 

「今さらそれを言って、何になる?」

 

私は首を振った。

 

「私は、あなたたちの怒りを否定しない。でも、どうか考えてほしいの。暴力でこの体制を覆したとして、それが本当に『私たちが望む未来』なの?」

 

「じゃあ、どうすればいいんだ!」

 

群衆の中の一人が声を上げた。

 

「私たちは話し合いの場すら与えられてこなかった! もう言葉で解決する段階は過ぎているんだ!」

 

「それは違う」

 

私は静かに、しかしはっきりと告げた。

 

「今こそ、対話の機会を作る時よ」

 

一瞬、沈黙が広がる。

 

「貴族たちが、それを認めると思うのか?」

 

誰かが冷笑する。

 

「認めさせるわ」

 

私は力強く言った。

 

「もし貴族たちが魔女の価値を認めず、ただの道具として扱おうとするなら——私は、この都市そのものを変えるために動く。交渉でも、改革でも、どんな手を使ってでも」

 

その言葉に、魔女たちの表情が変わった。

 

「この都市の秩序は、もう限界に来ているわ。咎の力に頼り続け、魔女に全てを押し付けるこの構造は、もはや維持できない」

 

私は、拳を強く握る。

 

「でも、それを変えるのは、無秩序な暴動じゃない。私たちが、私たちの力で新しい道を示すのよ」

 

誰かが、息を呑んだ音が聞こえた。

 

「……そんなことが、本当に可能なのか?」

 

私は微笑み、静かに頷く。

 

「この世界は、変わる。私たちが変えなければならない」

 

魔女たちは互いに顔を見合わせた。

 

怒りの中にあった狂気が、徐々に落ち着きを取り戻していく。

 

その場の空気が変わり始めた時——

 

「なら、見せてもらいましょうか?」

 

冷たい声が響いた。

 

私は振り返る。

 

そこには、貴族たちが並んでいた。

 

彼らの表情には、驚きと、警戒と、そして——かすかな好奇心があった。

 

私は微笑む。

 

「交渉の時間ね」

 

今、私たちは歴史の分岐点に立っている。

 

そして、この戦いは、言葉で決める。

 

私は、静かに息を整えた。

 

この世界は、必ず変わる。

 

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