都市の空気は、張り詰めた糸のように緊迫していた。
セプタ・アエテルナの中央議会の建物の前には、武装した兵士たちが整列している。
その向こうには、杖や剣を握りしめた魔女たちの群れ。
彼女たちの顔には、抑えきれない怒りが浮かんでいた。
「もう耐えられない!」
群衆の中から、誰かが叫ぶ。
「私たちはずっと、戦場の駒として扱われてきた! 貴族どもは都市の中でぬくぬくと暮らし、私たちだけが命を削られている!」
その言葉に、周囲の魔女たちが一斉に拳を振り上げる。
「もう十分だ!」
「私たちも対等な権利を持つべきだ!」
私は、ゆっくりと彼女たちの前に歩み出た。
「待って」
一瞬、沈黙が走る。
私の姿を見た魔女たちは、一瞬戸惑いの表情を見せた。
「……リリシア様?」
私は頷き、深く息を吸い込む。
「私は、あなたたちの怒りが理解できる」
私は、彼女たち一人一人を見つめた。
「これまで、魔女たちは咎の力を制御するために都市の防壁となり、多くの犠牲を払ってきた。それなのに、私たちに与えられたのは、貴族の命令と、監視の目だけ……」
誰かが唾を吐く。
「今さらそれを言って、何になる?」
私は首を振った。
「私は、あなたたちの怒りを否定しない。でも、どうか考えてほしいの。暴力でこの体制を覆したとして、それが本当に『私たちが望む未来』なの?」
「じゃあ、どうすればいいんだ!」
群衆の中の一人が声を上げた。
「私たちは話し合いの場すら与えられてこなかった! もう言葉で解決する段階は過ぎているんだ!」
「それは違う」
私は静かに、しかしはっきりと告げた。
「今こそ、対話の機会を作る時よ」
一瞬、沈黙が広がる。
「貴族たちが、それを認めると思うのか?」
誰かが冷笑する。
「認めさせるわ」
私は力強く言った。
「もし貴族たちが魔女の価値を認めず、ただの道具として扱おうとするなら——私は、この都市そのものを変えるために動く。交渉でも、改革でも、どんな手を使ってでも」
その言葉に、魔女たちの表情が変わった。
「この都市の秩序は、もう限界に来ているわ。咎の力に頼り続け、魔女に全てを押し付けるこの構造は、もはや維持できない」
私は、拳を強く握る。
「でも、それを変えるのは、無秩序な暴動じゃない。私たちが、私たちの力で新しい道を示すのよ」
誰かが、息を呑んだ音が聞こえた。
「……そんなことが、本当に可能なのか?」
私は微笑み、静かに頷く。
「この世界は、変わる。私たちが変えなければならない」
魔女たちは互いに顔を見合わせた。
怒りの中にあった狂気が、徐々に落ち着きを取り戻していく。
その場の空気が変わり始めた時——
「なら、見せてもらいましょうか?」
冷たい声が響いた。
私は振り返る。
そこには、貴族たちが並んでいた。
彼らの表情には、驚きと、警戒と、そして——かすかな好奇心があった。
私は微笑む。
「交渉の時間ね」
今、私たちは歴史の分岐点に立っている。
そして、この戦いは、言葉で決める。
私は、静かに息を整えた。
この世界は、必ず変わる。