アルカディアの姿が、咎の光に照らされて浮かび上がる。
黒紫の炎が彼女の背から伸び、禍々しい翼のように空間を揺らしていた。
「ここで終わりにしましょう、アリセア」
その声は静かだった。けれど、私の胸に突き刺さるほどの重みを持っていた。
「私たちは違う道を選んだだけ。けれど……」
私は剣を構える。目の前に立つ彼女は、もう“人”ではなかった。いや、もしかしたら、誰よりも人間的な存在なのかもしれない。
「都市国家は腐りきっている。魔女は使い潰され、貴族たちはその力に依存しながらも、恐れて封じようとする。私は、その構造ごと焼き払う」
黒い炎が地面を走り、足元の石畳を焦がして割った。
「だから咎の力を解放するの? それがあなたの理想?」
「ええ。全てを無に返し、まっさらな世界から始めるのよ。神々の恩寵も、血の系譜も関係ない世界を」
私は剣を握り直す。
「それは再生じゃない、ただの破壊よ」
「破壊なくして再生はない」
彼女はそう言って、黒い炎を纏って跳躍した。地を蹴る音と同時に視界が揺れる。
私は瞬時に受け止める。紫の光と黒い炎がぶつかり合い、裂けた空気が耳を切り裂いた。
アルカディアの攻撃は、怒りと執念の塊だった。
炎の鞭が空を裂き、地を穿ち、咎の力を引きずり出す。
私は何度も押され、何度も立ち上がった。
「あなたには分からない……何度、手を差し伸べても拒絶され、嘲笑されたか……!」
その叫びには、深い絶望と悲哀があった。
「私は、あらゆる手段を使ってでも、未来を変えようとした。それが、私の……私たちの唯一の正義よ」
彼女の姿が揺れる。
右腕は炎の鎧に覆われ、皮膚は黒く変色していた。
紫の瞳は、もはや瞳孔の形すら失っていた。
「アルカディア……」
私は震える声で呼びかける。
「それでも、あなたは間違ってる」
「間違い? では聞かせて。あなたはこの世界をどう変えるの?」
彼女の言葉が刃のように突き刺さる。
私は剣を構え直し、額に浮かぶ刻印を指でなぞった。
「私は、あなたを倒さない。あなたを“否定”するのではなく、“示す”の」
紫の光が私の周囲を包み始める。
体の内側から何かが解き放たれ、意識が拡張していく感覚。
これは、“鍵”の力。咎を鎮め、光に変える術。
「咎を、受け入れる」
私は一歩踏み出した。
「誰かを犠牲にするのではなく、手を伸ばし合うことから始める。壊すより、繋ぐことを選びたい」
鍵の光が剣に宿ると、空気が震え、黒い炎が揺らいだ。
「そんな幻想——」
アルカディアが反撃しようとした瞬間、私は剣を振るった。
光の奔流が彼女を包み込む。
それは攻撃ではない。
怒りと悲しみを焼き尽くすための、祈りに似た一閃だった。
黒い炎が剥がれ落ち、彼女の鎧が崩れる。
暴走していた力が霧のように散っていく。
「なぜ……私を……」
膝をついたアルカディアが、困惑した瞳で私を見上げた。
「私は、あなたを信じたいの」
私は剣を収め、そっと手を差し出す。
「あなたの理想が間違いだったとしても、その想いの根は……きっと、誰かを救いたいという気持ちだったはず」
アルカディアは、しばらく私の手を見つめていた。
やがて、わずかに口元をほころばせる。
「あなたって、本当に……厄介ね」
そして、彼女はそっと私の手を取った。
光が包み込み、咎の渦は静かに収束していった。
戦いは、終わった。
けれど、私たちの道は、ここから始まる。