霊刻の咎(れいこくのとが)   作:くにゅたろ

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第73話「魔女たちの決断」(リリシア視点)

セレスティアの空は、どこまでも高く澄んでいた。

神殿の白壁に反射する光が、まるで未来を象徴するように明るく、痛いほどだった。

けれど、私はそれを喜びとして受け取ることができなかった。

 

「自治、というのはつまり、私たちがこの力を自らの手で管理するということか?」

魔女の一人、黒衣の長身の女性が問いかける。

 

彼女の名はカリュナ。フェリス・インファーニスで数度の前線任務を指揮した経験を持つ戦術魔女。

彼女のような者たちは、今の混乱の中で「秩序の再定義」を強く求めている。

 

「そう。私たち自身で責任を引き受けるの」

私は、真正面から答えた。

 

「咎が私たちの内にあるとしても、それをどう扱うかは私たち自身が決めなければならない。都市国家に任せきりにするのでは、また誰かが犠牲になるだけ」

 

私の言葉に、数人が頷く。

けれどその後ろで、別の声が割って入った。

 

「綺麗事だ。なら、問おう」

立ち上がったのは、紅の装束を着た若い魔女、ヴァレク。

 

「自治を得たあと、どうやって“咎狂”に対抗する? 咎霊器なしに、あの力を止められるのか?

『守る』だけで済む時代はもう終わったんだ。俺たちは“兵器”として育てられてきた。

その力を、今こそ使うべきじゃないのか?」

 

彼女の言葉には、確かに説得力があった。

咎の力は、災厄であると同時に唯一の対抗手段でもある。

それを否定することは、自己の存在さえ否定しかねない——そう思っている者が多いのも事実だ。

 

けれど、それでも私は譲るわけにはいかなかった。

 

「力を行使する自由を得たいからこそ、私たちは“魔導者”を名乗ってきたはずよ」

私は声を強める。

 

「でも、その自由は、誰かを傷つけて良いという許可証じゃないわ。

力の使い方を誤れば、私たちはまた、“咎狂”と同じ道を辿る。

だからこそ、いま、決断しなければいけないの。

私たちは“誰かの手段”になるのではなく、“意思を持った共同体”として、どう生きるのかを」

 

沈黙が訪れる。

神殿の窓から差し込む陽光が、集まった魔女たちの顔を白く照らしていた。

 

私はこの場に来るまで、何度も自問した。

本当に、私たちは「対話」で変われるのかと。

けれど、今この場に、確かにそれを選び取ろうとしている人々がいる。

 

「……力を否定するつもりはない」

ようやく、カリュナが口を開いた。

 

「だが、力の行使が唯一の選択肢だと思い込むこともまた、愚かだ。

それを教えてくれたのは、アリセアだった。あの子は“敵”すら拒絶せず、受け入れようとした」

 

その名を聞いた瞬間、場の空気が少しだけ変わる。

皆、知っていた。

あの“解放の魔女”の選択が、どれだけ不安定で、同時にどれだけ希望に満ちたものだったかを。

 

「……多数決を取ろう」

誰かが言い、それに異を唱える者はいなかった。

 

一人ずつ、順番に声が上がる。

「賛成」

「保留」

「反対」

「条件付き賛成」

静かな、でも揺るぎない意思が、神殿の大広間に積み重なっていく。

 

結果は——

 

「多数による自治賛成。ただし、力の使用は限定的とし、咎霊器の再利用には議会の承認を必要とする」

 

私たちは、自分たちの未来を、自分たちで選び取ったのだ。

 

帰り際、ヴァレクが私の隣に立った。

 

「……俺はまだ、納得してるわけじゃない」

 

「それでいいわ。時間はかかる。でも、対話の扉が開かれたことが何より大事なの」

 

彼は鼻を鳴らし、そっぽを向いた。

 

でも、その背中はもう、“敵”ではなかった。

 

私は、今日の陽光がまぶしいほど強いことに、少しだけ救われる思いがした。

変わろうとしている。

本当に、世界は変わろうとしている。

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