セレスティアの空は、どこまでも高く澄んでいた。
神殿の白壁に反射する光が、まるで未来を象徴するように明るく、痛いほどだった。
けれど、私はそれを喜びとして受け取ることができなかった。
「自治、というのはつまり、私たちがこの力を自らの手で管理するということか?」
魔女の一人、黒衣の長身の女性が問いかける。
彼女の名はカリュナ。フェリス・インファーニスで数度の前線任務を指揮した経験を持つ戦術魔女。
彼女のような者たちは、今の混乱の中で「秩序の再定義」を強く求めている。
「そう。私たち自身で責任を引き受けるの」
私は、真正面から答えた。
「咎が私たちの内にあるとしても、それをどう扱うかは私たち自身が決めなければならない。都市国家に任せきりにするのでは、また誰かが犠牲になるだけ」
私の言葉に、数人が頷く。
けれどその後ろで、別の声が割って入った。
「綺麗事だ。なら、問おう」
立ち上がったのは、紅の装束を着た若い魔女、ヴァレク。
「自治を得たあと、どうやって“咎狂”に対抗する? 咎霊器なしに、あの力を止められるのか?
『守る』だけで済む時代はもう終わったんだ。俺たちは“兵器”として育てられてきた。
その力を、今こそ使うべきじゃないのか?」
彼女の言葉には、確かに説得力があった。
咎の力は、災厄であると同時に唯一の対抗手段でもある。
それを否定することは、自己の存在さえ否定しかねない——そう思っている者が多いのも事実だ。
けれど、それでも私は譲るわけにはいかなかった。
「力を行使する自由を得たいからこそ、私たちは“魔導者”を名乗ってきたはずよ」
私は声を強める。
「でも、その自由は、誰かを傷つけて良いという許可証じゃないわ。
力の使い方を誤れば、私たちはまた、“咎狂”と同じ道を辿る。
だからこそ、いま、決断しなければいけないの。
私たちは“誰かの手段”になるのではなく、“意思を持った共同体”として、どう生きるのかを」
沈黙が訪れる。
神殿の窓から差し込む陽光が、集まった魔女たちの顔を白く照らしていた。
私はこの場に来るまで、何度も自問した。
本当に、私たちは「対話」で変われるのかと。
けれど、今この場に、確かにそれを選び取ろうとしている人々がいる。
「……力を否定するつもりはない」
ようやく、カリュナが口を開いた。
「だが、力の行使が唯一の選択肢だと思い込むこともまた、愚かだ。
それを教えてくれたのは、アリセアだった。あの子は“敵”すら拒絶せず、受け入れようとした」
その名を聞いた瞬間、場の空気が少しだけ変わる。
皆、知っていた。
あの“解放の魔女”の選択が、どれだけ不安定で、同時にどれだけ希望に満ちたものだったかを。
「……多数決を取ろう」
誰かが言い、それに異を唱える者はいなかった。
一人ずつ、順番に声が上がる。
「賛成」
「保留」
「反対」
「条件付き賛成」
静かな、でも揺るぎない意思が、神殿の大広間に積み重なっていく。
結果は——
「多数による自治賛成。ただし、力の使用は限定的とし、咎霊器の再利用には議会の承認を必要とする」
私たちは、自分たちの未来を、自分たちで選び取ったのだ。
帰り際、ヴァレクが私の隣に立った。
「……俺はまだ、納得してるわけじゃない」
「それでいいわ。時間はかかる。でも、対話の扉が開かれたことが何より大事なの」
彼は鼻を鳴らし、そっぽを向いた。
でも、その背中はもう、“敵”ではなかった。
私は、今日の陽光がまぶしいほど強いことに、少しだけ救われる思いがした。
変わろうとしている。
本当に、世界は変わろうとしている。