重い扉が開く音が、天井の高い会議堂に反響する。
私は、広間の中央に設えられた円卓の前に立っていた。
その周囲には、各都市国家の代表たちが並んでいた。
セプタ・アエテルナの貴族、フェリス・インファーニスの技術長官、アクア・スペリウスの巫女長、そしてシルヴァ・パクティスの長老。
それぞれが異なる理念と背景を持ち、ここに集まっている。
咎の時代に終止符を打つ——そのための、最後の会議だった。
「我々は、都市間の戦争と分断を終わらせる協定を結ぶべき時に来ている」
議長役の長老が静かに開会を宣言すると、室内には一瞬の沈黙が落ちる。
しかし、それを破ったのは、フェリス・インファーニスの技術派代表だった。
「だが、その前に確認すべきことがある」
彼は書類を叩きつけるように机に広げる。
「これが我々の調査によって判明した“咎霊器の反応記録”だ。解放の魔女、アリセア——あなたの力は、確かに一部の咎狂を鎮めた。だが同時に、別の地域では“変異反応”を引き起こしている。
……それは、浄化ではなく再構築に過ぎないのではないか?」
空気が張りつめた。
「つまり?」
私は、彼の目を見据える。
「つまり、魔女の力は、依然として制御不能で危険だということだ。
我々はそれを“共存”などという理想で済ませることはできない。必要なのは“制御”だ。
明文化された管理体制と、都市の許可なしに力を使わせない法整備——
それが、真の和平だ」
何人かの代表がうなずき、賛同の雰囲気が広がる。
まるで、過去を繰り返すように。
恐怖を力で抑えるだけの“秩序”を正義とする声が、再び力を持ち始めようとしていた。
「それは、支配と同じです」
私は一歩前に出て、円卓の中央に立った。
「管理という名のもとに、私たちは“異物”として扱われてきました。
咎を持つというだけで、選択の自由も、声を上げる権利も奪われた。
今、変わるときなんです。共に選ぶ時代に」
技術派の代表が鼻を鳴らした。
「理想だ。だが理想では咎は止まらん。現実には、管理された秩序の方が人命を救う」
「ならば訊きます」
私は言葉を重ねた。
「あなたたちは、“支配される側”の立場に立ったことがありますか?
自分の力が、誰かの都合で“封じられる”痛みを知っていますか?
私たちはただ、道具ではなく“生きた存在”として認めてほしい。
怖いから閉じ込めるのではなく、共に歩く方法を探してほしい」
そのとき、フローリアがそっと手を挙げた。
白い衣を纏った彼女の姿は、空気を柔らかくする。
「私たちは、新たな魔導技術を提示しています。咎の力を使わない治癒術と、精霊循環式の動力。
これらは、魔女を制御せずとも都市を支える力になる」
彼女は一枚の紙を差し出しながら続ける。
「恐れるより、理解してください。拒むより、共に築きましょう」
円卓が静まり返る。
私は代表たちの視線を受け止める。
「戦争を終わらせるというのは、ただ武器を捨てることじゃない。
偏見を捨て、目を開き直すこと。
私たちの手は、戦うためだけにあるんじゃない。
……繋ぐためにも、あるはずです」
会議室の外では、朝の鐘が鳴っていた。
それはまるで、新しい時間の始まりを告げているようだった。
そして、議長の長老がゆっくりと立ち上がる。
「我々は……今一度、未来について考える必要がある。
少なくとも、今この瞬間、分断は終わったのだと……そう思いたい」
一人が頷き、また一人が口を閉じる。
やがて、それが“静かな同意”という形となって会議の空気を変えていくのを、私は感じていた。
争いの終わりは、宣言でなく、こうして生まれるのかもしれない。
力を抑えつけるのではなく、理解しようとする試みによって。
私は小さく息を吐いた。
咎は、まだ私の中にある。
けれど、それと共に生きる道を、確かに私たちは今——歩き始めている。