冷たい霧が森を包み込む中、小さな焚火の炎だけが明るさと温もりを与えていた。
私は焚火を見つめながら、右腕をそっと布で隠した。蔦のような模様が脈動し、まるで自分自身ではない何かがそこに潜んでいるように感じられる。異形化の進行。それが何を意味するのか、頭では分かっていても、心が受け入れられない。
「コンヴァリア、大丈夫?」
リリシアが焚火の向こうから声をかけた。その声は温かく、疲れた心に優しく染み込むようだった。私はゆっくり顔を上げ、彼女の方を見た。
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リリシアの姿は、まるでこの世界の冷たさを忘れさせるかのようだった。
焚火の揺れる光の中で、彼女の瞳は穏やかに輝いていた。その視線には、全てを包み込むような慈愛と優しさが宿っている。長い髪が肩を滑り、彼女の静かな微笑みと共に安堵を与えていた。
「寒くない?」
リリシアは立ち上がり、そっと私の肩に自分の外套を掛けてくれた。彼女の手の温もりが、冷えた体にじんわりと染み込む。
「ありがとう……。」
私の声は小さかったが、リリシアは微笑んで頷いた。
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アリセアは少し離れた小川のそばで、水を汲んでいた。
刻印の光が、彼女の右手からぼんやりと漏れ、川面に淡い輝きを落としている。その小さな背中は、どこか儚げで、それでも不思議な強さを感じさせた。
リリシアは焚火に戻りながら、小さく息を吐いた。
「アリセアは強い子よ。でも、その強さがいつか彼女自身を壊してしまうんじゃないかと……私は時々怖くなるの。」
私はその言葉に驚き、彼女を見た。
「……そんなふうに見えるんですか?」
リリシアは微笑んだが、その目には哀しみが浮かんでいた。
「彼女の刻印を見ていると分かるわ。あんなに強い光を放つなんて……あれほどの力を抱えているのは異常よ。彼女の体がそれに耐えられるのか……考えるだけで胸が苦しくなる。」
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私は自分の右腕を見下ろした。
布の下で、異形化した腕の模様が蠢いている。蔦のように絡みついたそれは、私の体の一部でありながら、私自身ではない。あの刻印も、私の腕も、咎に染まっているのだ。
「確かに、彼女は自分を捨ててでも誰かを救おうとしている。でも……それが危険だって分かっていても、止まらないのよね。」
リリシアは焚火の炎を見つめながら、小さく頷いた。
「彼女が壊れる前に、私たちが支えられるかしら。コンヴァリア、あなたもそう思わない?」
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その言葉は、まるで心に杭を打ち込まれたようだった。
「支える……私が?」
私はその言葉を反芻した。私のように異形化した存在が、誰かを支えることができるのだろうか。守れるのだろうか。異形化が進むたびに、私の体も心も咎に侵されている。いつか完全に壊れてしまうのではないかという恐怖は、いつも心に影を落としている。
「彼女には、守られるだけじゃなくて、守る価値があるわ。」
リリシアの言葉は穏やかで、揺るぎないものだった。
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しばらくして、アリセアが戻ってきた。
「水、汲めましたよ。」
彼女は革袋を差し出し、微笑んだ。その姿は疲れているはずなのに、どこか無邪気な印象を与える。
私は革袋を受け取りながら、思わず視線を逸らした。あの瞳に、自分の弱さを見透かされそうな気がしたからだ。
「……これからどこに向かうの?」
私は声を絞り出すように尋ねた。
「森を抜けて、この世界の真実を知るために。」
アリセアの言葉は静かだったが、その目には揺るぎない意志が宿っていた。
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私の心には、ひとつの誓いが刻まれた。
この右腕が咎に染まっていても構わない。彼女を守るために使えるのなら、それでいい。彼女が壊れる前に、その重荷を少しでも分け合うために。
朝の光が霧を少しずつ溶かし、三人の影が森の奥へと消えていった。