進行するE/悪意のガイアメモリ   作:ジコマン

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皆様こんにちは。第2話になります。
私は創作ストーリーを書く時、極力人物の容姿を限定するような書き方をしないんですよね。特にこういった、漫画や映像作品などに決してなり得る可能性の無い作品の場合、読者が受け取る人物の容姿は文章に限定されるわけです。だったら書き手がある程度のキャラクターや雰囲気を補足して、細かい容姿は読者さんの想像に任せたほうが、より楽しく物語を楽しんで頂けると思うのです。物語を読んで頂くうちに、どこかで指摘されそうだなと思いここで書かせて頂きました。



2 裏切り者はD/呼び声に誘われて

蓮海学園、蓮海市唯一の私立高校。3つのコースに分かれており、スポーツコース、普通科コース、特進コースが存在する。海沿いに位置するこの高校は、校舎から見える蓮海湾がかなりの絶景で、中学生からの人気も高く毎年高倍率を記録している。

そんな高校が俺の勤務先な訳だが、こんなにものどかな場所に相応しくない物が俺の机の中にある。

ガイアメモリだ。

ジェリーフィッシュの事件の後、独自にガイアメモリやドーパントについて調べていたが、どうやらメモリ生成の時に生じる毒素がそのままの物は骨のような禍々しい装飾があるのに対し、毒素が抜かれ純正化されたメモリはとてもクリアな見た目になるらしい。そして今、俺の手の中にあるメモリは純正化されたメモリだ。

 

「BLOCK…ブロックメモリか」

 

恐らくこれも、俺にドライバーとエイムメモリを送ってきたやつの仕業だろう。そして、職員室の俺の机にピンポイントでメモリが入れられているということは…。

"この学校にいる誰かが犯人の可能性が高い"ということだ。ドーパントは想像を遥かに超えてくる超人。犯人が一方的に俺の情報を知っており、尚且つこの学校の強固なセキュリティを無視して俺の机にピンポイントでメモリを入れることも出来るかもしれないが、可能性は低い。

しばらく、警戒する必要がありそうだ。

 

「蓮先生、どうしたんですか?難しい顔して」

 

「ああごめんなさい、少し考えごとを…」

 

彼女は鹿屋(かのや)琴鳴(ことな)、俺の同僚だ。彼女は俺と同い年で、実は幼馴染でもある。子供の頃はよく一緒に、近くの公園で遊んだものだ。

 

「そうそう蓮先生、今週の日曜日、2人でお出かけしませんか?」

 

ブフッ!!!

 

思わず飲んでいたコーヒーを吹き出してしまった。まさかの彼女からのデートのお誘い、しかも2人で。これは、遂に俺にも春が訪れたのだろか。

 

「だ、大丈夫!?雑巾雑巾…あった!」

 

こんなこと言われると、自然と彼女へ視線が釘付けになってしまう。意識するなと言われる方が厳しいだろう。何故なら彼女は、めちゃくちゃ美人。彼女は雑巾を持ってくると、真っ先にコーヒーで汚れた俺の服を、なるべくシミが広がらないように拭き取ってくれる。

あぁ、なんて天使なんだ…。

 

「おいレンレン!鼻の下を伸ばすな!」

 

「平林先生!?ちょっ、やめてください!」

 

いつの間にか、彼女が平林先生にバトンタッチしているではないか。彼女と比べて彼は酷かった。雑巾の筈なのに、たわしかというほどに拭かれた所が痛むし、コーヒーのシミは広がるしでもう最悪だ。

最終的に、俺のシャツはホワイトからブラウンになった。

もう、彼をブロックしてしまいたい。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

今朝の教室は、いつも以上に騒々しかった。それもそのはず。街に突如として現れた仮面ライダー、そしてドーパントと呼ばれる怪人。

風都だけだと思われていた2つの存在が、ここ蓮海でも確認された。クラスメイト達は、仮面ライダーの正体やドーパントの使用していたメモリについての考察に思考が支配されているようだ。

しょうもない。

いつものように机に顔を伏せ寝たフリをする私の耳に、1つ興味深い話題が届いた。

 

「そういえば、蓮の池公園の湖に最近幽霊が出るんだって!」

 

私の直感が囁く。この街に起こる怪事件のほとんどはメモリ絡み。この事件を追っていけば、蓮先生が仮面ライダーに変身するところに立ち会える。

気付けば私は、昨日の事件以降、彼のことばかり考えていた。仮面ライダーの存在を、この街に広めた原因の殆どは私であり、その謝罪をしたい。何より、彼のキザな態度に苛立つ反面、正直かっこいいと思ってしまったのだ。

彼に認知されたい。ファン1号ということを。

 

「加奈子、興味津々じゃん!加奈子も行く?肝試し」

 

肝試し?いつからそんな話に…

 

「いや…行く」

 

この事件に絡めば、仮面ライダーにも会えるかもしれない。そこで、サインを貰うんだ。認知してもらうんだ!

 

「はーい皆席に着けー」

 

先生が入ってきた。もうHRの時間か。

もし叶うことなら、今すぐにでも先生にサインを強請りたいが、仮に何も知らない人に見られたとき、それは先生の大きな迷惑になる。

良いファンというものは、推しのプライバシーを最大限尊重するもの。ここは我慢しなければ。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「どうやら苦戦しているようだな」

 

「ここは僕の職場だ。私生活にまで土足で踏み入るな」

 

男は僕の手を持ち、手の平を舐めるように見つめた。

 

「私には全部お見通しだ。CHARM(チャーム)

 

「ここでは本名で呼べ」

 

尾中(おなか)亮平(りょうへい)、そろそろ客にメモリを売るのは止めた方が良い。足がつくぞ」

 

「そんなこと言ったって、僕のメモリじゃやつを殺せない」

 

「その半端な覚悟が、きっとお前を地獄に落とす」

 

そう言って男は店を出ていった。

もっと強いメモリが使えれば、あんな男などこの手で始末出来るさ。

客に売れる最後のメモリを、僕は懐にしまった。

 

「もしもし?実はさ、みきちゃんにプレゼントがあるんだ。今夜店においで。秘密だよ」

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

日曜の昼下がり、俺は彼女との待ち合わせ場所に1時間も早く着いてしまった。蓮海時計台の下、ここはカップル御用達の待ち合わせスポット。彼女、俺に気があるのだろうか。

ベンチに腰をかけ、思い詰めた表情で黄昏れる男の懐を、携帯電話が揺らす。着信相手は鹿屋琴鳴、俺は今にも踊り出しそうなのを我慢して電話に出た。

 

「もしもし"私の大事なお方"?もうすぐ着くよ」

 

大事なお方!?

いくらなんでも大胆過ぎやしないか。

動揺を隠しきれぬまま、彼女に既に到着していることを伝える。

 

「あ、見つけたー!」

 

彼女の声と同時に、俺も彼女を見つけた。白いワンピースに、麦わら帽子。少し時期が早い気もするが、この暖かい気候にはピッタリだ。彼女の透き通った白い肌と、肩まで伸びた艷やかな黒髪が、今にも消えてしまいそうなほど儚く愛おしかった。このまま2人で消えても良い、そう思えるほど美しかった。

 

「集合時間30分前なのに、もう合流しちゃったね」

 

「ちょっと、張り切りすぎたかもしれないな〜2人とも。あはは〜」

 

明らかに挙動不審な俺を、彼女は20年前と変わらぬ笑顔で包み込む。変な気を起こしているのは俺だけなのではないか、そう思うと途端に惨めに思えてくる。でもその心配は、望まぬ形で否定された。2人とも、ベクトルの違う劣情を、互いに抱いていたのだ。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「肝試しは夜なのに、何で昼から集合なの?」

 

私の不満気な表情に、彼女達はまるで気付かずデザートに気を取られている。確かに美味しいけど、呪いの里子コラボパンケーキ、ビジュアル最悪でしょ。取り敢えず写真に撮って、後でお兄ちゃんにでも送ろう。

 

「よーし次は猫カフェだ!たくさん摂取するぞ〜」

 

猫。その単語を聞いた瞬間、私は半分ほど残っていたパンケーキを一口で平らげ、荷物を取って席を立った。

 

「なにもたもたしてるの!早く行くよ、猫カフェ!」

 

豹変した私の態度に若干引かれつつも、彼女達は代金を支払い、私達は猫カフェへ向かった。

 

「ねぇ何で加奈子は自分の分私達に払わせたわけ?」

 

彼女達の機嫌の悪そうな声は心臓に悪い、しかし、私の心は鋼のメンタルだ。この程度では折れない。

 

「今日の私は気分が良いから、あなた達の猫カフェ代、全部払ったるわ!」

 

振り返り、力強く突き出した一万円札を見て、彼女達は感嘆の声を上げた。

 

「さっすが加奈子!やっぱ最高だわ〜」

 

「猫カフェ代とデザート代だったら、断然猫カフェの方が高いしね」

 

ちょろい。余りにもちょろすぎて思わずにやにやが止まらない。やはり持つべきは、単純な友達だ。

彼女達と下世話な会話を繰り広げながら、私達は猫カフェ"CHARM"に入店した。ここの店主、尾中亮平はモデルとしても有名で、その端正な顔立ちと猫好きというギャップで、多くの女性ファンを獲得している。

 

「いらっしゃいませ。4名様ですね。以下のコースからお選びください」

 

一見爽やかで人当たりの良さそうな彼だが、黒い噂も絶えない。夜な夜な女性を店に連れ込んでは、夜のニャンニャンタイムと称して女性を喰い物にしているらしい。その噂の真偽は不明だが、これだけ魅力のある男性だ。彼に抱かれたいという女性も多いのだろう。

 

「亮平くんのこと前からずっと好きでした!付き合ってください!」

 

案の定、ミーハーな彼女達は目をハートにして彼に迫っている。

 

「君たち高校生?卒業したら考えてあげるよ」

 

意外と誠実な一面もあるのだと思いながら、手続きを済ませ早速猫と戯れに行く。

さて、私好みのふてぶてキャットは居るかな…。

 

「いた」

 

儚い系美女に膝枕をされ、完全に絆されている蓮先生が。2人の余りの甘々ムードに、猫達も近づけない。

完全に夢見心地な彼の瞳が、私と合った。とろりと半熟卵のように溶けていた瞳が、一瞬でハードボイルドに。

彼は私を見るや否や美女を押し退け、私に詰め寄った。両肩をガッシリと掴み、今まで見たことのない岩のような表情で、静かに唱えた。

 

「お前は、何も見ていない。良いな、ここで見たことは金輪際誰にも話すなよ。忘れなさい」

 

「幻滅ー」

 

私は冷ややかにそう吐き捨て、側に居た猫を抱えて壁際に移動した。男性のあんな一面を見るのが、こんなにも苦痛だったとは初めて知った。後日あの美しい女性が先生の同僚だと知ったことは、この思い出の後味を最悪にする調味料となった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

猫カフェでまさかの教え子達に遭遇し、虫の居所が悪くなった俺達は遅めの昼食を摂ることにした。彼女の要望で近所のファミレスに行くことになり、2人でゆっくりとメニュー表を眺めていた。

 

「ランチがこんなファミレスで良かったの?琴鳴」

 

俺の問いに、彼女はいつもの屈託のない笑顔で答えた。

 

「このファミレス、私達家族でよく来たでしょ」

 

確かに、このファミレスは両家族団欒の場所としてよく使っていた。彼女が2人の思い出を大事にしてくれていると知り、心做しか温かい気分になる。ふと彼女の目を見る。

その瞳の中に、彼女に似合わない大粒の涙が湛えられていた。唐突な出来事に、俺は戸惑いを隠せなかった。

 

「琴鳴、俺なんかまずいこと言った?そうだよね、このファミレス、2人の大事な思い出の場所だもんな。高級レストランより何倍も良い場所だ」

 

俺の慰めが、彼女の求めていた言葉なのかは分からない。ただ、この一言で彼女が笑顔を取り戻し、笑いを零してくれたことを俺は嬉しく思う。

 

「廉はさ、もし私がとんでもない悪人だったら、嫌いになる?」

 

「どうしたんだよ急に。まあ、でも…」

 

彼女は俺の手を両手で握り込み、いつになく哀しく、寂しい声で囁いた。

 

「答えは今夜聞かせて」

 

そこで一旦、2人の会話は終わった。居心地の悪い沈黙が、2人を包んだ。気持ちの悪い静寂を切り裂いたのは、彼女への着信だった。

 

「もしもし…うん、分かった」

 

彼女は虚ろな目で電話を切ると、そそくさと鞄にしまい、荷物を持って席を立ってしまった。彼女を引き止めようと声をかけるが、俺の呼び声は届かない。まるで彼女は、悪魔の囁きに誘われるようなフラフラとした足取りで、店を出ていってしまった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

時刻は午後9時を回った頃、私達は蓮の池公園に到着した。公園の中央に存在する湖の側のベンチに腰を掛け、この湖にまつわる都市伝説について語り合っていた。

湖の名前は声女(こわめ)湖。100年前、身分の違う2人の男女が愛し合っていた。女は上流家庭出身で、彼女の両親は身分の低い男との結婚を許さなかった。それでも2人は愛し合い、この湖で駆け落ちをすることにした。女は湖の側、夜の寒さに震えながらも男の名を呼び続けたが男は現れなかった。やがて彼女も力尽き、遂には1人で入水自殺をしてしまう。その後、この湖では夜な夜な男の名を呼ぶ女の声がするという。

 

「ひょえー!怖すぎでしょその話!」

 

4人で盛り上がっていると、後ろから気配を感じ振り返る。そこには暗くて見えないが、2人の影があった。恐らく男女、夜の公園でこっそりデートだろうか、けしからん。

 

「その話、嘘だよ」

 

男の影が、不意に語り始めた。

 

「その話の真実はね、女が最悪の結婚詐欺師だったんだよ。何人もの男を誑かし大金を稼いでいた女、しかし彼女にも心から好きな男が出来る。でもその男には既に婚約者がいた。だから殺したんだ。もちろん、女は自分の手は汚さない。自分の手駒の男を使って殺させ、この湖に遺棄した。殺された女性は何度もこう名を呼んだそうだよ」

 

「だいさん。だいさん」

 

この声は男の声じゃない。確かに湖の方から聞こえた。私達は全員、異常に巻き込まれていると理解した。

 

「ねぇ、何でそんなこと知ってるの?」

 

女の影が、男の影に抱き着きながら問う。男の影が月明かりに照らされ、姿が顕になる。

 

「僕のばあちゃんが、その悪女だからさ」

 

『チャーム!』

 

「そして僕もまた、その血を受け継ぐ」

 

目の前で異形へと姿を変える尾中亮平。あんなにも眉目秀麗だった彼は、その派手な女性関係を象徴するようなアクセサリーを身に着けたドーパントへと変貌した。

顔は黒くモヤがかり、全身は悪意に満ちた赤黒さに染まっている。左右の耳には非対称のピアスが付いており、胸部は上裸の男性のようで、首から下げたネックレスが筋肉質なその体によく映える。腕もまた筋肉質で細く、青白い血管が浮き出ている。右手の指だけリングで飾られ、爪は黒く塗られている。下半身は股間がもっこりと膨らんでおり、腹が立つほどスラッと細長い脚はもはや羨ましい。

彼を見た友達は皆、彼に魅了されたかのようにその体に抱きついていた。

 

「おかしい。何で君は僕に魅了されないんだ」

 

彼は私に指を指し、ゆっくりとにじり寄ってくる。

 

「正直、あなたのどこがかっこいいのか分かりません」

 

彼はベンチに座っている私に目線を合わせ、膝立ちになって言った。

 

「残念だ。僕の顔を見てしまったね。ここで死んでもらおう」

 

彼はいやらしく私の頬を撫でながら言った。

 

「みきちゃん。メモリを使って」

 

しかし、みきと呼ばれた女性が変身する素振りはない。

 

「おいみき!何をして…」

 

「蓮海市警だ。お前をガイアメモリ所持及び使用の現行犯として逮捕する」

 

暗闇の中から現れた警察に、みきという女性は既に手錠をかけられていた。彼は即座に状況を理解し、その場から逃走。私と洗脳の溶けた友達は警察に保護されることとなった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

午後9時過ぎ、大山宅の目の前で張り込みをしていると、大山が何かに誘われるかのようにフラフラと外へ出ていくのを見た。まるで夢遊病のように、彼の意思で無いような様子だった。彼を保護する警察も、同じような様子で彼についていく。異常を感じた俺は警察に通報し、その後をつけた。

辿り着いた先は蓮の池公園。ちょうど警察も到着したようで、たまたまガイアメモリを使用するところを見つけ女性を現行犯逮捕、もう1人の男には逃げられたらしい。そして肝心の大山達だが、柵を超え湖に入ろうとしたので俺が力付くで止めているところだ。

 

「よう和田。奇遇だな、こんなところで会うなんて」

 

遊歩道から颯爽と現れた蓮に、俺は疑問を投げかける。

 

「どうしてここに?」

 

彼は湖を眺めながら、哀しそうに、寂しそうに言った。

 

「今日、ある女性と一緒にデートをしたんだ。俺の幼馴染の人だ」

 

「琴鳴さんか?」

 

彼は何も答えない。少しの間を置いて、彼は続けた。

 

「彼女とお昼、ファミレスへ入った。そこで意味深な質問を俺に投げ掛けた」

 

彼は俺の方へ視線を向けた。その瞳は、何かを悟ったかのように澄んでいた。

 

「私がとんでもない悪人だったら、嫌いになるか」

 

「その答えは今夜聞く」

 

もう一度彼は湖を見つめた。今度は哀しくも、怒りを湛えた力強い視線だった。

 

「彼女のもとに一本の電話がかかったんだ。その時俺は、はっきりと聞こえた」

 

「『今夜、蓮の池公園で』と」

 

彼は懐からおもむろに、一本のガイアメモリを取り出した。

 

『エイム!』

 

「変身!」

 

水色に白のライン、赤い複眼が夜に映える。仮面ライダーに変身した彼は、胸に生成された銃を湖へ向けた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

1つの照準が、湖の中に現れた。そこに彼女がいる。そう確信した。トリガーを引いた瞬間、光弾が一直線に湖の中へ吸い込まれ、照準の先へ着弾する。大きな水飛沫を上げ、照準はゆっくりとこちらの方へ向かってくる。やがてその照準は、目視で確認できる距離へ迫った。湖の中から現れた、1人のドーパント。

 

「琴鳴、なのか?」

 

ドーパントは何も言わなかった。

頭部は受話器のようなものが逆さまになったような形で、無数の電源コードのようなものが髪の毛のように全方向へ垂れている。コードと暗闇に隠れよく見えないが、胸部にはダイヤルのようなものがある。肩や腕、脚は携帯電話のような形をした装甲に包まれている。

そんな異形の姿が、俺には不思議と琴鳴に重なって見えていた。

 

「もし琴鳴なら、今すぐメモリを俺に渡してくれ。今ならまだ間に合う」

 

そう俺は諭すように近付いた。左手を前に差し出し、メモリを渡すようジェスチャーする。彼女に手が届く、そんな距離まで近付いた時だった。

 

(廉、おいで)

 

脳内に響く琴鳴の声。俺はその声を聞き、無意識にドーパントの腕の中に抱かれていた。酷く心地良い、叶うことならこのままでいたい。そう思えるような腕だった。

 

「何だお前!貴様もドーパントか!」

 

和田の叫び声に目が覚める。受話器のドーパントを跳ね除け和田の方を見ると、全身が赤黒いドーパントが和田を大山から引き剥がし、大山を抱えていた。

 

「おい!作戦変更だ、ついて来い!」

 

受話器のドーパントは頷くと、俺を湖に投げ飛ばし、赤黒いドーパントについて行ってしまった。冷たい湖の中俺が見たのは、2人のドーパントが大男を黒い車に詰め込み、走り去っていく様子だけだった。

月明かりに照らされた湖の中、無力な俺はただただ見ていることしか出来なかった。





今回は色々ありましたね。自分の中で裏切り者はD編の畳み方は決まっているので、今はその繋ぎの段階というわけですが、少し焦りすぎたかなという印象です。第3話以降は丁寧に作っていきたい所存です。
あと、今はモチベが高いのと休みが重なっていたのもあって早く更新出来ましたが、リアルがこれからめちゃくちゃ忙しいので、中々更新出来ないと思います。気長に待っていただけると幸いです。それでは第3話でお会いしましょう。
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