進行するE/悪意のガイアメモリ   作:ジコマン

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最近やはり忙しくなってきたジコマンです。
オリジナルガイアメモリの設定を思いつき、どのようにストーリーに落とし込もうかという思考に支配されかけており、モチベーションは現状高い位置をキープしています。投稿は不定期ですが、1週間に1話程度のペースが私の理想です。なるべく早く最新話を皆さんにお届けできるよう、頑張りたい所存です。



3 裏切り者はD/大事な人

2人を取り逃がし、俺は満月の反射した湖からゆっくりと上がった。黒い車の行方は、街の暗闇へと消え跡形もない。やつらは何故大山を狙うのか、何故この街にガイアメモリが蔓延し始めたのか。身を震わすこの寒気が、水に濡れたことによるものか、はたまたこの街に潜む巨悪への恐怖かが俺には分からない。

 

「怪我はないか?」

 

変身を解除し和田の元へ向かう。幸い彼は無傷なようで、疲れからかベンチに座り込んでいる。隣に座り、何か大山に関する情報を聞こうと思ったが、遠くに見えた1人の姿がそれを阻止した。

 

「美緑…?」

 

何故彼女がここに居るのだろうか、仮にドーパントから危害を加えられていたら大変だ。彼女への心配は、現状を整理するための情報を得たいという俺の欲求を上回った。

ベンチに座り、お前も座らないのか?とでも言いたげな目線の和田を置いて、俺は彼女の元へ走った。

暗くてよく見えなかったが、他に数人の影が見える。制服に身を包んだ警官と、俺のクラスの女子生徒だ。

 

「おいお前ら、何があったんだ」

 

俺が集団に声をかけると、美緑が振り返った。

 

「蓮先生!やっぱり…いや、どうしてここに」

 

咄嗟に言い換えた彼女を訝しみつつも、散歩をしていただの適当な理由で公園にいたと嘘を吐く。俺達が会話を始め、集団は足を止めた。1人の警官が俺の側に寄り、事情を説明してくれた。

 

「先ほどこちらに怪物が現れたんです。最近噂の、ドーパントとやらです。彼女達が襲われていたので一時的に保護し、事情聴取を行っていたところです」

 

「それじゃ、今から彼女達を家へ送るってところですか?」

 

「はい」

 

警官が返事をしたタイミングで、美緑が俺に腕を組んできた。あまりに唐突な出来事に、俺は脳の処理が追いつかなかった。

 

「警察さん、この人私のお兄ちゃんです。一緒に帰るので付き添いは大丈夫です」

 

「そうでしたか。ではお気を付けて」

 

そう言って帽子のつばを掴み軽く会釈する警官の手に、紫色の亀裂のような痣を見つけた。

 

「手、大丈夫ですか?」

 

「はい、共犯の女を取り押さえる時に引っ掻かれましてね」

 

酷く無感情な警官のセリフに違和感を覚えながらも、俺は美緑に腕を組まれたまま引っ張られ、誰もいない住宅街に連れて行かれる。そこで美緑は組んでいた腕を解き、とても輝いた瞳で俺を見上げた。街灯で淡く照らされた2人の影が、仄かに揺れる。

 

「先生!仮面ライダーに変身したんですか!?」

 

「は?仮面ライダー?な、なんで」

 

「私この前見たんです!先生が仮面ライダーに変身するとこ!」

 

彼女のカミングアウトに、俺は頭を抱えた。よりにもよって自分の受け持つ生徒に見られていたとは。

 

「はぁ…。最悪だ。良いか、絶対誰にも言うなよ。絶対だからな!」

 

彼女は当然とでも言いたげな表情で強く頷いた。

 

「で、で、変身したんですか!?先生!」

 

「ああ、変身したよ」

 

半ばため息混じりで呆れながら答えるも、彼女はお構い無しにハイテンションだ。まるで推しのアイドルにでも出会ったかのように。

 

「うわー見たかったなぁ」

 

残念そうに唸る彼女は、続けて興奮した声で言った。

 

「先生!是非私にサインを!」

 

おもむろに鞄からノートとサインペンを取り出す彼女。表紙には『化学基礎』と書かれている。

 

「よりによってノートかよ」

 

「えへへ」

 

思わずツッコんでしまったが、しょうがないので表紙の裏に『Ren』とサインを残す。

そのサインを見た彼女は、不満気な顔で俺を見つめた。

 

「違います。私が欲しいのは『仮面ライダー』のサインで、先生のじゃありません」

 

思わず天を仰いだ先で、満月がにこやかに微笑んだ気がした。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

蓮先生と雑談をしながら帰る家路は楽しい一時だった。気付けば家の目の前まで辿り着き、蓮先生にお礼を言って振り返った瞬間だった。

数メートル先の曲がり角に、人影が隠れるように消えていった。確かに街灯に照らされたその姿は、黒いフードに身を包んだ人のようだった。

少し気味悪く思いながらも玄関の鍵を開け、家の中へ入る。廊下や、扉の開け放たれたリビングからは温かな照明が漏れ、家族の団欒の声が聞こえてくる。家族に会えるという安心感に包まれ、元気よく「ただいま!」と挨拶すると、「おかえり!」と返ってくる。そんな普通の日常が何よりも尊いものと、私は思う。

鍵を閉め靴を脱ぎ、リビングへ向かおうとすると、階段を駆け降りる音が響いた。2人分のその足音の正体は、兄の海理(かいり)とその友人、伊狩(いかり)先輩。

2人は幼い頃からの親友で、兄弟と間違われるほど仲が良い。私もまだ小さい頃、伊狩先輩によく遊んでもらっていた。

だが最近の2人は様子がおかしい。いつも明るく笑顔を振りまいていたのに、今ではずっと思い詰めた表情だ。特に私に向ける表情は、怒りと悲しみ、そして後悔の混じったような複雑な様相を纏っている。何か黒い影が、彼らの背後をちらついているような気がしてならない。そう、それこそ、さっき見た黒いフードの人間のような影が…。

 

「加奈子、帰ってたのか」

 

心ここにあらずな顔で、お兄ちゃんは言った。

 

「ただいま、お兄ちゃん。これからどこか行くの?」

 

「ああ、ちょっと伊狩と飯でも食ってくる」

 

そう言うと、2人はそそくさと家を出ていってしまった。何も無ければ良いのだが。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

和田を置いて美緑を家まで送り届けたことを謝罪する旨の連絡を送り、来た道を戻り蓮の池公園へ辿り着いた。

池の外周を囲む遊歩道に沿って歩くと、ベンチに座った難しそうな表情の和田が座っていた。軽く右手で謝る仕草をし、彼の隣へ座る。彼は表情を変えることなく、湖を見つめながら切り出した。

 

「まず、大山が俺の探偵事務所に来た経緯を説明しようか」

 

話の概要は以下の通りだ。

1週間程前、大山が和田探偵事務所へ依頼を出す。内容は護衛、何者かに命を狙われているという。

和田は警察を頼るよう言ったが、大山は何か警察を頼れない事情があるらしく、多額の依頼金を元手に交渉をしてきたらしい。

和田のメインの依頼は不倫調査であり、和田自身命を狙われている人物の護衛などという危険な仕事はこなせないと依頼を断った。

その後も、大山は多くの探偵事務所へ依頼をしたらしいがまともに取り合ってくれなかった。そこへ俺が大山の写真を持って依頼をしたことで、何か大きな事件に巻き込まれている可能性があると感じ、調査を開始したという。

 

「蓮の持ってきた写真。あれを大山に見せたとき、酷く動揺していただろう」

 

確かに、あの時の大山は何かに怯えるかのように震え、緊張していた。

和田は懐からその写真を取り出し、写真の中の大山の持っている黒いケースを指さした。

 

「このD-001と書かれたケース、俺の推測に過ぎないが警察にバレたらまずい物が入っているんじゃないかと思うんだ」

 

「それで大山はあんな動揺していたって?」

 

「恐らくだがな」

 

和田は1つ咳払いをした。確証は無いが自分の推理に自信がある時、彼にはこのような癖が出ることを俺は知っている。

 

「大山を狙う多くのメモリ犯罪者、謎の黒いケース、警察にバレてはいけない事情…」

 

ずっと湖を見つめていた彼の瞳が、するりと目尻へ動いた。横目に俺を見つめると、静かにその口元を動かした。

 

「ガイアメモリ、大山はガイアメモリを持っているんじゃないかって、俺は思うんだ」

 

ガイアメモリを巡ったハンティングが起こっている。和田はそう仮説を立てた。だとすれば、そのケースは今どこにあるのか。それが鍵となる。

和田はベンチから立ち上がり、ズボンについた埃や砂をぱっぱっと払った。それに釣られるように、俺も立ち上がる。

 

「蓮、明日付き合ってくれるか」

 

「昔っからの友人の頼みだし、しゃーなし。熱でも出しとくよ」

 

「俺の知り合いに医者がいる。いっそのこと診断書でも出してもらうか?」

 

冗談っぽく笑う彼に釣られ、思わず笑い声が漏れた。

 

「腐っても教師の俺だ、そんなの必要ない。第一、うちはその辺甘いから」

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

翌日、俺は大山建設本社、和田は大山宅で張り込みをしていた。和田の聞き込みによって得た情報によると、大山宅、そして大山建設本社で、黒いケースを持った大山が目撃されていたらしい。俺達はどちらかに黒いケースがあると踏み、張り込みをしているという訳だ。

 

「なあ和田、どうして中に入って自力で探さないんだ?」

 

「俺達は大山の家や社長室に入る正当な理由がない。だが、恐らく大山を拐った連中が十中八九何らかの方法でケースを取りに来る。俺達はそれを尾行するんだ」

 

本社の入り口から20メートル程離れた曲がり角で、その時を待つ。和田の推測通りに事が運ぶとは限らないが、彼は頼りになる男だ。彼の言う通りにして間違いは無い。

集中して入り口を見張っていたとき、道の奥から1人の大柄な男が歩いてくるのが見えた。

 

「大山…」

 

繋ぎっぱなしにしている通話口から、和田のアドバイスが届く。

 

「絶対に気付かれるな。大山の尾行が、敵のアジトに繋がる」

 

俺は頷き、じっと大山の動向を見守った。彼が入り口に近付くにつれ、その表情が明瞭になる。目は虚ろで、足取りもどこか覚束ない。まるで、操り人形のようだった。

大山が社内に入り、10分程経過すると、大山が黒いケースを持って社内から出てきた。来た道を戻り始めた大山に、気付かれないように尾行を開始する。

 

「大山を尾行する」

 

「彼がブラフの可能性もある。あと10分ここに留まって何も無かったらそっちへ合流する」

 

しばらく彼を尾行すると、和田からこちらへ向かうという連絡があった。通話は繋いだまま、緊急時はすぐに報せる約束だ。

大山はというと、その歩みが前よりも遅くなっている。時折立ち止まるが、周囲を見渡したりなどはしない。ただ立ち止まるだけ。

 

(尾行に気付かれたか…?)

 

そんな不安も押し寄せるが、今はただ目の前のことに集中する他無い。

時刻は午後3時を回った頃、人気のない昼下がりの住宅街は、どこか異様な雰囲気を纏っている。この地区は蓮海市でも治安の悪い、人通りの少ない場所だ。ただの教師が尾行するには、いささか難易度が高い。

大山は少し広めの道路に面した交差点に出て、廃ビルの中へと入っていった。時刻は15:20。

ここが彼らのアジトなのだろうか、廃ビルに入ろうとした瞬間、携帯の着信音が鳴り響いた。

まずい、尾行に気付かれる。

俺は急いで携帯を取り出したが、通話は和田と繋がったまま、誰の着信も来ていない。俺はこの携帯以外は持ち歩いていない。

おかしい。

そう思った瞬間、脳内に聞き馴染みのある声が響いた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

時刻は15:20を過ぎた頃、蓮と繋いでいた通話が唐突に切れた。不用意に連絡をしてしまうと、通知で尾行に気付かれる可能性がある。彼と共有している位置情報は、明海町(あけみちょう)の広い交差点に面した廃ビルで止まっている。俺は彼が何かに巻き込まれたのだと直感し、急いで彼の位置情報を追った。

5分程経った頃だろうか、再び蓮の位置情報が動き出した。廃ビルを出て、廃工場地帯へ向かっている。俺は全速力で彼を追った。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

大山は廃工場地帯へと向かい、大きな錆びれた倉庫の前で立ち止まった。彼が中に入ろうとしたその時、後ろから気配を感じて振り返る。そこにいたのは、息を切らした和田だった。

 

「蓮、どうして通話を切った」

 

俺は慌てて携帯を確認すると、繋いでいた筈の通話が切れていた。思い返せば、謎の着信音と声を聞いた後の記憶が無い。その時、通話を切ってしまったのだろうか。

困惑している俺を見かねた和田は、切り替えて倉庫内に向かおうと提案する。それに応じ、慎重に2人で倉庫内へ侵入した。

倉庫の中は錆びた鉄の臭い、春というのに冷たい寂しい空気を湛え、独特の様相を醸し出していた。

そして、その奥には1人のドーパントと1人の男、そしてそこへ歩み寄る黒いケースを持った大山が居た。

 

「蓮!ケースを奴らに渡らせるな!」

 

和田の声を聞き、俺は無意識にベルトを着け、エイムではなく、ブロックのメモリを手にしていた。俺の直感が、ブロックメモリが適していると、そう言っていたんだ。

 

『ブロック』

 

「変身!」

 

メモリを使うと、その効果を何も知らない筈なのに、不思議と使い方を理解する。俺が右手を伸ばすと、大山と男達の間に紺色の壁が現れた。

否、それは壁ではなく、ブロック状の構造物だ。大山に駆け寄り、黒いケースをひったくる。D-001と刻まれた黒いケース、これで間違いない。

 

「和田!」

 

大山を和田に託し、安全な場所へ避難するよう命令した。ブロックがホログラムのように薄くなると、数メートル先にドーパントと男が現れる。

俺はそいつらの姿に見覚えがあった。昨日公園で交戦した受話器のドーパント、そして、猫カフェにいた男の店員。

 

「おい、そのケースを僕に寄越せ」

 

男は声を荒げた。甲高い音が、広い倉庫内に響き渡る。

 

「残念だが、そうはいかない」

 

ケースを開けると、中には1本のガイアメモリがあった。

 

DYNAMITE(ダイナマイト)、これがお前の狙いか」

 

俺はその赤いメモリを右手に取り、男の目の前で粉々に砕いた。男の表情は、唖然として粉々になったメモリを見ている。

 

「ダイナマイト…?」

 

「つべこべ言わずに、とっとと自首しようか」

 

困惑している男に構わず、交戦を開始しようとした時だった。

男の足元に、何かが投げ込まれた。

それは銀色のガイアメモリ。

男はそれを手に取ると、周囲を見渡しながら叫んだ。

 

「X!お前の仕業か!」

 

男の声に呼応するように、倉庫内のどこからか声が響いた。

 

「あまり怒るなチャーム。ケースに入れたままだとその貴重なメモリが無駄になると、そう予知された」

 

俺の手で握り潰されたダイナマイトメモリが、煙を立てながら弾けた。

 

「なので一手間加えたんだ」

 

「でもドライバーはどこにいった!?」

 

「ガイアドライバーのことか。あれはお前には早い。そう思った次第だ。その銀色のメモリは使わせてあげるから、もし目の前の仮面ライダーを倒せたらドライバーも与えよう」

 

チャームと呼ばれた男は、唇を噛み締めながら銀色のメモリを手に取った。それを白い機械のような物に挿し込み、首元に打ち込む。打ち込まれた場所に生体コネクタが刻印され、不気味に光った。

メモリを取り出し、男は機械を投げ捨てた。

力強く、手を震わせながらボタンを押した。

 

DISASTER(ディザスター)!』

 

メモリをコネクタに挿し込むと、男の体を雷雨や土が舞い上がりながら包み込み、異形の姿へと変える。

全身は赤黒く、肩や関節部分は刺々しく尖っている。所々に注連縄のような装飾が巻かれ、和のテイストを醸し出している。落ち武者のように垂れ下がった黒い髪から覗く、白い吊り上がった大きな瞳は、恐れ、悲しみ、やり場のない怒りといった負の感情を抱えているように見えた。

ディザスター・ドーパントは異形へと変貌した体を、嬉々として眺めている。その狂気的な姿に、俺は言い表せない恐怖を抱いた。

 

「パワーが溢れ出てくるのを感じるぞ!全能感、高揚感、優越感、なんて気持ち良いんだ!」

 

ハイになったディザスターは、両手に電気を纏わせ、俺に放電してくる。あまりにも速い攻撃に、対処が間に合わずまともに喰らってしまう。すぐに反撃に切り替えたいが、相手はロングレンジの攻撃に長けており、付け入る隙がない。

放電攻撃を躱しつつ、メモリチェンジの隙を窺う。

 

「これならどうだ?」

 

ディザスターは小さな積乱雲を作り出し、俺に向けて放った。巨大な雷が積乱雲から放たれたが、間一髪、左腕をブロック化させダメージを軽減する。かなり左腕が痺れ痛いが、構わず懐からエイムメモリを取り出し、メモリチェンジをする。

 

『エイム!』

 

銃を構えると、ディザスター・ドーパントの弱点へ照準が現れる。奴の弱点は頭、そこを重点的に狙っていく。エイムメモリには放った弾丸を自動的に弱点へ向かわせる能力があるが、それには照準を見続ける集中力が求められる。放電を躱しながら、弱点を狙う、高度な技量を求められる戦闘は、一般人の俺には厳しい。

少しずつ追い込まれ、体中に打ち込まれた雷撃がヒリヒリと痛む。ディザスターが両手を合わせて放った強力な雷撃は、俺の胸部に直撃、俺はあまりの威力に弾き飛ばされ、変身が解けてしまった。

 

「死ね!仮面ライダー!」

 

ディザスターは全身からエネルギーを巡らせ、雷、水、炎、土、風、全てが混ざった究極の光弾を作り出す。あの攻撃を生身で喰らえば、命は無いだろう。しかし、逃げ出そうにも蓄積された雷撃による痺れで体が思うように動かない。

俺は目を瞑り、死を覚悟した。

 

「があぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

ディザスターの苦しそうな声、一向に放たれない光弾。ゆっくりと目を開けると、ディザスターの作り出していた光弾は消え、彼は地面を転がり悶え苦しんでいた。

嗄れた彼の悲鳴が倉庫内に鳴り響き、地面に打ち付ける腕や脚の音が空しく谺する。

一瞬の静寂と共に、彼の体から勝手にメモリが排出された。メモリは受話器のドーパントの足元へ転がる。

変身の解けた男は、醜い断末魔をあげ、軈て何も言わなくなった。

死んだ、そう理解した。

その光景を見ていた受話器のドーパントは、背を向けて逃げ出した。不思議とその時、ディザスターから受けたダメージを忘れ、ドーパントを追いかけることが出来た。

ブロックメモリで再び変身し、痛みを忘れて駆け出した。

ドーパントに追い付くのは簡単だった。潮風の気持ち良い海辺の工場地帯、今は誰も居ない。この場を邪魔されることはない。

 

「なあ、答えてくれ」

 

俺の呼び掛けに、ドーパントの足が止まった。ドーパントは振り返らず、ただただ俺の問いを聞いてくれた。

 

「琴鳴なんだろ」

 

ドーパントは黙ったまま動かない。

 

「あの時頭の中に響いた声、間違えることはないさ琴鳴。君の優しい、懐かしい、そんな声なんだよ」

 

ドーパントの両手が、強く握り込まれたのを俺は見逃さなかった。

 

「帰ろう。今ならまだ間に合う。罪を償って、また一緒に働こう」

 

その時、脳内に声が響いた。

 

("もしもし私の大事なお方")

 

彼女のすすり泣く、悲しい声。不思議と俺の足取りは、彼女の方へ向かっていた。

 

「もしもし」

 

彼女の呼び声に、静かに応答する。

 

(私、おかしくなっちゃった)

 

一歩二歩、彼女へと近付く。

 

(廉のこと大好きなのに、自分が分からなくなって、たくさん傷付けた)

 

涙でぐしゃぐしゃな声に、俺も思わず涙が溢れた。

彼女を背後から、優しく抱き締めた。

 

「安心して、琴鳴。俺が必ず元に戻す」

 

強張っていた彼女の体、震えが収まった。

 

「廉のこと、ずっと好きだった」

 

脳内ではなく、直接彼女が口にした言葉に、涙が止まらなかった。

 

(だから、死んで)

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

ドーパントを追って紺色の仮面ライダーに変身した蓮を追いかけ、大山と一緒に物陰から見守る。

立ち止まった2人、やがて仮面ライダーはドーパントに歩み寄り、背後からドーパントを抱き締める。

その光景は、俺の瞳に、蓮と琴鳴2人の姿で写っていた。

傾きかけた太陽が、2人を優しく包み込む。このまま幸せなエンディングを迎え、エンドロールの流れる映画のようだ。

そんな安堵は、ほんの一瞬で消え去った。

仮面ライダーは、蓮は、抱擁をやめるとドーパントに背を向け、海の方へ歩き出した。このままだと海に落ちてしまう。

 

「蓮!正気に戻れ!」

 

大声で叫ぶが、その声は届いていないのか、蓮は歩みを止めない。

急いで止めなければ。

気付けば俺は、彼の元へ駆け出していた。

彼の姿が、見えなくなる。海に落ちてしまった。

ダメだ、届かない。

諦めが脳裏を横切る、その瞬間。

希望の閃光が走った。

 

『ブロック・マキシマムドライブ!』

 

海の中から紺色の柱が飛び出し、その上には蓮が、仮面ライダーが立っている。仮面ライダーは柱から飛び上がり、右足をブロックのような形状に変化させ、ドーパントに回し蹴りを繰り出す。

仮面ライダーの必殺技をまともに喰らったドーパントは、その場にばたりと倒れ込み、紺色の閃光が体中を巡った後、爆散。炎をバックに、振り返ること無い仮面ライダーの赤い瞳は、大粒の涙を流しているように見えた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

やはり、ドーパントの正体は琴鳴だった。泥のように眠る彼女の顔は、メモリの副作用で大きなクマを浮かべ、何とも痛々しかった。彼女の側にはブレイクされたメモリが、煙を上げながら転がっている。

後は警察に任せるだけだ。到着するまで、側で彼女を見守ろう。眠っている彼女の頬に伝う、涙の跡を拭った。

 

「時間はかかるけど、俺は待ってるからな。また2人で働こう」

 

「残念ながらそれは叶わないな」

 

どこからか声が響く。倉庫内で聞いた謎の声と同じ。周囲を見渡すが、和田と大山以外に人は居ない。

 

「下だよ」

 

確かに足元から声が聞こえる。それも、琴鳴の眠っている場所の下。咄嗟に彼女へ視線を戻すと、既に彼女の姿はそこには無かった。ただそこには、紫色の亀裂が閉じようとしているだけ。

 

「彼女は貰っていくよ。貴重な実験サンプルだからね」

 

「おい!どういうことだ!答えろ!」

 

「時期に分かるさ」

 

その後も俺は声を荒げた、でも謎の声は応答しなかった。やがて疲れ果てた俺は、声を出す気力も起きず、その場に座り込んでしまった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

あの後俺は大山と蓮を事務所で保護し、色々話を聞いた。

大山からは色々有益な情報を得られると思ったが、唐突にガイアメモリとガイアドライバーの入ったケースを渡されただけで、敵のことは何も知らないという。得られたのは、そのケースを渡してきた相手は男かも女かも分からない、黒ずくめのフード付きコートに身を包んだ人物だという情報だけ。

あのケースを狙われる要因となったのは、"予知"の能力を持ったメモリを使用できる者が現れ、大山にはメモリを使う意思も適性もないと判断されたかららしい。

少なくとも、彼は今後も敵に命を狙われる立場の人間だ。知り合いの富豪を頼り、遠くの県外の家を譲ってもらうことにした。ほとぼりが冷めるまで、大山とその家族にはそこで生活してもらうことになった。

蓮はというと、琴鳴さんの件が相当ショックだったようで、今は疲れ果ててソファで眠っている。

俺はというと、今回の事件を整理している所だ。

一先ず、大山の件は解決したが、琴鳴さんの誘拐という新たな事件が発生。この事件には謎も多く、俺はこっそり琴鳴さんの側に落ちていた壊れたメモリを回収、ついでに都合よく側に落ちていた携帯電話も回収。倉庫内に戻り、ディザスターのメモリも探したが見つからなかった。恐らく、敵が既に回収したのだろう。

とにかく、今は蓮の状態が心配だ。

 

「和田、すまない。助けてもらって」

 

「起きたのか。全然大丈夫。俺も蓮に助けられてばっかりだしな」

 

「俺、決めた。必ず琴鳴を助け出す」

 

勢いよくソファから起き上がった彼は、まだ体中が痛むようでうめき声をあげ蹲った。

 

「まだ痛むだろ安静にしとけ」

 

俺はというと、琴鳴さんの携帯電話のパスワードの解読に苦戦していた。

 

「琴鳴さんの誕生日って分かるか?」

 

期待薄と分かっていながらも、彼女の誕生日がパスワードの可能性を考え、蓮に聞いてみた。

 

「6月3日だけど、それがどうかしたか?」

 

0603…ビンゴだ。

 

「よくやった蓮。やっぱりお前は頼りになる」

 

ぽかんとしている彼を尻目に、彼女の連絡帳を調べてみる。蓮や学校関係者らしき人物、友人や家族といった人達の中に、警察関係者と同じ名前を複数見つけた。彼女が何故こんなにもたくさんの警察関係者の電話番号を持っているのか。その秘密はメモリに隠されていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「あー和田ちゃん?例のブツの解析、終わったよ」

 

電話越し、潰れた蛙のような甲高い声、俺が回収したガイアメモリの解析を頼んだ技術者だ。

 

「速いな。そんな簡単に終わるものなのか?」

 

「僕の手にかかればお茶の子さいさいだよ。それに、解析自体はそんな難しいものじゃないね。優秀な技術者なら半日で終わるよ」

 

「それで、そのメモリはどんな代物だったんだ?」

 

「いくつかデータが破損してて、全部は分からなかったんだけど、中々面白い能力だね」

 

「メモリ名CALL(コール)、呼び声の記憶を内包したガイアメモリ。能力は相手の脳内に直接語りかけ、相手を意のままに操る」

 

俺は1つ、咳払いをした。

 

「その能力に、条件があるんだろ?」

 

「鋭いねー和田ちゃん」

 

「その条件とは…」

 

電話越し、パソコンのキーボードを動かす音が聞こえる。

 

「あったあった」

 

嬉々とした声が、電話越しに耳を劈き、思わず距離を取る。

 

「電話番号を知っている相手じゃないと、効果は発揮されない」

 

これで合点がいった。彼女の電話帳に登録されていた、たくさんの警察関係者の電話番号、明らかに不自然だ。

 

「つまり…」

 

「警察内部に、関係者の電話番号を鹿屋琴鳴に漏洩させた内通者がいる…ってとこかな!?」

 

煩わしい笑い声に苛立ち、俺は受話器を置いた。だが彼のお陰で、次に何をすべきかはっきりした。

内通者を炙り出す。





今回は少しいつもより長めでお送りしました。
ブロックメモリで変身した姿の補足として、肩や胸のアーマー部分が四角くなってます。また、ブロックを生み出すというだけでなく、精神攻撃もブロックするという能力があります。なのでコール・ドーパントの呼び声が効かなかったんですね。
そして更新が遅くなり申し訳ございません。恐らく、第4話も遅くなると思いますが、気長に待っていただけると幸いです。それではまた次回!
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