進行するE/悪意のガイアメモリ   作:ジコマン

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YouTubeで配信されているカブトを見るのが最近の楽しみのジコマンです。カブトは小さい頃TSUTAYAでDVDを借りて見ていたのですが、やはりあまり覚えていませんね。これを機に復習したいところです。この作品が完結したら、カブトの二次創作も書いてみたいなと思っているところです。
やはり更新速度が遅くなってしまいましたが、引き続きお楽しみください。



A兄弟
4 A兄弟/欠落したピース


メモリ犯罪は報道されない。

巷で聞いた噂は、どうやら本当のようだ。

琴鳴が行方不明となって1週間が過ぎたが、新聞、テレビ、ネット、様々なメディアに目を通してみても、事件に関する情報は全くと言っていいほど出回っていない。

和田の知り合いのテレビ関係者によると、メモリを使った犯罪は自分達の想像を遙かに越える領域であり、迂闊に報道してしまうと犯罪者から報復を受ける可能性がある。そのため、メモリ犯罪は報道しない、というのが暗黙の了解らしい。

琴鳴の行方不明は、"一身上の都合による退職"という形で職員達に伝達された。元々彼女は交友関係がそれほど広く無く、不自然な彼女の"退職"を詮索する者は少なかった。

それこそ、俺を含めて"2人"しか。

 

「レンレン、彼女の退職、怪しくないか?」

 

(平林先生、やけに感が鋭いな…)

 

「まあそうですね」

 

「やっぱり男ができたのだろうか」

 

「そんなところじゃないですか」

 

「海外勤務のエリートイケメンとの遠距離恋愛、それを成就するためにアメリカへ…はたまたヨーロッパ…」

 

愉快な彼の妄想に付き合っている暇はない。今の俺はというと、定期考査の作成に追われている。

仮面ライダーとして戦いながら、教師としての仕事をこなす。ハードワークにハードワークを重ね、俺の身体はボロボロだ。

 

「失礼します。蓮先生いらっしゃいますか?」

 

日も傾き始め、西日が差し込んでくる職員室に響いた声。入り口の方へ視線を送ると、片手に教材を抱えた1人の男子生徒が居た。

雪田幸機(ゆきだこうき)、2年5組39番。特進コースに所属する彼の成績は常にトップクラス、順当にいけば東大合格は必至だと言われる秀才だ。

 

「分からない問題があるんです」

 

そう言った彼に付き合っていると、気付けば日は完全に沈み、完全下校の時刻を迎えそうになっていた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

1週間後の午後7:30、日本上空を"彗星"が通り過ぎる。教室で少しだけあがったその話題が、妙に頭に残っていた。特に天文学に興味があるという訳では無いが、夜空を染める蒼い彗星を生で見ることが出来れば、それは忘れられない景色になるだろう。

 

「お兄ちゃん、彗星を見るのに1番良い場所ってどこかな」

 

「うーん。蓮海は完全に平野で、高い場所で見るとしたらロータスオーシャン、友達とかと集まって見るんだったら、ここから近い蓮の池公園とかが広く開けてて綺麗に見えると思うよ」

 

「お兄ちゃんと2人で見るなら?」

 

彼は少し照れくさそうに笑い、ノートに走らせていたボールペンを止め、窓の外、南側を向きながら言った。

 

「蓮海港、彗星が海面に反射して、2つに見える。きっと幻想的だよ」

 

「じゃあさ、一緒に見に行こう!」

 

「ああ」

 

「約束だからね!」

 

優しい声で頷くお兄ちゃんと指切りを交わし、自室に戻った私はすぐに布団に潜った。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「波多野さん、"内通者"の目星は付きましたか?」

 

「ああ、粗方な」

 

電話越し、ぶっきらぼうな声の先は波多野整(はたのひとし)警部。昔から付き合いのある警察官だ。

彼からあがった人物は4人、赤田佳嗣(あかだよしつぐ)白山佑樹(しらやまゆうき)緑見風花(みどりみふうか)紫俊(むらさきしゅん)。何れも蓮海署に新設された"メモリ犯罪課"に所属する刑事だ。鹿屋琴鳴の電話帳には、この4人全員の電話番号が登録されているが、通話記録などは一切残っていない。まずは4人と彼女の接点を探る必要がありそうだ。

俺がまず目をつけたのは緑見風花、彼女は蓮見学園高等学校第80期生、鹿屋琴鳴と同期であり、3年間同じクラスで交流も深い。彼女が内通者である可能性は十分考えられるだろう。

俺は早速、彼女とのコンタクトを図った。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「"ええ兄弟"じゃのう」

 

何か苦境に立たされたとき、いつも見る夢。まだ幼い双子の兄弟を、優しい眼差しで見つめるシワシワの老人。2人の頭を撫でる手はカサついて、長い人生を生きた証が刻み込まれている。

 

「海斗は優しいが、ほんのちょっぴり泣き虫で」

 

にこやかに弧を描いた目が、俺を見つめる。

 

「海理は怒りっぽいが、心が強い」

 

いつもここで思い出す。おじいちゃんが2人のケンカを宥めている、そんな場面の記憶だ。

そしてそれに気付いたとき、シーンは移り変わる。

 

「海斗は少しだけ早く、お空に飛んでいったのよ」

 

まだ小さい俺にでも理解できた。

海斗は死んだ。

昔から身体の弱かった海斗は、インフルエンザと喘息が悪化し肺炎に、そのまま症状が良くなること無く息絶えた。

その2年後、加奈子が生まれた。まるで海斗の生まれ変わりかのように泣き虫で、それでいて優しい子どもだった。

彼女は知らない。俺には双子の弟が居たこと、そして俺が医者を目指す理由を。

2度と海斗のような子どもの命を失わせたくない、俺と同じ気持ちを抱く子どもを見たくない。

ただその一心で、医学部医学科へ進学した、医者への道は開けようとしていた。

そんな時に何故俺は、悪魔に捕まってしまったのだろうか。

引き出しに眠るパンドラの箱が、邪悪に微笑んでいる。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「今日から化学部の副顧問になります笑花野々葉(しょうかののは)です!よろしくお願いしまぁす!」

 

琴鳴の行方不明による欠員を補充するため、近所の市立高校から引き抜かれた国語科の教員、笑花野々葉。彼女はかなりの曲者だ。

まず、俺の隣の席になったのは良いが、ことあるごとにちょっかいをかけてくるのは辞めてほしい。特に最悪なのは、明らかに不味いであろうお菓子の味見役をやらされるのは勘弁だ。結局お菓子は俺のものになり、苦しそうな顔の俺を彼女はニヤニヤと見つめる。平林先生だけでも疲れるのに、彼女の相手までするのは骨が折れる。

 

「先生って何歳なんですか〜?」

 

「35!ピチピチの高校20年生だよー」

 

まじかよ9歳も歳上だったのかよ、しかも35歳でそのノリキツくね!?

確かに童顔で可愛い容姿をしていて、制服を着ても全然違和感はないだろう。ただ、幼いのは容姿だけにしてくれ…!

 

「ふんふん、なるほど〜王水ってそう作るのね〜」

 

「絶対それだけはやめろ!処理するのにうん十万円かかるからな!」

 

化学部に彼女を所属させた人間を、俺は一生恨むだろう。結局、王水を処理するために呼んだ業者の代金は、俺が払うことになった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

バイクを走らせ蓮見署へ向かう途中、大きな交差点で信号待ちをしている時だった。

道の先、遠くの方から轟音と共に砂煙が上がるのが見えた。ビルの谷間に響き渡る叫び声、視界の奥ではビルの一角が欠け、崩落しているのが見える。

信号が青に変わった瞬間、俺はそこへ急いだ。

 

「立花新三はお前か?」

 

薄汚れた青い海賊服に身を包んだ骸骨が、鎖に繋がった錨のようなものを振り回しながら、尻もちをついているスーツを身に纏った中年の男へ迫っていた。

俺は骸骨海賊の懐へ潜り込み、男へ逃げろと叫ぶ。骸骨海賊の力は想像以上に強く、俺は投げ飛ばされ電話ボックスに全身を打ち付けた。体中に鈍痛が響き、起き上がることもままならない。

 

「邪魔をするな!」

 

骸骨はそう声を荒げ、背を向けて逃げる男の頭部目掛け、その錨を振り翳した。

 

グシュ

 

風を切りながら横薙ぎに振るわれた錨は、男の頭部を粉砕した。歪に首から上を抉り取られた男は、力無く地面に倒れた。赤錆た錨を、更に赤黒く、男の血肉が染める。ビルの壁に食い込んだ錨から、ピンク色の脳味噌がとろとろと垂れ落ちている。

あまりの惨さに、思わず吐き気を催す。

骸骨が、俺の方へ振り返った。

 

「次はお前か?あぁ?」

 

壁に食い込んだ錨を無理やり引き抜き、ジャラジャラと鎖を鳴らしながら頭上で振り回している。もうおしまいだと思った、その時だった。

 

「おい、俺達は依頼された人間しか殺さない。そういう約束だったはずだろ」

 

全身を鮮やかな赤色に染めた、筋肉質な異形が、骸骨を止めた。

腰には赤と黒のパンツ、両足首と両手首に深黒の数珠、顔は怒りに満ちた鬼の形相をしていて、地面に引き摺る鋼の棍棒の辿った跡は、コンクリートを削り取っている。

2体のドーパントがこの場を去ろうとした時、聞き馴染みのある声が後ろから聞こえてきた。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

学校終わり、久し振りに中心市街で買い物を楽しもうとした矢先、ドーパントに出くわした。俺は人の流れに逆らいながら、懐から水色のガイアメモリを取り出す。

 

COMET(コメット)!』

 

「コメット!?まあいい…変身!」

 

見ず知らずのメモリが出てきたことに驚きつつも、俺はメモリをドライバーに挿し込み、展開する。

身体全体を、キラキラと蒼く輝くオーラが包み込み、俺を仮面ライダーへと変貌させる。

コメット…彗星のメモリの力とは、一体どれ程の力があるのだろうか。

人の波を切り抜け、より強く地面を蹴り込む。体中を蒼いオーラが包み込み、直線上に加速する。骸骨のドーパントの懐へ一瞬で潜り込むと、その薄汚れた肋骨の浮かぶ脇腹を一発、拳の打撃に遅れ、蒼い宇宙のような輝きを纏ったオーラが衝突する。

2つの衝撃に怯んだドーパントは、後方へ吹き飛ぶ。続いて側にいた鬼のようなドーパントが金棒を振りかざしてきたが、ドーパントの背丈ほど飛び上がり、右足で側頭部へ蹴りを加える。怯むドーパントへ畳み掛けるように、ラッシュでその硬い筋肉へ的確にダメージを与える。最後のアッパーが鬼の顎を粉砕し、ドーパントは完全に地面へ膝をつき、後はトドメを刺すだけだ。

 

『コメット・マキシマムドライブ!』

 

全身に纏ったオーラが、球状の蒼いエネルギー弾となって右手前に収束する。俺の体を完全に包めるほど巨大なそれを、サッカーボールをゴールへ叩き込む要領で右足で蹴り込む。

目にも留まらぬ速さで一直線に駆け抜けた彗星、あと一歩でドーパントに直撃するタイミングで、横から錨が飛び込みエネルギー弾と衝突する。蒼いキラキラとした飛沫を残し、エネルギー弾が炸裂する。煙の晴れた先には、ドーパントも、人間も居なかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

交通規制が敷かれ、警察の現場検証が始まった。被害者は立花新三、蓮見市議会議員だ。彼はセクハラ、パワハラ、その他様々な不祥事を抱えており、長らくメディアへ姿を現していなかった。恐らく、彼へ恨みを持った人間の犯行、もしくは依頼でドーパントが彼を襲ったのだろう。

俺はとにかく、彼の遺体を視界に映さぬよう徹底し、メモリ犯罪課の緑見風花を探した。

痛々しい被害者の遺体を目の当たりにし、顔をしかめた1人の女性、短く切り揃えられた髪を時折触る癖、緑見風花だ。

 

「少しよろしいですか」

 

「何です?ここは部外者は立ち入り禁止です。早く出ていってください」

 

冷淡に告げる彼女を宥めながら、俺は用件を伝えた。

 

「鹿屋琴鳴のことについて、聞きたいことがあります」

 

彼女は意外にも素直に話をしてくれた。

言い分として、まず彼女は鹿屋琴鳴とそれほど交友が深いわけでは無いこと、メモリ犯罪課の刑事の中で1番の新米であり、警察の内部事情に疎い自分が内通者になるメリットが敵に無いこと、そして当時彼女は"別のメモリ犯罪"の捜査を担当しており、こっそり敵と内通するような暇など無かったこと、以上の3つが挙がった。

彼女の話に矛盾はなく、その表情も至って普通、彼女が内通者の可能性は低い、俺はそう結論付けた。

完全に彼女が白な訳では無いが、ひとまず残る3人の調査に集中をしよう。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「おいお前、約束を忘れたのか!?」

 

人気のない路地裏で、俺達は言い争いをしていた。

 

「俺がメモリを使うのは、奴らから妹を守るためだ。"ノルマ"を達成するために、仕方なく人から恨まれるような人間を殺してるだけだ。決して積極的に人殺しをしているわけじゃない!」

 

思わず彼の胸ぐらを掴み、上目遣いで鋭く彼の目を睨みつける。右腕は力を込め過ぎて、今にも血管が破裂しそうだ。胸ぐらを掴んでいる俺の手を、彼は簡単に振り払った。

 

「そんなこと言って、お前はまだ1人も殺していないじゃないか。いつも傍観して、俺が奴らに言えば、加奈子にも危険が及ぶぞ」

 

「その名前を出すな!」

 

メモリの毒素とは、こんなにも恐ろしい物なのか。今目の前に居る彼は、もう俺の知っている人では無かった。

 

「お取り込み中失礼」

 

陰湿な老人の声が、路地裏に響き渡った。振り返るとそこには、全身を真っ黒に染めフードを被った男が立っていた。

 

「"プログノーシス"、何の用だ」

 

男はゆっくりと、俺の側を通り過ぎた。

 

「あなたではなく、彼に用があってきました」

 

フードに覆われた表情は、決して見ることが出来ない。ただ、微かな苛立ち、そして落胆を声色から感じる。

 

「そこにいる"チルドレン"の自覚がない者と違って、あなたは敬虔なチルドレンだ。"あの方"はその活躍を認め、ANCHOR(アンカー)のメモリを"ブロンズ・メモリ"へ昇格なさるそうです」

 

何がチルドレンだ…。

メモリをばら撒き、AtoZ、26体の強力なドーパントを選別するためのただのモルモットだ。"ゴールド・メモリ"へ昇格しドライバーを受け取る頃には、毒素でまともな思考なんて出来なくなっているだろうに。

"あの方"とはさぞかし頭の悪い人間なんだろうな。

怒りが収まらない。

拳を壁に打ち付け、すぐ側にあるゴミ箱を蹴り飛ばす。

 

「わっ」

 

背後から声が聞こえ振り返る。そこには気弱そうな青年が、怯えた表情でこちらを見ていた。

 

「あなた達ですか?例の、殺し屋…」

 

「依頼人の登場ですよ、ANGER(アンガー)。これがラストチャンスだと思って頑張りなさい」

 

右肩に置かれた彼の手は、とても冷たかった。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「どうした和田?急に話したいことがあるって」

 

ドーパントとの戦闘を終え、自宅に帰る途中、和田に呼び出された。西日の差し込む事務所の中、コーヒーを片手に和田は切り出した。

 

「内通者の件について、大方予想がついてな」

 

これも和田の癖だ。自分の推理を整理するため、頭の中で考えたものを言葉にして吐き出す。いつも俺は彼の推理を聞かされる。

 

「まず、内通者はメモリ犯罪課の4人の内の誰かの可能性が高い。今日その内の1人を当たったが、彼女は"別のメモリ犯罪"の捜査をしていたと言っていた」

 

話が見えてこない。

尚も彼は話を続ける。

 

「彼女に詳しく話を聞くと、メモリ犯罪課に所属する4人の内、大山の件に2人、別の事件に2人と、それぞれ分かれて捜査をしていたらしい」

 

「はあ」

 

適当に相槌を打っておく。

 

「大山の件に関っていた2人の内の1人、もしくは両方が内通者の可能性が高い俺はそう思ったんだ」

 

「何で?それだけじゃ根拠が薄すぎるだろ」

 

「蓮が大山を尾行していた時、通話が切れただろ」

 

「確かあの時、通話が切れる前、俺は琴鳴の声を聞いた。コール・メモリの能力を考えると、あの時俺は操られていた可能性が高い。それは前話したよな」

 

「そこだ」

 

コーヒーカップを机に置き、和田は咳払いをした。

 

「あの時大山が持っていたケースの中にはディザスター・メモリが入っていた、しかし蓮の尾行によりケースを奪われ破壊されてしまう。それを避けるためダイナマイト・メモリとすり替えた」

 

あの日の尾中の表情が、脳内にフラッシュバックする。

 

「だからあの時、ケースの中身を見た尾中は困惑してたのか」

 

「知り合いの警部に聞いたところ、尾中と一緒に居た女から回収したメモリが、丁度紛失していたらしい」

 

「ダイナマイトか」

 

「ああ。女を逮捕した時、その場に居たメモリ犯罪課の2人なら、簡単に回収したメモリを持ち出せる」

 

彼の推理に納得すると同時に、ある疑問が浮かぶ。

 

「でもディザスターを守るために中身をすり替えるだけなら、俺をわざわざ催眠状態にする必要もないよな」

 

「それは万が一の保険もあったんだろうが、一番の理由は"それ"だろうな」

 

和田は俺の懐から、1本のメモリを取り出した。

コメット・メモリ。いつの間にか懐に忍び込んでいたそれは、あの時渡されていた。

 

「やっぱお前すげーわ」

 

彼の推理に感心している暇もなく、携帯電話が鳴った。画面に表示されているのは笑花野々葉の文字。

電話に出ると、彼女の元気な声が聞こえてきた。

 

「唐突で申し訳ないんだけどさ!立波(たつなみ)駅前の飲み屋で、一杯やろーよ!」

 

「もう他の女を捕まえたのか、モテモテだな」

 

彼の冷やかしに反論しつつも、断る理由も無いので誘いを受ける。俺は荷物を持って、事務所の扉を開ける。

 

「避妊はしっかりしろよ」

 

「は?お前、何言って…」

 

ああ、今思い出した。立波町は夜の歓楽街、特に駅前はラブホ街となっている。

 

「そういうのじゃないから!絶対!」

 

俺はそう言い残し、事務所を後にした。

 

―――――――――――――――――――――――――――

 

「ねえここってラブホ街…」

 

小学生時代からの友人、加藤由里(かとうゆり)に誘われ遊んでいる最中、2人で道に迷い立波町へ来てしまった。ここは蓮海市一番のラブホ街、高校生の来ていい場所ではない…。

しかも今の2人は制服だ、まだ補導される時間ではないが、警察に見つかると色々面倒なことに…。

 

「美緑!?何でこんなとこ居るんだ、ここはラブ…いや、大人の町だぞ?」

 

もっと面倒な人に見つかった。

ほぼ毎朝顔を合わせる、私の担任…蓮先生。何故こうも彼とは縁があるのだろうか。

 

「道に迷っただけです!てか先生こそ何でこんなとこに」

 

先生の左腕に、ベロベロに酔っ払った女性が幸せそうな表情で腕を組んでいる。

 

「もしかしてこの後…」

 

ラブホテル(ホテル)へレッツゴー!」

 

女性が元気に叫んだ。夜にも関わらず、店の明かりに照らされた眠らぬ町に、声が響き渡る。

 

「お楽しみのとこすみませんでした!」

 

あまりにも気まずい雰囲気に耐えられず、その場を2人で逃げ出した。気付けば人通りの少ない通りへ辿り着く。

 

「見つけたぞ、加藤由里」

 

男の低い声が聞こえたかと思うと、曲がり角から海賊服に身を包んだ骸骨男が現れる。両手で掴んでいる鎖の先には、赤く錆びた巨大な錨が繋がっている。

 

「おらぁ!」

 

2人に錨が直撃してしまう。咄嗟に身を屈めたが、もう遅い。

私たち、死ぬんだ。

覚悟したその時だった。

 

「いい加減にしろ翔太!」

 

金属同士の擦れる嫌な音と共に、聞き覚えのある声が響いた。淡い街灯に照らされたその異形は、全身が血のように赤く、右手には金棒を持っている、鬼のような姿。

 

「その声は…お兄ちゃん?」

 

 





更新遅れてすみません。
色々話の構成を考えながらだと、中々書くのが進まないものですね。今後も亀更新が続くと思いますが、気長に待っていただけると幸いです。1話の文字数を半分にしようかとも考えている次第ですが、暫くは7000字程度で更新していこうと思っています。
次回もお楽しみください。
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