ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「…っ!?」
横領はあずかり知らないことだけど、詐称はわたしにも関係あることだ。
「な、なんの話だね…?」
「ここからはアタシの推測ですが、3年前。とも子さんが15歳の時に年齢を偽って試験を受けさせ、回収屋として使っていた。ということではないでしょうか?」
あ、合ってる…!
「何の証拠があってそんなことを…!」
「証拠は迷宮組合が見つけるでしょう。通報すればの話ですが…」
「お、脅すつもりかね?」
「いいえ…」
悦楽に顔を歪め、楽しそうに言い放つ。
「脅してるのさ。今、まさにね…」
そこで言葉を切り、マキ江さんが肩越しにわたしに振り返る。
「選ぶのはお前さんだ。ここに残るか、アタシと来るか」
「っっ!?」
突きつけられた選択に身が竦む。
報酬をピンハネされてはいたけど、今の自分があるのは詐称して試験を受けさせてくれた社長のおかげでもある。
それなりに居心地よくやってこれた会社を辞め、全く畑違いな配信業なんてできるとは思えない。
流行りに乗ったごっこ遊びとはわけが違うのだ。
「辻吹君!!」
考え込むわたしに社長が恫喝する。
「辞めるなら詐称の件を公表する!そうなれば免許は剥奪され、二度と探索者には戻れなくなるぞ!いいのか!?」
「探索者に、戻れない…?」
突然地面に穴が開き、真っ逆さまに落ちていくような浮遊感が体を襲う。
探索ができなくなったら何をして稼げばいいの?
今更別の仕事なんてできないし、探索以外の職歴も資格もないわたしがありつける仕事なんてほとんどない。
やっぱり、今の生き方を変えることなんてで…
「ふふっ。あはははははっ!!」
「あっはっはっはっは!!!」
「…?…!?」
停滞した思考を打ち壊したのは2人の豪快な笑い声だった。
「なにが可笑しい!?」
「それで脅しのつもりかい?」
「大丈夫よとも子ちゃん。そうはならないから安心して」
わたしの手を取り、優しく微笑むよう華さん。
その手はとても暖かく、胸の奥まで包みこんでくれているようだった。
「わかっているとは思いますが、詐称を公表すればより傷つくのはそちらですよ」
「ぐっ…!」
「彼女ひとりを言いくるめるならそれでよかったでしょう。けど、ダンジョンでおまんま食ってるアタシらを舐めてもらっちゃ困りますよ。…よう華」
「はいっ!」
手を離し、よう華さんが社長に向き直る。
「結論から言いますと、詐称で免許が剥奪される可能性は極めて低いです」
「えっ?そうなんですか?」
「当然、罰金と免許停止などの罰則はあります。しかし、組合の調査で犯罪歴や素行不良などが認められなければ再試験の後に正式な免許が交付されます」
し、知らなかった…!!
詐称なんて悪いことがバレたら探索者でいられなくなると思ってたから誰にも話せないでいた。
それならもっと早く相談すればよかったかも。
「優秀な探索者は奪い合いだ。どこもかしこも常に人手を欲しがってる。よほどのことをやらかさなきゃ剥奪にゃならないよ」
「仮にこの件を公表した場合、御社は免許取得年齢に満たない人間をそうと知りながら採用し、免許を取得させたとして探索者労働法違反に抵触する可能性が高いです。そうなれば御社の社会的信用が大きく失墜すると思われますが…?」
多勢に無勢。二人の舌戦に押され、ついに社長は沈黙してしまった。
正直、二人が何を話してるかさっぱりわからない。けど、わたしがどんな選択をしても社長はもう止めに入らないことだけはわかる。
「とも子ちゃん」
「はっ、はいっ!」
「配信っぽく業務報告したのは配信に興味や憧れがあったからじゃないの?」
「…」
「ダメだったって引く手あまたなんですもの。ちょっとくらい挑戦してもいいんじゃないかしら?」
さっきまでのわたしはこれまでの生活を手放す怖さだけしか見えてなかった。
でも、わたしの境遇がおかしいと真っ向から社長に立ち向かってくれた二人を見ているうちにその見方がほんの少しだけ変わった。
「社長…」
「なんだね?」
手放すんじゃない…。
今までやってきたことも全部抱えて、新天地に踏み出すんだ!!
「わたしを探索者にしてくれて、今日までここで働かせてくれて…本当にありがとうございました!!」
「お人好しだね…」
「そういうところも素敵だと思うわ」
「わたし…やってみたいことができました。だから、本日をもって退職させていただきます!今まで本当にお世話になりました!!」
勢いよく頭を下げ、今日までの感謝を伝える。
わたしは社長に利用されてたかもしれない。ここじゃなかったらもっとお金を稼げていたかもしれない。
でも、ここに入らなきゃ今のわたしは絶対になかった。それだけは確信している。
「…こんなことを言う資格がないのはわかっている。だが言わせてくれ」
しばしの沈黙の後、社長が重い口を開いた。
「深刻な人手不足で苦しんでいたあの時、うちに来てくれたのが君で本当に良かったと思っている。今日までうちを支えてくれてありがとう」
「…っ!はいっ!!」
こうして、わたしは3年間勤めてきた会社を『会社の利益を著しく損なう行動を取ったとして解雇』された。
「分からないわ…」
マキ江さんが運転する車に乗って彼女たちの事務所に向かう最中、よう華さんがぽつりと呟いた。
「とも子ちゃんを利用して横領してたのに、どうしてお礼なんて言ったのかしら?」
「わたしも気になってました。もっとこう、恨み言を言われるんじゃないかと思ってたので…」
「青いねぇ…。そんなの簡単さ」
聞いたことのない古めかしい曲が流れる社内にマキ江さんの豪快な笑い声が響く。
「半端だからさ」
「はんぱ…ですか?」
「人間は飛び抜けた善人にはなれない。それと同じで飛び抜けた悪人にもなりにくいもんさね」
「それって、横領するくらいには悪い人だけど、受けた恩に敬意を示す程度にはいい人だった、ってことかしら?」
「まぁ、そういうことさ。…見えたよ」
マキ江さんが車を停めたのは小さな雑居ビルの横にある駐車場。
車から降りてビルを見上げると、二階の窓にリンクトーカーと書かれたテナントがあった。
「さっ、ここだよ」
階段を登って扉を潜ると…椅子と机くらいしかないがらんとした部屋が広がっていた。