ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「ありました」
「まぁっ!薬草がいっぱい!」
まっすぐ帰るはずがおばさんに付き合って採取を手伝うことに。
今日は帰っても研修の復習くらいしかやることがないから特に問題はない。
それに、こうしていると回収屋に戻ったみたいで落ち着く。
「ありがとうね。最近は八王子に人がいっぱい来るせいで何も拾えなくて…」
「すみません…」
「とも子ちゃんのせいじゃないわよぉ」
おばさんを手伝って薬草を集める。しばらく無言で集めていると、おばさんがポツリと呟いた。
「今はどうしてるの?」
「えっと、新しいところで働いてます」
「そうなの!?おめでとう!どんなところ!?」
「同じダンジョン関係のお仕事です。回収屋とは違うんですけど…」
「へぇっ、そうなの。どんなことしてるの?」
「今は研修期間で…教養を深めています」
「教養…」
リンクトーカーに入社してすぐに始まったのはあらゆる分野の知識や理解を深める教養の勉強だった。
「具体的にはどんな事を?」
「色んな国の歴史とかニュースとかを見たり、最近の流行りを調べたり…。あっ、ゲームとかの遊び方も教わってます」
「まるで
「それ、今の社長も言ってました…」
芸事には深い知識と教養が大事。それは配信者にも言えることだと社長が言っていた。
なんでも昔のホステス?さんは茶道や書道を極めたり、囲碁や将棋、カルタなんかの遊びにも精通しててそのスキルでお客さんを喜ばせていたらしい。
お笑い芸人に高学歴な人が多いのもそのためなんだとか。
「覚えることがいっぱいで、頭から湯気が出そうです」
「大変ねぇ」
「はいっ。わたしがどれだけ世間知らずか思い知らされました」
中学を卒業してからずっとダンジョンと職場とアパートを往復する毎日。
テレビもニュースくらいしか見ない、ゲームもSNSもやってこなかったからダンジョンの外のことは本当にちんぷんかんぷんだった。
「こんなに知らないことだらけで、この先やっていけるんでしょうか…」
おばさんは何も言わず、再び沈黙が戻る。
こんな話、面白くないよね…。
薬草を摘み終え、それを入れたレジ袋の口を縛ったおばさんが不意に言う。
「ソクラテス曰く、無知を自覚することが真の認識に至る道である」
「えっ?」
「知らないことがあるってわかったなら、後は知っていけばいいだけよ」
ソク…なんとかさん?のことはよくわからないけど、今の言葉は腑にすとんと落ちた。
そうだ。
今までのわたしはダンジョンのことしか知らず、その他のことはまるでわからない世間知らずだなんて考えたこともなかった。
でも今は、自分がどれだけ世界を知らないかを痛感できる。
それなら後は知っていけばいいだけだ。
「アドバイスありがとうございます。ちょっとだけ、自信がつきました」
「こっちこそ、手伝ってくれてありがとうね。はいっ、ご褒美」
そう言ってポケットから取り出した飴をいくつかくれた。
「ありがとうございます」
「さっ、薬草も採れたし帰りましょっか。いくつも頼んで悪いんだけど、ボディーガードもお願いっ!」
「はいっ」
いっぱいになった袋を持って、わたしとおばさんはダンジョンを後にする。
やっぱり、ダンジョンにはたくさんのお宝が眠っている。
一歩踏み出した先で立ち竦んでいたわたしに、もう一歩を踏み出す勇気をくれたんだから。