ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「あの配信の後すぐにスカウトをかけちゃいました!あんなに強い子が一緒なら心強いです!」
「えっと、精一杯よう華さんをお守りします…」
"叫びすぎて喉痛い"
"期待の大型新人登場"
"新人の定義壊れる"
"美少女2人のダンジョン攻略とか普通なら不安しかないのになんだこの絶対的な安心感は"
わたしの登場にリスナーさんたちはびっくりしっぱなし。
もうひと押し。ちょっとだけサービスしてもいいよね?
「今回のテーマはダンジョンデビュー。初心者目線でダンジョンに潜るので…」
右手にアフラトスクを呼び出してドローンに向けて掲げる。
「神器は使いません」
すぐにアフラトスクを事務所に戻すと、コメントはさらに湧き上がった。
"うおおおおっっ!!すげええええっっ!?!?"
"今の何!?"
"知らないよ!あんな武器!!"
"あれが配信で手に入れてたっていう神器!?手元に呼び出せるなんて便利過ぎ!!"
"どうせ加工か手品だろ"
当然疑う人もいる。こんなのいきなり見せられたら無理もない。
「頼もしい仲間も加わったところで、ダンジョンデビューいっちゃいましょーー!!」
「おーっ」
こうして、よう華さんにとっては初めての、わたしにとっては初めて誰かとパーティーを組んでのダンジョン攻略が始まった。
「とも子先生!ずばり、ダンジョンで気をつけるべきことはなんですか!?」
わたしがダンジョン内を警戒し、よう華さんが場を回す。
事前に決めていた役割分担だ。
「先生!?」
うぅ…。そんな風に呼ばれたらプレッシャーが…!
「えっと、常に音と匂いに警戒することです」
「音と匂い?」
「例外もありますが、ダンジョンは視界のきかない場所が多いです。なので音と匂いには常に警戒して下さい」
そこで言葉を切り、ポケットからこの日のために研いできたゴブリンの牙を取り出す。
それを指にセットして…
「っ!」
「とも子ちゃん!?」
親指で発射。牙の弾丸はわたしたちが進んでいる道の先にある曲がり角へと飛び…
『ピギュッ!?』
潜んでいたスライムに命中。牙は見事に核を貫き、ゲル状の液体を撒き散らして爆散した。
「常に警戒を怠らなければ安全に進めます」
"いや無理"
"逸般人向け解説助かる"
"何が聞こえてたんだよこえぇよ"
"ニュータイプ配信だった"
「次はよう華さんがやってみてください」
「無茶ぶり!?どうしてあんなことができるの!?」
「採取の時は無防備なので、すぐに敵や探索者に反応できるよう五感がどんどん鋭くなっていったんです」
"それ進化してね?"
"一世代でできるもんじゃねぇよ"
"回収屋バイトやってた時は同僚と交代で見張りやってたわ"
"ドローンでの索敵にも限界があるし、こういう能力は本当に有用"
"紳士協定さえなければ今すぐ引き抜きたい…!!"
"スカウトニキ涙拭けよ"
入社したての頃はパートのおばさんたちと一緒に仕事をしてたけど、ある程度慣れてきてからは一人で黙々と採取するのが当たり前になってきた。
見張りなしで採取できるよう常に警戒しているうちに五感が研ぎ澄まされていったというわけだ。
あの騎士の斬撃を見切れたのもそのおかげ。
「見慣れてる人もいると思いますが、今のはスライムです。一番弱い魔物ですね」
飛ばした牙を回収し、ゼリーのようにプルプルしたスライムの残骸の砂が付いてない部分を掬い上げる。
「スライムの体液は手に入りやすく持ち運びやすいので飲み水に使えます」
「えっ?飲むの…?」
「薬草とヒールタケと混ぜるとポーションの効能を高める効果もありますよ」
”あれ飲めるの?”
”お腹壊しそう”
”ポンペ待ったなし”
”ってことは、材料さえあればダンジョン内でポーション作れるってことか”
”現地調達できたら便利だよな”
回収したスライムを用意しておいた密閉瓶にしまい、よう華さんに詫びを入れる。
「すみません。よう華さんのデビューなのに出しゃばって…」
「いいのよ。全然気付いてなかったし」
次は絶対よう華さんに花を持たせよう。そんな決意を胸に探索を再開する。
歩いている間は退屈なのでよう華さんがトークで場を持たせてくれる。
「ねぇねぇとも子ちゃん。今朝のニュース見た?前に私に絡んできた人、昨日誰かに襲われたんだって」
「チャラさん、でしたっけ?怖いですよね…」
そのニュースなら今朝テレビで見た。
なんでも、昨夜チャラさんが何者かに暴行されて交番の前に放り出されていたんだとか。
犯人は不明。
普通ならその犯人に注目が集まるはずだけど、そうはならなかった。
「人身売買組織と繋がってたんですって。そんな人に絡まれてたなんてゾッとするわ」
"あー、あのニュースか"
"有名ダンジョン配信者の闇とか言われてたな"
"公私ともにクソ野郎だった"
"恨み買いまくってるから犯人探し難航してるらしいぞ"
"ざまぁww自業自得だ"
よほど怖い目に遭ったのか、警察に保護されるなり自分が人身売買組織と繋がってることを自白したらしい。
声をかけて捕まえた女の子に飽きたら売り飛ばしてたんだとか。
「助けられてよかったです」
「本当にありがとう!とも子ちゃん!」
「ひゃあっ!?」
突然抱きついてきたよう華さんを慌てて支える。
"きゃあーーーっっ!!"
"キマ…キマ…"
"キマシタワーー!!"
"ここに花の塔を建てよう"
"はいはい営業営業"
"よう×ともを信じろ"
"ここからのとも×ようもありだろ"
よう華さんの隣に立つとふわりと漂う香りが、今は温もりとともにわたしを包み込む。
こんな美人に抱きつかれたのなんてはる巳以来かも。
「よ、よう華さんっ!?」
「ごめんね。ちょっとだけだから…」
少し痛いくらいの力で抱きしめてくるよう華さんの拍動は心なしか早まっている。
きっと怖かったんだろうな…。
「…っ!?」
しばらくよう華さんに身を委ねていると、前の方から金属を打ち合うような音が聞こえてきた。
「…誰かいます」
「だからなんでわかるの!?」