ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「はいいいいいっっ!?!?む、無理だよ!魔物はダンジョンの外に出られないんだよ!?」
生きた魔物はダンジョンから出られない。これも長年の研究でわかっていることだ。
素材は持ち出せるけど、生け捕りにした魔物をダンジョンの外に出そうとすると見えない壁に阻まれて出すことができないらしい。
魔物の生態研究が遅れている原因の一つだと昔見た特番で言っていたのを覚えている。
"はいいいいっっ!?"
"飼うとな!?"
"魔物の飼育と調教は長年研究されてきたけど成功例がないんだよな"
"そもそも外に出せねーだろ"
"気持ちはわかるけど魔物だからなー。大きくなったら凶暴化するかも"
「あれー?電波が悪くなってきたわ?故障かしらー?」
突然そんなことを言い出したよう華ちゃん。小さいミミック、ミニック?をわたしの手に置き、隠し持つような形で取り出したリモコンで配信を切った。
「じゃあ試してみない?」
「何を?」
「出せるかどうかよ!神器でうちに帰ってこの子を連れていけるか試すの!」
「あー。だから配信切ったんだね」
アフラトスクを見られないよう配慮してくれたよう華ちゃんの気遣いに心の中で感謝しながらアフラトスクを召喚。
次元を裂いて事務所への道を開く。
「ただいまー」
「帰ってくると思ってたよ」
裂け目を抜けて事務所に戻ると、社長はまるで動じていなかった。
多分、こう動くことを予測してたんだろう。流石おばあちゃん。
「とも子ちゃん!」
「うんっ」
ミニックを抱えながら恐る恐る事務所に入る。その間、ミニックは暴れることもなく大人しくしてくれていた。
そーっと、そーっと…
一歩ずつ慎重に歩を進める。通説通りなら見えない壁に阻まれて外に出られない。
そのはずなのに…
「出られたぁっ!?」
『ミキュー!』
ミニックを抱えたまま事務所に入れたのだ。
「やったぁ!これでうちに置いておけるわね!」
『ミッ!ミッ!』
「嘘…、ありえない…」
「わかるよとも子。アタシも悪い夢を見てる気分さ…」
ミニックと一緒に喜ぶよう華ちゃんを尻目に、わたしと社長は長年当たり前だと信じられてきた常識が崩れ去る音を聞いていた。
「あっ!やっと繋がったわ!配信切れてごめんねー」
"よかった!繋がった!"
"こんちゃーす!"
"このまま終わるかと思った"
"あのミミックは?"
元の場所に戻り、配信をつけると心配した様子のコメントがたくさん流れてきた。
「あの子は安全な場所に置いてきました!よく考えたら出られるはずないものね」
「こんなことをいうのも変ですが、あの子が無事に大きくなってくれることを願うばかりです」
ミニックを外に出せたことは秘密にする。
これは社長と打ち合わせて決めたことだ。魔物がダンジョンの外に出たなんて知られたら世間はパニックになる。
なにより、ダンジョンから出てきた初の魔物ということでミニックが世界中から狙われる危険性があるからだ。
神器の力にミニック…。秘密がどんどん増えてくなぁ。
それらがバレたらどうなるか…。考えただけでも頭が痛い。
いざとなったら【門を開いて】ミニックをどこかに逃がそう。
"まぁ、こればっかりは仕方ないよな"
"かわいかっただけに惜しい"
"これは残当。外に出られたら他の魔物も出られる可能性が出てくる"
"外に魔物が出てくるなんて考えたくもないな…"
"前に魔物が外に出たらって自主制作映画を見たな。すっごいリアルで怖かった"
もう出てる、なんて言えないよねぇ…。
「おっと。そろそろお別れの時間ね」
腕時計を確認したよう華ちゃんが名残惜しそうにつぶやく。
時間を見ると配信予定時間が迫っていた。
「もっと探索したいけど、今日はここまでにしましょうか?」
「そうだね」
"えーーー!!やだーー!!"
"もっとみたーい!"
"えーんちょっ!えーんちょっ!!"
"神器とか魔物の子供とか規格外のことばっか起きてて楽しすぎる"
"かつてここまで撮れ高満載のデビュー配信があっただろうか?"
コメントも終わりを惜しむ声で溢れている。わたしは続けてもいいけど、今日が初ダンジョンのよう華ちゃんが心配だ。
「というわけで、私のデビュー配信はここまでにします!みんな!見てくれてありがとーー!!」
「えっと、チャンネル登録と高評価、よろしくお願いします」
"どういたしましてー!"
"楽しかったよーー!!"
"登録ボタン100000000回押した"
"次が決まったら教えてねー"
"ようともを信じて待ち続けます"
"ともようつってんだろ!!"
予想外やハプニングもたくさんあったけど、終わってみたらとても楽しくて心が躍る配信だった。
誰かと一緒にわいわい楽しみながら潜るダンジョンって、こんなに楽しかったんだ…!
「初めてのダンジョン、どうだった?」
「色々あったけど、すっごく楽しかったわ!みんなも楽しんでくれてハッピーハッピーね」
「わたしもすごく楽しかった。見慣れたダンジョンでも、誰かと一緒だとこんなに変わるなんて…」
「今日はいっぱい助けてくれてありがと。また一緒に行きましょうねっ!」
「うんっ!」
初仕事はこれというトラブルもなく大成功。後は無事に帰るだけ…。
そんな時にこそ、予想外は起きるもの。
「っっ!?」
「今度は何が聞こえたの?」
「人の声と…血の匂いっ!」
「えぇっ!?」
"最早ツッコむまい"
"どんな感覚してんだよ"
"宇宙に上がらなくてもニュータイプになれんじゃん"
"ニュータイプの大半地球出身だぞ"
「誰かが襲われてるのかも…!よう華ちゃんは先に帰ってて!」
「私も行くわ!」
「えぇっ!?あっ、危ないよ!」
「誰かが怪我してるのかもしれないのよね?それなら私も役に立てるはずよ」
正直、何があるかわからない危険地帯によう華ちゃんを連れて行きたくはない。
でも、もし怪我人がいるなら、聖術を使えるよう華ちゃんがいないと救助が来る前に手遅れになる可能性がある。
気は進まないけど、助ける可能性を高めるならよう華ちゃんの力が不可欠だ。
「…付いてきて!」
「えぇっ!」
「ぐっ!」
「き、君たちは、さっきの…」
匂いを頼りに駆けつけた先にいたのはついさっき会ったおじさん達と…
『プギアアアアアアアッッ!!!』
硬質な剛毛に覆われ、ゴブリンを遥かに凌ぐ巨体を誇る獣型の魔物、オークの群れだった。