ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
オーク
討伐ランクはC。
ゴブリン同様武器や防具を使う知能を持ち、群れで行動する習性を持つ【ゴブリンの上位互換】と言っても差し支えない魔物だ。
数は3匹。2匹の死体が転がってるから最初は5匹いたんだろう。
剣と盾で武装した一際大きなリーダー格と、武器を持たない子分が2匹。
多分斥候中だったんだろう。
「オークはわたしがやる!よう華ちゃんはその人たちの手当てを!」
「えぇっ!」
よう華ちゃんが3人に近づいたのを確認して剣を抜き、オークと対峙する。
オークはゴブリンと違って力が強く、鈍重な見た目に反してスピードも速い。
ジャンボスライム同様初心者が出くわしたらまず勝てない相手だ。
"オークだぁーー!!"
"やべぇよやべぇよ…!"
"普通のデビュー配信ならまず詰みだけど、とも子ちゃんがいるなら大丈夫…だよな?"
"俺たちのとも子ちゃんを信じろ"
「
よう華ちゃんが杖を振ってバリアを張り、安全圏を作る。
「大丈夫ですか!?すぐ手当てしますね!」
「かたじけない…」
ボロボロになった装備と、傷だらけで血まみれな男性たち。
防衛士の人の盾がひしゃげてることからもオークの強さが窺える。
「
よう華ちゃんが魔力を込めた手で傷口に触れる。すると、痛々しく割れていた傷口が少しずつ塞がり始めた。
「聖術!?すげぇ…!初めて見た…!」
「俺はこれくらいでいい。先にノブを治してくれ。そこの防衛士だ」
"マジで聖術だったーー!!"
"ダンジョン配信で聖術とか初めて見た"
"聖術士って大病院とかにしかいないもんな"
"実質Sランクの探索者に聖術士…。リンクトーカーの人材発掘力どうなってんだよ"
"この配信、ギルドのスカウトが血涙流しながら見てそう"
『ブギィィッ!!』
よう華ちゃんが何か余計なことをしていると判断したんだろう。
リーダー格のオークが剣を振り上げてよう華ちゃんへと駆ける。
小さくて非力そうなわたしを無視して。
「行かせない!!」
魔力で肉体と剣を強化し、オークが片足を上げたタイミングで軸足へと迫る。
オークは硬質な剛毛と厚い筋肉、堅牢な骨を持っていてちょっとやそっとの攻撃は通用しない。
けど、人間と同じ二足歩行だから弱点も人間とそんなに変わらない。
「ふんっ!!」
駆けた勢いを乗せた剣をオークに振るう。狙いは人間でいうアキレス腱!!
『プギャアッ!?』
剣は無防備な足を骨ごと断ち切り、軸足をなくしたオークはそのまま転倒。
人間と同じ体型だからこそ、転びそうになった時の動きも自然と似てくる。
両手が塞がった状態で反射的に利き腕で手をつこうとしたものだから剣の刃が真上を向き…
『ガギョォッ!?』
オークの腹に深々と突き刺さり、鮮血が地面を濡らした。
「えぇ…」
足止めだけのつもりだったんだけど、まさか自滅するなんて思わなかった。
"えぇ…"
"うっわぁ…"
"グロぉ…"
"オークってCランクだろ?こんなあっさり死ぬの?"
"人間も魔物もちょっとした油断や不注意で死ぬもんだ"
"とも子ちゃんも引いてるぞ"
死なない程度に無力化してあの人たちにトドメを刺させようと思ってたけど、その必要もなさそうだ。
『ギ…ギィ』
『フー、フー…!!』
仲間とリーダー格が死んで怖気づいたのか、後ろに控えていたオークたちが目に見えて怯えだした。
「っっ!!」
魔力で強化した足で思いっきり地面を踏む。大きな足音がフロアに響き、それがオークたちの恐怖心をさらに刺激したらしい。
『プギャアアアアアッッ!!』
2匹は悲鳴を上げながら走り去っていった。
残ったのは3匹の死体とよう華ちゃんに治療されてるパーティーの人たち。
"なんか、あっさり終わったな"
"向こうも負ける戦いはしたくないだろ"
"魔物って結構理性的な判断するんだな"
"よく言えば合理的、悪く言えばドライなのが獣の世界だ"
「…」
念のためリーダー格のオークの首を両断し、よう華ちゃんたちのもとに向かう。
「お疲れ様。とも子ちゃん」
「その人たちは大丈夫?」
「傷は塞がったから、すぐにどうこうならないと思うわ」
「よかったぁ…」
「さっき迷宮組合に連絡したからもうすぐ救助も来るはずよ」
救助が間に合ったことにほっと胸を撫で下ろす。
「ぐっ!!」
「まだ動いちゃだめですよ!痛みはそのままなんですから…」
剣士の人が無理をおして立ち上がり、わたしたちに向き直る。
「ダンジョンを遊び場か何かのように触れ回り、面白おかしく見世物にする配信者というものは好かん」
"あっ?なんだとこのやろう?"
"助けてもらってその言い草はなんだこの恩知らずが!!"
"こいつら置いてけばよかったな"
明確な拒絶を見せた後、剣士の人は深く頭を下げた。
「だが、危機感のない浮ついた子供と言ったことは取り消す。君たちは立派な探索者だ」
「っっ!?」
頭を上げ、今度は右手を差し出してきた。
「助けてくれてありがとう!君たちは命の恩人だ!!」
「よかったね。よう華ちゃん」
「はいっ!どういたしまして!」
わたしたちは握手を交わし、迷宮組合の救助が来るのを待った。
"コングラッチュレーション!"
"ブラボー!ブラーーボーー!!"
"おっさんかっこいい"
"言えたじゃねぇか…"
"どんな相手にもちゃんと敬意を払う探索者の鑑"
"最後の最後でいいもの見られた"
"次の配信待ってるよーー!!"
配信を終え、立川ダンジョンを出たわたしたちは帰路につくべく最初の裏路地を目指す。
駆けつけた迷宮組合の救助隊の聴取を受けているうちにすっかり日が暮れ、辺りは夜闇に包まれ始めていた。
これなら目立たず帰れるかも。
「配信、うまくいったわね」
「うん。よう華ちゃんのおかげだよ」
「2人のおかげよ」
楽しげに笑うよう華ちゃんはいつもと変わらないように見える。
けど、わたしにはお見通しだ。
「とも子ちゃん?」
肩を貸すと、よう華ちゃんは不思議そうに小首を傾げた。
「疲れてるでしょ?」
「…バレた?」
「声に元気がないもん。わかるよ」
聖術がどれほど負担がかかるものかわからない。
けど、配信が始まってからほぼずっと動きづめで聖術もバンバン使ってたんだから相当疲れてるはずだ。
「正直、すっごい疲れた。気抜いたら寝ちゃいそう」
「じゃあ帰ったら寝よっか」
「ダメよぉ。おばあちゃんがおでん作って待っててくれてるんだから…」
「おでん!?」
自分で作る機会もなかったからここ数年は食べてない。
よう華ちゃんが食べたがってるおでん…。どれだけおいしいんだろう?
その味を思い浮かべながら星が瞬く夜空を見上げる。
「…?」
見上げた夜空を遮るビルの上。その屋上に小さな黒い点が見えた。
それは夜空へと飛び上がり、徐々に大きくなりながらこっちに向かってくる。
「っっ!!」
「ふぇっ!?とも子ちゃん!」
よう華ちゃんを抱えて後ろに跳び、彼女を背に隠す。
黒い点はわたしたちのすぐ前に轟音と共に降り立ち…真っ黒な影がわたし目がけて飛んできた。
「…っ!…えっ?」
その正体に気づいた時にはもう遅く、わたしは影に抱きつかれて道路に押し倒された。
「とも子ちゃん!?…えっ?えぇっ!?」
よう華ちゃんの驚く声が響く。テレビにも出てたから知っててもおかしくないよね?
「やっと会えた…!姉さん!!」
黒い影…いや、群青色の髪を短く切り揃えた茶色い瞳の女の子がわたしを力いっぱい抱きしめる。
「あだだだだだっ!!痛いっ!痛いよはる巳!」
「ごめん!嬉しくってつい…」
「辻吹はる巳さんですよね!?
「はいっ」
「とも子ちゃんの知り合いなの?」
「はる巳はわたしの妹なの」
「い…いもうとおおおおおおおっっっ!?!?」
本作は女の子同士の愛と絆を描きつつ、ダンジョン配信を通してダンジョンという不思議な世界を描くお話です
百合が好き!ダンジョン配信ものが好き!という方には特におすすめです
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