ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
はる巳の衝撃発言から3日経ち、あるニュースが探索者界隈に激震を走らせた。
『辻吹はる巳 まさかの零細企業に入社!!』
『飛び級才女はあの配信者の妹!?謎に包まれた辻吹一族に迫る!』
『優秀な人材はアタシが総取り!リンクトーカーの人材発掘術とは!?』
「はる巳ちゃん。すっかり有名人ね」
『ミューッ』
週刊迷宮の新聞をめくるとはる巳関連の話題が目白押し。
その縁でリンクトーカーとわたしの話題もそれなりに載っている。
あの衝撃発言の後、はる巳は本当に大手ギルドからのスカウトを全て蹴り、翌日にはリンクトーカーに履歴書を持ってきた。
経歴、実績、実力…。そのどれもに文句をつけられるはずもなく即採用。
晴れてうちの社員になったわけだけど…
「姉さぁん…」
「あははっ…」
わたしを抱き枕にソファーに寝転がるこの子と渦中のエリートが同一人物だなんてとても思えない。
「本当に良かったの?うちよりも給料いいところだっていっぱいあるわよ?」
「お黙り!」
「私はお金や名誉のために探索者になったわけではありません。姉さんがここにいるのなら、それは全てにおいて優先されることなのです」
「はる巳…」
そこまで思ってくれるのは嬉しいけど、この体勢で言っても説得力ないよ。
「私も姉さんも、育ててくれた院長への恩返しと施設への支援のために探索者になりました。それが叶うなら大手である必要はありません。何より…」
そこで言葉を切って社長に視線を向ける。
「給料が少ないというのであれば、もっと貰える場所にしていけばよいだけです」
「…はっ!!言ってくれるじゃあないか!それくらいのタマじゃなきゃ危ない橋を渡った甲斐がないってもんさ!」
「危ない橋って?」
よう華ちゃんが疑問符を浮かべると、社長がスマホを操作してあるネットニュースを見せてきた。
そこにはリンクトーカーを悪くいう記事やコメントの数々が。
「これって…!」
「本人の希望とはいえ、泰征が手塩にかけて育てた有望株を掻っ攫っちまったんだ。泰征はもちろん、はる巳を狙っていたギルドのメンツも丸潰れさね」
「愚かなことを…。私の人生なのですから、どこに就職しようと自由ではないですか」
「そうはいかないのが大人の世界ってもんさ」
わたしにははる巳が置かれてる状況も、ここに入っただけでみんなが悪くいう理由もわからない。
けど、わたしが知らない間にはる巳が多くの人からの期待を一身に受け、色んなしがらみを抱えて生きてきたことはなんとなくわかる。
わたしが前の会社に入社して、はる巳が泰征に入ったことで一度は別れたのが3年前。
その3年は、わたしたちの住む世界を一変させるには十分すぎる時間だったようだ。
「失礼します!!」
そんなことを考えながらしんみりしていると、突然ドアが開いた。
よう華ちゃんがミミを隠したのを確認して来客に目を向ける。
入ってきたのはスーツ姿の老人と制服を着た女の子だった。
あの制服、泰征の…!
「なんだいあんたら?アポもなしに非常識だね」
「教頭先生…えみ里さん」
「知り合い?」
「うん。泰征の先生と後輩」
来客は泰征の関係者らしい。教頭は事務所を一瞥するとズカズカと社長に歩み寄った。
「あなたがここの社長ですかな?」
「如何にも。それで?本日はどのような御用で?」
「単刀直入に言わせてもらいます。…辻吹はる巳さんを返していただきたい!!」
社長の迫力に負けじと教頭もぐっと顔を近づける。
「これは異なこと。はる巳さんは自らの意志で我が社の門を叩きました。他人がとやかく言う筋合いはないと思いますが?」
「自らの意志ですと!?お姉様を使って唆したのはお見通しです!」
わたし、何も言ってないんだけどなぁ…。
「貴方も分からない方ですね…」
こんな状況でもわたしを抱き枕にしていたはる巳がため息混じりに立ち上がる。
「何度も同じことを言わせないでいただきたい。私は御校を卒業し、一個人として在野に下りました。奨学金も返済した今、御校に私の行動を制限する権限はないはずですが?」
はる巳のリンクトーカー入りに当然学園側は猛反対。
それなら今すぐ奨学金を全額返済しろとめちゃくちゃな要求を突きつけてきたらしい。
でも、それで怯まないのが我が妹。
ダンジョン探索で手に入れた素材やアイテムを換金したお金で奨学金を一括返済したんだとか。
「辻吹くん!君は君自身の価値をまるでわかっていない!君の力と才覚はこんなところで埋もれていいものではない!!」
「誰がこんなところだってぇ!?」
「分かっていないのは貴方です。私が探索者になったのは育ててくれた施設に恩を返し、姉さんと幸せな人生を歩むためです。探索者のいろはを教えて下さったことには感謝しています。ですが、私は貴方達の地位や面子のために人生を浪費する気は毛頭ありません」
「ぬぅっ…!」
一部の隙もない反論に教頭先生も後ずさる。
交渉は終わりかと思ったその矢先、今まで控えていた女の子、えみ里さん?が一歩前に出た。
「その方が、先輩が敬愛するに足りぬ御方だったとしても…ですか?」