ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる   作:こしこん堂

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わたし、妹がいます! ③

「…発言の意図が分かりかねます」

 

 はる巳が纏う空気が変わった。怒気はとうに通り越し、殺気にまで昇華している。

 

「ひっ…!」

『ミィ…』

 

 よう華ちゃんとミミも怯えている。

 

 鞘から解き放たれた真剣のようなギラついた殺気をうけてもなお、えみ里さんの表情は涼しいままだ。

 

「辻吹とも子さん、でしたね?あなたの配信を拝見させていただきましたが、私はその実力に疑念を抱いています」

「っっ!!」

「はる巳!!」

 

 今にも飛びかからんとするはる巳を声で制す。

 

 はる巳がえみ里さんを睨みながら席についたところでえみ里さんの真意を問う。

 

「加工してると言いたいんですか?」

「端的に言えば…」

 

 そう思ってること自体に怒りはない。そういうコメントもたくさんあるからだ。

 

 ついこの間まで無名の回収屋だった人間が突然大活躍し始めたら誰だって疑うもんね。

 

「仮にそうだったとしたら?」

「化けの皮を剥がし、先輩の目を覚まさせます」

「どうやって?」

 

 わたしがそう問うとえみ里さんはわたしに詰め寄り、怒気を滲ませた険しい眼光と共に言い放った。

 

「私と【決闘】してください。あなたが勝てば我々は二度と先輩には関わりません」

「わたしが負けたら?」

「先輩にはここを辞めてもらいます。二度とあなたと関わることはないでしょう」

 

 それだけ言うと、えみ里さんは踵を返して事務所を去ろうとする。

 

「えみ里くん!何を勝手な…!負けたら辻 吹くんを…!!」

「いくら利を説いたところで先輩の決意は揺らぎません。であれば、敬愛そのものを打ち砕くより他に手はないでしょう」 

 

 えみ里さんは肩越しに振り返り、わたしを睨みつける。

 

「明日まで待ちます。色よい返事を期待しています…」

 

 今度こそ本当に事務所を後にするえみ里さん。

 

 教頭先生もその後に続いて事務所を出ていき、剣呑な静けさだけが後に残された。

 

「はぁっ。面倒なことになっちまったね」

 

 社長がため息をつきながら椅子にもたれかかる。

 

「あぁ言われちゃ断れるわけないだろうが」

「どうして?受けなきゃ何も起きないんじゃないの?」

「受けなかった場合、わたしたちが加工していたと認めることになる。そうなったらうちの信用がなくなっちゃうよ」

「絶対に断れないとわかった上であの条件を提示したのでしょう」

 

 はる巳が苦々しげに歯を食いしばる。えみ里さん、かわいい顔してかなりのやり手だ。

 

「えみ里さんって強いの?」

「私ほどではありませんが、今の泰征でも五指に入る実力者です。まぁ、姉さんの敵ではないでしょうが…」

「すっごく強いってことじゃない!」

 

 泰征学園は探索者なら一度は耳にしたことがあるくらい有名な探索者養成学校の最高峰。

 

 そこを主席卒業したはる巳はもちろん、五指に入るえみ里さんも並みの探索者じゃ歯が立たないほど強いんだろう。

 

 対するわたしは院長先生にいろはを教わった程度の叩き上げ。

 

 探索者同士で戦ったことなんてほとんどなく、対人でどれだけやれるか自分自身でも分からない。

 

 絶対に負けない自信がある、といえば嘘になる。けど、はる巳と会えなくなるなら絶対に負けたくない。

 

「社長」

「なんだい?」

「決闘を受ける許可をください。わたしの一存で決めていいものじゃないと思うので…」

「許す!存分にやっといで!!」

 

 即答だった。

 

「いいんですか!?」

「こいつはチャンスだ!お前さんが勝てばうちのいい宣伝になる!」

「ありがとうございます!…はる巳!お姉ちゃん頑張るねっ!」

「うんっ!頑張ってね、姉さん!」

 

 かくして、わたしとえみ里さんの決闘が正式に受理された。

 

 

 

 翌日

 

 泰征に電話して決闘を受ける旨を伝えると、明日泰征学園に来て欲しいと告げられた。

 

 そして、迎えた決闘当日。

 

「こ、ここが泰征学園…!」

 

 わたしとはる巳、よう華ちゃんは都内にある広大な敷地に建った巨大な学園、泰征学園を訪れた。

 

 城門のような正門に出迎えられ、そこを潜ればその先はまさしく学徒の街。

 

 どこを向いてもえみ里さんが着ていたような制服姿の生徒達で溢れ返り、みんなが思い思いに学生というかけがえのない時間を謳歌していた。

 

 はる巳はこんなところに三年もいたんだ…。

 

 まるで現実感のない空想のようなキャンパスを見渡していると、数人の生徒がこっちにやって来た。

 

「あのっ!リンクトーカーのとも子さんとよう華さんですよね!?」

「そうですけど…」

「この前の配信見ました!オークやミミックにすんなり勝てるなんてすごすぎです!!」

「あ、ありがとうございます…」

「は、はる巳先輩!お久しぶりです!!」

「えぇっ。お久しぶりですね」

 

 時間が経つごとにどんどん生徒が集まってくる。卒業生のはる巳はもちろん、わたしたちもそれなりに有名人になっていたらしい。

 

「サインくださいっ!」

「さ、サインっ!?えっと、そういうのはまだ…」

「いいわよ!…はいっ!」

「ありがとうございます!」

 

 流石よう華ちゃん!ファンとの接し方がうまい。

 

「みなさん。その方々は私の客人です」

 

 押し寄せる生徒たちを凛とした声が諌める。声の方を向くとえみ里さんがこっちに向かってきているのが見えた。

 

「本日はご足労いただきありがとうございます。生徒たちがすみません」

「いえっ。多くの人に知ってもらえてて嬉しかったです」

「そうですか…。その人気がこれからも続くといいですね」

 

 口調は穏やかだけど、わたしにだけ突き刺すような敵意を向けている。向こうもわたしが察知してるとわかった上でやってるんだろう。

 

「えみ里さん。姉さんに失礼ですよ」

「これは失敬。では、ご案内します…」

 

 慇懃に一礼したえみ里さんが背を向けて歩き出す。わたしたちも泰征学園の敷地を散策しながらその背を追った。

 

 

 

「こちらです…」

 

 えみ里さんに案内されたのは学園の隅の方にある体育館のような場所。ドアを開けると、派手に暴れても大丈夫なくらい広大な練習場が広がっていた。

 

「ここは?」

「訓練場。ここで模擬戦や実技試験をするんだよ」

「流石泰征。設備のスケールも大きいわねぇ…」

 

 つい最近までここにいたはる巳には見慣れた場所だけど、わたしたちにとってはまるで未知の世界。

 

 よう華ちゃんと訓練場を見渡していると、いつの間にか木剣と防具を持ってきたえみ里さんが戻ってきた。

 

「こちらをどうぞ」

「ありがとうございます」

「着替え次第始めます。ルールは…」

「待って!」

 

 よう華ちゃんが待ったをかける。

 

「なにか?」

「えみ里さんはとも子ちゃんが加工してるって疑ってるのよね?」

「はいっ」

「なら、二人きりで決闘しても加工してないって証拠にはならなくないかしら?」

「仰る意味がわかりかねます」

「ちょっとごめんね。…あっ、おばあちゃん?」

 

 言葉を切って電話をかける。相手は多分社長だ。

 

「許可取れた!?ありがとう!!…よしっ!じゃあ始めるわよ!!」

 

 これから決闘するわたしよりも気合が入ったよう華ちゃんがポケットから取り出したのはいつも配信に使っているドローン。

 

 それを配信モードに設定して飛ばし、ゲリラ配信を開始した。

 

「こんちゃーっす!リンクトーカーのよう華だよっ!」

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