ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる   作:こしこん堂

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わたし、妹がいます! ⑤

 ”うおおおおっっ!!すっげぇいいもん見れた!”

 ”親善試合にしてはえみ里ちゃんガチだったな”

 ”とも子ちゃんが人と戦うとこ初めて見たけど、人相手でも強いんだな”

 ”負けたとはいえ、泰征の学生ってあんな怪物だらけなのか…”

 ”そこ主席卒業したはる巳ちゃんってどんな化け物なんだよ”

 

 

「勝者!とも子ちゃん!!」

「おめでとう!姉さん!!」

 

 小さな称賛に振り返ると、よう華ちゃんとはる巳が惜しみない拍手を贈ってくれていた。

 

「ありがとう!」

 

 二人の応援に木剣を突き上げて応え、それを置いてえみ里さんに手を差し伸べる。

 

「手合わせ、ありがとうございました」

「…」

「約束、守ってもらいますよ」

 

 耳元に顔を近づけ、ドローンに声を拾われないくらいの小声で言う。えみ里さんはその言葉にびくりと肩を震わせ、唇を真一文字に結んだ。

 

「…こちらこそ、ありがとうございました」

 

 わたしの手を取り、えみ里さんがゆっくりと立ち上がる。

 

「手は大丈夫ですか?思いっきり叩いてしまってすみません」

「これしきなんということはありません」

 

 これではる巳と離れなくて済む。

 

 そう考えただけで、氷点下にまで下がっていた思考にどんどん温もりが戻ってくるような気がした。

 

「うーーんっっ!!死力を尽くして戦った者同士に芽生える絆!素晴らしいですね!!以上!泰征学園との親善試合の様子をお届けしました!まったねーーっっ!!」

 

 

 ”まったねーーっ!!”

 ”これ無料で見れたのやばすぎる”

 ”観戦料取れるレベルだった”

 ”俺、このチャンネルの配信ずっと加工だと思ってたわ。ごめん…”

 ”わかればええんやで”

 ”これからは一緒にリンクトーカー推していこうな?なっ?”

 ”こうしてまた一人沼に沈んだのであった”

 

 

「えみ里さん。何故負けたかわかりますか?」

 

 配信を終えたところではる巳によるえみ里さんの反省会が始まった。

 

「とも子さんを下に見た。…いえ、下であって欲しいという願望を捨てきれなかった心の弱さ故、です」

「その通りです。だからこそ、下に見ていた姉さんに挑発されて精彩を欠いた。その結果、まんまと体力を削らされたというわけです」

「最初から掌の上で踊らされていた、というわけですか…」

「真正面から勝つのは難しかったので、ちょっとズルさせてもらいました」

「精神の揺さぶりは戦闘の基本。ズルじゃないよ」

「早いなぁってくらいしか分からなかったわ…。みんなすごすぎよっ」

 

 己の未熟さを痛感しているのか、正座したえみ里さんが両手を強く握り締める。

 

 スピードと手数は圧倒的にあの騎士の方が上だったけど、積み重ねた訓練に裏打ちされた澱みない動きと思考が乗った攻撃はとても厄介だった。

 

 魔物相手の時と同じ思考に切り替えればもっと早く終わっただろう。でも、それだと殺すつもりで戦うことになる。

 

 そうなればえみ里さんがどれだけ傷つくかわからないからそれはしたくなかった。

 

「…動きは格段に良くなっていました。私が卒業してからもずっと鍛錬を積んできたのですね…」

「…っ!!」

「強くなりましたね、えみ里さん」

「ありがとう、ございます…!!」

 

 えみ里さんは震える声で言葉を紡ぎ、はる巳に深々と頭を下げる。

 

 憧れの人に褒められた嬉しさと、その人を引き止められなかった無念と悔しさが入り混じったようなとても複雑な声だった。

 

 はる巳がここでどんな風に生活していたかは知らない。

 

 でも、色んな人に慕われて尊敬されてたんだろうなってことは想像がつく。だって、はる巳の未来を案じて体を張れるえみ里さんのような後輩がいるんだもの。

 

「あなたは【決闘】に負けた。分かっていますね?」

「はいっ。泰征学園は二度と先輩の進退に介入しません」

「えみ里さんを疑うわけじゃないけど、本当に大丈夫なの?」

「どういうこと?」

「決闘には勝ったけど、上の人からしたら子供のお遊びでしょ?そんなのすぐに反故にされちゃうんじゃない?」

 

 日本中のギルドどころか海外までもがはる巳の力を欲しがっている。どこかに所属させて得られる利益や名声を考えたらこんなごっこ遊びなんて反故にされるんじゃないだろうか?

 

 そんな疑問にはる巳は動じることなく微笑んだ。

 

「大丈夫だよ。決闘は絶対だから」

 

 そう言って、正座したままのえみ里さんに視線を向ける。

 

「我が校では揉め事を解決したり何かを取り合う際、決闘を行なって解決するという校則が存在します。決闘という形で決めた以上、教頭どころか校長であっても結果を捻じ曲げることはできません」

「どうしてですか?」

「権力者の都合で反故にしてしまえば決闘という仕組みそのものが崩壊するからです。故に、泰征学園が先輩に口出しすることは二度とありません」

「野蛮な校則ねぇ…」

「互いが同意すればチェスや将棋などで決闘することもできますよ」

「知恵と力で勝ち上がるなんて最高ねっ!」

 

 そんな学校を主席卒業したくらいだから、はる巳もたくさん決闘を挑まれてきたに違いない。

 

 それを勝ち抜き頂点を極めた子がわたしの妹で、これからは一緒に働く社員で…。

 

 そんなの…そんなの最高すぎる!

 

「これからもよろしくねっ。はる巳!」

「うんっ!こちらこそよろしく」

 

 こうして、リンクトーカーに新しい社員が正式に加入することとなった。

 

 

 

「ここでいいですか?」

「ええっ!素晴らしいロケーションだわ!」

 

 決闘を終えて泰征から帰る間際、わたしたちは社長とよう華ちゃんの希望で記念撮影をすることになった。

 

 それもただ撮るだけじゃない。

 

「泰征の制服…。き、緊張するぅ」

「制服なんて一年ぶりだわ」

「つい最近まで着ていたので、新鮮さが皆無です」

 

 泰征の制服を着ての記念撮影だ。

 

 中学を出てから制服なんて着たことがないからなんだか不思議な気分。

 

 はる巳と2人で泰征に入る、わたしたちの道が入れ替わってわたしが泰征に入る。

 

 そんなもしもがあったら、わたしがこれを着てここに通ってたのかな?…全然想像つかないや。

 

「よく制服なんて貸してくれたね」

「おばあちゃんの交渉術の賜物ね。快く貸してくれたらしいわ」

 

 それは多分、脅迫なんじゃないかな?

 

 どんな弱みを握ったかわからないけど、うちの社長は本当にやり手だ。

 

「写真を撮ってどうするおつもりで?」

「SNSに上げるの!泰征との案件記念!みたいな感じで」

「では撮りますね」

 

 えみ里さんがよう華ちゃんから借りたスマホを構える。

 

「一枚目はギャルピースでいきましょっ」

「ぎ、ギャルピ…?」

「それは何でしょうか?」

 

 手のひらを上に向け、前に突き出すようにピースするよう華ちゃんに倣ってはる巳とピースする。

 

 全員のポーズが揃ったところでえみ里さんが撮影ボタンを押した。

 

「どうでしょう?」

「とっても素敵だわ!次はえみ里ちゃんも撮りましょっ」

「いえ、私は…」

「いいからいいから!」

 

 よう華ちゃんの押しに負けたえみ里さんがわたしの隣に並ぶ。

 

 うぅ…。さっきの今だからすごく気まずい。

 

「配信者たるもの、世に姿を晒すなら映えを意識しなきゃだめよ!4人で撮る時は…」

「私は配信者ではないんですが…」

 

 えみ里さんの主張も虚しく、よう華ちゃん監修のもとニ枚目の撮影がスタート。

 

 何がどう映えなのかいまいちピンとこないまま、わたしたちは監修が入った映えポーズで泰征学園での思い出を撮影したのだった。

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