ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「それでは、泰征学園での案件成功とはる巳ちゃんの入社を祝って…かんぱーい!」
「かんぱーい…」
「乾杯…」
湯呑みを軽く当て合い、今日の仕事の成功を祝うわたしたち。
「今日は私の奢りよ!…まぁ、普通のそば屋なんだけど」
恥ずかしそうにはにかむよう華ちゃん。
泰征学園を後にし、アフラトスクで帰ろうとしたわたしたちによう華ちゃんが祝勝会をしたいと提案したのがついさっきのこと。
よう華ちゃんの案内でやってきたのが今いるそば屋だ。
格式張ったお高い蕎麦屋じゃなくて、カツ丼とか天ぷらなんかもある所謂街のそば屋さん。
夕暮れの店内はそれなりに混んでいて、仕事終わりのサラリーマンや学生たちがおいしそうにそばを啜っていた。
「安くておいしい行きつけのお店なの」
「はふぅ〜。仕事終わりによく食べてたそばを思い出すよ」
回収屋だった頃、換金したお金でよく立ち食いそばを食べに行ったっけ?
寒い日に食べた温かいそばの味は今でも覚えている。
「美味しい…。やはり、素朴で飾らない味が一番です」
「泰征ではこういうの食べなかったの?」
「うん。学食にも蕎麦はあったんだけど、格式高くて気後れする味だったの…」
流石泰征。学食まで高級志向だなんてすごい。
「口の中で溶ける肉とか、臭みが全然ない魚とかもマナーの授業で食べたけど…こういうお店の蕎麦の方が美味しくてほっとする」
言い方はあれだけど、わたしもはる巳もいいところのお嬢様というわけじゃない。
決して裕福とは言えなかったけど、院長先生のおかげで特に不自由なく庶民的に生きてこれた。
泰征には世界で通じる探索者になるための語学や教養を学ぶ授業があるらしいけど、知識をまとっても人の本質はそう簡単には変わらない。
三つ子の魂なんとかだ。
「そう言ってもらえるとすっごく嬉しいわ!遠慮せず好きなのを頼んでいいわよ」
「では特製天ざるセットを2人前追加…」
「わたしは特製天丼とカツ重セット」
「今月ピンチだからお手柔らかにお願いしますっ!!」
よう華ちゃんの必死の懇願が店内に響いたところで、店の隅にあるテレビの音が聞こえてきた。
『次のニュースです。今、立川ダンジョンに大勢の探索者が押し寄せています。その理由とは…』
立川ダンジョンという言葉に目を向けると、大勢の人が立川ダンジョンを探索している映像が映し出されていた。
お目当てはもちろん…
「みんなミミを探してるみたいだね」
「連れて帰って正解だったわ…」
探索者だけでなくダンジョン関係の研究者や生物学者なんかもダンジョンに置いてきたって言葉を信じてミミを探しているらしい。
賞金をかけてるギルドもあるとか。
「バレたらどうなるのかなぁ…?」
「はる巳ちゃん。くれぐれも…」
「はいっ。決して口外しません」
はる巳なら絶対大丈夫だろう。わたしも疑われたり怪しまれないよう気をつけなきゃ…!
「そういえば、はる巳ってどこに住んでるの?」
ミミの話題がひと段落つき、追加注文したかけそばを食べながらはる巳の近況を聞く。
「…あっ、もしかして流星園に帰ってる?」
「りゅーせいえん?」
「わたしたちが育った施設の名前だよ」
院長先生曰く、まだ若かった頃に見た流星が綺麗だったからそう名付けたらしい。
「今は部屋を借りてる。いつまでも院長に甘えるわけにもいかないしね」
「そっかぁ。えらいねぇ」
手を伸ばし、昔みたいに頭を撫でる。はる巳は目を細めて気持ちよさそうに受け入れてくれた。
「ふふっ…。良かったら後でうちくる?2人なら大歓迎だよ」
「行きたい!よう華ちゃんは?」
「私も行くわ!」
結果は満場一致で可決。
おいしいそばで心もお腹もぽっかぽかになったわたしたちははる巳の案内ではる巳が今住んでる部屋へと向かった。
「こ、ここ…?」
「うん。ここの3階」
「嘘でしょ…?」
はる巳が案内してくれたのは都心にある空まで届きそうなほど高いマンション、所謂タワマンの一室だった。
奨学金一括返済したって聞いた時から薄々思ってたけど、はる巳ってかなりのお金持ち?
「さっ、入って」
「お邪魔しまーす」
「お邪魔…します」
「もぅっ。私の部屋なんだからそれはおかしいでしょ」
「あっ、うん…。た、ただいま…」
オートロックのエントランスを抜けて部屋の前につき、はる巳に開けてもらって中に入る。
わたしたちの来訪に合わせて電気がつき、玄関を照らし出す。
うっ…。玄関の時点でわたしの部屋より大きいかも…。
靴を脱いで廊下を渡り、ドアを開けた先に待っていたのは…漫画やアニメのお金持ちが住んでそうなイメージそのままの部屋だった。
わたしの部屋が4個くらい入りそうな広々とした空間の中に一人で住むには大きすぎるソファーやテーブルが並んでいる。
テレビもど迫力の大画面だ。
ここ、家賃いくらくらいなんだろ?お姉ちゃん、妹の金銭感覚が心配になってくるよ。
「ベッドも大きいわ!」
「誰かと住んでるの?」
「一人暮らしだよ」
その割にはクッションや椅子、枕が二つあるけどお客さん用かな?
わたしも今の部屋に住み始めた当初は寂しかったけど、こんなところに一人で住むのは寂しいんじゃないだろうか?
「タワマンに入るなんて初めての経験だわ…。写真撮ってもいいかしら?」
「どうぞ。ただし、SNS等には上げないで下さいね」
「もちろんよ!」
よう華ちゃんがはしゃいだ様子で写真を撮る。わたしも後で撮ろうかな?
「少々お待ち下さい。今お茶を淹れますので」
「お構いなく。2人とも疲れてるでしょうから、写真を撮ったらおいとまするわ。とも子ちゃん。事務所まで送ってくれないかしら?」
「うん。いいよ」
よう華ちゃんの言う通り、今日はお仕事頑張ったからはる巳も疲れてると思う。
わたしもよう華ちゃんを送ったら帰ろうかな?
「終わったわ!とも子ちゃんお願い!」
「うん!」
アフラトスクを呼び出し、事務所に続く裂け目を作る。
そこを通って事務所に戻る最中、よう華ちゃんが肩越しに振り返ってひらりと手を振った。
「それじゃあまた明日!おやすみなさい」
「おやすみー」
「良い夢を…」
よう華ちゃんが事務所に着いたのを確認して裂け目を閉じる。
閉じる時は閉じろと念じれば簡単に閉じれるのだ。
「じゃあわたしも帰るね。おやすみー」
「…何言ってるの?」
「へっ?」
意味が分からず固まるわたしの両肩をはる巳の手が掴む。
そして、そのまま寝室まで押し込まれ、おもちのようにふかふかなベッドに押し倒された。
「は、はる巳…?」
「私、姉さんと暮らしたい」