ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる   作:こしこん堂

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第五話 わたし、謎を解明します!
わたし、謎を解明します! ①


 社長の衝撃発言から一夜明け、わたしは東京から新幹線と電車を乗り継いで長野県へと向かっていた。

 

 アフラトスクの次元移動は一度行った場所にしか行けない。

 

 あれを使わずに移動するのは久しぶりだから時間が長く感じられた。

 

「おぉっ。自然がいっぱい…」

 

 生まれてこの方東京を出たことがないわたしにとって長野はダンジョンくらい未知の世界。

 

 長野は東京から日帰りで行ける観光地の一つで、冬になればスキーや温泉目当てに多くの観光客でにぎわうらしい。

 

 夏には避暑地に早変わり。ショッピングモールや観光地がある軽井沢が年中通して大人気なんだとか。

 

 でも、今日は観光はお預けだ。また機会があったらよう華ちゃんたちと来よう。

 

「着いた…!」

 

 上田という駅で降り、社長がくれた地図と住所を頼りに歩き続けること1時間。

 

 ついに目的の場所にたどり着いた。

 

「陸奥異世界研究所…」

 

 小さな古民家の表札には大きくそう書かれている。社長が言ってたのと同じ名前だ。

 

「…」

 

 深呼吸をしてインターホンを押す。知らない人の家にお邪魔するのって何年ぶりだろ?すっごくドキドキする。

 

「はーい」

 

 家の中から声が聞こえた。若い女性の声だ。

 

「…あれ?君は配信者の…」

「…綺麗」

 

 玄関を開けて出てきたのは、社長の旧友にはとても見えない若くて美しい女性だった。

 

 年はわたしとそう離れてないように見える。けど、女性が纏う空気からは見た目以上の落ち着きと年季を感じる。

 

 絹のような艶やかな銀髪で結った三つ編を左肩から垂らし、穏やかな紫の瞳は晴れ渡る空のように澄み切っていた。

 

 それよりも驚きなのは…

 

「っっ!?耳が長い!?」

 

 先が尖った羽のように長い耳。つけ耳かとも思ったけど、見た目と質感はどう見ても本物だ。

 

「もしかして、エルフの人ですか?」

「ボクはいるふ。夷流布(いるふ)カヤだ」

「初めまして。辻吹とも子です」

 

 カヤと名乗った女性に挨拶する。

 

 社長が話していた旧友の名前は陸奥ロク郎だったはず。

 

 この人は陸奥さんのなんなんだろう?孫?助手?

 

「どうしたカヤ?客か?」

 

 そんなことを考えているとカヤさんの後ろからヒゲが伸びたおじいさんがひょっこりと現れた。

 

 背は低いけど社長同様筋肉ムキムキで、タンクトップから覗く胸に大きな傷痕がある。

 

「初めまして。辻吹とも子です」

「おぉっ!君がか!!話はマキ江から聞いておる!さっ、入ってくれ」

「お邪魔します」

「カヤ!茶を淹れてくれんか?」

「いいよ」

 

 気難しそうな人を想像してたけど、いい人そうでよかった。

 

 快く出迎えてくれたことにほっとしながら、わたしは陸奥異世界研究所へと足を踏み入れた。

 

 

 

「俺は陸奥ロク郎。マキ江から聞いてると思うが、あいつとは昔パーティーを組んでいた」

「陸奥さんも探索者だったんですか?」

「ロク郎でいい。…辻吹といったな?モン次の親戚か?」

「モン次さんはわたしが育った施設の院長です。名前がなかったので名字をもらったんです」

「施設か…。そういえば、そんなことも言ってたな」

 

 カヤさんが淹れてくれたお茶を飲みながら軽く自己紹介。

 

 エルフは西洋に住んでるはずだけど、淹れてくれたのは緑茶。しかもすっごくおいしい。

 

「それで?例のものは持ってきてくれたのか?」

「例のもの?」

「神器だよ神器!マキ江から話を聞いてからもうウキウキしっぱなしでな!夜しか眠れんのだ!」

 

 それは普通なのでは?

 

「では、お見せします」

 

 そう言って立ち上がり、2人や家のものに当たらないような場所に移動してアフラトスクを呼び出す。

 

「おぉっ!?」

「ふぅん。これが神器…」

 

 反応は正反対だけど、2人とも神器に興味津々だ。

 

「では、今から社長たちを呼びます」

「おぅっ!やってくれ!」

 

 家主の許可をもらい、虚空に次元の裂け目を作る。

 

「社長!着きましたよ」

「待ってたよ」

 

 わたしが呼びかけると、裂け目を抜けて社長とよう華ちゃん、ミミ、はる巳が続々と入ってきた。

 

「はぇーー。こりゃたまげた」

「一気に大所帯だね」

「あなたがロク郎さ…てぇっ!え、エルフぅーーっっ!?」

「本当に耳が長いのですね」

 

 よう華ちゃんとはる巳がカヤさんに興味を示す中、社長はロク郎さんと相対していた。

 

「久しぶりだねムツロク」

「くたばる前にまた会えるとは思わなかった。懐かしい呼び方しやがって…」

 

 言葉は少ないけど、当人しか知らない時間の積み重ねがあるんだろう。

 

 しばらく向き合った後、ロク郎さんがわたしに向き直った。

 

「とも子ちゃん!」

「はっ、はいっ!」

「単刀直入に聞く!その神器、【異世界の扉を開けられるのか】!?」

 

 普通なら何を意味のわからないことを…と思うところだろう。

 

 異世界なんて漫画やゲームの中の話。いくらダンジョンなんて荒唐無稽なものがあるとはいえ、こことは違う世界なんてものは空想やおとぎ話でしかない。

 

 けど、わたしにとっては違う。だって、神器を手にしたあの日から…【異世界が存在するって理解させられたから】。

 

「…はいっ」

「そうか。そうか…」

 

 てっきり興奮すると思ったけど、ロク郎さんの反応はとても静かなものだった。

 

「えっ?異世界?どういうこと?」

「姉さんは何か知ってるの?」

「ごめんね。ちょっと待ってて」

 

 二人の疑問に答えてあげたいけど、話せば長くなりすぎる。

 

 それに答えるためにもまずはロク郎さんへの疑問を解消した方がいいだろう。

 

「二つ聞かせてください」

「なんだ?」

「異世界が存在するってどうやって知ったんですか?その扉を開けてどうするつもりですか?」

「…」

 

 わずかな沈黙の後、ロク郎さんがゆっくりと口を開く。

 

「異世界を知ったのはそこから来た人物に出会ったから。扉を開きたいのはその人を元の世界に戻してやりたいからだ」

「…?どういうことだい?」

 

 答える代わりにカヤさんの方を向き、多分わたしと当事者たち以外が度肝を抜くようなことをさらりと言ってのけた。

 

「カヤは…この世界の人間じゃない」

 

 

「「はっ…はあああああああああっっっっ!!!!???」」

「い、異世界…人?」

 

 予想通り、社長とよう華ちゃんの絶叫が陸奥異世界研究所に響き渡った。

 

 普段あんまり表情を変えないはる巳も今回ばかりは目を点にして放心している。

 

 でもそこは年の功。一足先に立ち直った社長が悪い夢から覚めたかのように頭を振る。

 

「神器に魔物の子供、お次は異世界ときた。老後くらい静かに送らせてほしいもんだ」

「縁側で茶を啜る余生なんて似合わねぇよ」

「お黙り!…で?いつ頃会ったんだい?」

「ほんの少し前。上田ダンジョンでね」

「20年前だ!」

「なるほど…。本物のエルフってわけかい」

 

 どう見ても20代前半くらいにしか見えない女性と20年くらい前に会ったというのに誰一人として驚かない。

 

 エルフがどんな種族かみんな知ってるからだ。

 

「はへー。本当にエルフなのね」

「時間のスケールが違いすぎます…」

 

 漫画やアニメに出てくるエルフと言えば森とかに住んでる人間によく似た姿の長命種。

 

 先の尖った長い耳と、何千年という時間を若い姿のまま生きられる寿命が特徴だ。

 

 もちろん、この世界にエルフはいない。あくまで創作のキャラだということはみんな知っている。

 

 そんなエルフが目の前にいる。普通に考えれば嘘かいたずらなんだけど、わたしたちを呼びつけてわざわざ騙すメリットなんてない。

 

 何より、わたしは異世界の存在を知っている。

 

 それが二人が本当のことを言っている動かぬ証拠だ。

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