ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「カヤさんがいた世界ってどんな世界なんですか?」
「こことは全然違う世界だよ。文明レベルはこの国でいうところの江戸時代?くらいかな?魔物によく似た妖怪という生き物や鬼がそこらを歩き回ってたよ」
「物騒すぎません?」
この世界で例えるならダンジョンの魔物が町中をウロウロしてるようなものだ。
怖すぎておちおち外出もできないよ。
「向こうでのボクらは
「カヤちゃんってお姫様なの!?」
「まぁ、そうなるね」
よう華ちゃんの感嘆の声が漏れる。
「お姫様が20年もいなかったらみんな心配するわよね」
「そのくらいじゃ誰も気にしないよ。ちょっと散歩に出てるくらいのものさ」
人間だったら生存が絶望的なくらいの失踪案件ですよ?
「俺としては俺がくたばる前に元の世界に戻すかその手がかりを得たいと思ってる。異世界のエルフなんてバレたらまずいことになるからな」
「その気持ち、よぅくわかるよ…」
社長が遠い目で彼方を見る。多分アフラトスクとミミのことを考えてるんだろう。
「見つけて拾っちまった以上、責任は取らなきゃいけねぇ。異世界の研究が楽しいからってのもあるがな」
ロク郎さんは豪快に笑って膝をたたく。
それも束の間。
すぐに真剣な表情になってわたしに深々と頭を下げてきた。
「頼む!カヤを元の世界に帰してやってくれ!」
「わかりました…」
快諾した瞬間、ロク郎さんが勢いよく頭を上げる。そしてわたしの右手を力強く握ってきた。
「本当か!?ありがとう!ありがとう…!!」
わたしの手を取ったまま涙を流し始めたロク郎さん。きっとこれまでにたくさんの苦労があったんだろう。
「…!!」
だからはる巳ー。殺気飛ばすのやめてー。
「ここはどうだ?」
「はいっ。ここならいけます」
ロク郎さんが運転する車に乗ってやって来たのは人気のない竹林。
ここなら人目につかなさそうだし思いっきりやれるだろう。
車を降り、なるべく竹林の奥深くを目指す。
『ミューッ!ミミィッ!!』
「ふふっ。とっても楽しそうね」
目的地に向かう道中、ミミはとても楽しそうにはしゃいでいた。
今日までずっと事務所で暮らしていたから外の世界が新鮮なんだろう。
今はまだ無理だけど、ミミが世間に受け入れられるようになったらミミとも一緒にお出かけしたいな。
「さっきから気になっとったんだが、そいつ魔物だよな?なんで外にいるんだ?」
「話せば長くなるんですけど、何故か外に出られたんです」
「そうか…。よくわからんが、不思議なこともあるもんだな」
「ダンジョン以外で魔物を見るのは初めてだ。こっちにも妖怪みたいなのがいるのかな?」
こっちはそんな恐ろしいものがいない世界であって欲しい。
「この辺りにしましょう」
ある程度奥に入ったところで足を止め、アフラトスクを呼び出す。
「今からアフラトスクの真の力をお見せします。何が起きても絶対誰にも言わないでください」
「おうっ!もちろんだ!」
「約束するよ」
社長たちに視線を向けると、三人もほぼ同時に頷いた。
「では、始めます」
アフラトスクを【鞘】から抜き、門と鍵に分ける。
そして鞘を手に持ち、念じる。
『開け』と。
「えぇっ!?」
「鞘が、割れた…!?」
鞘が横半分に割れ、よう華ちゃんとはる巳が驚きの声を漏らす。
驚く二人の前で割れた鞘は底面同士でくっつくような形で展開し、一本の長い棒のような形になった。
「カヤさん。これに手を触れてください」
「わかった」
カヤさんが展開した鞘に近づき、刃のない部分に触れる。
それを見届けたわたしは引き抜いた細い剣、鍵で長い棒のようになった門の中心を軽く叩いた。
「もう離していいですよ。みんなも離れててください」
門から手を離したカヤさんがみんなと一緒に距離を取る。
わたしも門から鍵を離して距離を取った…その時だ!
「回った!?」
『ミィッ!?』
門が横方向に回転を始めた。
最初はゆっくりだった回転は次第に速度を上げ、一分と経たないうちに刃が見えないほどの速度に到達した。
高速回転を続ける刃から青白い閃光が迸り、円の中心に小さな円形の光が現れる。閃光の勢いが増すごとに円形の光が大きくなり…ついには青白い円形の【入り口】に変化した。
「これが漂界剣アフラトスクの本当の力。…漂界の門です」
「ひょーかいのもん?」
「簡単に言うと、門に触った人が住んでいる世界やわたしがイメージした世界とこの世界を繋げる門です。ここを通ればカヤさんが住んでいた世界に行けるはずです」
「姉さんすごい…」
「これが…これが異世界の…!俺が、追い求めた…!!」
ロク郎さんがフラフラした足取りで門に吸い寄せられる。何十年も追い求めたものが目の前にあるんだからそうなるのも無理はない。
けど、今はちょっと遠慮してもらいたい。
「はる巳!」
それだけで意図を察したはる巳がロク郎さんを取り押さえる。
「何をする!?離せ!!」
ロク郎さんが暴れるもはる巳の拘束はびくともしない。
老人とはいえ、昔は社長の仲間だった探索者。そんな人を完全に押さえ込めるなんてどんな腕力してるの?
「危険なので下がっててください。…行きましょう。カヤさん」
「あぁっ」
カヤさんと一緒に門の前に立つ。青白い光の向こう側から生暖かい風が吹いてくる。
この世界のそれと全く違う匂いを伴って。
念のため手を繋ぎ、門を潜るべく踏み出したその足は…近づいてくる強烈な血の匂いに阻まれることになる。
「みんな下がって!!」
「向こうに行っててください」
「あいたぁっ!?」
わたしは細身の剣を構え、同じく異変に気づいたはる巳もロク郎さんを投げ捨てて門に警戒を向ける。
「社長!よう華ちゃんを頼みます!」
「社員が指図するんじゃないよ!」
そう言いながらもきっちり守ってくれる社長が好きだ。
わたしたちが臨戦態勢に入っている間にも、猛烈な血と腐った肉の匂いはどんどん近づいていた。
「うぅっ…!」
あまりの悪臭にたまらず口元を覆う。匂いと共に地鳴りのような音もどんどん近づき…ついにそれが姿を現した。
『あぁっ?なんだここ?』
3メートルはあろうかという巨躯を誇る血のように真っ赤な肌の巨人が。
その額には先端が二股に割れたカブトムシのような雄々しい角が生えている。
「カヤさん。あれは…?」
「間違いない。【鬼】だ」
カヤさんの世界にしかいないはずの脅威、鬼と呼ばれた怪物はわたしたちを見下ろし、とても愉快そうに口元を歪めた。
『人間の雌が三匹に耳長が一匹…。今夜は宴だなぁ』