ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「それじゃ、いくつか確認させてもらうよ」
門の検証を終え、アフラトスクで事務所に帰ってきたわたしたち。少し休憩した後、一緒に帰ってきたカヤさんの面接が始まった。
「名前は?」
「夷流布カヤ。名乗っただろう?」
「一応聞いてるんだよ。年齢はまぁいいとして…探索者免許は持ってるのかい?」
「あぁっ。ほとんど使ってないけどね」
そう言って服のポケットからパスケースを取り出すカヤさん。そこにはわたしと同じEランクの探索者免許が入っていた。
「他に資格や特技は?」
「迷宮薬剤師もあるよ」
「すごっ!?難関の国家資格じゃない!」
よう華ちゃんが驚くのも無理はない。
迷宮薬剤師は「ダンジョンで取れる素材などを調合して薬を作る」資格。自分で飲むポーションくらいなら無資格でも作れるけど、処方箋が必要な薬を調合するにはこの資格がいる。
ダンジョンで取れる素材と薬への深い知識と理解がないと取れない資格だ。
「それと、魔法が使える」
「「「…はいっ?」」」
わたし、よう華ちゃん、はる巳の心が一つになった。今、魔法って言った?
「見せてみな」
「うん。…フレアパウダー」
人差し指を立てたカヤさんが呪文を詠唱する。すると、指の先から小さな火の粉が吹き上がった。
「ウィンドクリーナー」
今度は風の魔法。掌から発生した小さな竜巻を事務所の床に放り投げると、竜巻はゆっくりと床を這うように進んで小さなゴミや埃を集めていく。
「フリーズバレット」
ある程度ゴミを集めた竜巻に人差し指を向け、その先からツララのような形の氷の弾丸を発射。弾丸は竜巻に当たると爆風の代わりに冷気を撒き散らし、竜巻をカチカチの氷へと変えてしまった。
「ここではできないけど、出力を上げれば戦闘でも使えるよ」
ソファーから立ち上がり、凍った竜巻を拾ってゴミ箱に捨てる。
「どうかな?」
「…」
誰一人として返す言葉が見つからなかった。だって…
「す…すごすぎるわカヤちゃん!!!」
だってすごすぎるんだもん。
「そうなのかい?」
「えぇっ!魔法が使えても大体の人は1属性だけ。大賢者でも3属性くらいが限界なの。カヤちゃんはどれだけ使えるの?」
「この場で使えるのは火、水、風、氷、雷かな?土とか鉄とかあったらそれも使えるよ」
「魔導ギルドが知ったら卒倒しますね…」
「そのこと、知ってる奴は?」
「君たち以外だとロクロウだけだね」
1属性使えるだけでも多くのギルドが欲しがるのに、まさかまさかのほぼ全属性。
そのことが世間に知れただけでもまずいのに、異世界から来たエルフってことまでバレた日にはどうなるか…。
考えただけでも恐ろしい。
「ムツロクめ…。とんでもないのを飼ってたね」
「カヤさんが入って下されば百人力ですが、その耳は目立ってしまいますね。隠す魔法などはないのですか?」
「あるよ」
はる巳に視線を向け、自分の両耳を人差し指で触るカヤさん。次の瞬間、長かった耳が一気に短くなり、丸くて小さい人間の耳になった。
「この耳はなにかと目立つからね。隠蔽の魔法さ」
「その耳を見せないなんてもったいないわ!つけ耳ってことにしてエルフ系魔法使いでデビューしましょう!」
「系、じゃなくて本物のエルフなんだよねぇ…」
異世界人でエルフで…。しかも迷宮薬剤師の資格を持った魔法使いときた。これだけの経歴があったら履歴書だけでどこでも即採用だと思う。
もちろんうちも例外じゃなかったようで…。
「採用だ!これからよろしく頼む」
「うん。こちらこそ…」
カヤさんの即採用が決まり、社長がカヤさんと握手する。
こうしてまた一人、リンクトーカーに新たな社員が加わった。
その夜。
わたしははる巳に髪を梳かしてもらいながらあることを考えていた。
あの後、はる巳のおねだりに陥落したわたしは前まで住んでた家を引き払い、はる巳と一緒に暮らすことになった。
姉というものは妹のおねだりに弱いのだ。
最初は今までと全く違う生活に戸惑ってばかりだったけど、数日もすればすっかり慣れた。
住めば都というのは本当だったらしい。
「…考え事?」
はる巳が髪を梳かしながら聞いてくる。顔を見てないのにわかるなんて…。我が妹ながら恐ろしい。
「わかる?」
「まぁね。それで?何か悩みでもあるの?」
「うん。異世界の門のことでちょっとね…。はる巳は明日お休みだっけ?」
「うん。配信もないしね」
大学生のよう華ちゃんと違ってわたしたちやカヤさんは配信がなければ特にやることはない。
社長も配信以外で稼げるやり方をいろいろ模索してるらしい。これからはもっともっと忙しくなるかも…。
その前にいろいろと片付けておかなきゃね。
「もしよかったらなんだけど、明日付き合ってくれない?」
「えっ!?それってデー…」
「みんなも一緒にね」
「そう…」
声だけでもわかるくらい気分が沈んでいる。それはまた今度行こうね。
迎えた翌日。
わたしはみんなを事務所に集め、アフラトスクで昨日行った竹林に向かった。
「本日はお集まりいただきありがとうございます…」
「それで?話ってなんなんだい?」
社長がちょっと眠そうに問う。人目につかないよう朝早くにしたけど、この時間に集まってくれたみんなには感謝しかない。
「長い話になりそうなので結論から言います」
気づきとしてはアフラトスクを手に入れた時からあった。
わたしの出自とアフラトスクが示した異世界の存在、そして異世界人のカヤさんという実例。
本来ならそれほど関係ない点同士が頭の中で1本の線になり、普通なら考えるのもバカバカしいある結論が浮かんだ。
「わたしは、この世界の人間じゃないかもしれません」