ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「は、はいぃっ?」
「トモコもボクと同じように異世界から来たってことでいいのかな?」
「もしかしたらの話です。今からそれを確かめるんですが…その前に一つ」
ここから話すのはわたしの出自。あまり気持ちのいい話じゃない。
少し間を置き、話す。
「わたしは…
「なっ!?」
「えぇっ!!」
知ってるはる巳は表情を変えなかったけど、社長とよう華ちゃんは驚いたような声を上げた。
「なんだいそれ?」
「簡単に言うと、育てきれなくなってダンジョンに捨てられた子供のことです。今でも社会問題になってます」
「そんなところに捨てたら魔物の餌だ。ひどいことをする…」
「わたしは赤ん坊の頃にダンジョンで保護されて、院長先生に預けられたんです。だから、わたしもずっと自分がダンジョンベビーだと思ってました。けど…」
「ボクのようにダンジョンを介して世界を渡ってきたかもしれない」
わたしは軽く頷いた。
「それを証明する方法があります」
アフラトスクを振るい、次元に裂け目を作る。
わたしが生まれた場所に行きたいと念じながら。
「もしわたしがこの世界で生まれていたなら、この裂け目はわたしが生まれた場所に繋がります。けど、この世界の人間じゃなかったら…どこにも繋がりません」
通り慣れた裂け目を前に、わたしは生唾を飲む。
最悪の場合、わたしがこれまで信じてきた自分という存在が根底から覆されることになる。
その事実は二の足を踏ませるのに十分すぎたようだ。
「とも子ちゃん…」
消え入りそうな声に振り返ると、よう華ちゃんが今にも泣きそうな視線を向けていた。
「どこにも行ったり…しないわよね?」
「大丈夫。どこに行っても絶対帰るから」
みんなと過ごした時間は短いけど、リンクトーカーはもう一つの帰る家になってるんだから。
意を決し、裂け目へと踏み出す。
数歩足を進めて出てきた場所にあったのは…元の竹林と見守るみんなの姿だった。
「そっか…。わたしは、
わたしのお父さんとお母さんはこの世界にはいない。
両親も、故郷も、どこだかわからない異世界の彼方にいる。
この世界に、わたしという存在を担保するものは何一つとしてない。
自分で自分を全否定したにも関わらず、わたしの胸に去来するものは何もなかった。
「付き合ってくれてありがとうございます。帰りましょう」
「とも子ちゃん…」
「姉さん…」
二人が潤んだ目で見つめてくる。無理してるって思われてるのかな?
「大丈夫。なんともないよ」
努めて明るく言っても二人の表情は晴れない。
そんな中、社長がため息混じりにこんな提案をしてきた。
「折角集まったんだ。飯でも食いに行こうじゃないか」
アフラトスクで東京に戻り、社長の案内でやって来たのは事務所の近くにある大衆食堂。
「アタシの奢りだ。遠慮はいらないよ」
「そんなこと言ったら本当に遠慮しないわよこの人たち」
経験者は語る。
朝食の時間を過ぎているだけあって人は少なく、五人という大所帯でもテーブルに座ることができた。
みんなが思い思いのメニューを注文し、素朴で親しみやすい料理を堪能していると、社長がポツリとこぼした。
「また秘密が増えちまったね」
「異世界のエルフに異世界人…。バレたらどうなっちゃうのかしら?」
「解剖とかされちゃうのかな?」
「そんなこと、絶対させない…!!」
楽しいはずの食事が剣呑な雰囲気に…。
「わたしたちは、秘密を抱えすぎてるのかもしれませんね」
「うん?どういうことだい?」
焼きアジの骨を取るのに苦戦中のカヤさんが顔を上げる。
「やっぱり、話せる人がいた方がいいと思うんです」
「例えば?」
「えーっと、政府の人…とか?」
「それならアタシに伝手がある」
社長のトンデモ発言に全員の視線が社長に向く。
「それ本当!?」
「ただ、コンタクトを取るのが難しい。他の奴に聞かれちゃどうなるかわかったもんじゃないからね…」
「その伝手というのは?」
「昔馴染みさ。まぁ、やるだけやってみるよ」
会話が一段落ついたちょうどその時、わたしたちがいるテーブルに三人の若い男性が近づいてきた。
「あのっ!リンクトーカーの皆さんですよね!?」
「えぇ。そうですが」
仕事モードで応対した社長に三人は嬉しそうに顔を見合わせた。
「俺たち、ファンなんです!この間の泰征の親善試合見ました!」
「とも子ちゃんによう華ちゃん、はる巳ちゃんまで…!ほ、本物だぁっ」
「そちらの方は!?」
「ボクはつい最近入った新人だ。よろしくね」
「はいっ!…って、耳長っ!?」
「その耳すっごいリアルですね!」
「よく言われる」
席を立ち、手を差し出したカヤさんと熱い握手を交わす男性たち。
カヤさんにとってはいつものことなんだろうけど、こういうのってファンサ?っていうのかな?
「あのっ!サイン下さい!」
握手を終えた三人が一斉にシャツの裾を差し出してきた。
「いいわよね?おばあちゃん」
「あぁ」
社長が貸してくれたマジックで各々サインを描いていく。
泰征の時はなかったけど、今はサインを練習している。
よう華ちゃんと比べたら普通の文字なんだけどね。
「ありがとうございます!」
「一生大切にします!!」
「次の配信待ってます!!!」
三人は一斉に頭を下げ、席から離れていった。
「すっかり有名人ね」
「えぇ。日頃の成果が残せているようでなによりです」
「あんなに期待されてるんだ。ボクも頑張らないとね」
ファンの存在に俄然やる気を出す三人。その一方で、わたしには違う想いが芽生えていた。
「そっか…。そういうことだったんだ…」
「とも子ちゃん?」
「異世界の人間だってわかっても何も思わなかったのは、わたしをわたしだと思っててくれる人がいるからなんだろうなって思ったの」
「姉さん。それどういうこと?」
「なんて言えばいいのかな…。リンクトーカーのみんなも、さっきのファンの人たちも…院長先生たちだってわたしを辻 吹とも子だって思ってくれてる。だから、異世界人でも平気だったっていうか…」
あれこれ考えながら喋ってるけど我ながら全然意味がわからない。
もっと頭が良かったらさっと言えるのかな?
「ごめんね。うまくいえなくて…」
「ニュアンスは伝わったよ。自分が誰かを決めるのは自分だけじゃないってことさね」
「流石年の功!深いわぁ…」
「一言余計だよ!」
社長のツッコミに全員の笑いが店に木霊する。
この世界のわたしが誰でもない逸れものだったとしても、わたしを知ってて必要としてくれる人がこんなにたくさんいる。
わたしが誰だったとしても、それが一番大切なことなのかもしれない。
本作は女の子同士の愛と絆を描きつつ、ダンジョン配信を通してダンジョンという不思議な世界を描くお話です
百合が好き!ダンジョン配信ものが好き!という方には特におすすめです
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