ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「うん。何回見てもツッコミどころしかないね」
監査官オフィスにて、先日配信されたリンクトーカーのアーカイブを見直す俺と瀬尾くん。
既に何度も視聴した配信のアーカイブには配信業に疎い俺でもよく分かる異常がこれでもかと映し出されていた。
「配信ってさ、弱いけど承認欲求満たしたい探索者が自分を売り込むためにやるもんでしょ?変な企画やったり、雑魚を劇的に倒したり…」
「言葉に悪意がありますが、概ねその通りです」
「これ、そう見える?」
「大手ギルドの精鋭パーティーに匹敵…いえ、凌いでますね」
軽く調べてもドラゴンを倒した配信なんて数えるほどしかなく、それも大手ギルドの宣伝配信のみ。
ほとんどがEランクの無名パーティーにそれができるなんて誰が思うだろうか。
「他にも不明瞭な点がいくつかある」
巻き戻しをかけ、解体した素材を持ち帰るシーンを見直す。
「このシーンがどうかしましたか?」
「現場で発見された素材の残骸と数が合わない」
「と、言いますと?」
「彼女らは使えない内臓や持ちきれない素材はそのまま置いていった。だが、調査団の報告によると彼らが発見したフレアドラゴンの残骸と彼女らが持ち帰った素材の数が合わないんだ」
「ダンジョン専門の輸送業者や他の探索者に運搬を依頼したのでは?」
「あの日、町田ダンジョンから出てきた探索者の中に輸送業者はいなかった。おこぼれに預かった探索者や回収屋に依頼した可能性は否定できないけどね」
否定できないというのは肯定するという意味ではない。
他の探索者に依頼して取り切れない分を運んでもらったなら、おしゃべりなやつがそれを漏らすはずだ。
だが、リンクトーカー関連のSNS等を漁ってもそういった投稿は見られなかった。
「あの神器の力ですか?」
「かもしれない。けど、あの戦いではそれを持ってなかった。もしかしたら、ここで使ってたのかもしれないけどね」
動画を巻き戻し、有瀬よう華をアップにしているシーンに戻す。
「神器を手元に呼び寄せられるのは神器共通の能力らしいからね。もしかしたら、ここで神器を使って素材を回収したのかもしれない」
「遠方への移動に物の収容。それらが一つの神器による能力だとしたら…どのような手を使ってでも【封印】するべきです」
瀬尾くんの顔つきが険しくなり、殺気が溢れ出す。
言わんとしてることとその気持ちはわかる。
だが、それは俺たちの仕事じゃない。何より、そんなことは
「やめておけ…」
「っっ!!しかしっ…!」
「
「対処を誤れば多くの犠牲が…!!」
「その正しい対処とやらは何人殺す?」
瀬尾くんが顔を伏せて黙り込む。優秀ではあるんだが、正義感が強くて先走りがちなのはいただけない。
「君が言ってることは国の安定のために国民を虐殺する独裁者と同じだ。例え彼女のせいで国が滅ぶことになったとしても、この国はそんなやり方を許さないんだよ」
「ではどうすれば…」
「それを考えていくのも俺たちの仕事だ。できれば仲良くしていきたいんだけどねぇ」
瀬尾くんにはあぁ言ったものの、彼の考えはそこまで間違ってはいないと思っている。
彼の考えを実行するのは彼女が力に溺れた邪悪な人間だと判断した時の最終手段。
そうでないなら融和、協力の路線を取っていきたい。
「もう一つ分からないのが彼女だ」
配信を一時停止し、銀髪の女性をズームする。
「夷流布カヤ。見た目はどう見ても20代そこらだが、彼女が探索者免許を取得したのが15年前。迷宮薬剤師に至っては10年前だ」
「どう見ても年齢が合いませんね」
「どちらも取得時の年齢は22ってことになってる。仕事が杜撰すぎやしないか?」
「有用で善良な人材であれば多少の不正に目を瞑る。よくある話じゃありませんか」
辻吹とも子の詐称に目くじらを立てない理由もここにある。
ダンジョンを探索し、資源を回収する優秀な探索者の数をあまり減らしたくないからだ。
もちろん、通報されたり本人が自首した場合は相応の罰則を課すだろう。
「つけ耳を装備したエルフ系魔法使い探索者ってことになってるけどさ…。彼女、マジのエルフなんじゃない?」
「…ご冗談を。エルフなんてこの世にいませんよ」
「だよねぇ。…だったら辻褄が合うのになぁ」
瀬尾くんの言う通り、そんなものは漫画やゲームの中だけの存在だ。
だとすれば詐称や替え玉、あるいは似たような容姿の人間が代替わりして名前を襲名している?
「どちらにしろ、オフィスであーだこーだ言うのも限界だ」
「本当にやるんですか?権限の範疇を超えた違法行為ですよ」
「早く能力割り出せってせっつかれてるのよ。正体不明の神器なんて脅威でしかないからね」
だが、それがわかれば大きな力になる可能性もある。
「こればっかりは抜き打ち監査でも分からないからねぇ」
「神器の力は保有者のみが使えるものですからね。隠しだてされてはどうしようもありません」
「そゆこと。だからこそ、この目で見なきゃならんのさ…」
「ここも美味しかったね。次はどこに行くんだい?」
「次は五嗹に行ってみましょう!鶏白湯ベースの醤油ラーメンが絶品なんですって!」
「竜骨を使うのであればとんこつや鶏白湯のような骨がベースのラーメンが無難ですね」
「うーん。美味しかったぁ…!ドラゴンステーキの厚切りチャーシューなんてのもいいかもね」
3軒目のラーメン屋を出て、よう華ちゃんの案内で次なる店を目指す。
よう華ちゃんが宣言したドラゴンの素材を使ったラーメン作り。
あれはノリと勢いで言ったもので実際はノープランだったらしい。
そこで急遽ラーメンの作り方を調べつつ、ラーメン屋を巡ってこれという方向性の味を見つけることとなった。
「食べてて思ったんだけど、お年寄りや小さな子供も食べられるあっさり系がいいんじゃないかしら?」
「そうですね。一郎のようなこってりとしたラーメンは万人受けするとは言い難いですからね」
「流石よう華ちゃん。食べる人のこともちゃんと考えなきゃだよね」
「東洋には食をもって人の健康を保つという思想がある。材料次第では美味しいだけじゃなく、食べた人が元気になれるものを作れるかもしれないね」
突発的なアイデアでしかなかったものがみんなの案を受けてどんどん具体的なものになっていく。
ラーメンの話で盛り上がっていたせいで注意力が散漫になっていたのか…
「おぅっ!?」
「うわっ!」
横道から急に飛び出してきた人に対応しきれずぶつかってしまった。
わたしは大したことなかったけど、相手はぶつかった衝撃で尻もちをついたようで痛そうに腰をさすっている。
「あたたっ…」
ぶつかったのはメガネをかけた中年の男性。まるで気配を感じないくらい話に熱中してしまっていたようだ。
「ご、ごめんなさい!大丈夫ですか!?」
慌てて駆け寄り、手を差し伸べる。
「いてぇ…。こっちこそごめんねぇ」
男性がわたしの手を取って立ち上がる。…はる巳ー、殺気やめてー。
「んっ?…んんっ?」
わたしの顔を見た男性がメガネ越しにわたしをまじまじと見つめ、パッと笑顔を咲かせた。
「おぉっ…おおおっっ!!もしかして、リンクトーカーの皆さんですか!?」
「えっと、そうですけど…」
「いやぁ、こんなところで会えるなんて夢みたいだ!!うちの娘が皆さんのファンで、私もよく配信見てるんですよ!」
「本当ですか!ありがとうございます!」
わたしたちのファンという言葉にはる巳の殺気も引っ込み、みんなも嬉しそうな視線を男性に向ける。
「申し遅れました。私、こういう者です…」
男性が名刺を手渡してきた。
「株式会社羽賀コーポレーション係長 三ツ谷げん也?」
「唐突で申し訳ないのですが…御社の代表の方に取り次いでいただけないでしょうか?会社ではなく、私個人として案件?を依頼したいと思っておりまして…」