ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「中高年の兼業探索者デビューハウツー動画?」
事務所に招いたげん也さんから聞かされたのは思いも寄らない案件だった。
「はいっ。ほらっ、最近物価高とか不景気とかで給料だけじゃやっていけない人増えてるじゃないですか?そういう人が一念発起して探索者免許を取るケースも増えてるんですけど、大抵の人はどうやれば稼げるか分からず二の足を踏んでるんですよ。…私みたいに」
げん也さんは恥ずかしそうに頭を掻きながら社長にパスケースを見せる。
そこにはEランクの探索者免許が。
「…すみません。窓、開けていただいてもよろしいでしょうか?緊張して暑くなってきました」
「少々お待ち下さい」
社長が窓を少し開け、席に戻ったところで話を続ける。
「私も給料だけでは娘の学費やら老後の貯金までは手が回らず、探索者になることを決めました。ですが、お恥ずかしながら…宝の持ち腐れになってるんです」
「それで、中高年からのダンジョンデビューを後押しする案件を依頼したいと?」
「はいっ。皆さんの実力はよく知ってますから、何があっても守ってくれそうで心強いですし…」
中高年からダンジョンデビューする層が増えているという話は最近ニュースで見た。
理由はげん也さんが話したのと大体同じ。
でも、その多くが体力や精神の問題で挫折したり稼ぎ方がわからず二の足を踏んだり…最悪の場合無理して帰ってこなくなるんだとか。
「もちろん依頼料はお支払いします!出演料もいただきません!稼げる男になって家族にいいところを見せたい!っていうのが一番の目的ですから」
家族の話をするげん也さんはどこにでもいる優しそうなお父さんで、どれだけ家族を大事にしているかが話を聞いてるだけのわたしにも伝わってくる。
わたしのお父さんもこんな人、だったのかな?
「あたたっ…!緊張したらお腹が…。トイレ、お借りしてもよろしいですか?」
「お手洗いならそこですよ」
「ありがとうございます…」
恥ずかしそうに頭を下げ、トイレに入るげん也さん。
それを見届けた社長はスマホを立ち上げ、メモアプリで筆談を始めた。
『どう思う?』
全員がスマホを立ち上げて会話に参加する。
『私は賛成よ。探索者が増えてダンジョンに活気が増すのはいいことだと思うわ』
『学びを深めるのに年は関係ないからね』
『カヤちゃんが言うと説得力がすごいわね』
『わたしも賛成です。魔物を倒したりするだけが配信じゃないと思うので…』
『あの方のダンジョンデビューのお手伝いには賛成ですが、それを安易に真似する人間が現れないかを懸念しています』
『そこは動画内で注意喚起すればいいと思う。よう華ちゃんのデビューの時みたいに』
聞かれないよう意思疎通を測った結果、全員が概ね賛成。
はる巳が言うように真似して危険な目に遭うかもしれない人が出てくる可能性を減らす対策について話し合っていると、突然トイレの方から大声が聞こえてきた。
「うわああああっ!!?」
「三ツ谷さん!?」
全員の視線がそっちに向き、社長がトイレの前に駆け寄る。
「どうかされましたか!?」
「ご、ご心配なく!!でっかいあれが出ただけですから!!こんのぉーーっっ!!」
げん也さんがトイレで格闘する音が聞こえてくる。
無事に始末してくれますように…
そう祈っているうちに音がやみ、水が流れる音の後にげん也さんが出てきた。
「ご安心を。きっちり始末しました…」
「それはお手数をおかけしました」
「いえいえっ。当然のことをしたまでです」
脅威が去ったことに全員で顔を見合わせ、胸を撫で下ろす。
開いた窓から吹いた気持ちいいそよ風に目をやると、窓の外に大空を飛ぶドローンの姿が見えた。
「三ツ谷さん」
「はいっ!」
「案件、引き受けさせていただきます」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
社長と固い握手を交わすげん也さん。こうして、たまたま出会った一般人からの案件という一風変わったお仕事がうちに舞い込んできた。
お仕事当日。
わたしとはる巳は集合時間の十分前に二子玉川駅近くの巨大モール前でげん也さんを待っていた。
本当はよう華ちゃんとカヤさんも来るはずだったけど、ここに二人の姿はない。
「すみませーん!!」
声に振り向くと、げん也さんが走ってきているのが見えた。
走ってるのにほとんど息切れがなく、足音もあまり聞こえない。
デビューに向けて鍛えたりしたのかな?
「遅くなって申し訳ありません!」
「いえっ、我々も今しがた来たばかりです」
「…?よう華さんとカヤさんは?」
「すみません。よう華ちゃんは体調を崩して寝込んでまして…。カヤさんはその看病に当たっています」
「そうでしたか…。それなら仕方ありません。お大事にと伝えて下さい」
「はいっ!」
よう華ちゃんは昨日から熱を出して寝込み、カヤさんもその看病で来れなくなった。
聖術を使えばすぐ治せるらしいけど、病気の治癒は魔力と体力を大きく消耗する。
仮に今日までに治せたとしても、そんな状態ではとてもダンジョンに行かせられないという社長の判断で普通に治すことになった。
迷宮薬剤師のカヤさんが一緒なら大丈夫だろう。
「しかし、何故待ち合わせがここなんです?二子玉ダンジョン前でも良かったのでは?」
「社長からの指示です。今回のテーマは中高年のイチからのダンジョンデビュー。なので…」
「装備をレンタルするところから始めるんです!」
彼女たちに連れられ、やってきたのは二子玉のモール内にある探索者用の装備のレンタルショップ。
いつもは支給品で潜ってるから、装備借りるのなんて初めてだな。
店内を見渡すとビギナーから玄人まで使えるオーソドックスな装備が目白押し。
その大半はダンジョンで取れる石や木、弱い魔物の皮で作られたものばかり。
ダンジョンの金属や魔物素材は高級品。一般人が通うような店に置いてるわけがない。
そう思いながら店内を物色していた俺はあるものを見つけた。それに近づこうとした矢先に、一人の男がこっちに駆け寄ってきた。
「いらっしゃいませ!」
多分店長と思われる30代くらいの男がわかりやすいくらい鼻の下を伸ばしながら二人に応対する。
俺なんて完全にいないもの扱いだ。
「有限会社リンクトーカーの者です。店長さん、ですか?」
「はいっ!いやぁっ、とも子ちゃんもはる巳ちゃんも間近で見るとおきれいですねぇ」
「っっ!!」
流石に露骨すぎたのか、はる巳さんがとも子さんを守るように一歩前に出て店長に殺気を放った。
俺がぶつかった時も殺気出してたっけ?バレたかと思ってビビったなぁ。
「社長から配信の許可は取れていると聞いているんですが、大丈夫ですか?」
「はい!是非お願いします!」
店長が許可すると、とも子さんは配信用ドローンを起動して配信を開始した。
「こ、こんちゃーっす?とも子でーす」