ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
"こんちゃー…ってとも子ちゃん!?"
"ちゃーす"
"とも子ちゃんバージョンは珍しい"
"ここどこだ?…レンタルショップ?"
"ラーメンどうなったの?"
二人が配信を始めた途端、視聴者とコメントがどんどん増えていく。とも子さんはドローンに視線を向けながら不慣れな感じで進行する。
「次回はドラゴンラーメン作ってみた!という配信にする予定でしたが、案件が入ったので別のテーマで配信していきたいと思います」
「題して、『中高年からの探索者デビューハウツー配信』。こちらの方が今回の依頼主様です」
はる巳さんがそう言うと、ドローンが俺の方に向く。
俺は努めて低姿勢に、不良が10人いれば9人くらいはカツアゲしてきそうな気弱なおっさんを演じて頭を下げた。
「えーっと、は、初めまして…。この度、案件を依頼した三ツ谷げん也と申します。」
"誰?"
"ねぇ誰!?誰なの!?"
"おっさんきた!"
"割といい体してんなおっさん"
"イケメンチャラ男なら絶許だった"
"社員以外の人がゲストで出ることってあんまないから新鮮"
「よう華さんは本日体調不良で静養中。カヤさんがその看病にあたっています」
「なので、本日はわたしとはる巳、こちらのげん也さんの3人でお送りしたいと思います」
可愛い女の子ばかりのチャンネルに俺みたいなのがいきなり出たら炎上するんじゃないかと思ったが、そんなことはないようだ。
うだつの上がらなさそうなおっさんだと舐められてるのかもしれんな。
「背負うものが増えてお金がかかるようになり、探索者になって稼ぎたいと考えるようになりました。ですが、仕事も家庭もある身では本格的な探索はできません。なので、今回は休日にアウトドア感覚でできる探索をテーマにお届けしたいと思います」
「この動画が探索者をやってみたいという中高年の方々の一助になるよう、私達も誠心誠意励んでいきたいと思います」
「というわけで、まずは装備のレンタルショップにやってきました」
そこでドローンが店名と店長を写し、店長がセールストークを語り始める。
その隙にさっき目についたもの、壁にかかったチェストアーマーに近づいてスマホを向ける。
「グラン鋼鉄製か。リッチだねぇ…」
グラン鋼鉄はダンジョン内で発見される鉱石を加工して作られた鋼鉄。
その希少性から、それで作られた武具は一つで家が買えるほどの値がつくこともある。
カメラを拡大し、腰の辺りにあるシリアルナンバーを撮影して瀬尾くんに送信。
後はあっちで照会してくれるはず。
「お客様!そちらは撮影禁止です!」
怒号に声を向けると、店長がこちらに向かってきていた。
「えぇっ!?そうだったんですか!?それは申し訳ない…」
「グラン鋼鉄の鎧…!?あれも貸し出しているのですか?」
「まさかっ。客寄せの鑑賞品ですよ」
「すっごく高い装備なんですよね?初めて見ました…」
"グラン鋼鉄となっ!?"
"見たいっ!"
"見たけりゃ店に来いってことか"
"俺も行ってみようかな?"
"カメラさんもうちょい上!"
"撮影禁止つってんだろ"
その後は二人と一緒に色んな武具を見て回り、俺は一番安くて実用的な木の防具一式とゴブリンの牙を打ち込んだ棍棒をレンタルした。
支給品と比べれば子供のおもちゃ。後は俺の技量次第か。
二人も革装備を中心に剣と大剣をレンタル。
着替えた後に落ち合うということで一旦配信を切り、それぞれ更衣室に向かう。
「あのぉっ、店長さん?」
「はいっ?」
露骨に嫌そうな顔で振り返る店長。
「これの着方がわからないんですが、手伝ってもらえませんかね?」
「それでしたら他のスタッフが…いえっ。お手伝い致します」
明らかに断る気満々だったところからの手のひら返し。
多分こいつはこう考えたんだろう。
ここで俺の好感度を稼いでおけばあの二人、ひいてはリンクトーカーのポイントを稼げると。
「こっちです」
更衣室は一つ一つの部屋が区切られて個室になっている。ここなら人目を気にせずやれそうだ。
「それで?どれを手…おわぁっっ!?」
カーテンを開けて中に入ってきた店長の腕を掴んで体ごと壁に叩きつけ、逃げられないよう押さえ込む。
「なっ、なにをする!?離せっ!!」
「あなたも随分と剛胆な御方だ」
「はっ?」
「木を隠すなら森の中。あんなに堂々と飾られてちゃ誰も不審に思わないでしょうなぁ」
押さえ込んだままスマホを取り出し、さっき撮影した鎧の写真を見せる。
「シリアルナンバーを照会しました。これ、
「なぁっっ!!!?」
「かるーく調査しましたが、まぁ出るわ出るわ。ここの商品、全部あなたが揃えたんですか?」
「そんなわけないだろっ!」
「じゃあ誰が?そのお友達、紹介してくれませんかねぇ?」
「断る!なんの権限があってそんな…」
そこでスマホをしまい、本当の身分を明かすべく手帳を開く。
「実は私、こういう者でして…」
「迷宮組合調査局監査課 一ツ橋あら汰…!!」
「と、いうわけで着替えてきましたー」
「普段の装備とは違うので新鮮な気分です」
"2人ともかわいいーー!!"
"超似合ってる!"
"防御に難はあるけど、レザー装備ってかわいくデコれていいよな"
"金属とかドラゴン装備じゃこうはいかん"
"姉妹コーデ最高!"
"とも×はるてぇてぇ(¥1,0000)"
"スパチャ早すぎんだろ"
レンタルした装備に着替えたわたしたちは店を出て配信を再開した。
わたし達が選んだのは革装備を中心に組んだ初心者向け装備。わたしたちだけ本気装備だったらげん也さんの探索者デビューが霞むからだ。
コメントでも指摘されてるように、はる巳の装備とデザインを合わせた姉妹コーデにした。
「レンタルだけでも立派な装備を整えられるんだねぇ」
「色んな装備があって迷っちゃったね。…でも、今回は本気出せないかも」
「なんで?」
「だって、本気で振ったら壊しちゃいそうだもん」
”こわっ!?”
”普段どんくらいの力で振ってんだよ”
”装備の強度気にする子初めて見た”
”はる巳ちゃんの怪力に耐えられる武器ってほとんどなさそうだよな”
”立派な大剣が途端に棒きれに見えてきた”
”大剣「いやだーー!しにたくなーーーい!!」”
”フレアドラゴン「お前も家族だ…」”
”ドラニキ成仏してクレメンス”
「すみませーーん!!」
木製の防具を身につけたげん也さんが店から出てきた。
「着方がわからず手間取っちゃって…」
「気にしないで下さい」
「あっ、どーもー。って、こんなおじさん見たって面白くないよね」
”そんなことねーぞおっさん!”
”結構似合ってんぞおっさん”
”中年リーマンとは思えないガタイだな”
”ウホッ!いい男!”
”本当に探索者経験ゼロなのか?”
”期待してんぞおっさん!”
”俺もやってみようかと思ってたんだ。やれるってことを見せてくれ!”
今までと毛色の違う仕事だからどうなるかと思ったけど、みんなもげん也さんを受け入れてくれてるようで良かった。
同じくらいの年齢のリスナーさんもたくさんいるのかな?
「では行きましょうか」
「うんっ」
「お手柔らかにお願いしますねぇ…」
準備が整い、わたしたちは二子玉ダンジョンへと向かうのだった。