ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「ほぉーーっ。綺麗なもんですねぇ」
「ダンジョンじゃないみたい…」
わたしたちがげん也さんのデビューに選んだ場所、二子玉ダンジョンは駅前の繁華街から遠く離れた山間部にある。
強い魔物が少なくて安全性が高いだけでなく、このダンジョンならではの環境が探索者と免許を持ってる観光客を引きつけている。
それが、わたしたちの目の前に延々と広がる晴れわたった草原だ。
”ダンジョンに太陽!?”
”なんで洞窟で太陽照ってるんだよ!?”
”すっごいいいロケーション。ピクニック行きてぇ”
”行楽シーズンにはダンジョンとは?って思うくらい人いっぱいになるんだよな”
”ここで昼寝したい…!”
「はる巳はここ来るの初めてなんだっけ?」
「うんっ。静かで気持ちいい…」
吹き抜ける風を肌で感じ、気持ち良さそうに目を細めるはる巳。肌にかかる心地いい風には土と草の匂いが混じり、ここが東京だということを忘れそうになる。
「洞窟の中なのに太陽があるなんて不思議ですよねぇ…」
「ダンジョンはわかってないことの方が多いですからねぇ」
げん也さんの足取りは軽く、とても楽しそうにダンジョンを見て回っている。
ここには強い魔物やレアな素材が少ないからか、殺気だった人はほとんどいない。わたしたち以外にも探索者がたくさんいたけど、そのほとんどは観光目的なのかレジャーシートを引いておしゃべりしている。
「それで?どうやって稼ぐんですか?やっぱりこう、魔物をズバーーッ!って倒すんですかね?」
「それはもちろん…採取です」
「採取?」
疑問符を浮かべるげん也さんの前で実演してみせる。鼻をひくつかせると、土と草とは違う別の香りが漂ってきた。
その香りを辿って草原を歩くこと数分。ようやく匂いのもとにたどり着いた。
「ありました。エノジダケです」
「えっと、なんですかそれ?」
「ダンジョンでしか採れない無毒のキノコです。それなりの値段で売れます」
草陰に生えていた真っ白なシメジのようなキノコを採取してカバンにしまう。前のドラゴン肉のように高級レストランでも使われてる食材だ。
「危険な魔物と戦うだけが探索じゃありません…。ダンジョンに落ちているものを拾うだけでもそれなりのお金になります」
”どんな鼻してんだよ”
”忠犬とも公”
”しれっと人間やめないで”
”忘れがちだけど、この子元回収屋なんだよな”
”忘れてたわ”
”経験者は語る”
「回収する祭、一人でやると魔物や悪い探索者に奇襲をかけられる危険性があります。なので、友達などの協力者と交代で見張りをしながらの回収をおすすめします」
「では三ツ谷さん。実践お願いします」
「はっ、はい」
わたしとはる巳が見張ってる間にげん也さんがキノコを探す。絵的にはちょっと地味かもしれないけど、それをどうにかできそうなものが近づいてきた。
「…どっちがやる?」
「私がやる」
はる巳が大剣を鞘から抜き、ほどほどの力で地面に叩きつけた。
「…おっ、おわぁっ!?なんだなんだ!?」
げん也さんが驚いて振り返る。採取に熱中していたのか、反応がちょっと遅かった。
わたしとはる巳が見下ろす先には大剣で頭を真っ二つにされた大蛇の姿が。
「えぇ…」
げん也さんが引き気味な声を漏らす。わたしははる巳が仕留めた獲物を持ち上げてドローンに掲げて見せた。
「グラスヴェノム。討伐ランクDの魔物です。草むらに潜んで音もなく獲物に近づく厄介な魔物で、この二子玉ダンジョンでは強い方に入ります。体が大きくて力も強いですが、毒はないので噛まれても大丈夫です」
”なにもだいじょばない件”
”うぉっ!でっっっ!!!”
”3mくらいありそう”
”なんでわかったかなんてもうつっこむまい”
”装備が初心者用でも地力が違い過ぎる…”
掲げていたグラスヴェノムを下ろし、解体を開始する。グラスヴェノムは何回か倒したことがあるから解体も慣れっこだ。
「独特な色合いの皮は服やアクセサリーにも使われていてそれなりに高く売れます。お肉もきっちり処理するとおいしいですよ」
「しかし、Dランクとはいえ探索初心者には強敵です。見つけた場合は倒そうと考えず逃げて下さい」
「普通考えないでしょ。こんなおっかないの…」
”はいっ!絶対逃げます!”
”例えライフルがこいつに効くとして、それ持ってても逃げるわ”
”探索者ってスライムすら倒せない奴の方が多数派だもんな”
”この状況であんま動じてないなこのおっさん”
”でも反応が鈍いのが心配。さっきもすぐに反応できてなかったし”
”とも子ちゃんたちがいなかったらと思うとぞっとするな…”
グラスヴェノムの革を剥ぎ終え、血を洗おうと向こうに見える湖に行こうとしたところであることを思いつく。
アウトドア風なら、こういうのもありじゃないかな?
「はる巳」
「どうしたの?」
はる巳を手招きし、思いついた妙案を耳打ちする。
「いいと思う。私もやってみたい」
「じゃあそうしよっか?…げん也さーん!」
声を聞いたげん也さんが顔を上げる。その手にはエノジダケが数本握られていた。
「大収穫じゃないですか。すごいですっ」
「いやぁ、運がよかっただけですよ。それで?何かご用ですか?」
「そろそろお腹空きませんか?」
「…えぇ。お恥ずかしながら」
お腹を押さえ、照れ臭そうに頬を掻く。そんなげん也さんに今担いでるグラスヴェノムの身を指差して次の企画を宣言した。
「じゃあ、これ…食べませんか?」
「――――はいっ?」
「ではこれより、グラスヴェノムの塩焼きを作っていきたいと思いまーす」
「いえーーっ」
「えぇっ。本当にやるんですかぁ…」
”いえーーーーっっ!!”
”はる巳ちゃんの塩絶叫、沁みるぅーーっ!!”
”えっ?これ食うの?”
”ヘビの丸焼きは某軍人も食ってたから一度は食ってみたいと思ってた”
”こいつ一匹で何人前食えるんだろ?”
”無毒とはいえ食って平気なのかな?”
「アウトドアといえばご飯の現地調達。こういうのもダンジョンの醍醐味なんですよ」
「それはそうですが…。本当に食えるんですか?これ」
「食費を浮かすために何回か食べたので大丈夫です。小分けにしたらしばらくお肉に困らなくなるんですよ」
「えぇ…。はる巳さんはいいんですか?」
「問題ありません。素晴らしいご馳走です」
”姉の子は妹”
”こいつも同類だった”
”ダンジョンサバイバー姉妹”
”はる巳ちゃん、お嬢様だと思ってたけどスライム飲める側の人間だったか”
”ダメだツッコミ役がいねぇ!!”
”あんただけが頼りだおっさん!!”
”いや無理だろ”
湖の中の魔物に気をつけながら革を洗浄し、肉から内臓を摘出。肉をぶつ切りにして血抜きし、骨を抜けば下拵えが完了。
はる巳と一緒に焚き火の支度を整え、早速調理に取り掛かった。