ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる   作:こしこん堂

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わたし、狙われています! ⑥

「まずは下ごしらえしたグラスヴェノムの肉を適度な大きさに切り、それを木の棒に刺して固定します」

「表面に軽く塩を振り、木の棒を焚き火の周りに刺して焼けるのを待ちます。この時間も食事の醍醐味だと思われます」

「はぁっ…」

 

 

 "おっさんめっちゃ引いてるww"

 "でも、見てるとなんかうまそうだな"

 "腹減ってきた"

 "肉の焼ける音が聞こえてくる…。香りまで漂ってくるようだ"

 "このうまそうな肉があの蛇なんて信じられん"

 

 

 そこからは焦げないよう適度に回しながら焼き続けること幾ばくか。

 

 ついにグラスヴェノムの塩焼きが完成した。

 

 最初はほんのりピンクがかってた肉も塩を振って焼いたことでほどよく焦げがついた白っぽい色に変わり、焼けた肉の香ばしい匂いが食欲を刺激する。

 

 何度も食べたグラスヴェノムの匂いだ。

 

 はる巳と二人で焼き上がった塩焼きをドローンに見せつける。

 

「「はいっ、せーのっ」」

 

 

 "上手に焼けましたー!!"

 "上焼き"

 "うまそう!"

 "見た目はマンガ肉みたいだな"

 "問題は味だ味"

 

 

「はいっ、どうぞ」

「あっ、はい。ありがとうございます…」

 

 焼き上がった肉を渡すと、げん也さんは恐る恐るそれを受け取った。

 

「では、いただきまーす」

「いただきます」

「い、いただき…ます」

 

 命に感謝を捧げ、一口目を戴く。

 

「うんっ。塩だけでもおいしい」

 

 グラスヴェノムの肉はあの巨体と獰猛さからは想像もつかないほど柔らかく、見た目の割に肉も軽くて食べやすい。

 

「鶏肉に似て淡白だから全然重くない。これならいくらでも食べられるね」

「うんっ!カレー粉もいけるよ」

 

 回収屋時代からずっと持ち歩いてる探索道具の一つ、カレー粉が入った小瓶を取り出してはる巳の肉にかける。

 

「ありがとう。…ピリッとスパイシー。タンドリーチキンみたいで美味しい」

「…」

 

 わたしたちの様子を見ていたげん也さんは自分が持ってる肉に目を落とし、意を決したようにかぶりついた。

 

「っっ!!うまいっ!!」

「よかったぁっ!」

 

 

 "めっちゃうまそう"

 "あの蛇がこんなダンジョン飯になると誰が予想しただろう"

 "革も肉も上物って実はかなりの良魔物なのでは?"

 "リアルで言うアナコンダレベルの蛇倒せると思うか?"

 "無理っす"

 "無毒でも絞め上げられたら骨砕けるからな"

 

 

「よう華ちゃんたちにも食べさせたいなぁ…」

「この肉なら病人でも食べれそうだしね。…ねぇっ、この肉…ラーメンに使えるんじゃない?」

「あっ!いいねぇ!」

「そういえば、ラーメンを作るって言ってましたね。あれ、どうなったんですか?」

 

 みんなでグラスヴェノムの塩焼きを堪能しながら雑談を交わしていると、話題はラーメンの話に。

 

「今は何味にするか考えているところです」

「豚骨、鶏白湯ラーメンのような骨を出汁にするラーメンを作る方向で思案中です。付け合わせにドラゴン肉のチャーシューを作るところまでは決まっているのですが、そこから行き詰っています」

 

 ラーメンは麺、スープ、トッピングの全てが揃って初めて完成する。そのコンセプトをどう統一させるかで意見がまとまらないでいる。

 

「とりあえず基本のスープの試作品はできたんですが、どういうラーメンにするかが中々決まらなくて…」

 

 

 ”まぁ、作ろうと思って作れるものじゃないしな”

 ”ラーメン道は深い”

 ”味違うだけでも全然違うメニューになるもんな”

 ”その日によって食いたいラーメンも変わるしなぁ”

 ”でもまずいのはNG”

 

 

「では、麺以外はダンジョンの素材で揃えてみるのはどうでしょうか?」

「「…えっ?」」

 

 突然の提案にわたしたちは目が点になる。

 

「あぁっ!すみません!素人がえらそうに…」

「いえっ。その話、もっと聞かせてください」

「えーっと、うまくは言えないんですが…。ダンジョンってこのヘビとかキノコみたいな食べられるものがたくさんあるじゃないですか?流石に小麦やかん水はなさそうですが、トッピングだけでもそれで揃えてみるのもいいんじゃないかなーって…」

「…」

 

 思いも寄らない提案を咀嚼しながら、はる巳と顔を見合わせる。はる巳も同じことを考えたようで力強く頷いた。

 

「それです!」

「…どれ?」

「代用できる材料全てをダンジョンの素材で…。素晴らしい提案です」

「後でよう華ちゃんたちにも相談しよっと。ありがとうございます!げん也さん!」

「あははーっ、どうも…」

 

 

 ”思わぬ活路キターー!!”

 ”ダンジョン素材のラーメンか!昔からよく言われてるけど、材料がクソ高くて実現してないんだよな”

 ”魔物素材なんて普通手が届かないもんな”

 ”材料費だけで破産確定だわ”

 ”その発想はなかった!やるなおっさん!”

 ”もしラーメンができたらすごい動画になりそう!”

 

 

「まだまだたくさんあるので、いっぱい食べてくださいね」

「あっ、はい…」

「カレー味もおすすめです…」

 

 思わぬ形で突破口が開き、食卓の雰囲気もとても和やかなものに。三本目の肉を食べていると、げん也さんが意外なことを聞いてきた。

 

「とも子さんって、神器使わないんですか?」

「はいっ?」

「使ったところ見たことないんですけど、あれってどんな力があるんですか?」

 

 次元を渡ったり他の世界へ向かう門を開ける門と鍵です!!…なんて言えないっ!!

 

「何故、それが気になるのですか?」

「ちょっとした興味です。リスナーさんの間でも噂になってますよ。ねーっ」

 

 

 ”ねーっ!”

 ”とも子ちゃんの!ちょっといいとこ見てみたーーい!!”

 ”氷焔剣レラムカバスはすごかったよね”

 ”アフ…なんとかもそんな力があるのかな?”

 ”じ・ん・ぎ!じ・ん・ぎ!!”

 ”ひょーかいって言ってたからなにかを溶かす力とか?”

 

 

 続々寄せられる神器を見たいというコメントの数々。流石に何もせずやり過ごすのは難しそうだ。

 

「どうするの?姉さん」

「見てて…」

 

 リスナーさんたちの要望に応えてアフラトスクを召喚。そして、できるだけ気まずそうな顔を作ってアフラトスクを鞘から抜いて見せた。

 

「色々試してみたんですけど…これしかできませんでした。ねーっ」

「うっ、うんー。ぜんぜんなにもなかったよねぇー」

 

 はる巳、お芝居下手なんだねぇ…。

 

「えぇっ…。あんなに頑張ったのに残念でしたねぇ」

「あははっ…。残念です」

 

 

 ”神器にもハズレってあるのか”

 ”ハズレだからって全く影響ないのはとも子ちゃんが強いからだろうな”

 ”むしろ神器いる?って状態だもんな”

 ”いつでも出せる武器って思えば十分強いけどな”

 ”神器論争集結!解散解散!!”

 

 

 わたしにしか能力は引き出せないから、わたしができないと言えば何も起こらない。

 

 これでなんとか誤魔化せそう。

 

 そう思いながらアフラトスクを戻そうとした矢先、ふと見上げた青空に紫色の丸い光が突然現れた。

 

「っっ!?」

「何、あれ…!?」

円獄(ホール)!?…っっ!!」

 

 それにいち早く反応したのがげん也さん。勢いよく立ち上がり、近くに置いてあった消火用の水で焚き火を消火した。

 

「げん也さん!?」

「急に何を…!」

「配信は終わりだ!君達もすぐに避難するんだ!!」

 

 

 ”えっ?えっ?何が起きてんの?”

 ”何あの紫っぽいやつ?”

 ”ってかおっさんこわっ!?どうしたいきなり””

 ”さっきまでとは別人だな”

 ”こっちが素なのか?”

 

 

 これまでのげん也さんからは想像もつかないほどの剣幕に圧されて固まるわたしとはる巳。

 

 げん也さんは胸ポケットから取り出したドローンを飛ばし、拡声機能を使ってダンジョン中に聞こえそうなくらいの大声で叫び始めた。

 

「私は迷宮組合の職員です!!二子玉川ダンジョンにて異常事態の発生を確認!ダンジョンに滞在中の皆様は速やかに避難して下さい!!」

 

 迷宮組合?職員?

 

 何が起きてるかいまいち理解できないわたしの前でそれは起きた。

 

 光の中から何かがでてきたのだ。

 

 大きな蹄を持った大木のように太い脚と細長い尻尾、5mはありそうな筋骨隆々な人型の魔物。

 

 でも、その体は剛毛に覆われていて、顔も天を突くほど巨大な三本の角を持った牛のような形をしている。

 

 その背には槍と斧が合体したような自分の身の丈を越えるほどの武器が。

 

 はる巳が倒した鬼が出てきたのと同じような形で二子玉ダンジョンに降り立ったそれをわたしは知っている。

 

 討伐ランクA ミノタウロス種最強の魔物…

 

「アステリオス…!!」

 

 このダンジョンには絶対いないはずの魔物だ。

 

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