ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
なんでわたしたち!?
どういうわけか分からないけど、言うことを聞かないとまずい!
ひとまず神器を部屋に戻し、はる巳に目配せして一緒に頭の後ろで手を組む。
"ひょっ?"
"へっ?"
"なんでとも子ちゃんたちが包囲されてんの?"
"やっぱ神器が危険すぎたんじゃね?"
"恩人になんて仕打ちしてんだ恩知らず!!"
"迷宮組合も一枚岩じゃないからな"
それを確認した調査団が距離を詰めてきたちょうどその時、人波を割ってある人が割り込んできた。
「待て!!」
げん也さんだ。
"おぉっ、おっさん!"
"おっさんきた!!"
"さっきからめっちゃかっこいいぞおっさん!"
"ただのリーマンってのが嘘で本当は迷宮組合の職員ってことでいいんだよな?"
"演技のおっさんしか見てないから脳がバグる"
わたしたちの前に立ったげん也さんに調査団のリーダーらしき人が声をかける。
「あなたは確か…一ツ橋監査官」
「覚えていただけて光栄です」
ひとつばし?
「これは我々調査団の管轄です。監査課の人間に介入する権限はありません」
「権限以前の問題です。これはどういうおつもりで?」
「どう、とは?」
「あなた方は今、人命救助に尽力し、凶悪な魔物を討伐した市民を武力で威圧している。犯罪者でもない市民をだ。迷宮省…いや、政府にだってそんな権限はない」
武器を持った相手に動じることなく毅然と反論するげん也さん。
さっきとはまるで別人な姿に圧倒されっぱなしだけど、わたしたちを庇ってくれていることはひしひしと伝わってくる。
「権限?もちろんありますよ…」
リーダーらしき人がわたしに視線を向ける。
「彼女には今回の円獄を神器を用いて人為的に発生させた容疑がかかっています。容疑者の確保というのであれば妥当な処置では?」
「そんなものはこじつけだ!円獄を人為的に発生させている?円獄は彼女が神器を手に入れる遥か以前から世界各地で起きています。それも全て彼女の犯行と言い張るおつもりで?」
「仲間、あるいは組織が背後にいるかもしれません。いずれにせよ、聴取すればわかることです」
"ふざけんな!!"
"そんなもん別件逮捕じゃねーか!"
"本当は神器の力を独り占めしたいだけだろ!"
"あんな力がどこかの組織や他国に渡ったら脅威なのはわかる"
"とも子ちゃんどうなるの?まさか、一生拘束なんてことないよね?"
"ここ日本だぞ?そんなことあるわけないだろ。…ないよね?"
わたしたちに向いてた武器のいくつかがげん也さんに向けられる。
おしゃべりは終わりだ。ということなんだろう。
「…」
向こうは大勢。しかも武器を持っている。
対するこっちはげん也さんを味方と見ていいなら3人。
とてもじゃないけどどうにもならない。
この状況でアフラトスクは使えないし、逃げても住所とかも調べてるだろうから多分無駄。
もしかしたら、今頃事務所の方にも捜索の手が伸びてるかも。
もしそうなってたらミミやカヤさんが…!
「あのっ…!」
そうなってたら手遅れだけど、まだそうなってないなら希望はある。その希望を繋ぐために、わたしができることは…
「神器のこと、全てお話します。なので、連れていくならわたしだけを…」
「その必要はありません」
彼らに下る覚悟を決めたわたしの背に誰かもわからない男性の声がかかる。
その声に振り返ると、高そうなスーツを着た片足が義足のおじいさんがいた。
その背後にはSP?みたいな屈強な男性が並んでいて、どこかのえらい人だということがわかった。
「…っっ!?」
「うそっ…」
「えぇっ…、なんでぇ…?」
そのおじいさんの登場は誰にとっても予想外だったらしく、げん也さんどころかはる巳まで固まっている。
おじいさんはわたしたちに向けられた武器を睨み、静かに口を開く。
「…それはなんだね?」
「…はっ?」
「何故、組合の武器が市民に向けられているのかと聞いている」
「し、失礼致しました!!」
その迫力はアステリオスよりも凄まじく、足が不自由なおじいさんとはとても思えない。
調査団の人たちはすぐに武器を納めておじいさんに敬礼した。げん也さんもだ。
「はる巳。あの人知ってるの?」
「黒平しげる迷宮大臣。迷宮省の一番偉い人だよ」
「ええええっっ!!?」
大臣!?なんでそんな人がここに!?
「げん也さんが呼んだんですか?」
「ないないっ。俺下っ端よ?」
すごく気さくになったげん也さんが首を振る。
"大臣キター!!"
"盛り上がってまいりました…!!"
"鋼の黒平…!!本物だ!"
"なんそれ?"
"大臣の探索者時代の異名。引退して随分経つけど、貫禄は健在だな"
"言葉遣いは丁寧なのにめちゃくちゃこえー"
"画面越しでもチビりそう"
「さてっ…」
大臣の視線がわたしたちに移る。穏やかに微笑んでいるはずなのに、武器を向けられていたさっきよりもよっぽど怖い。
杖をついて歩いてきた大臣はわたしとはる巳をじっと見つめ、軽く頭を下げた。
「辻吹とも子さん、辻吹はる巳さん…」
「はっ、はいっ!」
「はいっ」
「配信、拝見しました。凶悪な魔物を相手に勇敢に立ち向かい、市民の救助を行った勇気ある行動に感謝します」
「えっ?あっ、ありがとうございます!」
「もったいなきお言葉。恐悦至極に存じます」
はる巳のすごく綺麗なお辞儀を真似てわたしも頭を下げる。
「表を上げなさい」
頭を上げたわたしたちに大臣はにこやかにほほ笑み、ダンジョンの入り口に顔を向けた。
「では参りましょう」
「はっ…えぇっ!?」
大臣と一緒に帰るの!?
背を向けて出口へと向かう大臣の後をわたしとはる巳、あら汰さんがゆっくりついていく。
「お待ち下さい!いくら大臣といえど、このようなことを軽率に行われては…」
リーダーらしき人が恐る恐る抗議するけど、大臣はどこ吹く風。
彼と向き合った大臣は一切の温かみを感じさせない重く冷たい語気で言い放つ。
「誰の差し金かは知らんが、調査団に無辜の市民を拘束できるほどの強権を与えた覚えはない。どのような力を持っていようとも、彼女らは法と社会に守られたいち市民だ」
無関係なわたしでさえ鼓動が鳴り止まず、冷や汗が背中を伝っている。直接言われたあの人は怖くて仕方ないはずだ。
そこで追及は終わり、今度はげん也さんに声をかける。
「君は…」
「はっ!自分は監査課の一ツ橋あら汰と申します!」
げん也さん、改めあら汰さんが緊張で汗まみれになりながら答える。
「身を呈して市民を助け、彼女らを守った勇姿…立派だったよ」
「はっ!ありがたきお言葉!!」
「その理念、
「はっ!!」
"一瞬で全部解決した件"
"さす大"
"国家における最強の武器は権力。はっきりわかんだね"
"どんな力を持っててもいち市民…。深い"
"特別扱いだって一種の差別だもんな"
"こんな人が大臣やってる国に生まれてよかった"
アステリオスを恐れて逃げたのか、道中魔物に会うこともほとんどなく出口へと到着。
静かに終わりを告げて配信を終え、二子玉ダンジョンを抜けると…入り口前には大勢の人が詰めかけていた。
「うおおっ!!黒平大臣だ!」
「本当に来てたのか!」
「とも子ちゃーん!はる巳ちゃーん!きたよーー!!」
「みんなを助けてくれてありがとーー!!」
あらゆる方向から飛んでくる感謝と称賛の雨。
当然のことをしたつもりだけど、そんな風に言われるとすごく照れくさい。
「とも子、はる巳。おつかれさん」
「「社長!」」
しばらく称賛を浴びていると、人混みをかき分けて社長が近づいてきた。
でも、SPの人たちはそれを止めようとしなかった。
「予定は変わっちまったが、やっと会えた。…久しぶりだね。クロシゲ」
「お久しぶりです。マキ江さん」
帽子を取り、社長にお辞儀をする大臣に唖然とするわたしとはる巳。
「大臣と知り合いなんですか!?」
「昔の後輩さね」
ロク郎さんといい、大臣といい…。社長の人脈どうなってるの?
社長はすぐに仕事モードに入り、大臣に恭しく一礼する。
「…黒平大臣にお話があります。後日、場を設けてはいただけないでしょうか?」
「であれば、後日と言わず今参りましょう」
大臣が手を挙げると、高そうな車がわたしたちのすぐ前で止まった。
大臣に勧められて車に乗り込む。シートはベッドかと思うくらいしっとりふかふかで、車内とは思えないくらいいい匂いがする。
車というより動くホテルみたい。気を抜いたら寝ちゃいそう。
「一ツ橋君…」
「はっ?えぇっ!?自分もですか!?」
「知りたいことがあるのだろう?千載一遇の好機だと思うよ」
大臣に促され、あら汰さんはわたしたちの後ろの席にちょこんと腰かけた。
大臣の車に乗るなんて緊張するよね。
みんなが乗り込んだところで、車がゆっくりと動き出す。
音もほとんどしないし全然揺れない。高い車ってみんなこうなのかな?
高級車に乗っての東京観光を楽しむ暇も余裕もなく、車は政府御用達みたいな大きな建物に到着。
入り口の前で降ろされたわたしたちを大臣は静かに出迎えてくれた。
「皆々様。本日はご足労いただき誠にありがとうございます。それでは手始めに…」
「世界の危機についてお話致します」