ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
わたし、案件を受けます! ①
屋敷のような建物に通されたわたしたちはシャワールームを借りて汚れを落とし、用意されていた服に着替えた…んだけど
「うぅっ…。スーツなんて初めて着たよ」
「似合ってるよ。姉さん」
汚れ一つない黒いスーツは着るのを躊躇うほどピカピカで、着方が分からないからはる巳に助けてもらってなんとか着れた。
一方のはる巳は気後れすることなく華麗に着こなしている。泰征でも着る機会があったのかな?
身だしなみを整え、案内された部屋に向かう。
机と椅子が並んだ会議室のような部屋では既に大臣と大臣の秘書らしき綺麗な女性、社長、同じくスーツに着替えたあら汰さんが待っていた。
「遅れてしまい申し訳ありません」
「いえっ。構いませんよ」
秘書の人が引いてくれた椅子に腰掛けると、大臣が軽く頭を下げた。
「本日はお集まりいただきありがとうございます」
偉い人ってもっと威厳があって堂々としてるものだと思ってたけど、大臣は物腰も柔らかくて優しそう。
権力者にも色んな人がいるのかな?
「黒平大臣。先ほど仰っていた世界の危機とはどのようなものなのでしょうか?」
「ここは
「左様ですか。ではっ…。世界の危機ってどういうことだい?迷宮省は何を知っている?」
「それは現場の者がよく知っていると思われます。…一ツ橋君」
「はっ!」
社長の問いを受けた大臣があら汰さんに話を振る。
あら汰さんはわたしたちの方を見ると、静かに頭を下げた。
「では改めて…。私は一ツ橋あら汰。迷宮組合の監査局で監査官をしている。…君達を騙したこと、心から謝らせて欲しい」
「いいんです。気にしてませんから」
「三ツ…一ツ橋さんにも事情があったのでしょう?であれば謝っていただく道理は…」
「いんや。ある」
言葉を遮った社長が机の上に何かを置く。チャックがついた小さな袋には、キャラメルくらいの大きさの黒い箱のようなものが入っていた。
「お前さん、うちに盗聴器を仕掛けただろう?」
「盗聴器!?」
「トイレで大騒ぎしてアタシらの注意を逸らした隙に仲間がドローンを使って設置した。というところだろう?」
「仰る通りです…。まさか、こんなに早くバレるとは」
「何故そんなことを?」
社長の声に咎める色はなく、純粋になんでそんなことをしたのかを疑問に思っているようだった。
「神器の能力を知るためです。市枝さんもご存知の通り、神器は非常に強力な力を持っている。しかし、この国には神器の所持に関する法はない。なので、我々監査局がその力と持ち主を秘密裏に調査し、この国にとって危険な存在かどうかを見定めているのです」
「随分とまどろっこしいことをする」
「大臣が仰っていたように、どんな力を持っていようと日本国民であればいち市民として扱われます。強い力を持っているからと不当に拘束したり排除しようとするイカれた独裁国家とは違うのですよ」
あの人たちに怒ってたのはそういうことだったんだ。
「わかっているとは思うが、これは監査官の権限の範疇を超えた違法行為だ」
「心得ております。如何なる処罰をも受ける所存です」
「仕事熱心だことで…」
「神器を得た者が邪悪な人間で、私利私欲のために力を振るうような人物であれば市政に甚大な被害が及びかねませんからね。だから確かめる必要があったのです。…ですが、それも杞憂に終わりました」
あら汰さんはわたしに向き直り、深々と頭を下げた。
「とも子さん、はる巳さん…。命をかけて魔物と戦い、市民を救った貴方がたの勇姿…しかと拝見しました。私は、私が見た君達を信じよう」
「…っ!ありがとうございます!」
「当然のことをしたまでです」
二人で顔を見合わせてお礼を言うと、あら汰さんはゆっくり頭を上げた。
綻んだのも束の間。すぐに真剣な表情で話題を変える。
「本題に入りましょう。皆さんは円獄、という言葉を聞いたことはありませんか?」
「ホール?」
わたしたちは顔を見合わせる。当然わたしは知らない。
社長もはる巳も知らないようで同じように首を横に振った。
「えっと、わかりません…」
「それは何より。一応国家機密だからね」
「こ、国家機密!?それ、聞いてもいいんですか?」
「あぁ。そのための場だからね」
そう言っていつの間にか手に持っていたリモコンを操作し始める。
すると、部屋の真ん中あたりの天井からカメラのようなものが降りてきた。
次に、上座の一番奥の天井から白いカーテンのようなものが。
中学生の時に見たことがある。投射機とスクリーンだ。
それらが降りてきたところで明かりが消え、スクリーンにある動画が映し出される。
「あれはっ…!」
それは海外のダンジョンを撮影したものらしく、多くの外国人で賑わうダンジョンの様子が映っていた。
問題はその空。
ビーチのような海辺のダンジョンの空についさっき見た紫色の光があったのだ。
その光から現れたのは全身が黄色い鱗に覆われた雷を操るドラゴン、エレキドラゴンだ。
討伐ランクはフレアドラゴンと同じA。観光気分な探索者じゃ絶対勝てない強敵だ。
エレキドラゴンに気づいた探索者たちは大パニック。
何語か全くわからない言葉を叫びながら逃げ惑う姿が鮮明に映し出されていた。
「これは7年ほど前にアメリカで観測された円獄だ。時期や場所はバラバラだが、世界各地で似たような事例が報告されている」
「この円獄?というものは先程のアステリオスのように本来そのダンジョンにいないはずの魔物が出現する現象、ということでよろしいのでしょうか?」
はる巳の質問にあら汰さんが頷く。
「概ねその通りだ。発生は極めて稀だが、君達がいなければアステリオスがあの場を蹂躙していただろう」
ほんのちょっとでも結果が違えば、二子玉ダンジョンは悲劇の場になっていただろう。
「先程仰っていた世界の危機とはこの円獄のことなのでしょうか?確かに危険な現象だとは思いますが、世界の危機と言うには些か大仰では?」
それはわたしも思っていたことだ。
確かに、本来そのダンジョンにいないはずの魔物が急に現れるのはとても危険だ。でも、それが世界の危機というのは大げさじゃないだろうか?
「円獄はあくまできっかけ。この現象は大臣が仰った世界の危機の触りでしかない。…今から見せるものが本命だ」
再びリモコンを操作して別の動画を再生する。今度はアメリカどころか英語圏ですらないどこかの国。
なんでわかったかというと、近くにあるダンジョンの検問っぽいところに見たことがない言語が書かれてたから。
検問があるってことはダンジョンの外なんだろう。
なのに…
「…っっ!!?」
「これは…本当に起きたことなのかい?」
「えぇっ。3年前、中東のある国で撮影されたものです。対外的には自主制作映画ということになっています」
あら汰さんが見せてくれた動画。それはこれまで信じられてきたダンジョンの当たり前を根底から覆すものだった。
響き渡る轟音、鳴りやまない悲鳴と逃げ惑う人々、その中心に立って惨劇を引き起こしているのは…
「なんで、外に魔物が…!!」
ダンジョンの外に出られないはずのオークの群れだった。