ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
大臣とあら汰さんと別れ、さっきの車とは違う普通の車に乗せられたわたしたちは迷宮技術開発局という場所へと向かった。
車が停まったのは都市部からかなり離れたところにある小さなオフィスビルのような建物。
でも、入口にかかった看板には安原蒐集と書かれてある。
蒐集って、回収屋じゃないの?
みんなが車を降りたちょうどその時、ビルからスーツを着た男性がこっちに駆け寄ってきた。
「よくお越しくださいました!リンクトーカーの皆様ですか?」
「えぇ。私は社長の市枝と申します」
「これはどうもご丁寧に。お話は大臣より伺っております。私は弊局の局長をしております滝本と申します」
「局長!?」
一番偉い人が出迎えに来てくれたの!?
「遠路はるばるお疲れ様でした。立ち話もなんですのでどうぞお入りください」
「では、お言葉に甘えて…」
名刺を交換し終えた滝本さんは先導するように中に入っていく。
それに従って中に入ると、外観そのままのこぢんまりとしたエントランスが出迎えてくれた。
「思ったより小さいね。もっと豪華なものだと思っていたよ」
「カヤさん!」
「あははっ!そう見えるなら狙い通りです。機密事項も多いので別会社に偽装しているんですよ」
楽しそうに語る滝本さんが向かったのは社員食堂らしき場所。
前の会社の社員食堂はいつも誰かしらがご飯を食べたり楽しそうに談笑していたけど、ここには誰もいない。
滝本さんは厨房にある業務用の大きな冷蔵庫に近づき、備え付けのパネルを操作する。
「ようこそ迷技局へ…」
芝居がかった仕草でお辞儀をしながら冷蔵庫のドアを開けると…
「えぇっ!?」
「エレベーター…!?」
なんと!冷蔵庫の中にエレベーターが!
「かっこいい!スパイ映画みたいねっ!」
「どうです?秘密基地みたいでワクワクするでしょう?」
「はいっ。昔姉さんと遊んだ遊び場を思い出します」
「あー、あったねぇ」
幼い頃のはる巳との思い出に思いを馳せながらエレベーターに乗り込む。
滝本さんがエレベーターを操作すると、エレベーターは降下を始める。
そのあたりでよう華ちゃんのカバンから出てきたミミが辺りをキョロキョロと見回し始めた。
『ミ?ミミッ?』
「これはエレベーターよ」
「おおぉっ!!大臣が仰っていた例の…!魔物の幼体だなんて初めてだっ!!」
『ミィッ!?』
探究心に満ちた目でミミを覗き込む滝本さん。その目が怖かったのか、ミミはカバンの中に引っ込んでしまった。
「ミミちゃんのこと、乱暴に扱わないでもらえると嬉しいんですけど…」
「もちろん!心身を傷つけるような過激な研究は致しません!…現状唯一のサンプルですからねぇ。…くふっ」
怪しげな笑みを浮かべる滝本さんにカヤさん以外の全員が不審の目を向ける。
唯一じゃなかったらどうなってたんだろ?
「さっ、着きましたよ。こちらが研究室です」
エレベーターが止まり、ドアが開く。その先で待っていたのは…
「…っ」
「おぉっ。これはすごい」
「驚いていただけたようで何よりです」
近未来、というイメージそのままの広大な施設だった。
広い部屋に所狭しと並んだ何に使うかも分からない機械やコンピューター、忙しなく動き回る白衣の研究員、部屋の片隅に置かれた液体が満ちたカプセルに納められた魔物の標本。
そのどれもが漫画やアニメに出てくるような最先端の研究室そのままで、何が何だか全然わからなくても好奇心がくすぐられる。
まるで科学者になったみたい。
「おはようございます。局長」
滝本さんのところに数人の白衣姿の人たちが近づいてきた。
「やぁ。おはよう」
「そちらの方々が例の…」
「あぁっ。今は客人だから粗相のないようにね」
「はいっ!」
今はって何!?
「夷流布カヤさんですよね!?」
今度は別の研究員らしき人がカヤさんに近づいてきた。
「うんっ。そうだよ」
「配信、いつも見てます!お会いできたら薬学について話し合いたいと思ってたんです!今お時間大丈夫ですか?」
「どうする?社長」
「ファンの頼みだ。受けてやりな」
「ありがとうございます!」
「じゃあ行こうか」
「はいっ!先ほど、局長からカヤさんは異世界のエルフだと伺ったのですが…」
研究員の人たちと楽しそうに話しながらどこかへと消えていくカヤさん。
「よう華さん」
「はいっ?」
「早速で申し訳ないのですが、そのミミック…えっと」
「ミミちゃんです」
「ミミさんを少し観察したいんですが、もし良ければ付き添ってもらえませんか?その子、よう華さんに懐いているようなので」
「はいっ!そういうことでしたらお安い御用です!行きましょミミちゃん」
『ミュイッ!』
今度はよう華ちゃんが別の研究員に連れられてどこかへと消えていく。
「では、皆様はこちらへ」
残されたわたしとはる巳、社長は滝本さんの案内で応接室らしき場所へと向かう。
ソファーに腰を降ろして寛いでいると、白衣の男性がお茶を持ってきてくれた。
お礼を言ってお茶に口をつけたところで滝本さんが口を開く。
「研究にご協力いただきありがとうございます。大臣に話を伺ってから皆うずうずしておりまして…」
「力になれたようで何より。これで心置きなく本題に入れますね」
「あっはっは!やはりお見通しでしたか」
楽しそうに笑ったのも束の間。すぐに真剣な表情を浮かべて社長と向き合う。
「リンクトーカーの皆様に我々からも案件を依頼したい」
「それは大臣とは別口の依頼、ということで?」
「そう捉えてもらっても構いません。と言っても、そんなに難しいことではありませんが…」
そこで言葉を切ってスマホを取り出し、以前わたしたちが配信したフレアドラゴンとの戦いの動画を見せてきた。
「今後円獄を調査する上で強力な魔物の素材を手に入れる機会があるやもしれません。そういったものを入手した際、それをうちに卸して欲しいのです」
「それは研究のためですか?」
「はいっ。強い魔物の素材は入手する機会が少なく、各国の研究機関もサンプルの確保に苦心しています。サンプルがより多く手に入れば我々の研究も捗り、探索者の生存率を高める装備やアイテムの開発にも繋がります。…いかがでしょうか?」
「どう思う?」
「わ、わたしですか!?」
突然話を振られて困惑する。そういう難しいことはわたしよりはる巳に聞いた方がいいんじゃないかな?
でも、社長はわたしに聞いている。それなら、間違ってたとしてもわたしの考えを伝えなきゃ…!
「いいと、思います…。探索しやすくなればダンジョンのアイテムも安くなりますし、危険な目に遭う人が減るならそれに越したことはないですから…」
言い終えても反応はなく、みんなの視線がわたしに突き刺さる。
なにか変なこと言ったかな?
そんな不安に襲われていると、滝本さんがふっと口元を緩めた。
「神器に選ばれたのがあなたのような人でよかった」
「はいっ?」
「引き受けて下さる。ということでよろしいですか?」
「えぇ。本業を圧迫しない程度でよければですが」
「構いません。ありがとうございます!」
社長と滝本さんが机を挟んで握手を交わす。
手を離した滝本さんはあっと声を上げた。
「そういえば、以前フレアドラゴンを討伐していましたよね?その際に【脊髄】を入手していませんか?」
「脊髄?確かに、背骨は拾いましたが…」
ラーメンのいい出汁になりそうだからってことで拾ったけど、ものすごく大きくて切るのにもひと苦労だからまだミミの中に入ってる。
それを聞いた滝本さんはパァッと顔を綻ばせた。
「なんと!それは僥倖!!早速で申し訳ないのですが、それを譲っていただけませんか!?鱗や甲殻などもあればありがたいのですが…」
「構いませんが…。何故そんなものを?」
社長の問いに滝本さんは静かに立ち上がり、応接室のドアを開いた。
「皆様に、お見せしたいものがあります…」