ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
「ドラゴンが見えた?」
「うんっ…」
よう華ちゃんとカヤさん、研究開発局のみんなが頑張ってくれたおかげで喋れるくらいにまで回復したはる巳。
ぽかぽかな電気毛布に包まりながら話してくれたのは剣を持ってからの出来事だった。
「剣を持ったら目の前が真っ暗になって、私の前に真っ白なドラゴンが立ってたの。教科書でしか見たことないけど、あれはフリーズドラゴンだった」
「それでどうなったの?」
「ドラゴンが真っ白な光になって私の中に入ってきて…。そしたら私の体が勝手に動き出して姉さんを…社長を…!」
「大丈夫!わたしはなんともないから!」
「ごめん…!ごめんね…!姉さんっ」
泣きじゃくり、震えるはる巳をそっと抱きしめる。
こんなはる巳を見るのは久しぶりだ。よっぽど怖かったんだろう。
「つまり、フリーズドラゴンはスコフニュング越しにはる巳さんに干渉し、その体を乗っ取ろうとしたと?そのような事象を観測するのは初めてです。恐らくですが、これまでの被験者達は持ち上げるという段階に至ってなかったからその対象から外れたのかもしれませんね。しかし、それではスコフニュング自体に意志が存在することに…」
ボイスレコーダーを片手にぶつぶつと何かを呟く滝本さん。
正座した彼の膝には何冊ものぶ厚い辞書みたいな本が乗せられていた。
社長曰く反省を促すお仕置きらしい。
「お前さん。本当に反省してるのかい?」
「もちろんですとも!不測の事態だったとはいえ、我々も軽率でした。はる巳さん。誠に申し訳ありませんでした」
「いえっ。こちらこそ、助けていただきありがとうございます」
はる巳がぺこりと頭を下げる。はる巳も怒ってないし、わざとじゃないんならわたしもちょっとくらいにしておくか。
「滝本さん」
「はいっ?なんで…」
言い終わる前にアフラトスクを呼び出し、その切っ先を眼前に突きつける。
「次はありませんよ?」
「ひいぃっっ!?も、もちろんです!」
「とも子ちゃん!?」
アフラトスクを消し、改めてスコフニュングに視線を向ける。
あれだけの騒ぎを引き起こしたのに当の剣は何の変化もなく美しいままだ。
いっそ叩き折ってやりたいけど、何が起きるかわからないからやめておく。
「持ったらドラゴンが出てきた、かぁ。それって、神器の試練に似てるね」
「試練…?あぁっ、あの時の騎士だね」
「うんっ。認めさせなきゃ大変なことになるってところは似てるかも」
「神器…?それだ!」
「うひゃあっ!?」
神器と聞いた滝本さんが突然大声を上げて立ち上がる。
でも、長いこと正座してたからかすぐに足を押さえてうずくまった。
「いたたっ…。はる巳さんの言うことが真実なら、竜髄兵装と神器には何かしらの意志が宿っていると考えられる。もしそうであれば竜髄兵装は人造の神器と呼べる代物なんじゃないだろうか?」
そんなことを呟きながら他の研究員に指示を飛ばし始めた。
「もし神器と同じ性質を持っているなら一度調伏すればその相手を主と認めるはず。それを検証したいが、流石にもう一度持ってもらうわけには…」
「構いません」
「…っ!はる巳!?」
毛布を脱いだはる巳が立ち上がり、確かな足取りでスコフニュングに向かう。
「確かに危険な代物ですが、飼い慣らせれば心強い力にもなります。世界の危機に挑むのであれば必要なものでしょう?」
「無茶よ!また暴走するかもしれないわ!」
「その時はお願いします。…姉さん」
「なに?」
「…そうなったらお願い」
…そっか。わたしが何をしようとしてたかわかってたんだね。
「…」
はる巳が剣の前に立ち、柄に手を伸ばす。その瞬間、はる巳の目が大きく見開かれた。
「っっ!」
即座にアフラトスクを呼び出し、最悪に備える。
けど、いつまで経っても氷が出てくる様子はない。それどころか、はる巳はスコフニュングを片手でひょいと持ち上げた。
「軽くなってる…!」
「なんともないの?」
「うん。ちょっと離れてて」
わたしたちが距離を取ったのを確認し、はる巳がスコフニュングで空を斬る。
真冬の寒風のような冷気が吹き抜け、全身が総毛立った。
剣を振れば振るほど寒さが増していくのに当のはる巳は何事もないように剣を振り続けている。
さっきみたいに顔色が悪くないから寒さを感じていないのかも。
「ふっ!せいっ!やぁっ!!」
それからも何度か素振りしたけど乗っ取られる様子はなく、振り終えたはる巳は満足そうに息をついた。
「ふぅっ。よく言うことを聞くいい剣ね。…っ?皆さん。どうかされましたか?」
「はる巳ちゃん…。それ、寒すぎ…!」
「凍死させる気かい…!」
ダンジョンならともかく、何もない部屋で振るのはこれっきりにしてほしい。
カヤさんが出してくれた火で暖まりながら、そんなことを思うのだった。
「や、やっと帰ってこれた…!」
「10年ぶりに帰ってきた気分…」
次元の裂け目から事務所に帰った頃には日もとっぷり暮れ、今日という日が終わろうとしていた。
データを取らせてほしいと頼み込んできた滝本さんたちの要望を受け、はる巳はテストルームでスコフニュングの試運転。
わたしたちも各々が研究に協力しているうちに時間が過ぎ、気づけばこんな時間になっていた。
「よしっ。入ってきな」
事務所の中と外を確認した社長が手招きする。
あんなことがあったのに誰もいないなんてちょっと意外。
大臣が釘を差してくれたのかな?
「お腹空いたぁ…」
「グラスヴェノムとお茶菓子くらいしか食べてないからね」
「私も…。でも、こんな時間に食べたら太っちゃうわ」
お昼からほとんど何も食べないで動き詰めだったからみんなお腹ペコペコ。
カヤさんだけ涼しげな顔をしてるのは多分大臣と話してる時にお茶菓子をたくさん食べてたからだろう。
「お疲れさん。こんな時間まで付き合わせてすまなかったね」
「いえっ。むしろありがとうございます。こうやって帰ってこれたのも社長のおかげでもあるので…」
「ははっ!嬉しいこと言ってくれるじゃないか。今日はもう休みな」
「はいっ!じゃあ帰りましょうか」
「うん。頼むよ」
アフラトスクで裂け目を開き、ロク郎さんの家に繋げる。
カヤさんは変わらずロク郎さんの家に住んでいる。
数少ない迷宮薬剤師のカヤさんは長野でとても重宝されてるらしく、カヤがいなくなったら俺が地元の奴らに吊るされるとロク郎さんが言っていた。
だから今は配信者兼在宅薬剤師として働いている。
異世界研究の研究費もほとんどカヤさんが稼いでいたんだとか。
「待って!」
カヤさんが裂け目を抜けようとする間際、よう華ちゃんが待ったをかける。
「よう華ちゃん?」
「今日はもう寝るしかないけど、この空腹は明日思いっきり晴らすに限るわ」
「はいっ?」
「明日ラーメン配信をしましょう!」