ソロ専アルバイター、ダンジョン配信者になる-回収屋バイトのわたしは零細配信会社に見初められる 作:こしこん堂
わたし、転職します ①
「んうぅ…」
スマホのアラームの音で目を覚まし、布団の傍らに置かれた神器、アフラトスクが目に入る。
「夢じゃなかったんだ…」
昨日はどうやってここまで帰ってきたか分からない。配信してることに気づいてからの記憶がすっかり抜け落ちているからだ。
換金予定のアイテムがちゃぶ台に置かれていて、作業着から寝間着に着替えてるから無意識になんとかしてくれたんだろう。
すごいぞわたし。
「…」
眠い目を擦りながら恐る恐る自分の名前を検索する。
出てきたのは昨日の誤配信のネットニュース。
【正体不明のスゴ腕探索者、つじぶきともこ現る!!】
【配信中に神器をゲット!その実力はSランク級か!?】
「わっ、わぁ…」
大きく書かれた見出しははっきりとわたしを名指ししている。
配信の切り抜き画像もふんだんに使われてるから素顔もバッチリだ。
こういうのって肖像権?とかの侵害になるんじゃないの?
「ど、どうしよう…!?」
昨日の配信はわたしが思っていた以上に拡散されてしまっているらしい。
チャラさんが会社の名前を言ったから、会社に電話がいっぱいかかってきたんだろう。
「と、とりあえず出社して謝らなきゃ…」
換金予定のアイテムをカバンに入れ、返り血べったりな作業着をビニール袋に入れていると、インターホンが鳴った。
「こんな早くから誰だろ?はーい」
着替えを中断し、寝間着のままドアを開けると…
「「「おはようございます!辻吹さん!!」」」
「ひぃっ!?」
名刺を構えたスーツ姿の人たちが大勢待ち構えていた。
「えっ、えと…どちら様でしょうか?」
「私、白鯨というギルドの者です」
「自分は赤鉄の暴牛の者です!」
「わたしは週刊迷宮の記者です!」
「「「辻吹さん!是非、うちのギルドに入って下さい!!」」」
「是非取材させて下さい!」
「えっ?えぇっ!?」
ギルド?入る?
この人たち、ギルドのスカウトってこと?
渡された名刺を見ると、テレビにも出てる大手ギルドの名前もたくさんあった。
テレビの向こうの世界でしかなかった人たちがわたしをスカウト?
普段なら夢かドッキリを疑うものだけど、みんなの目は真剣そのもの。
この人たち、本当にわたしをスカウトしに来たんだ。
「うちに入っていただければ年俸はこの額をお約束します!」
「うちは契約金としてこれだけ出します」
「えっ?はぁっ!?こ、こんなに…!?」
提示された額は生まれてこの方拝んだこともないような大金ばかり。
数字が大きすぎて実感が湧かないけど、この額に見合う働きをわたしに期待してくれているのは悪い気がしない。
もっとお金を稼げれば寄付金だって増やせる。
どこまでやれるかわからないけど、ギルドの探索者として働くのもいいかもし…
「邪魔するよ」
「お邪魔しまーす」
思案に耽っていた思考は新たな乱入者によって現実に引き戻される。
「なんだね君たちは!?」
「割り込みなんて非常識な!」
スカウトさんたちを押し退けて入ってきたのは…
「おはようとも子ちゃん!昨日はありがとうね!」
「えっと、よう華…さん?」
太陽のように眩しく笑うピンク髪の女の子、よう華さんと…
「ほぅ。お前さんがねぇ…」
左目に眼帯をつけ、顔の左半分から首にかけて大きな火傷痕がある長身でムキムキなおばあさんだった。
「っっ!?」
どう見てもあっち系にしか見えないおばあさんに思わず後ずさる。
「ふんっ。失礼な子だね」
「す、すみません!」
確かに、いきなり怖がるのは失礼だ。わたしは慌てて頭を下げる。
「おばあちゃんはこう見えてとってもいい人よ」
「こう見えては余計だよ!」
「おっ、おばあちゃん?」
頭を上げて二人を見比べる。…ぜ、全然似てない!?
「アタシはこういう者だ」
おばあさんが名刺入れから抜き出した名刺をわたしに手渡してきた。
「有限会社リンクトーカー代表取締役、
「市枝マキ江!?
「あのSランクの…!?」
「えっ、Sランク!?す、すごい…!」
「昔の話さね」
スカウトの人たちがざわめき出す。
…そういえば、マキ江って名前どこかで聞いたような…?有名人みたいだし、テレビかなにかかな?
「辻 吹、ねぇ。あのジジイ、まだ生きてたか…」
「えっ?」
「昨日はよう華を助けてくれてありがとうよ。社長として、祖母として礼を言いに来た」
そう言って深々と頭を下げるマキ江さん。見た目は怖いけど、いい人…なのかな?
「いえっ。当然のことをしたまでです」
「謙虚だね。…さて、本題に入ろうか」
「お前さんをうちの社員として雇いたい」
「待ちたまえ!彼女は我々が先に目をつけたんだ!」
「紳士協定を破る気か!?」
「Sランカーでも勝手は許さんぞ!!」
「それならアタシらの方が先さ。よう華を助けた時から目をつけてたからね」
マキ江さんの威圧感たっぷりな声に周りもタジタジになる。
「そろそろ出勤時間だろう?そこの荷物と一緒に乗っけてってやるよ」
「いいんですか!?ありがとうございます!」
アフラトスクはともかく、回収したキングゴブリンの盾と剣は持っていくのが大変だからその提案はとても魅力的だ。
「いいってことさ。アタシらも、積もる話があるからねぇ…」