ブルーアーカイブ_メインストーリー_Low%RTA_19時間11分45秒 作:蟻広
私、
まずそも、登場の仕方からして不審だ。窓を割って飛び込んでくるなど、今日日漫画の世界でもお目にかけない。次にその台詞だ。なんだか良く分からない、変な単語を継ぎ接ぎにして喋るもんだから、同じ言語を喋っているとは到底思えない。
なんだか良く分からんことばかりなのだから、取り敢えず一旦〆てから話を聞こうかと私は思う。苛立った気持ちを殆ど隠さずに銃を構えると、それを察したのであろうか、先生が止めてきた。
ここで、私の所属するアビドス高等学校について説明しよう。アビドスは、砂漠に位置する弱小校である。その生徒数は総勢五名。どこかで見た、総勢一名のコラ画像を思い出すほどの寂しさだ。しかも、アビドスに蔓延る問題はそれだけではない。いや、正確に云うのなら、ある事のせいでここまでの弱小校になってしまったのだから、生徒数はおまけでしかないのだ。
その問題とは、砂漠化。そしてそれに伴う借金の増額。
人口の流出に歯止めは効かず、治安は悪化の一途をたどり、状況は何をしようと改善しない。そして物資もなくなり散発的に抵抗することしか出来なかったアビドスは、カタカタヘルメット団によって支配されかけた。
そこに、大量の物資と共に現れたのが先生である。
長々と語ったが、つまりは私を含むアビドスの面々は先生に逆らう事は出来ないと云う事だ。未だ信頼関係もない今、下手に逆らって先生の機嫌を損ねてしまうと、物資がなくなるかも知れない。
取り敢えず話だけは聞こうかと私が銃のセーフティーをかけ直すと、先生はほうとため息をつき、早速話し始める。
「……彼女は、堀本モエと云ってね。いろいろ事情があるんだけど、とにかく今はシャーレで働いているんだ」大分端折った説明をした後に、続けて、「少なくとも、悪人じゃないのは私が保証するよ。……まあ、少し変わってはいるけどね」と云って苦笑した。
私は、先生の背後で何かの物まねをしているモエを見る。なる程害はなさそうだ。欺くための演技かも知れないが、そんなことをするくらいなら、普通に振舞う方がよっぽど騙せる。少なくとも窓を割るよりは、不審者として扱われる可能性は減っただろう。
もう一度モエを見て、溜息を吐き、私は先生の言い分を信じる事とした。すると、丁度その時ヘルメット団が襲撃をかけてきた。何とも空気の読めないやつだ。しかも、間も悪い。あともう少し前に来ていれば、アビドスを落とせたろうに。
私は何となく憐憫を覚えながら外に飛び出す。すると、対策委員会に続いて、先生も飛び出してきた。ついでに何故かモエも。どうやら、先生が指揮を執るらしい。
彼女はそのままヘルメット団に突撃していき、「汚物は消毒だ~!」などと叫んでいる。
私も先生の指示に従い、彼女を囮にして横合いに回る。移動の最中にちらりと後輩たちとモエの様子を見る。どうやらうまく連携で来ているようだ。ほっとしながら、私も負けてはいられないと奮起しヘルメット団を奇襲する。
私たちとモエに挟撃される形となったヘルメット団は総崩れとなった。弾薬に余裕はあるので、出来るだけ戦力を削るためにも積極的に追い打ちをかける。僅かな残党が逃げるのを尻目に、捨て置かれた銃を簡単に壊して、使い物にならなくする。
塵も積もれば山となる。これで少しでもヘルメット団の権勢が殺がれるのを期待しよう。
すると、モエが声を上げた。
翻訳係と化した先生によると、どうやら勢いに乗って追撃し、ヘルメット団の前哨基地を壊滅させてやろうとの事だ。
「うへ~、おじさんもう疲れちゃったなぁ、いったん戻らない? まだ挨拶も出来てないわけだしさ~」
キャラ的にそんな風に云ってみようかとも思ったが、私自身もそろそろヘルメット団に灸をすえてやりたかったから取りやめた。すると、その気持ちは皆同じだったらしく、異口同音にその案に賛成していた。
それじゃあ早速行こうじゃないかとなり、アヤネの用意してくれた車にみんなで乗り込む。何故かモエは屋根に乗ると云って憚らなかった。仕方なく自己責任と云う事で許可してやると、彼女は車によじ登りそこに胡坐をかき、いつの間にやら用意していたお茶を啜りながら、私たちを急かす。昆布だし効いてるよ、かつおと昆布の合わせ技だとか、良く分からない歌を歌っている。聞いてみると、飲んでいるお茶の歌だそうだ。かつおと昆布のお茶は不味いと思うのだが、意外にそうでなかったりするのだろうか。
考えても良く分からないという事しか分からないので、すっかり諦めてないものとして扱うことにした。車を走らせると、暢気な歌声が切羽詰まったものになり、しまいには悲鳴になったような気もしたが、きっと気のせいだ。なぜって屋根の上には何もいないのだから。アヤネが通信越しに、悲鳴が聞こえると心配してくれたが、それも気のせいだ。第一車の屋根の上に人が乗っているなんて、まるで下手な怪談の様じゃないか。まだ夏には遠いのだから、彼女の心配は杞憂だ。
そんな風に説得していると、目的地に着いた。ここからは歩きで基地へ向かうのだ。モエは屋根の上でグロッキーになっていた。
「グロッキー、だらけポケモン。インド象を食べる事がある。生き別れた母親を探し、ベッドから目覚める事は無かった(断定)」
ほざく彼女を引き起こし、少し休憩させた後に、我々は出発した。
歩く。歩く。いったいモエがいつどこで何を云うか知れたものでは無いので、何となく恐怖を感じる。だが、彼女も場の空気と云うものは弁えているのだろうか。ついに余計な事は云わず仕舞いで、基地の周囲に到着した。
アヤネによると、敵も我々が接近していることに気付いているらしい。ヘルメット団の数は25人程。少し厄介そうなリーダー格は一人だけ。先生の立てた作戦は簡単だ。ドローンの爆弾などを使い、敵を混乱させた間にリーダーを討つ。その後は士気を失った敗残兵を掃討してゆく。単純明快で素晴らしい。
アヤネにどの位置を爆発させれば一番効果的かを計算してもらい、ドローンで空爆する。練度の低いヘルメット団は、右往左往としている。私たちは上手くヘルメット団を二分すると、リーダー格のいる方へ遮二無二突撃した。互いの死角をうまく補い、ヘルメット団を蹴散らしていく。弾薬の消費量など気にせずに、ただひたすらに撃ちまくる。特にセリカの活躍が目覚ましい。恐ろしい速さでリロードをし、鬼神の如き迫力でヘルメット団を打ちのめしている。手が攣りそ~と半べそを搔いているのは御愛嬌だ。たまに飛んでくる先生の指示に従っていると、ヘルメット団はすぐに壊滅した。後は残党を片付けるだけだ。
分断されたもう一方がようやっとこちらにやってきた。ここまでくると、攻めてくるヘルメット団に迎え撃つ私たちという、いつもと同じ構図だ。
油断する事がないように気を付けながら、残りを各個撃破する。大抵はショットガンを一、二発撃ち込むと、すぐに倒れるので楽に終わった。モエはヘルメットを踏みつけながら、「キヴォトス人のDNAに感謝しろ!」と叫んでいる。彼女も銃弾を食らってはいたのだから、感謝すべきではと聞くと、「たし蟹、さわ蟹、ずわい蟹!」と云って、ありがとうございますちくわ大明神と平伏した。
そこはDNAじゃないのかと困惑していると、先生が慣れた様子で彼女を回収し、それじゃ帰ろうかと云ってくる。手慣れたその仕草が逆に哀愁を誘う。かすかに抱いた同情と憐憫を先生に向けると、彼はほろりと涙した。
別段さしたる問題もなく校舎まで辿り着いた。モエはトランクに放り込まれていたが、楽しそうだったからいいだろう。
校舎で一度腰を落ち着けた私たちは、改めて自己紹介をすることとした。まずは私たち。書記の奥空アヤネ、作戦実行を担当する砂狼シロコ、お嬢様な十六夜ノノミ、ツンデレな黒見セリカ、そしてこの私、はいぱーな委員長、小鳥遊ホシノだ。
続いて、シャーレ陣営の自己紹介だ。先生、シャーレの先生。以上。
少しだけ流れた沈黙を破り、モエが名乗りを上げる。
ファンファーレを吹きながら、「呼ばれず飛び出ずパンパカパーン!
沈黙、静寂。その後に、彼女は「むむむ」と唸って、何がむむむだと小さく口の中で呟く。そして、「17歳、ぴっちぴちの一年生でぇっす! つい最近まで刑務所にいたけどドーゾ夜露死苦」と再び元気に声を上げる。その段になってようやく私たちも彼女に乗っかり、何とか場の空気を戻す事が出来た。というか、彼女は犯罪者だったのか。先生は彼女を悪い人ではないと云っていたが、何というか、その、納得してしまった。まあ、ここキヴォトスでは、それこそ犯罪者だなんて星の数ほどいるのだし、ちゃんと刑に服しているだけいいのかも知れない。
だがその後、セリカの失言をきっかけとし、先生に借金の問題を知られてしまった。セリカはいまさら大人を信じられるかと吐き捨て出ていった。折角ちょっといい感じになった空気は台無しだ。私とアヤネは先生に事情を説明し、これからは借金返済に注力できるのだから、もう心配はいらないと云う。
すると先生は、自分ももう対策委員会の一員だ、見捨てる事は出来ないと決意を表明した。何とも変わり者だ。だが、頼もしいことは確かだ。
その後、帰路に就いた私は、改めて先生について思いを巡らす。まず、彼が信頼できるか。感情論では、当然是となる。校舎の興亡この一挙にありとまで追い詰められた時に、白馬の王子もかくやと云った様子で現れたのだ。これが物語ならば、アビドス校舎と幸せなキスをしてエンディングだ。いや、もしかすると私とキス、いやいや、不公平だ。対策委員会全員でのハーレムエンドだろう。
それはともかく、では理性で視れば、どうか。こちらでも、是となるのだ。まずそも、我がアビドスにいかなることをしようとも、先生に利が無い。例えばヘルメット団と共謀してアビドスを支配するとして、まあ何か私には良く分からない作戦でこれが達成されたとしても、アビドスは砂だらけの何にもない砂漠だ。もっと他にやるべきところがあるだろう。
例えばアビドスの全員を手中に収めてやるぜぐへへと云った魂胆があったとしても、人数は少ない割に解決しなければならないことが多すぎる。たとえ不思議パワーで私たち全員が先生にメロメロになったとしても、それでも私たちはアビドスから離れようとはしないだろう。例え先生が、私たちがそれ程アビドスを愛していると云う事を知らなくとも、それでもどんどんと砂漠化が進行し、ヘルメット団と云う賊徒に襲撃を掛けられ、今にも存亡の危機にあると云った状況の学校をわざわざ選ぶだろうか。少なくとも私だったら、もっと大きくて楽に落とせそうな学校を選ぶ。というか、そのような目的があったなら、モエを連れてはこないだろう。彼女が来たのは先生にとっても予想外だったらしいが、それならさっさと追い返せばいい話だ。少なくとも私ならそうするだろう。彼女は居ても、金の矢を射るエーロスとはなりえない。
もっと悪意的に考えてみよう。例えば、先生は私たちに多大な恩を売り、盲目的にさせ、私たちを都合の良い鉄砲玉にするつもりだったと考えてみる。しかし、それも無理のある話だ。私たちが頼んだのは、あくまでも物資の補給要請であり、借金の存在は先生は知らなかった。公にしていないのだから当たり前だ。まあつまり、洗脳出来る程の恩は売れないのだ。今の状況ならそれもどうか分からんが、少なくとも先生の視点では、ついさっきまでそうだった。優先度が低いのだ。そのような状況で、わざわざ身の危険を冒してまでアビドスに来るだろうか。
だいぶ私にとって都合の好いように考えている節もあるが、まあ全体として先生は信ずるに値すると、そう私は思う。きっと、彼は私たちを助けてくれるだろう。きっと、彼はアビドスを、何か、鉛のような重苦しいものから解放してくれるだろう。そんな風に期待する。
モエについては結局考えないまま、私は家に帰った。
''(/ω°)<最早完全にギャグマンガの住人でござるな