ブルーアーカイブ_メインストーリー_Low%RTA_19時間11分45秒   作:蟻広

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名前が紛らわしいのでここにのっけときます

ほもちゃん→萌え萌えのモエちゃん
同行者ちゃん→ボッチのモノちゃん
元正実モブちゃん→モコモコのモコちゃん
皆もから始まるのはモブのモと云う事ですね。まあ偶然なんですけどね。


間狂言(インテルメディオ)2 ―― 星は沈めどまた昇る。

 モエと知り合って一週間ほどが経った。

 彼女は何故だかよく私になつき、休み時間ごとに話しかけてくる。私は嬉しいのだが、彼女はそれでいいのだろうか。そんな風に聞いてみると、彼女は君には利用価値があると云いかけて、慌てて私もあなたといるのは楽しいよと取り繕った。もはや呆れるほかない。だが、彼女はその言動に反して意外にも博識であり、特にテストなどで欠片も役に立たないことをよく私に披露してくる。まあ、その全てがどこかからの受け売りで、しかも数日後にはきれいさっぱり忘れてまた同じことを伝えてくるなど、お世辞にも彼女の頭は良いとは言えないのだが...

 

 それと、彼女は顔が広い。分かってはいたことだが、ティーパーティーや正義実現委員会にまで面識があるのには驚いた。彼女は個人としてだし、知り合いの人も権力者ってわけじゃないから、別に全然何かできるってわけじゃないんだけどねと云いながら自嘲気味に笑ったが、その行動力がすごいのだ。目を見張るものがある。彼女自身もそれを特別だと思っていた様子だったが、確かに私には到底真似できないものだった。

 

 私はある日、使われていない教室で彼女を待っていた。私に引き合わせたい人物がいるのだという。本を読みながら時間をつぶしていると、遠慮がちに扉が開いた。モエではない。彼女はこんな奥ゆかしい性格ではない。となると、彼女が引き合わせたい人物だろうか。私は扉の方を見る。そこにいたのは正実の黒いセーラー服を着た女生徒だ。後ろにはモエがいる。

 正実の人は何ら特徴のない目隠れ姫カットの、大人しい性格の人だった。……目隠れ姫カットは十分特徴になりえると思うのだが、なぜかここキヴォトスでは目を隠す人が多いため、特徴が無いに分類される。

「え、えっと...その、モエちゃんの友達、我羊(がよう)モコ*1だよ。よろしくね」

 小動物的な、かわいらしい女性だ。

 私も失礼のないように「ご丁寧にどうも、私は道行モノと申します。以後よろしく」とあいさつをして、手を伸ばす。私とモコさんを引き合わせたモエは、満足げに頷いた後どこかへ消えたため、この場にいない。

 

 アーメン。私は神に祈りをささげる。

 私はモエと数日にわたって人並の会話を楽しんだのだが、未だにモエ以外の人とは話せていなかった。それが、その私が、モエ以外の人とも喋れて、しかもどもってもいないのだ。これを神に感謝を捧げずにいられようか。この分では、私のコミュ障というのも、幻想だったのかもしれない。

 

 うきうきした気分になりながら、私はモコさんと言葉を交わす。共通の友人とは実にいいものだ。

 全く接点が無い人同士でも、共通の友人を話題にすることで容易く親睦を深める事が出来る。そして各々の性格などを把握し、もっと踏み込んだ関係になっていくのだ。

 

 ふふふのふ。

 完璧なる計画を腹の中で立案しながら、私はモコさんと話を進める。

 私の完璧な作戦と、紅茶とココアと菓子などのおかげで話は盛り上がり、随分打ち解けてきていた。正義実現委員会という御大層な名目を掲げる組織に所属していては、やはり鬱憤や疑問などもたまるのだろう。私は今、そんなモコさんの愚痴に付き合わされていた。愚痴に付き合わされるとは云っても、迷惑ではない。むしろ愚痴を聞き、酒(は飲めないのでココアだが)を飲みながら煙草(は呑めないのでココアシガレットだが)を燻らせて友を慰める。嗚呼、何とハードボイルドなのだろう。昔映画を見てからそういったシーンには憧れていたのだ。

 

 そんな訳で私は出来るだけかっこつけて、モコさんの愚痴を聞いているのであった。彼女は胡乱気に私の方を見てから、「そもそもさ、実際やってることって不良ちゃんを捕まえたり持ち物検査するくらいなの。それにせーぎせーぎって云うけれど、なんだかよく分からないお偉いさんのいこーとかのせいで犯罪者を見逃すこともあったしさ、もう、良く分かんないよね」彼女はそう云って乾いた笑みを浮かべた。

 

「……あなたがその任務を通じて誠実に、正しくあろうとするならば、それこそが真の正義ですよ。もしお偉いさんの意向が理不尽だと感じても、それに翻弄されるのではなく、自らの務めを誠実に果たすべきでしょう。それに、世の中の不条理はあなたの価値を損ないませんし、それに負けないあなたの意志こそが正義を体現するのですからね」

 私はもう一度考えてから、「結局、正義なんてふわふわしたもの、ずうっと考えていかなければいけないんです」と告げる。例え草をむしるだけでも正義になる事もあるし、逆に賊徒を何十人と捕えようと、正道を外れることになる場合もあるのだ。だからこそ、せめて正しくあろうと考えるのが最も正義に近いのではなかろうか。

 

 そんなことを語ると、彼女はふわりとほほ笑んで、強いね、モノちゃんはと呟いたっきり沈黙してしまった。

 他者との関わりが薄い私には、この状況を打破する手立てが思いつかない。思いつかないから私も沈黙してしまい、教室には先ほどまでとは一転、重苦しい静寂が満ちてきた。

 

 モコさんは、それに気が付くと直ぐに口調を明るいものに変え、そういえば、モノちゃんは入りたい委員会とかクラブってあるの? と話題の転換を図る。私にとっても嬉しいもののため、素直に今は特にないですねと答える。

 彼女はふわりとほほ笑みながら、「さっきはああ云ったけど、正実はお勧めだよ」と彼女のおすすめの委員会の内実などを披露してくれた。

 

 それからはいろいろな事があった。例えばモコさんがイメチェンと称してショートカットになったり。特にモエの反応は凄まじいものがあった。

 暫らく硬直したかと思うと、髪を撫でまわしたりさんざんやった挙句、モコさんに銃床でどつかれていた。流石にドン引きである。

 

 そんなある日、モエにD.U.に行かないかと誘われた。その日のモエはやけにテンションが高いのでどうかしたのかと聞いてみると、大望が成就したのだと訳の分からん事を云っていた。

 隠れた名店を発見したのだと無駄に変なポーズをとりながら云うモエに、じっとりとした目線を向けながらも了承の意を伝える。ならばさっそく次の休みにという事で、トリニティ自治区にほど近いD.U.の隠れた名店とやらに行くことになった。

 

 その名店は”隠れた”というだけあって、薄暗い路地裏にあるようだ。モエはそんな薄暗い道をスイスイとなれた様子で進んでいく。私もそれに付いて行く。モエは何かを探しているのかしきりにきょろきょろとしている。もしかして、看板なども出ていないほどに”隠れて”いるのだろうか。

 そんなことを思っていると、寂れた店の前でモエは立ち止った。別に民家と見分けがつかないほど隠れているわけではないようだ。

 

「ここが私のお勧めする隠れた名店、月輪堂だよ!」ババーンという効果音が付きそうなほど派手なポーズを決めながら、モエは私にその店を紹介した。店では品のいいアンティーク調の雑貨などが売っている。いずれも私の小遣いで買える範疇だ。

 細々としたものを買った私たちは、そろって店を出る。店主の絶望的なまでの愛想のなさが印象的だった。

 モエは再びきょろきょろとしながら、道を戻っていく。一応注意しておくと、表面上ごめんねと謝って止めたが、その実ひっそりと目線だけで何かを探すことは止めなかった。

 

 一体何を探しているのか、そう訊こうと思った時に、前に人が現れた。見ない制服だがどこの人だろうか。

 すると、モエはいきなり人が変わったようになり、おぼつかない足取りで一二歩進んだかと思えば、銃を構えた。彼女の顔は狂気に彩られ、私はひどく恐怖した。

 

 普段の無邪気さからは想像もつかないほど、彼女の瞳には冷徹な光が宿り、その全身から漂う空気は、明らかに「日常」の枠を超えている。

 そのまま彼女はガーラントの撃鉄を起こし、前の人に発砲した。

 

 どうやら前の人は不良であったようだ。バレちまったら仕方ねえなどと叫びながら銃を取り出し、モエに向かって撃っている。

 私はその光景をどこか現実とは違うものとしてみていた。別に銃撃戦が恐ろしいわけではない。私とてキヴォトスの人間だ。登校時にはぱらぱらという小銃の発砲音をBGMに登校している。だがしかし、心優しいと思っていたモエがこのような凶行に及んだと云う事、心の準備が出来ないままそれに巻き込まれたと云う事。……そして、これが私の初陣だと云う事。

 それらの要因によって私は地面に縫い付けられたように動けず、ただただモエの蹂躙を見るばかりであった。

 

 血潮が飛ぶ。銃撃が日常となったこの世界で、しかしめったに見ない赤絵具が飛んでいく。ぴちゃりと音を立て私の頬に着いた。どこか現実離れした私は、汚れちゃったななどと考えながら血を拭う。

 パアン!

 また一つ、銃声がなった。もうすでに不良は鎮圧されている。だがモエは機械のような冷酷な表情で、執拗に不良を撃ち続けている。銃声と共に肉がはじけ飛ぶ。銃弾はミキサーとなって体内で踊り、そのまま皮膚を貫通する。

 沈黙を保ったままの不良の足や腕などに銃口を向け、彼女は引き金を引く。そのたびに鮮血が舞い、アスファルトを艶やかに染め上げる。血河が私の足元に流れてきた時、ようやく私は意識を覚醒させた。

 

「モ、モエッ! もういいでしょう!? 止めてください!!」ほとんど叫ぶように云い、彼女に抱き着き力づくで止める。だが、彼女の力は私のそれでは止められないほど強かった。蒸気機関車に相撲を挑むようなほとんど絶望的な差だ。私は早々に諦め、ヴァルキューレに連絡を送ることにした。ヴァルキューレはなんとか覚えていたものの、病院に関しては分からなかったため、仕方なくトリニティの救護騎士団に協力を要請した。電話を受け取った人は、「しょうがないですね~。皆、出張しますよ!」と乗り気であったのが救いであろうか。

 

 それからも彼女は執拗に弾丸を打ち込み、丈夫なキヴォトス人であろうと死ぬのではと思うほどの怪我を負わせた。ヴァルキューレが来たのはそれからだ。

 ヴァルキューレが到着する直前に、モエはふらりと倒れ、目はガラス玉のように何の光も映さなくなった。「モエ...?」おそるおそる声をかける。彼女は何も反応しない。体をゆする。なされるがまま。彼女は人形のように首を揺らす。私はその様子に、何かうすら寒いものを抱きながら、ただヴァルキューレの到着を待った。

 待つこと数刻。大した時間ではないものの、何もできないという状況は著しく私の神経を削る。

 ようやくヴァルキューレが到着する。

 

 簡単に事情を説明すると、ヴァルキューレの人は、ご本人から話を聞かなければわかりませんねと呟きながら、モエを揺さぶった。果たしてモエは目を開ける。

 モエの瞳がゆっくりと開かれた。そこに浮かんだ光はいつもと変わらないように見える。だがしかし、彼女の表情にはどこか曖昧さが残り、焦点の合わない視線が宙を漂っている。ヴァルキューレの隊員が問いかける。

「あなたがここで何をしていたか覚えていますか?」

 モエはしばらく無言のままだった。隊員の言葉が届いていのかも定かでないほどだ。しかし、唐突に、彼女の顔にいつもの笑みが戻る。

 

「えっ、何かあったんですか? 私、寝ちゃってたみたいで...一体どうしたんです?」

 その無邪気な口調に、場の空気が一瞬固まる。ヴァルキューレの隊員は疑念の色を隠せず、冷静な声で再度尋ねる。

「では、この血まみれの状況について心当たりはありませんか?」

 モエは驚いた表情を見せ、足元を見下ろした。その瞬間、彼女は声を上げた。

「えっ!? な、なんでこんな、しっし死んで...!」

 その反応に、一同はさらに困惑するばかり。モエは今にも死にそうな土気色の顔をしたまま、唇を震わせて云った。

「じ、実は私、昔、本当に昔に、記憶がなくなることが、何度か、あったんです...小学生くらいの時に。そして、その時は決まって周りで猫とかが死んでいたんです...でも、本当に、最近はこんな事は無くて、、私、私.」彼女はそこまで云った後、とうとう堪え切れなくなって泣き出した。

 

 頽れた彼女の嗚咽が響く中、我々は困惑したまま顔を見合わせた。

 その中で、ヴァルキューレの隊長格の生徒が、ハンカチを差し出しながら、「モエさん、辛いでしょうが何卒我々と一緒に来ていただけませんか」と努めて優しく微笑みかけた。モエは涙に目を腫らしながら、幼児のように何度も頷いた。ヴァルキューレがモエの腕を引っ張って立たせる。

 

 ヴァルキューレがモエを連れて行く。それを見ながら、私はモエに対して云い様のし難いおぞましい気配を感じていた。私はその場に取り残され、足元の赤黒い惨状をただ呆然と見つめる。モエの背中に漂う影は、何か恐るべき存在を如実に表しているように思えた。

 

 救護騎士団が到着したのは、そのすぐ後だった。

 委員長はこれは酷いですねと顔をしかめた後、てきぱきと指示を出し、自らは応急処置を行っていた。何があったのかを聞かれたので、私は簡潔に騎士団が来るまでの経緯を話した。騎士団の人はなるほどと頷いたっきり沈黙してしまったので、私はモエについて何か分かる事は無いかと聞いた。彼女は本当は良くないんですがと口の中で呟いてから、「乖離せ……あー、二重人格だとか...あとはまあ、何かトラウマがあって、それが原因だとかですかね」と云った。その後に、「まあでも、結局ちゃんと診断しないことにはわかりませんし、それも誤魔化す方法とかありますからねぇ。現状分かる事は殆どありません」と続けて、会話を打ち切った。

 

 ヴァルキューレにこの後どうなるのか聞くと、事情聴取があってその後に解放されるのだと云う。大分長引くと忠告されたので、ご飯を用意した方がよさそうだ。残金を確認するとギリギリ夕食が食べれるくらいのお金がある。トリニティの物価が高いだけなので、充分に昼食夕食は買えるだろう。

 その後、別段することもないのでただ座って待っていた。一旦落ち着いても、頭を過ぎるのはやはりモエの事だった。

 彼女はどうしてしまったのだろう。やはり騎士団の言うように精神病を持っていたのだろうか。自分は俯いたまま、手を組んでどうか彼女に安寧のあらんことを、と祈った。そのうちに、いつの間にかモエを連れて行ったヴァルキューレが帰ってきた。彼女はどうしました、と誰かが聞いた。「拘置所に拘留しました。今は精神科医による診断を受けているでしょう」と、戻ってきたヴァルキューレが言った。

 

 宜しいと頷いた隊長は、くるりと私の方に向き直り、では、お手数ですがご同行願いますよと呼びかけた。私は黙って頷いた。隊長は優しく微笑み私の方へ来て、ハンカチを手渡した。困惑していると、頬を垂れる水滴があった。一気に何年も幼くなったような錯覚を覚えながらも、はらはらと涙を流す。渡されたハンカチを目に押し当てながら、私は隊長の手に引かれる。

 モエの事、これからのことが頭を巡り、どんどんと気持ちが沈んでいく。それと反比例するかのように、どんどんと涙が溢れてくる。

 もはや抜け殻のようになっていた私は、さぞ苦労させたろう。気がつくと、私はヴァルキューレの取調室の硬い椅子に腰掛けていた。

 そのまま矢継ぎ早に行われる質問に、私は何も考えることなく、殆ど条件反射的に答えていった。何度も同じような事を聞かれ、すっかり夜も更けた頃にようやく解放された。開放された私は、殆ど見えない星空を茫洋と見ながら、モエとの生活が完全に、そして決定的に失われたことを知り、また涙した。

 

 その後どう帰ったのかは覚えていない。ただこれからの事だとかモコさんの事だとか、それから冷えた牢屋に居るだろうモエの事だとかを思っていたことは覚えている。

 家に着くと、今まで忘れていた腹の空き具合を腹の虫に自覚させられた。己の浅ましさにまた涙しながらも、それでは腹が減るばかりだったのでパンを頬張った。パンは何時までも口の水分を吸い続け、大変に不快であった。

 

 翌朝になって、登校する気力はなかったが、モコさんへ説明せねばという半ば義務感の様なもので体を動かした。

 予習はしてあったので、授業は寝て過ごした。BDは教材としてはいまいちだが、睡眠導入剤としては世紀の発見に値するのではなかろうか。そんなことを考えているうちに、早放課後になった。早速モコさんに会うために正実へと向かう。

 面会の意志を伝えると、すぐにモコさんが飛び出してきた。彼女は疲れた顔をしながら曖昧に笑い、モエちゃんの事、聞かせてくれる? と静かな調子で云った。

 私は案内された部屋で、ココアを飲みながらゆっくりと私の知ることを全て語った。推論も、所感も、すべてを伝えた。モコさんは紅茶を一口口に含むと、硬い声で感謝を告げた。何となくそうせねばならないと思ってひしと抱いてやると、驚いた様子だった彼女はそのうち声を押し殺して泣き出した。その様子を見ているうちに私まで悲しくなったので、私も涙を流してわんわん泣いた。

 

 暫らくすると、泣き止んで落ち着いた彼女は、私をやんわりと押し戻して、ハンカチで目を拭った。彼女はそのまま別のハンカチを私に手渡し、赤くなった目を細めてにこりと笑った。私は淑女とは複数枚ハンカチを持っているのかと、奇妙なところで感心した。そのうち涙も止まったので、私は渡されたハンカチで涙を拭った。ハンカチが使えなくては困るだろうと、私のハンカチを渡してやると、彼女はふわりとほほ笑んで、ふふ、それじゃ交換だねと呟いてから、それじゃあねと去っていった。

 

 私はもう正実に用はないためそのまま帰った。家に帰るとなんだか寂しくなってまた泣いた。果たして私はここまで女々しかったろうかと思いながら、昨日の反省を踏まえて粥を煮た。粥を食っていると、インターホンが鳴った。私に用のある人は思い浮かばない。いったい誰だろうと思って出てみると、そこにはヴァルキューレが立っていた。驚いて何用かと尋ねると、先日に関することで報告があると云う。

 玄関ではなんだからと、部屋に上げて紅茶を入れる。マグカップにティーバッグとお湯を注いだだけだが、彼女は美味しい美味しいと飲んでいる。その仕草にほっこりとしながら、さっそく本題を切り出す。「それで、結局モエはどうなるんでしょうか」

 彼女も表情を切り替え、辣腕刑事と云った相貌で「それに関してですが...まず、容疑に関しては物的証拠、状況証拠からしてまず間違いありません」私は自分用に砂糖をたっぷりと入れたココアを飲みながらも、案の定な結果に絶望の苦い味を感じていた。

「それと、モエさんに対して精神鑑定が行われたのですが、結果は白。本当に彼女は何も覚えていませんし、本気で自分の記憶が飛んでいる間に起った現象に恐怖してます。それと彼女はこういうんですよね。出来るだけ長くここに置いておいて欲しい。こんなこともう繰り返したくないって」

 私はガツンと石で頭を殴られたような衝撃を覚えた。だが、気持ちは分からんでもない。制御不可の暴力装置が自らに備わっていると分かれば、私だって身を隠そうとするだろう。非情な面もあるものの、その本質は優しいモエの事だ。その思いも人一倍だろう。「そう、ですか..」私は何といって良いのか分からず、とりあえず曖昧な言葉でお茶を濁す。そのまま俯いてココアを啜っていると、ヴァルキューレは声を一段張り上げて、「彼女を出すことは叶いません。しかし、面会ならばできるでしょう」と切り出した。

 なる程! 盲点であった。私はもはや二度と彼女と目通り叶わぬと思っていた。だが、面会という形であれば、制約は付くものの、また会うことも言葉を交わす事も出来るのだ。

 ヴァルキューレはそれから、この日に面会が出来ると云う事を言い残して去っていった。

 

 翌朝になって、私は昨日より心持ち元気に登校した。そのままBDの授業を聞き流して、正実に向かう。モコさんは未だに疲れた様子だったが、私を見てふわりと微笑んだ。私は興奮しながら、「面会です、面会ですよ! ○日のこの日に、面会が出来るんです!!」と声を張り上げた。彼女は目を見開いてから、ああ、確かにと呟いた。そしてそのまま目を細めながら、それじゃ、差し入れでも選ぼうかと私を誘った。

 

 私とモコさんは連れ立ってモエへの差し入れとして、細々としたものを購入した。本やらお菓子やらが中心だ。そんなものを用意しているうちに、早面会日となった。面会に現れた人は、私、モコさん、それとわずかな人達だけだった。

 モエが現れる。彼女ははらはらと涙しながら云う。「モノちゃん、モコちゃん、それに、みんな...う、ううっ」言葉の途中で彼女は咽びかえって顔を覆った。その光景を見ていると、いつの間にか私も涙を流していた。彼女は、嗚咽しながらも必死に声を震わせて言葉を紡ぐ。「私、本当に覚えてないんだ。怖いんだよ。私がみんなを傷つけるかもしれないことが...」

 

 モコさんが、モエと私たちを遮るアクリル板に手を当てながら「出来るだけ早くここから出してあげるよ」と宣言する。そのまま「私はあなたのお師匠だよ? 大丈夫、貴方が私を傷つけることはあり得ない」と断言する。モエは顔をあげて乱雑に拭い、ニコリと微笑んで「悪いけど、その話には乗れないよ」と云った。モコさんが悲痛にどうして!? と叫ぶ。「どうして!? 私は、私は貴方にいて欲しいんだ...一緒にいようよ」モコさんの沈痛な、心からの叫びが面会室に満ちる。

 モエはそれを見て一瞬表情を歪ませた後、「一緒に? 随分と綺麗ごとがお好きだね」とモコさんを嘲笑するかのように云った。モコさんは目を見開いてモエを見る。「綺麗ごとじゃないよ...」とモコさんが力なく呟くも、モエはニタニタと嘲笑いながら「あー、あー、止めてくれるかな? そうやって泣きながら説得力の欠片もないことを繰り返すの。私はここから出ない。抑々なんで私がここにいるのか分かっているの?」と彼女を執拗に攻撃する。私は何もできずにただ立ち尽くすことしか出来なかった。

「私は、ここから、出ない。出たいのならまずあなたから出れば?」お出口はあちらですよと私たちが入って来た方を指さしながら、モエはにこりと笑ってこう云った。「だから悪いけど、その話には乗れないよ」

 モコさんは涙を流しながらもういいと叫んで去っていく。私は掛ける言葉も見当たらず、すべての歯車が狂いだしたあの日を再現するかのように、ただ立ち尽くすだけだった。私ははらはらと涙を流す。モエが何か言っているようだが頭に入らない。ただモエの様々な行動が頭をめぐり、それが私の胸に深い疑念を残していく。いつの間にか面会は終わっていた。私は結局一言も話す事が出来なかった。涙を流しながら帰宅した私を待っていたのは、モエが面会を全面的に謝絶していると云う情報だった。

 

 私は枕を濡らしながらモエの凶行について考える。普通に考えるのならば、ただ私たちを傷つけたくないから近づかないようにするためのものだ。だが、それでモコさんを傷つけては本末転倒ではないか。私は彼女の考えが分からなくなった。もはやすべてが演技で、あの凶行を行っている時が彼女の本性なのではと云う気さえしてくる。そんなことを考えているうちに寝てしまった。

 朝起きると、私の無駄に頑丈な体は、元気いっぱいになっていた。この時ばかりは自らの肉体を恨めしく思いながらも、私は登校する。廊下で偶然モコさんと出会った。彼女は目を腫らしながらも、私を見て駆け寄ってきた。

 私は彼女を慰める。「モコさん、きっとモエも万が一にもあなたを傷つけたくなかったんですよ」

 そう告げると、モコさんは一瞬だけ驚いたように目を丸くしたが、すぐにふっと笑ってくれた。そうだったら、いいんだけどね...そう力なく言う彼女に、私は無力だった。何せ私自身、モエを信じ切れていないのだ。

 

 それでも日々は過ぎていき、モエとの日々も色褪せていった。ある日、私は正実に加入した。私は弱いうえにビビりなため戦闘にこそ向かなかったが、事務能力は評価されたようで、裏方に回された。同期のハスミさんという方は、事務も戦闘もピカ一という恐ろしい人なので、その人を手本として日々修練している。

「モノちゃん、これ頼んでいいかな?」「あっ、はーい」

 それと、一つ驚いたのは、モコさんが意外...といったら失礼かもしれないが、ともかく私の予想などをはるかに超えて強かったことだ。私の同期のツルギさんと云う鬼神のような人には及ばないらしいが、それでも大きな正実内で、トップテンには入るくらいの実力があるらしい。ちなみに一時師事もしたのだが、才能が無いと断じられたため、私の戦闘能力は未だミジンコレベルでしかない。哀しいことだ。こちょこちょだけで完封された時にはさすがの私も諦めがついたのだが。

 

 入学当初からは考えられないほど充実した日々を過ごしながらも、私はモエの事はたまに思い出すだけになった。モコさんも卒業してしまったそんなある日、私と後輩はココアの所有権を争って取っ組み合いをしていた。

「あーっ! すいません、なまこきました! なので離してください、大丈夫、話せばわかります!! 分かりますから離してください!!」後輩はうるさいっすよーなんて嘯きながらココアを啜る。「あっー! それ私のココアなんですよ!? お願いですから離してください!」私は必死に叫ぶ。当然だ。私のココアの命の危機なのだ。私が救っておいしく頂いてやらなければならない。それが先輩の義務と云うやつだ。

 後輩は「はいはい、分かりましたっすよ──「はっー! 馬鹿ですね!! ここで私を離したのが運のつき。さあ、ここからは私のターンで──あっー! すいません! ほんっとすいませんでした!!」

 哀しいことに私は、年を経るごとにどんどんと強大化どころか、逆に弱体化していったのだ。後輩相手に無様をさらしながら、私は息も絶え絶えに床に蹲る。すると、また別の後輩が私を呼ぶ。「モノせんぱーい、居ますか──うわ、何やってんですか汚いなあ」……その後の罵倒に関しては全くもってその通りのため、甘んじて受け入れる。「先輩、どうやらここキヴォトスに、おっそろしい権力をもった先生が来たらしいですよ。前に言ってた先輩の悲願とやらもその先生なら叶えられるんじゃないですか?」

 

 そ・れ・だ

 

 私の脳裏にモエとの思い出が蘇る。ほとんど色褪せていないことに我ながら驚きながらも、私は遂にモエを助けられるという事実に胸を躍らせた。なんでも前評判によると、その先生はとても頼りになる、生徒の事を第一に思う人とのことだ。連邦生徒会の云う事だからまず間違いないだろう。なによりモエも二年間も檻の中にいたのだ。しかもその間に例の精神病は一度も発症していない。

 

…それで、あなたを頼ったのです。

 私は、大体以上のようなことを先生に語った。

 彼はただ深く頷いて「私に任せて」と云った。

 私は何故だかその単純な動作だけで、もう安心なのだと、そう確信した。

*1
正義→義→羊我→我羊




モノちゃんが舐められてるのは昼行燈とかではなく、マジです。これは私の性癖です。後ブルアカに後輩から舐められてる生徒が思いつかなかったので、モノちゃんにはそうなってもらいました。
舐められる要因としては弱いのもそうですが、連邦生徒会の言うことだからとすぐ信じちゃうような頭のぽわぽわ具合のせいもあります。
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