龍血の一族   作:流々毎々

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主にゲームと設定資料集を参考にしました。結果、4人のキャラの口調が分からなかったので皇女の婚約者君が代わりに生き残ってたらを焦点にして書いてます。婚約者君もこんな感じかな?というイメージですので解釈違いでしたら申し訳ありません。


生き残った王子編

 

遥か昔。古の創生の時代。未だ支配者が決まらぬ混沌の地では大いなる勢力同士が止まぬ争いをしていた。

 

神々の軍勢を率いる白神プリマテス。そして龍の群勢を従えるもっとも巨大な古龍アトゥルム。抗う術を持ち合わせない人類種は彼等の戦いに翻弄されながら時には祈り、時には畏怖を抱きながら身を隠しその終わりを待った。

 

そして互いの生存を賭けた戦争はプリマテスがアトゥルムの体に自身の武器を突き立て、かの龍を下す事によって終わりを向かえる。

横たわったアトゥルムの巨大な身体は後に人々が暮らす大地へと変わり、プリマテス達もまた戦いによる傷を癒すために空へと昇り大地を見守る二つの月となった。

 

争いしかなかった混沌の地はアトゥルムの体によって大陸となり、突き刺さったプリマテスの武器が龍の亡骸の不浄を清める。今では大地に生命が溢れ白神を信仰する聖王家を中心に発展し繁栄を迎えていた。そして古龍アトゥルムを守護龍とし崇めていた龍血の一族はそんな人々から迫害を受けつつも、それから逃れる為に辺境の地へと身を隠し細々だが平和な生活を過ごせる様になる。

 

お互いの交流がほとんどなくなり半ば不干渉になりつつあった両者だが、創生の時代が皆の記憶にしか残らぬ程に時が経った現代で再び交わる事になる。

 

血と怨嗟と復讐の狼煙と共に…

 

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 燃える。燃える。全てが燃えて行く。

 抗う者を許さず、逃げる者を追い掛けて、許しを乞うものを踏み潰す。大地を血に染め、築き上げた歴史を業火で焼き尽くす。

 

 文明と生命。二つの命を刈り取る侵略行為。なぜ?どうして?と問いを上げれる者はおらず、例えそれを聞く者がいたとしても答えを知る前に騎士達が掲げる剣でその命を散らす。

 

 故にその光景は地獄であった。

 

 老いも若きも殺し尽くす騎士達に宿るは白神への信仰と聖王に対する忠誠。それを胸に宿す内はどの様な凶行であったとしても彼等はやり遂げるだろう。

 それが騎士達の理念であるならば。

 

 彼等の行いをただ見届ける騎士が一騎。全身を鎧で包み、両刃二刀を繋げた巨剣を空へ掲げて言葉を発する。

 

「龍血の一族。滅ぶべし」

 

 やがて彼等の蛮行は終わりを迎える。ただ一人を除いた土着の民を皆殺しにする事によって。

 

 後に残ったのは死と血で汚れた大地と燃えて灰燼(かいじん)しか残らぬ力辱を受けた(さと)の姿のみである。

 

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 故郷を離れ旅路を終えて龍血(りゅうけつ)(さと)に帰って来た若者、王子(プリンス)はその光景が信じられなかった。目に映るあらゆる物が踏み潰され見知った顔の一族の人間が酸化で濁った黒い血の上で倒れ伏す。

 

 暫く時間が経ち据えた匂いが肺を満たし、風に乗った燃え(かす)が自身の頬を撫ぜて漸く龍血の郷が何者かに襲われたのだと王子は悟った。

 

 誰が一体なんのために?と考える間もなく彼は二つの足を駆け出して生き残りがいないかを探す。

 

「誰か…誰かいないのか!?僕だ!王子が帰って来たぞっ」

 

 彼は喉を枯らしながら必死になって叫ぶがその声に応える者はいない。やがて体力が尽きもう走れなくなる程に肩で息を荒げる様になってから王子は理解する。

 

 もう自分を残して龍血の郷に生き残りはいないのだと。

 

 瞬間、彼の瞳から滂沱の涙が溢れる。ショックで遅れていた感情が脳へと届き、奈落の様な深さの悲しみが彼を襲ったのだ。

 枯れた喉では上手く叫ぶ事が出来ず手負いの獣の様な唸り声を上げて彼は地面に(うずくま)った。

 

 この様な不条理を何故僕らが受けねばならぬのか。僕たちが一体何をしたのかと言う嘆きと共に、王子の頭の中は郷で朽ちた同胞たちの姿で埋め尽くされる。

 

 若者の中の年長で皆の頼れる兄貴分であった戦士。口数は少なくとも誰よりも真面目で誠実だった少年の忍び。龍血の郷に置いて既に失われかけている魔法と言う技術を唯一扱えた親子の魔女。

 

 そして自身の婚約者であり最も愛すべき存在であった族長の娘の皇女。

 

 郷を出る前、彼等はまだ生きており王子に軽口を叩いて無事に帰ってこいよと言ってくれていた。

 彼もまた土産話には期待していてくれと返したのが昨日の事のように懐かしい。

 

 年長同士であった戦士とは良く郷の行末に付いて話し合っていた。それなりに平穏に暮らせる様になったとは言え、まだまだ龍血の一族への迫害は強く魔物の脅威も軽視出来ない。だからこそ若手筆頭である自分達が家族を導いて行くんだと固く誓い合った。

 

 忍びとは気質が合っていたのか一緒にいて気楽に思える友人だった。互いに多くを語らず、されども不自由しない中。ただ静かに過ごせる時間が至福だった。

 

 失伝しかけていた龍血の一族の魔法を使い熟し、日々それらを後世に残そうと努力する魔女は尊敬に値する人物たちであった。初めて見た魔法は素晴らしく目を輝かせながら感動した王子に彼女たちは照れながらいずれはもっとすごい魔法を見せると息巻いていた。

 

 そしてこの世で一番大切で何よりも愛していた皇女。彼女に愛の誓いを立てた時、王子はどのような困難や脅威に晒されようとも必ず貴女を守ると約束した。

 それは若者特有のありふれた言葉だったかもしれない。だが彼からすれば一生に一度の宣誓だった。彼女はその誓いに満面の笑みで(はい)と返答してくれた。

 

 しかし死んだ。心を通わせたみんなは死んでしまった。

 

 王子はただ突然龍血の郷に襲い掛かった理不尽な不幸に嘆き悲しむ事しかできなかった。

 

 と、その時。

 がさりと何かが動く気配がした。それに気付いた彼は慌てて項垂れていた顔を上げる。

 

 よもや自分が見逃しただけで郷の生き残りがいたのではないかと僅かな希望を宿した王子は、涙で滲む視界を晴らす為に慌てて目元を手の甲で拭った。

 

 しかし視界が開けた王子の目に映ったのはまた新たな災難であった。

 

 音の正体は魔物。この広大な大地に生息する数いる原生生物の一種だ。魔物と呼ばれるだけあって多くは人類種と相容れず、出会えば高い確率で両者の間で争いが起こる不倶戴天の敵。

 

 そんな魔物が、龍血の郷で倒れ伏した同胞の体に群がり死肉を食らっていた。

 

 甲殻類を思わせるザリガニの様な魔物が、その骨太なハサミで器用に四肢を解体し千切った腕を口に運ぶ。

 鶏から首と羽を取ったかの様な卵形の二足歩行の魔物が、大きな口を開き鋭い牙でくちゃくちゃと音を立てて内蔵を頬張る。

 子供ほどの背丈に不釣り合いな大きな顔を持つ猫背の猿の様な魔物が亡骸から衣服を剥ぎ取り自分の体に嬉しそうに身に付けている。

 

「はぁ?…え、は?」

 

 その行いを見た王子は思わず脳の思考が止まってしまう。残酷な事だがそれは当たり前と言えば当たり前の光景だった。

 

 既にこの郷を襲った下手人は引き上げており、また亡骸もちゃんと埋葬した訳ではなく野晒しだ。その血と死肉の匂いは風に乗り郷の外にまで流れ出てしまっている。

 

 文明も言葉も持たぬ野生の動物とて馬鹿では無い。

 鼻の効く獣ならそこに餌を求めて集まって来るし、多少の知恵が回る魔物ならその異変に気付き獲物があると悟ってしまう。

 

 安全に獲物に有り付ける状況など、野生で生きる魔物たちにとってこれ程旨い(・・)出来事はない。降って湧いたおこぼれを逃す考えなど魔物たちには存在しないのだ。

 

 王子の眼前。そこには厳しい自然の摂理が再現されていた。

 

 だがそれを受け入れられるかどうかは人によるだろう。

 多くの獣が本能で動くなら人もまた情を抱えて生きる。親しき相手を蔑ろにされて何も感じないまま静観できる者は稀だ。

 

 故に王子が次に取る行動も仕方のないものであった。

 

 突然の出来事にしばし呆けてしまった王子であったが、次の瞬間脳天から足先までカッと熱がほとばしる。まるで体の中から火が噴き出たのではないかと勘違いしそうになる位の怒りが湧き出て来たのだ。

 

「やめろ…」

 

 何の罪もないのに突然正体もわからぬ誰かに命を奪われ故郷を壊され、その上魔物に同胞の亡骸まで辱められるなど王子からすれば許せる事ではなかった。

 

「やめろと言っているだろ!!皆の体に触るんじゃない。化け物共が!」

 

 我慢の限界を迎えた王子は反射的に近くに投げ捨てられていた直剣を手に取り、猛然とものゆわぬ同胞たちを漁る(・・)魔物たちへと走り出した。

 

 その目に怒りを宿しながらも彼の理性が一人で突っ込むのは危険だと冷静な判断を下していた。そして魔物が集まり始めているなら一旦身を隠すべきだと訴えかける。

 

「ガ嗚呼ああぁぁァァァ!!」

 

 だがそんな保身は灼怒(しゃくど)にそまった本能に引きちぎられ、あらんかぎりの力を腕に込めた王子は叩き付けるように魔物へ剣を振り下ろした。

 

「グギャっ!?」

 

 蹲って動かなかった王子を物か何かだと勘違いして警戒していなかったその魔物は、突如として飛びかかって来た彼の凶刃をいなす事ができなかった。

 

 王子の振り下ろした剣はそのまま魔物の肩口に当たり勢いと力を込めた刃は胴体の半ばまで食い込む。

 さしもの魔物も此れには耐えられず血を撒き散らして絶命する。

 

「はあ、はあ…くそっ」

 

 返り血で汚れた顔を拭った王子は殺した魔物の下で同じ様に汚れてしまった同胞の亡骸を見て顔をしかめる。

 

「すまない。魔物の血で汚す気なんて無かったのに。もう少し考えて殺すべきだった…」

 

 乱れた息を整えながら王子は自身の周りを鋭くなったまなじりで睨み付ける。此方に気付いた魔物たちが包囲網を作りながら徐々に彼へと迫り始めたのだ。

 王子の目に見えるだけで十数体の魔物たち。彼等にあるのは仲間の仇などではなく新鮮な食料を発見した喜びだ。

 

 普段から死肉漁りな行動を取る魔物だって食えるのなら暖かく活力溢れる血で満ちた臓物の方がよっぽど好みだ。

 数の優位性もあるが故に、魔物たちは武器を持った王子が相手でも近付くのに躊躇しなかった。

 

 王子には少なからず武芸の心得がある。龍血の郷は辺境の地にあるが故に聖王家が収める中央国家より魔物が蔓延る危険な場所だ。そこで暮らす男であるならば、ある程度の自衛力が必要であった。

 

 また王子は長の娘である皇女の婚約者だ。今はまだ見聞を深める期間だがゆくゆくは郷の代表として龍血の一族を引っ張る若頭になる手筈である。

 

 危険が生活の身近にある場所で、頼りの無いひ弱な者に人は付いてこない。だからこそ次代の族長である王子は並の男より強靭である事を求められた。

 

 これは龍血の一族の代表の娘の伴侶として避けては通れない道だ。幸いな事に龍血の一族は守護龍アトゥルムの加護によって、他の人類種と比べて身体能力が高い。

 

 また王子自身もそれなりに戦う才があり、若者特有の反発感を持って腐ることも無く日々努力をして来た。

 

 その甲斐あってか多少の魔物が相手であっても善戦出来るだけの力を王子は持っている。

 だが今回に限って言えばかなり旗色が悪い。自分を囲む魔物は一体一体は弱いがそれでも群れれば厄介な手合いだ。

 

 さらに血の匂いと騒ぎに釣られたのか他の種類の魔物たちの姿も目に入って来た。その数は中々に油断出来ない。

 

 対して此方は独り。武器も手に持っている直剣のみ。どう見ても不利なのは王子だ。しかし彼に後退の二字はなかった。

 ここで彼が逃げれば残った魔物の興味は再度倒れ伏した同胞の亡骸に向かう。

 

 それを許せる程王子の人柄は冷めていない。そして危機的状況にあっても同胞の尊厳を地に捨ててまで自身に逃走の言い訳を効かせるには、彼は若過ぎた。

 

「来い。化け物共が!僕の家族をこれ以上辱めさせやしない。うおおぉぉォォ!」

 

 命を奪われた上にその死者の安眠まで妨害しようとする。そして後に残るのは魔物に喰われて消化された残りカス()だ。そんなあんまりな結末を王子は許容できなかった。

 故に彼は叫ぶ。こんな現実を認めてなるものかと力の限りを尽くしてこの世の不条理へ反抗する。

 

 世界から見れば波紋にも満たない小さな抵抗。されども全てを失った独りの男が命を賭けて抗うには充分な理由であった。

 

 王子は再度叫ぶ。この世の不完全さを。理不尽を。同胞を殺した怨敵を呪う様に。自分達を蔑み否定する全ての者どもに思い知らせるために、迫害られた者が自然と抱えてしまう忌憚を投げ捨てる。

 

「お前らは殺す!僕の家族を!仲間を殺した奴らも皆僕が殺してやる!許されると、見逃されると思うなよクソ野郎共が!!」

 

 剣をその手に彼は駆け出す。眼前に這い寄る全ての生命を憎みながら、がむしゃらに凶刃を振り回す。

 この日、復讐者は産声を上げた。魔物の絶叫と混じり合ったそれは龍血の郷に木霊しどこまでも鳴り響き続ける怨嗟となる。

 

 血と怒りと憎しみと。戦いによる惨禍で満ちる龍血の郷を、ただ祭壇に祀られた守護龍の像がその瞳を赤く光らせ静かに見届けていた。

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