嵐の吹き荒れる丘より。   作:■■■■■

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これ以上は待たせられないなという事で投下。


第九話 ここでは美甘ネルが安晶レイについて抱いた感想、および任務について語られる

 ──昔々(むかしむかし)、ある(おお)きなお屋敷(やしき)がありました。

 そこはいつまでも(つよ)(かぜ)()いて、ざあざあと(あめ)()りしきり、いつも(かみなり)()ちていたので、いつしか『(あらし)(おか)』と()ばれるようになりました。

 

 そんなお屋敷(やしき)に、ある()(ちい)さな子供(こども)が、(ふくろ)(なか)()められたまま(はい)ってきました。

 ボロ(ぬの)()て、(くつ)()いていない、()るからに(うす)(よご)れたその子供(こども)(ひろ)ってきた当主(とうしゅ)は、お屋敷(やしき)の人たちに向かって「これからはこの()とも(なか)()くしてやってほしい」と()いました。

 

 そうして(ひろ)われ、ヒースクリフと名付けられた子供(こども)は、けれども当主(とうしゅ)以外(いがい)からは(まった)歓迎(かんげい)されませんでした。

 (くろ)肌色(はだいろ)をしていて、(いや)なことがあっても(だま)ってばかりのその子供(こども)姿(すがた)は、(かれ)彼女(かのじょ)らにとってはとても(みにく)()えたのです。

 

 だからでしょうか。その子供(こども)は、当主(とうしゅ)以外(いがい)(だれ)からも手酷(てひど)く扱われました。おもちゃよりも(ひど)く、ペットよりも(ひど)(さま)でした。

 当主(とうしゅ)()に、(だい)()わりしてからは一層(いっそう)(はげ)しくなり、ある(とき)(つい)()えかねたのか、子供(こども)はお屋敷(やしき)から()ていき、姿(すがた)()してしまいました。

 

 子供(こども)()ない(あいだ)に、お屋敷(やしき)()()ててしまいました。

 ()いだ(ひと)が、(みんな)(たい)してあまりに横暴(おうぼう)で、暴力的(ぼうりょくてき)だったからです。

 そのためか、()(びと)も、偏屈(へんくつ)老人(ろうじん)(むかし)から(つか)えてきたバトラー、(あと)はその家族(かぞく)だけになっていました。

 

 そうしているうちに、その子供(こども)(もど)ってきました。

 けれども、恩返(おんがえ)しの(ため)ではありませんでした。復讐(ふくしゅう)のために(もど)ってきたのです。

 そうして子供(こども)だったそれは、ヒースクリフは、(みんな)にやられてきた以上(いじょう)仕返(しかえ)しを(はじ)めました。

 

 ()()るして、地面(じめん)()めて、()きずり(まわ)して、剣先(けんさき)(かが)げて。

 そうしてひとしきり、ありとあらゆる仕打(しう)ちを仕返(しかえ)し、大笑(おおわら)いして。

 

「なんて、お粗末(そまつ)結末(けつまつ)なんだ」

 

 そう()(のこ)したきり、ヒースクリフは、姿(すがた)()してしまいましたとさ。

 (なに)()くなった『(あらし)(おか)』では、無念(むねん)からか(いま)でもその(ひと)たちのお()けが(あらわ)れるそうです。

 

 

 

 これがあたしなりに要約した限りの、『嵐が丘』の内容になる。

 唐突な展開、唐突な復讐鬼への変貌と、話が二転三転もしているので、ミレニアムにある文学研究会でも「他に何かしらの情報があるはずだ」と資料の研究、発掘調査が進められているらしい。

 

 とはいえ、そのままの状態でも、それなりにキヴォトス内じゃ有名だ。純粋に伝説として知られているというのもあるが、それ以上の所以もある。

 一時期に流行した恋愛ドラマの題材として使われ、そこでは主人公とヒロインの悲哀の物語として扱われていたから、というのが大きいだろう(あたしも見た事がある。深くは語らないが悪くは無かった)。

 

 反対に、伝説そのものに嫌われる要素も内包している。

 一つに「キャラクターの個性が強すぎ、そして多すぎる」という事だ。

 なんと言ったって、詳しく描写していないだけで(上のは大まかに表現しただけだ)、本当はより多い登場人物と濃いキャラクター性に満ちているのだから。それに対応できない人がいたって仕方がない。

 二つに、「閉じた世界観」という事。

 つまるに、「治安維持機関に通報してれば良かったじゃん」という身も蓋も無い反論が通ってしまう。全く面白く無い発言だが、その通りになる。

 三つに、あまりに構成がややこしい事。

 前述したが、上の話は端折った内容だ。

 この物語は本来、とあるメイドが過去を語り伝えるという形式で取られたものだ。

 それの何が問題かと言うと、間違った情報を伝えたり、偏見の詰まった視点をとる事がある。わかりやすく言うなら、「信用出来ない語り部」ってヤツになる。

 だから難しい。容易く伝わらないのが、本当に問題だった。

 

 良くも悪くも、その話ってのは話題に上がりやすい。

 ドラマや映画のモチーフとして使われたり、考察のネタ、あるいは内容や構成のディスりにも使われたりする。

 

 だもんで、かの『嵐が丘』──それも当主、つまりは生徒会長に相当する人物がミレニアムに来るってなった時は、そりゃもう大騒ぎだった。

 そもそも実在するはずが無いと思っていた『嵐が丘』があるという事自体に驚いたのもそうだし、その『嵐が丘』のトップが、わざわざミレニアムを選んだというのも──トリニティの方が近いというのに──中々に驚愕する内容だった。

 更に言えば、そんなヤツがC&C──『クリーニング&クリアリング』に加入する、なんて判断をしたと聞いたのだから、そりゃもう余計に驚いたし、どんな出迎えをしようかとも考えた。

 

 そうして、入学式の日になり、本人に会った。それで感じ取った第一印象は、一つ。

 ──まるで年上のように見える。

 

 来るって話題のヤツが新一年生──十五歳だってのは聞いていた。あたしの一個下にあたる。だから、可愛げのある顔だろうとでも思っていた。

 どんな面構えなんだか、少なくともそう(いかめ)しくはねぇだろう、大きい屋敷で育っているらしいから、世間知らずのお嬢様か、はたまた泥んこまみれのお転婆(てんば)か。

 そんな想像でもして出迎えた。

 

 だからこそ、余計にショックだった。

 背丈はあたしより高そうに見える(大体のヤツが高いといえばそうだ)、……いや、きっとリオよりも高い。

 顔にあるのは柔和な笑顔で無くて、代わりに何かを(うと)んでいるかのようなしかめっ面。奥歯を噛み締めるような──下手をすれば割り砕きそうなまでの真一文字の口がより強調させていた。

 内側の素性を一欠片だとて見せようともしない黒革の手袋、目の奥底にある薄暗い感情の炎を隠すような片目のモノクルが、やけに印象に残った。

 

 ──安晶レイは、戦争映画で見た老兵のようだ。

 争うにも疲れ切っていて、生きるのにも目を曇らせていて。

 けれども無意識に、殺す事が「異常」ではなく「作業」として、死なない事が「当たり前」では無く「努力義務」として、苦しむのが当然と諦めたような雰囲気。

 そんな感覚が、レイにはあった。

 接すれば接する度、余計にその印象が補強されていった。

 

 よく見れば髪には僅かに白色が混じっているし、眉間はいつだってシワが寄っている。深くなるのは見ても、解けた所なんて一度も。

 顔さえいつ見ても無愛想で、笑った所など、今まで一度も見た事が無い。

 疲れ切ったような顔、無関心そうな顔、イライラしているような顔。

 真剣そうな顔、妬むような顔、ほんの一瞬だけ見える、泣きたそうな顔。

 表情はそればかりを繰り返している。

 手袋で閉ざされた手はその内側を見た事が無いし、髪で隠された左半分の顔は、通常において見られる事を何よりも強く拒絶する。

 声はいつだって苛立ち、憎悪し、さもなければ無感動的。その三つのいずれかを無意識に選択する。

 聴覚はいつだって鋭く、とりわけ嘲笑のような声音には過敏過ぎるまでに反応する。それだけに止まず、足音、銃声、打突音。本来なら意識しないような音にも。

 何を食べても「美味しい」とは一言も紡がない。食べるのだってあたし達の何倍も早く、胃に詰め込むようにして食べる(仕草が綺麗なだけに、余計に違和を感じる)。

 

 彼女なりに馴染もうとしているのは目に見えているし、あたしもそんな事くらいわかっている。

 だったら進んで昼食の席を共有しようとはしないし、もし嫌なら、あの合理性を好むレイなら、可能な限りさっさと会話をぶった切ろうとするだろう。

 観察する限り、彼女は時間や物資にしろ、極限まで切り詰めなければ問題が生じるらしく、時計、物資の量と質、それを酷く気にする。

 不要な時間は思考するまでも素振りも無く切り捨てる。物資の量が足りなければ即座に補給を要請(もし通そうとしなければ怒鳴り込む)し、質が駄目なら即座に切り替えさせる。

 会話についても変わらず、長話は嫌う一方で、情報のまったく無い会話には呆れと苛立ちを見せ、実にならない会話はストレス混じりのため息を付く。

 そうしないという事は、つまりどうにか融和しようとしているのが明瞭だ。

 

 ただ、本質的に、『私と彼女たちとでは分かり合えない、分かり合えるハズも無い』と、レイの根幹が、あまりにも強い拒絶反応を示しているだけなのだ。

 

 つまるところ生まれてきた世界が、長く育ってきた地域が違ったのだろう。

 今の彼女が絶対的に高いという意味で無く──あたし達の、元の生活水準が相対的に高い、という意味で。

 

「……アイツ、冗談で言ったのなら、ちっとはそれらしく言えっての」

 

 半ば自分を騙すのが目的の独り言で、あたしは頭に過ぎってきた一抹の可能性と胸に突っかえる不安を掻き払った。

 

 今回の目標は、簡単にまとめるとミレニアム・サイエンススクールの試作品、それを現地で徹底的に破壊すること。

 その試作品というのは武器だ。ただの武器というには恐ろしい、殺人さえ可能にしてしまう、……あまりに火力の高すぎるがために封印措置を施された品だ。

 それを盗難され、あまつさえ解析・量産して生徒に使おうと画策している動きが見られたのだ。

 こうなれば最早再封印などと悠長な事は言っていられなくなった。この際現地で破壊して、二度と同じ物が作られないよう、取り締まる必要性が出てきた。

 設計図については既に処分された。製図・製作者も既にキヴォトスから立ち去っているのは確認出来ている。

 だから、後は現物の破壊で終わる。誰が──正確にはどの組織が盗んだかも目処がついている。後はぶっ潰すだけだ。

 

 けれども問題がある。その話は既に向こうにも伝わっていて、やれるだけの人体実験をしようとしている事、撤退するための武力を備えようとしている動きがあった事だ。

 それが意味するのは、早急に、かつ最大火力で制圧する必要が出てきたという事になる。

 

 それを当のレイは「私が潜入します。攻撃合図を出しますので、その時に美甘さんは突入をお願い出来るでしょうか」と、自己犠牲的にも程がある計画を立案した。

 

 理屈だと「人に限らず、獣は牙を見せた瞬間に最も無防備を晒す。その無防備の内に、致命傷を負わせれば復帰は難しくなるだろう」とは言っていた。

 それに、こんな気の乗らない仕事も早く終わるハズだ、とも。

 ──そういう問題では無い。こう言いたかった。バレればどれだけ痛めつけられるかなんて明白だ。その過程でボロボロにされるやもしれない。連絡が間に合わないで、あたしが反応出来ない可能性だってあるのだから。

 けれども、レイの目に据わった合理性、あるいは有無を言わさない頑固さ──それとも怒りかが強く押し出されていたのを見て、「まァ、好きにやってみろ」と、もしそうなっても尻拭いしてやればいいと、考えた。

 ……どうか、成功すればいいんだが。そんな憂いが脳裏に過ぎりながら。

 

 そう考えながら焦れて待っていれば、通信が入った──『牙を見せた、迎撃開始』。

 

「へっ、待たせやがってよ」

 

 口では呟きつつも、いくばくかの安堵が出来た。

 全部を一人で終わらせようとしていなかった──レイには独り善がりをする悪癖があったからだった。

 

 


 

 

「──浄化(ジョンファ)!」

 

 ガラス窓をブラインドごと突破しながら入ってみれば、丁度、怒鳴りながら一人の胸へと釘──それを釘と定義するには大きすぎるけれど──を突き刺したレイが見えた。

 どうやら中で可能性(まどろっこしくて「人格」と呼ぶ時もある)を被り、あたしと協働で大暴れするつもりだったようだ。

 賢いのだか、自暴自棄が上手くいっているというべきか。辟易としたような感情が湧き上がる。

 

 けれど、よりによってソイツか! あたし警戒心をより強く張らせた──敵にでは無くて、『可能性』を被ったレイに。

 見覚えがある。あの『可能性』の彼女には。

 ソイツは『握り潰さんとする者』。

 カイザーPMCの浄化隊なる連中の隊長。その可能性に行き着いた安晶レイだ。

 

「くっ、来るなっ! ば、バケモノ!」

「バケモノ? お前たちがそう仕立てたというのに、どうしてオレをバケモノと称する? ──そうか! その不浄な金属が、お前の思考回路をおかしくしているんだな! そうだ、そうだ! やはり浄化を、不浄な機械全てを浄化せねばなるまいか!」

 

 怒り、嫉み、憎しみ。それ以上の負の感情と狂笑を孕んだ怒号が響いた。

『握り潰さんとする者』の人格はとかく凶暴だ。全ての攻撃に殺意が篭っている。敵意でも害意でも、ましてや悪意でも無い。腕試しで相対したつもりだった、あたしの勘だ。

 これ以上は本気で殺しかねない。そう考え、静かに窘める。

 

「……はあ、何度も言い含めた話をするが殺すなよ? キヴォトスじゃ、殺しは御法度になってるんだからよ」

「そう言われては、……ならば浄化の機会は、また後に」

 

 聞き分けはいいんだけどな。態度こそ従順ではあっても、首根っこを掴んでいない側の腕は引き続き敵の頭に拳を叩きつけているのを見ながら、そう考えた。

 

 ある意味じゃあ、アイツの言い分に無理もないのだろうと、彼女の外観を見て、改めて考えさせられた。

 機械と生身が半々で、完全に機械で構築された左腕。両足の膝から下は様々な機能の内包された金属に置換されている。

 片目はピンクに光るカメラで、もう片方はあからさまに電子的な赤色の目。

 一目で見てわかる、異物。

 見慣れはしたけれども、それでも同じ子供とは思いたくない、けれども生身の部分が否応なしに『目の前のソレはお前と同種の存在だ』と訴えかけてくる、心理の不快感を際立たせる外見をしている。

 

 そこの彼女が辿った可能性のカイザーコーポレーションは、本来の倫理観をどれだけ欠損させたのか。あるいは表出していないだけで極秘裏に進められているのか?

 どちらにしろ、その世界線のレイは、奇抜らしく見えるだけの強さとの引き換えにしては、あまりにも非情すぎる。こうなる可能性は見たくない。

 

 そう考えながら、殲滅作業を進める。

 武器を揃えているだけ、確かに厄介ではある。けれどもそれだけだ。弱い。あたしには敵わない。

 案外あたし抜きでも、それこそレイ一人かアスナだけでもどうにかなったんじゃないのか、などと考えつつ、それはそれで問題がある──前者は人格のほぼ全部が度を超えて過激、アスナは唐突な健忘症で──、と心の中で反論した。

 そうしているうちに穴ぼこだらけで動けなくなった奴らの方が多くなり、終いには残り一人となった。

 ……その一人の様子が、一番おかしかった。

 

「来るなっ、来るなぁ! 来ないでくれ、お願いだ頼む、殺さないでくれぇ!」

 

 怯えるのはわかる。目の前の暴力に身をすくむ事がわからない、なんてのがわからない程薄情でもない。その反対──怯えを受ける経験なら何度だってしてきた。

 

 けれども、ソイツはあまりに怯えすぎている。

 残虐さを見せつけていたのならわからないでもない。あたしは当然殺してもいなければ、致命打を打ち込んでもいない。レイもそのハズだ。

 だのに、どうしてこうも? C&Cに何かしらの風評被害が?

 

「おい、……何怯えてやがる? 殺しもしやしねぇよ、そこまでC&Cが怖ぇか?」

「そんなハズが無い、死にはしない! C&Cなら死に至らしめる程凶悪なものか!」

 

 だったら、より何故? 疑問符が浮かび上がったと同時、壁へと這いつくばっていたソイツは叫んだ。

 

「違う、話が違うっ! あの時に、あの時に『路地裏のネズミ』は死んだんじゃないのかよ!」

「はァ? 『路地裏のネズミ』?」

「なんでミレニアムに、なんでC&Cに! なんで生きて、ギャ────」

 

 呈した疑問に対して一切答えないまま、金属が外側の衝撃でひしゃげた音か、喉の発声機構が響かせた悲鳴か。どっちの金切り声かもわからないまま、ソイツの頭が爆ぜた。

 正確には、高速で飛翔した金属の釘に貫かれた。

 あたしの横を掠めた釘が、正確にソイツの脳天を貫いていた。

 目に喜色は無い。あの攻撃性の高く、大人への暴力に喜色を浮かべる、『握り潰さんとする者』のレイが、ほんの一欠片でさえも。

 ああ、こいつの過去の呼び名で、その上で嫌っているものなのか。直感で理解出来た。

 そうして面白く無さそうな顔つきで万華鏡のようなもの(本人は『窓』と読んでいた)を覗いて元の顔立ちに戻った。

 服装はいつものような、下だけがズボンの制服でも、またC&Cのメイド服でも無い。茶色っぽく汚れたボロ切れを頭まで被っていて、裸足のままの格好。

 普段とは想像も出来ない、薄汚れたと結論付けてしまう様相だった。

 いくら「それらしく」見せかけるにしても、堂に入りすぎているような。問い質したい事を何もかも置いてけぼりにして、一瞬息を飲んだ。

 

「……無言の所に失礼しますが、仕事は終えました。後は確か、品物を破壊すれば良かったはずでしたか」

「ん、ああ、……そうだな。そこはあたしがやっておく、レイは先に着替えとけ。気分も悪くなるだろ、そんなモンを着てちゃあよ」

「まあ、……ハッ。そうでしょうね。それではしばし……」

 

 そう言い、どこか厭世的な笑いを発してから立ち去った。

 

 

 

 ──アイツ、何故こうも嫌そうな感情も、躊躇(ためら)いも無かった。

 静かに、けれども苛立ち混じりに、乱暴に爆薬を設置しながら考えた。

 

 大抵の奴は、あんなボロ切れを着ようともしない。あたしだって嫌に決まっている。例え再現率を上げるにしたって、好んで着ようともしない。

 よしんば着るにしたって、多少の嫌気だって走るだろう。当たり前だが躊躇いもする。何が付いているか分からない。ゴミか病原菌か、最悪他人の体液かもしれない。

 そんなものを、身につけるのも、増してや被るのだって御免(こうむ)る。誰もそれが理由で体調を崩したくも無いし、そもそも汚れなんて肌に着けたがるものか。

 

 ……それを自分自身に容赦する事無く、頭まで被っていた。

 自分がそういうものだった、とでも言いたいように。

 

 見えた腕、脚だってそうだ。

 あれは傷だ。打撲、裂傷、色んなものの入り交じった皮膚。

 それが骨の見えそうな細さで、さらに言えば柔らかさなんて欠片も無さそうな様子だった。

 まるで、今まで虐げられるのが当たり前だった、とでも証明したいように。

 

 ──つまらない悲劇の主役と、レイの姿が重なった。

 最初から薄汚れた子供で、嵐が丘の中じゃ虐げられて、終いには家出して。

 何も叶わない復讐のために暴れて、結局何が憎いのかもわからないまま、姿を消す。

 アイツがその役割とでも?

 

「……認められっかよ、そんな話」

 

 ぶっきらぼうに吐きながら、その場を立ち去る。

 用意した爆弾は既に置ききった。後は巻き込まれない位置にまで離れてから起爆するだけだ。相応の威力はある。まず壊れるはずだろう。

 

「美甘さん。着替えは終えました」

「そうか。そんじゃあさっさと終わんぞ」

 

 そう返事して、爆破のスイッチを押した。

 ごうんと、火柱を立てて大きく破裂した。

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