嵐の吹き荒れる丘より。   作:■■■■■

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今回、かなり短め。ついでにifの可能性のお話でもある。


■■話 ここでは『カイザー・コーポレーション 握り潰さんとする者』の可能性を生きた彼女と邸宅の当主となった■■■■■について語られる

 ──昔から、オレ以外の何もかもが信用出来なかった。

 オレを捨てた両親は当然、捨てられたオレを虚仮(こけ)にし続けてきた大人共も、そんな姿を見て嘲笑いつづけたガキ共も、動物も文明利器もこの都市も──そして銃でさえも。

 オレの顔を焼いた銃というものが、この腐れた社会で当たり前のようにその身を存在させているその武器が、ただただ信用ならなかった。

 そして、惨めな姿にしかなることの出来ないオレ自身を含めて、とりまく何もかもが大嫌いだった。

 その嫌悪の感情は、邸宅からあてもなく逃げ出した──いわば衝動的に飛び出した──あの時から、より一層と強まった。

 オレの親をしてくれなかった肉親が嫌いだ。誰も手を差し伸べてくれなかった大人が嫌いだ。屈託の無い笑顔を一度も向けてこなかったガキ共が嫌いだ。

 動物が嫌いだ、文明利器が嫌いだ、この都市が嫌いだ、銃が嫌いだ──手を差し伸べてくれたのに結局オレを卑賤にした邸宅が嫌いで、オレを貶めたジョウゼフが嫌いで。

 …………ルサンチマンでしかいられないオレそのものが、一秒先すら見通せない衝動的なオレそのものが、貧困なオレそのものが、オレは嫌いだった。

 

 その『嫌い』から目を逸らすように、オレは嫌いな文明利器の全ての画面に映る、ありとあらゆる醜悪を凝視し続けた。

 子を平然とした面で売る親、当然のように悪業を成す大人、己より劣った存在を嘲笑するだけの子供。それだけに尽きず、

 ──いったいどうして、そんな所業を繰り返す事ができようか。仮にも腹を痛めて産んだのだろうに、仮にも子供であった時期があったであろうに、仮にも同じ年齢であろうに!

 どうして自分の子供を簡単に捨てられる? どうして悪業を成しても何の呵責も引き起こさない? どうして誰も彼もが暴力を振りかざして冷笑し続けられる? どうしてオレはこんな世界に生まれ落ちた? どうしてこんな事がまかり通る?

 どうしてこんな世界でオレ一人だけが認められなかった?!

 

「──どうして?(Why?)

 

 思わず呟いた言葉と共に、生暖かく、されど鉄の臭う液体が頬を伝う。

 丸ごと機械に置換されなかった方の、赤色の目は肉体に適合出来ず、時折として瞳と同じ色の涙が流れるようなものになってしまっていた。

 

「どうしてオレは此処(アビドス)にいる? どうしてオレはこんなにも愚かな身(機械仕掛けの身体)に成り下がった? どうして、……どうしてオレだけが、こうも傷付くばかりで、……誰も理由を教えてくれないのか?」

 

 呟いている間も、とめどなく血涙は溢れていく。

 

 何も無い砂漠で余計な一言と共に拾われ、カイザーの『兵器』としての生き方を強いられ、半身は適合率の低い機械仕掛けに置換させられた。それで、砂漠の中の学校──『アビドス高等学校』にいる。

 お陰で身体中が常時重たく、目は見えるけれども不必要な情報ばかりが視野を埋め、四肢は過敏が過ぎて想像以上に動く──既に慣れてしまったけれども。その上で、砂が厄介で、時折(ときおり)隙間に入り込んではオレの気を不愉快にさせてくる。

 これ以上はもう(つづ)るに値しないだろうが、それでも不便は幾つも生じさせられた。

 その間、誰も手を差し伸べてはくれなかった。傷つかなければいけない理由も教えてもらえなかったし、こんな生き方しか未来の無かった理由だって。

 ……どうしてと、呪いを乗せた怒りばかりが、オレを(むしば)む。

 

「──■■さーん、一緒に行きましょうか〜」

「……ああ、わかったよ。少し待っててくれ、時間がかかるんだ」

 

 くだらない事に時間を浪費しているうち、ノノミが来ていた。オレを呼びかける声が聞こえた。

 それに身体の気だるさを乗せて返答しながら、文明の利器の電源を落とし、落涙の跡を拭いて、着替えを始めた。

 

 ──それで、今はアビドスだかの学校にいる。浄化隊の隊長を兼任しながらとの事だった。オレは断る気も起きなかった。返答が面倒だったからだ。

 最低限の偽装さえオレに丸投げしたので、衣服は全て長袖と長ズボンで、手袋も付けた。機械感を隠し切るのが難しい左目は長く伸ばすことで対応した。

 本当に最低限でしかない、どこまでも杜撰(ずさん)なものだと自覚できるが、それでも当時の彼女らは──二人だけだが──、それを「着たい服の自由」と言い、個性であると認めた。

 今や、オレはそこの二年生で、後輩が二人だ。どちらも先輩と呼び慕ってくる。気味が悪い。

 ……余計に、オレが(いびつ)なのだと理解する。本来なら嬉しいだとか、小恥ずかしいだとか、あまり悪い感情は示さないだろうに、オレだけが彼女らの呼びかけに気持ち悪さを感じている。

 そんなオレが嫌いだ。

 それを考えながらも着替えを終えて、玄関の戸を開ける。

 

「……着替え終わったぞ。早く行こう」

「それじゃあ、今日はおしゃべりでもしながら、ですね♡」

 

 歩きながら溌剌(はつらつ)に答える彼女に、オレは幾度となく経験してきた嫉妬心を覚えた。

 彼女とは違う。産まれに恵まれて、ワガママを言っていられて、好き嫌いも、そして仮初の目的も持って生きていられる彼女とは違う。

 所詮オレはノミで、ノノミは人権を持った人間だ。そんな人間がオレを対等に見てくるのが、つくづく腹立たしくて、憎くて、無意識にであろうとバカにしているように見えて、許せなかった。

 本当はアビドスだかの借金も、学校生活も、恋愛話も、友情も、勉学も未来も過去も人生も、──なにもかもがどうでもよかった。

 本当は復讐のためだけに、血反吐を吐きながらオレは生きている。

 カイザーにも、また社会を構築する生物全員にも。ノノミにも、黒見セリカにも、奥空アヤネにも。そして邸宅にも──オレを虚仮にしたジョウゼフにも。

 それのためなら、オレはいくらでも人を踏みにじっていられた。

 浄化隊には真理に見せかけた虚言を嘯いた。「世界は暴力性という病に罹り切っている。故に我々がその罹患者を駆逐し、根源を焼き払い、そして純粋な世界に至るのだ!」とでも。

 そうして権威的に振る舞いながらも、組織の自称を彼女らに決めさせた。軽度の規律を指定し、かっこうの付けた敬礼を自分たちで決定させた。

 人間は特別感を覚えさせ、連帯感を煽れば容易に支配される事に幸福感を覚える。「責任は私が取ろう」「貴方を信じているよ、最初から」「万人は決して貴方の姿になる事は出来ないよ」──二人きりの場で、寄り添うような虚言をほざいていれば、人間はあり方を思想に委ねる。

 

 これで良いのか? ──そう訴えている自分もいる。徒に傷つけられる側、……過去のオレを増やしているのだから。

 だが今更止まったところで、何を変えられようか? 望まれた姿を演じ、暴走させて、その始末をしなければならないのは他ならない自分自身ではないか。それを『良心の呵責』などという理由で止まれるものか。止まってはならない。

 一度巨悪を演じるのなら、自我は殺さねばならない。

 

「どうしました? 少し、浮かなそうですけど……」

「…………何でもないさ……」

 

 無辜の人々の悲鳴に耳を閉ざせ。くだらない復讐心で人の人生を壊したのはオレだ。

 罪人に望まれた姿であり続けろ。ふざけた復讐心でその道を選んだのはオレだ。

 助けられたくても助けを求めるな。みっともない復讐心に駆られて実行したのは他ならぬオレそのものだ。

 

 

 

 だから、これは因果応報なのだ。

 

「……なん、でっ、──なんで、戦わないといけないんですか、私たちは!」

「それを世界が望むが故に! 我らは浄化せねばならぬのだ、……我らは世界に蔓延る不純を絶たねばならぬ!」

「難しい事ばっかり言って誤魔化して! そんなもので、私たちが納得する訳が無い!」

「知らぬさ! 元より貴様らの同意など求めてなど!」

 

 燃え上がる街。火の手の迫る校舎。悲鳴と狂笑の響く一帯。

 悪夢のような光景。

 その最中でのたまい、三本の五寸釘を投げつけ、けれども避けられる。

 彼女らに"先生"の指揮があったからだ。

 オレに与えられてはならない安息の存在。目に入れるのですら、憂鬱が心を支配する。

 

"■■、なぜこんな事をしているのか、教えてほしいんだ。"

"きっと、事情があるんだよね?"

"今ならまだやり直せる。"

"……間違えた責任は、私が取るからね。"

 

 綺麗な声だ。身を委ねてみたいと本能的に思わされる、人の好さの垣間見える声。

 友人だったノノミが泣きたいような顔でオレを見る。

 後輩だったセリカが憤慨している顔でオレを睨む。

 後輩だったアヤネが疑問、怒り、悲しみの入り交じった顔でオレを咎めている。

 

 背後には最早罪を雪ぐ事の叶わなくなった浄化隊たちが、課せられた大義を達成せんと、アビドスを『浄化』している。

 オレの手には赤黒い液体の幻視がこびりついている。

 手を初めて汚した声、感触、悪臭の幻覚が反復し続けている。

 

 今更戻れるものか。

 オレ自体が始末し、浄化隊が完全に暴走する引き金を引いたのもオレなのだ。それを投げ棄てて暖かい場所に在りたいなど、……オレはそこまで厚顔無恥になれようか。

 

 助けてと叫ぶ事なく、詭弁を並べ立て、思い込んだ──それがオレの意見であるに違いないと、すがらに続けてきたように。

 

「……ハッ! 愚かだ、……愚かだな、諸君ら! この悪夢こそが望まれて完成した世界だ! 万人が万人と争いたいと夢に見、望み、(こいねが)った! その果てがこれだ──競い、妬み、憎み合い、その終局には殺し合う! それが人だ! 人間の変わりえぬ姿だ!」

「違います、人はそんなもののはずがありません!」

「通用しているだろう! ならばなぜカイザーが貴様らを排除しようとする! なぜトリニティとゲヘナが争う! その答えなど、そう望まんとする暴力性こそが万人の罹患した疾病であるからだ! 故に罹患者を駆逐し、根源を焼き払い、……焼き払い、誰もが争う必要のない純粋な世界へと至るために手を汚さねばならぬ!」

「この、……■■ちゃんのわからず屋ぁー!」

 

「君とてその一つだろうが!」と叫び、釘を強く握り直した。

 首を握り潰した感覚を忘れぬよう、強く、硬く、ほどけぬように。

 

 永遠に抗い続けばならない。甘い誘惑の声に。

 身を委ねてはならない。安らぎを与える声に。

 気を休めてはならない。暖かみのある世界に。

 

 オレの居場所はここに非ず、いつだってあの薄暗くて冷たい世界なのだから。

 

 


 

 

 カツ、カツ。

 

「右から三人目、今絵画を拭いた人」

「は、はいっ!」

「右上の縁に拭き残しがあるよ。それに五度くらい傾いてる。早く直しておいて」

「し、承知しました!」

 

 再び、カツ、カツ。

 

「ん、確かここに入ってから四日目のハウンド班の新人さんかな。耳飾りの派手さはもう少し抑えた方が良いかも。どこかに引っかかって千切れた、だなんて、……考えるだけでも嫌でしょ?」

「わ、わかり、えっと、了解しました!」

 

 優しさの入り交じりながらも手厳しい声を残して、カツ、カツ、カツ。

 その子供は数々の部下たちに指摘をしながら、短い銀髪と狼の耳を揺らせ、まだまだ薄暗い朝を迎えていたの。

 外は強風が吹き荒れていて、雨は浴槽をひっくり返したように、雷は今や十五回も落ちなかったら少なすぎるくらいになっていた。

 皆が恐れている『嵐』まではまだ日はあるけれど、……今までよりも更に冷気を帯び、鋭さを研ぎ澄ましていることだけは間違いないだろうね。

 だからだろうね。当主の可能性を生きているその子供も、気持ちのゆとりが無いように見えていたの。

 

「当主殿ォ!」

「んっ、……朝から元気だね。どうしたの?」

 

 その当主の後ろには、いつの間にかワーカー班の一人である別の子供が付いていた。

 朝から大声を出していられるくらいには元気そうだけど、表情には陰りがあったんだ。何か大事な話をしそう。

 

「カイザー・コーポレーション製の水銀弾がまた確認されたそうだ!」

「……ああ、あの粗悪品? 全く、カイザーも中々危険な橋を渡りたがるね。いくら質が悪いにしても、急所に当たったら殺人者の誹りを受けるかもしれないのに?」

 

 話を聞いた子供はそう言いながら、呆れた顔を浮かべたんだ。

 これもある意味、当たり前なのかもしれないね。

 なにせその水銀は、神秘──子供たちが『子供たち』らしくあるための要素に対して、特効薬じみた力を孕んでいるからなの。

 原因は少しの解明すら進んでいなくて、研究者たちも仮定と推定を重ねて理屈付けているだけだから、一種の特異点と言っても間違いではないだろうね。

 銃の引き金が軽い──心理的にも物理的にも──子供たちにとっては、普段の暴力のつもりで撃ってしまって、殺してしまう凶弾になりえるものだったからこそ、呆れられたんだ。

 

 ともかく、そんな水銀弾をメインに使う邸宅において、頭に銃を向けるという事は「お前を殺す」という宣戦布告でもあるの。ここに住んでいない人、いわば生徒や大人たち向けに言えば、ナイフの先を突きつけるのと全く同じ事なんだ。

 人を殺すって事は、暴走の多いキヴォトスでありながらも、重罪とされている。きっと外の世界よりも重たい罰が下されるかもね。

 けれどその子供は少しだけ考えて、

 

「まあ、私には関係しない事かな」

 

 と言って、そのまま切り捨てた。別に、カイザーの事を元より良く思っていなかったからでもあるし、『邸宅』の外にあまり興味がある訳でもなかったからだったんだ。

 

 ここの可能性の当主もジョウゼフに助けられて、その恩義で邸宅に尽くしていく事に決めていたみたい。

 その為に家事も上手くなって、元から高い身体能力をより高めて。

 その想いに、先代の当主は心から応えられたかはわからないけれど……。

 

「いくらカイザーが小細工を企てた所で……」

 

 ……少なくとも、目の前の子供は愛情を感じていたみたい。

 

「……結局、私の方が強いから」

 

 

 

 時刻が十二時を過ぎたころ。

 大きな爆発音が邸宅の外から響いてきた。武装と数を揃えたカイザー・コーポレーションが邸宅を制圧しにここまで来ていたみたい。

 子供は心底嫌そうな顔を浮かべたんだ。今は特級指定をされた亡霊の狩りで忙しいというのに、せめて明日ならお遊びに付き合えるのだけど、なんて思っていそう。

 

「行くよ」

「と、当主、けれど……」

「ん、大丈夫。所詮はカイザーでしょ? それくらいなら私一人でも充分。下手したら一発撃って終わりかもね。それの相手、任せるからね」

 

 子供は愛用の長剣とセミオートに調整したアサルトライフルを取り出して、静かに息を整えた。

 話はそれで終わりだったんだ。

 少しでも体力は温存しておきたいし、負けるはずもないけれど、それはそれとして圧倒的な勝利で侵攻するやる気を削いでおきたいから。

 そうして呼吸を整えて、走り出した。

 

「へっ、こんな古屋敷なんざ戦車の前には──」

 

 そう言ったっきり、金属質の身体はバラバラに刻まれたんだ。

 この邸宅内において、弾はそれなりに貴重な消費物なんだ。ゲームで例えるなら、一試合に十回だけ使える強力なスキルみたいなもの。

 でも、剣を振るうだけなら消費はゼロだし、金属を断ち切るだけの鋭さもこの剣にはある。

 

「お前、何もっ──」

「言う前に撃った方がいいんじゃない?」

 

 また一人、ずんばらり。

 それでようやく、カイザーの傭兵たちは引き金を引き始めたんだ。

 でも、みんな混乱しているみたい。

 整備をしていたのに弾詰まりしていたり、引く前には既に腕を落とされていたり、……そもそも目の前で一気に二人も犠牲になったからだろうね。

 

「……はっ、関係ねぇ、関係するかよ! たかが子供一匹とおんぼろ屋敷、この戦車があれば、この戦車があればぁ!」

 

 そう叫ぶだけあって、戦車は今あるキヴォトスの中でも最新鋭なの。

 すぐに出せる速度も高くて、装甲は堅牢。精度も高いだけあって、もしも主砲を撃たれたら邸宅も崩れたかもしれない。それくらい、普通なら手強い相手だったんだ。

 けれど子供には、少しも手強いとは考えてないみたい。

 焦るような様子なんて一切浮かべていないまま、前へと踏み出したんだ。

 

 金属で出来た堅牢な装甲。

 キヴォトスのある者は装甲を貫くためにアーマーピアッシング弾を買い求め、またある者は無理やりに貫通させるために多量の弾丸を準備するけれど……。

 子供のやり方はもう少しだけ節約的なんだ。

 

「邸宅に仇なすなら……」

 

 たったの一振りと一発で充分なのだから。

 戦車の装甲材は確かに硬質ではあるけれど、それでも長剣の敵では無かったの。

 丁度エンジンのあるあたりを切り裂かれた隙間に、銃口が向けられたのはほんの一瞬ばかり。

 一発だけの銃声が止んだ時には、戦車は既に内側から爆散していたんだ。

 

「……排除する」




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