嵐の吹き荒れる丘より。 作:■■■■■
時間が! 時間が足りない!
先生なる存在が着任してから二週間と二日が経ったが、セミナーの仕事は増える事はあれ減る様子の一つも見せていない。
前々より調月リオが会長に就任し、卓越した統制の手腕を振るってこそいるが、日々増えゆく業務には、ユウカ、ノア、私、そしてセミナー各員のほとんどがいくつかの休日と睡眠時間を返上で稼働させなければ全く追いつかないのが現状だ。
例えばエンジニア部の発明品の暴走。例えば一部生徒の暴動。例えばハッキング後の事後対応。例えば、例えば、例えば、……起きる価値の無い事柄というのは幾つもある。幾つも幾つもある。正直数えるのも面倒になった程だ。そこに「ヴァニタス」だか「ソリダス」なんだかは忘れたが、反セミナーの活動をする団体だ(実情は反調月リオの体制にしろ)。これでどうやってマトモに休息を取れるものか。
当たり前だが、調月リオも結局は人間一人であって、それより上な、いわゆる人知外の存在では無い。人知外の存在では無いと言うことは、「波」──精神状態や肉体の疲労度合い、本人の情報の受け取り方──が存在し、また影響される。
いくら理論上は高いスペックを誇ろうが、いくら絶対的な力を持っていようと、それを行使出来ず、有事に活用出来ないなら一般の生物と変わらない。「波」の起伏は少なくあらねばならない。
だからこそ、悪環境に影響されないようにするのも当然として、高性能をいつでも発揮出来るように下地を整えるのも重要である。……というのに、どうやらここの多くは「どんな状況でも理論値を出せない方が悪い!」とでも言いたげに思える。
無論、何を思おうが結構だ。思想の自由である。何をしようが結構だ。行動の自由である。当然、何を信じても、何を言おうとも、何を表現するにも結構だ。人間としての自由があろう。しかしこちらの自由まで侵害されては困るし、それを実力行使の自由云々と言ってまかり通るなら、こちらとて恐怖政治をやる手筈の一つは出来ている。
しかし面倒だ。面倒な事を好き好んでやるような、そんな殊勝な心持ちなど私には存在しない。強いていえば、義務感はある。あるが、やった所で自由人気質が変わるか変わらないかなら、間違いなく変わらないだろう。今持っている懐中時計──いや、これは駄目だ──自分の命を賭けたっていい。
それくらい、結構な筋金入りと見えた。
どちらにせよ変わらないなら、より面倒にならない方を選んだ方が気が楽だろう。
……と、まあ。
御託なり愚痴なりはここまでにしよう。一つの事柄から考えを長引かせるのも私の悪癖だ。治りにくいのも中々に問題である。
さて、私は現在セミナーの「監査員」としての活動に取り掛かる直前にある。今回は廃部の一歩手前にある部活動らが中心であり、回転研究室、通称「人型ロボット開発部」(正式名は七十字以上に渡るので記載しない)、古代史部、そしてゲーム開発部の予定だ。
後々で宇井下フランが訪問していて、なので見にいく程度のエンジニア部を含めれば五つになるが、それを除けば、どれも人数不足か成果不足、もしくはその両方にある。例えば古代史部は成果に欠け、「人型ロボット開発部」は人数が規定以上を達さず、回転研究室とゲーム開発部はどちらも足りていない。
改善しないようなら、その先は言わずもがな、……という訳である。
……まあ、基本的に生徒は所属先に安心感を持つ。自分たちの研究成果を共有しているなら尚のことだ。それを廃するなど、つまりは……。
「推測するにはですけど」と、私は前置きを置いてスマートフォン越しに調月リオへと話した。
「……今回は恨まれ役と言う訳ですか?」
「まさか。そんな事をさせてみたら、セミナーは勿論の事、ミレニアムの価値を貶める事になるもの。それに、留学生にさせるなんて余計に駄目」
「今更であるとは思いますがね、憎まれ役なんて。ミレニアムじゃ《非情な観測者》ですよ? 私をなんだと思っているのだか」
……確かユウカが《冷酷な算術使い》だったろうか? それとならんでの物言いのようだ。
つくづく、セミナーの連中に対して余りに態度が悪いように感じられる。調月リオに対してといい、早瀬ユウカに対してといい、生塩ノアにもそうだ。
支配者だの冷酷だの、後ろ姿がイカだのどうだの、これでは人間に品性を求めるなど絶望的だ。どれだけ尽力したかを一つたりとて考えず、自分の悪影響にだけ注目するなど。
内心ミレニアム生の態度をどうかしていると考えていれば、リオの話が聞こえる。
「それについては悪意は多かれ少なかれ、けれども憎みを以て言っている生徒はいないわよ。一度、自分への評価を見直してみてはいかがかしら?」
「見直す? 見直すと言ったって、言葉のままでしょうに?」
「……アナタ、結構頑なな性分ね。何事も、言葉通りが完全な評価という物でも無いでしょう。第一、資金提供をしたり、人材紹介をしている人をどうして恨まなきゃいけないのかしら?」
背後に一筋の冷や汗が伝った。
私は今まで誰にも言った覚えは無かったし、無論メモにも、ましてや漏洩の可能性が高いスマートフォンにも記載した覚えは無かったからだった。
「……いえ、それは……」
「別に咎めている訳では無いわ。確かにセミナーの本来の予算を超過した資金の動きはユウカからも報告されていたし、それをアナタは初見であるように振舞っていた。セミナーを騙していたのは事実ね。ただ、……ええ、成果を出しているのだから、無理に断たせる必要も無いと考えたのよ」
「千年難題の一つを0.03パーセント以上も進めた実績もあるのだから」と付け加えて言うリオの声色には、少なくとも嫌悪に近い感情はこもっていないように伺えた。
私はその様子を感じ取って、息を大きく吐いた。どうやら呼吸がいくばくか浅くなっていたようだった。
「フゥ、……つまり、今回は見逃しを受ける、と……」
「とはいえ、これはグレーゾーンの域に入るわ。余程の隠し事でも無い限りは、可能なら私に連絡して欲しい。それならある程度は帳尻を合わせられるから」
「なぜ会計担当にでは無く?」
「……それは、……ええ、頃合になった時に教えるわ。今はその頃合では無い」
隠し事か、それも易々とは明かせない類いの。
私はおよそその辺だろうと考えて、言及することを止めた。あちら側からしても都合は悪いだろうし、もし言及して反撃とばかりに持ち込まれても私が苦しむだけだ。よって意味が無い。
苦しみから逃れていたいと思うのは生物の性では無いのだろうか?
「……それならそれで結構です。お互いの利になればよろしい事ですし」
「……出来れば早く教えるつもりよ」
「する必要がなければしなくても」と言い返して、一度懐中時計の針を見る。示していた時刻を見るに、出かけようとしていた辺りから、実に四分と二十三秒が経過していた。そろそろ動かねばならない頃合では無いのか、と自問し、その通りであると自答する。
時間に対してルーズな在り方を許容するのは、人間らしさなどでは無く、寧ろ動物的な感性だ。動物が時間など見ずに日没と日の出とで生きているのと似たようなもので、人間が人間たらしめる理性というものを代表する品、それこそが時計──すなわち時間なのだ。
時間を見なければ私は獣だ──人間も変わらないが、より近い生き方をした私はより早く獣に堕ちる。二度など御免だ、二度など我が身を許せるものか。
「失礼、数刻は話をしすぎましたね。長広舌を重ねるのは私の悪癖です」
「いえ、大丈夫。私としては楽しい会話ではあったけれど、……仕事があるものね。それなら終えてからにするべきだった」
それに対して、「では仕事終わりにでも」と言ってから通話を切った。そこでフゥと一息を置いて、通話時間の七分と五十九秒が画面に表示されているスマートフォンをズボン側のポケットにしまった。
いくら仕事が義務で、やらねばならない事であったにしても、やはり面倒が面倒であるのは変わらない。だからといって後に先延ばしてもより面倒になるのは明らかで、どの道という事に変わりは無い。
早く終え、早く楽になる。
──という事も早々に出来ないのが、ミレニアム、というよりはキヴォトス全体という社会なのだが。
なぜそう言うのか?
……周りの引き金を引く指が軽く、平気な面で銃弾の飛び交う事態を起こし、反省の代わりに不貞腐れをする連中のいかに多い事かを知れば、同情をする必要は無くとも、同調程度は出来るでは無かろうか。
毎度毎度、切羽詰まって火器を使った自称デモクラシー(デモでは無くテロの間違いでは? と私は思う)に走る連中がいかに愚かでいかに馬鹿馬鹿しいか。知恵と知識の宝物庫のハズのミレニアムでなぜこうも己を客観視出来ないのかが疑問に思えて仕方がない。客観視は知識人なら出来る事では無いのだろうか?
私が己を客観視出来ているとはあまり考えていないが、それでも人に見られてもいいようにある程度の外面は整えている。そうでもしなければ『邸宅』の価値を貶めかねないのだから。
……アレか? 何も背負う物が無いからだとかの、所謂「
当然、憂鬱だ。今から私はその『ツケ』が溜まりに溜まった連中を相手にするという事に他ならないのだから。
一人での行動を部活動と言い張っているだけで成果自体は十二分に出せている「人型ロボット開発部」はともかく、他は成果が足りていないのに予算を無駄に食らう奴らばかりだからだ。特にゲーム開発部(これらに関わってこないユズは一旦除くとして)。
……カジノの設立に他部活動の襲撃、そして『邸宅』への無断侵入。ほんの一欠片でさえ思い出したくない面倒事ばかりで頭が痛くなる。今回もか? 今回もまた何かしでかしてくれるのか?
可能なら今回ばかりは何もしてもらわないでいただきたいが。それなら気分良く廃止の延長でも出来るというのに。
……まァ、どうせそう穏便なハズも無かろうか。
今からでも憂鬱な気分を尻目に、足を動かして現地へと向かう事にした。
やらねば終わらない。私の考える限り、誰かが終えてくれるというのは無いのだから。
『嵐が丘』と聞いて、キヴォトス一般人──あるいは一般生徒が想像するものはどちらかと言えばホラーチックな逸話がやったら多い。
例えば亡霊屋敷。『嵐が丘』と言えばお化けが出るという逸話はどこでも言われていて、事実出るのは間違いない──死傷させるクソッタレ共も、さして障壁にもならないような可愛らしい奴らも含めれば。
こういうので指されるのは大抵が後者で、あちら側にとっては「私たちを怖がらせてくる悪!」とでも写っていそうだが、こちら側じゃあ「殺しは勿論傷つけもしてこない癒し」に過ぎない。
例えば帰って来れない土地。もし帰って来れないとしたら、なぜこの噂が広まっているのかをよくよく考えて貰いたい。つまりは真っ赤な嘘っぱちで、然るにそういった歪められ方をしているのは疑問を呈せざるを得ない。
昔なら極一部のとんでもない無礼者が訪れれば「そう」していたかもしれないが、少なくとも今は違う。
例えば自分の「もしかして」が映る窓。これについては間違ってもいなくて、けれども正しくも無い。前代の当主のジョウゼフが研究して、発明したものが「窓」だ。遥か大昔、ここを訪れた旅人たちが用いていたらしいものを、可能な限り近しくなるよう再現したモノだそうだ。
ジョウゼフの発明したモノについては邸宅でも極々一部──それこそ暴風工房のトップたる自分とジョウゼフの付き人だったネリーにしか明かされていなかったくらいだ。
要は、確かに存在こそしているけど、一つは外から持ち込まれたモノ、もう一つは極秘裏に発明されたモノで、「邸宅」の仕切りに嵌められてはいない。
そんなワケで、『技術』という一点で邸宅製のモノが語られる事は少ない。あってもそれは当代作のではなく、昔の作品──いうならば遺産ばかりが語られる。
……おかしい話じゃあないか? 当工房とて身を床に寝そべらせるくらいに全力を投じて、鋳造し、あるいは削り出し、あるいは組み上げ、あるいは幾重も鍛錬して緻密に構築した数々の逸品を作り上げているというのに、どうしてそちらは全く注目されないのだろうか?
「思うに、そこまで気にしていられないからじゃないかな?」
「モノローグ中の横槍、ありがとさん」
不躾にも自分の思考に言葉を入れてきたウタハの傍らからピザの一枚を取れば、「そんな!」と言われるも気を止めないで口に運ぶ。『邸宅』や工房周辺の環境では到底味わう事は無いだろう強いチーズの風味、全体に塗られた油っぽさが味蕾へと叩きつけられ、ピリピリとする感覚が走って、思わずウグと唸る。
不味いワケでは無い。一般に見ればピザがご馳走なのは、ここに入り浸っている間に理解している。しかし、薄い味付けだとか、そもそもの食のレパートリーに貧しいであるのに慣れ切った、……慣れ切ったというよりは、それ以外を食べていなかった自分にとっては刺激が強すぎるだけであって。
だからコーラなんて飲み物も、その他の、……というか濃い味付けのものが中々舌に合わなくって困りモノだ。よくも食べられるな、アイツ。
「……やはり濃い、と?」
「然りさ。飛んだ馬鹿舌じゃ無い代わりに激しい味を受け付けんとはなァ。……まァ、いいさね! 技術者の本領は技術だろうに、なァ?」
「そうではあるけれども、それにしたって中々だぞ?」
「こう、もう少し贅沢をだね」と言うウタハに、「これ以上贅沢したら斬り殺される」と冗談半分に言う。もう半分は本気だ。レイは必要なら
「たんまり取った予算をつぎ込んだ傑作なのさ、だから余分に無理な話よ!」
「なるほど、ねぇ」
そう言ったっきり、彼女は一度口を閉じて設計図──今回の為だけにわざわざ「見せられる技術」で書き直した──と実物の二方に目線をやり繰りし始めた。およそ数分は掛かるだろうな、と見込み、一度壁に寄りかかって自己の世界に入る事にした。
電動機、……電動式。自分が生まれて十八歳になり、七ヶ月と五日前にミレニアム入りするまで、ほとんど触れてこなかった機械の動作方法だ。
無論、今まで見なかっただとか、今まで知らなかっただとかでは無い。親父が知識として教えてくれたし、動かないボンクラだが実物を見た事がある。ただ、物として動く姿は見た事が無いし、ましてや設計なんてした事すらないというだけにすぎないだけだ。
真面目に語って、動かないと分かっているボンクラをどうして設計して製造する意味がある? 雷だか神秘だかのどっちが由来かなんて知らないけれど、電気で動くものは全部使えない。
ただそれだけなら歯車仕掛け、発条仕掛けでいくらでも代用出来たろう。
だが、人を殺しにくるクソッタレ亡霊共、絵画をそのまま映し出したみたく固定された天候、極めつけのゲマトリアだかの連中。それらが全てをおかしくした。
亡霊共は普通の弾丸に強い。簡単に死なない癖に簡単に人を殺す。スパンと、あるいはゴチャリと人を殺す。水銀弾、それも金食い虫なのを何発も使ってようやくだ。
だからポンと量産出来ない。当主の血液を入れたらもっと効力が増すが、時間も食う。だから弾丸が貴重になる。
そんなものに頼るより、近接武器に頼れば支出が最小限だ。だからハンドガンの代わりにサーベルを、アサルトライフルの代わりに大剣を、ショットガンの代わりに鎚を握る人ばかりになった。銃なんて少数派だ。
キヴォトスの武器の立場が、全て入れ替わっているのが邸宅だ。
嵐だけが吹き荒ぶ高陵は、人から体温を効率良く奪う。そして血を効率的に流させる。余分に死人を作る原因を生む。
前述の亡霊共もあって、水を弾いて体温を奪わない。動きに支障をきたさず、かつ当たっても即死にならない。とかくその二点を突き詰めた生地および服装が軸になる。
懇意のハウンド班が分かりやすい。全身を覆い、かつヒラヒラ風情を無くすことで体温の低下と動きの阻害を最小にし、生地は可能な限り最上位の防護性能に、かつ四肢の先端には金属板で保護させる。万一斬られても対応できるように止血帯を関節部に多く取りつける。
そうして、ようやく脅威に対応出来る。
ゲマトリアがここに関心を持った、というのは僥倖でもあり、不幸でもある。見せられる技術の先鋭化が進み、見せられない技術の異常化がより進行した原因そのものであるから。
人は見た目によらない、とは言うが、実情は「性格が姿に現れる」が正しいのだろう。あの連中の姿を一目見て「本来は関わっちゃならん輩だな」と分かったし、実際話す事は研究が云々とそれの物騒な使い方ばかりだった。幸いにして面白い難題として受け取って貰えて、だから自分たちは生かされているけれども。
神秘の深化、神秘の抽出、神秘の定着、……正直に言えば分からないものばかりだけれども、誰かが死ぬよりはマシだし、それに有用だ。見せられない技術ばかりになったのは事実ではあるけど、それでも。
……このよく分からん連中がいるお陰で、
……振り返っても、やはりおかしい。
銃で撃ち合って軽傷なのがキヴォトスなら、近接で殺し合って死人が出るのが邸宅。
好きな服装を来て悩んでいられるのがキヴォトスなら、服装が一択で悩む必要も無いのが邸宅。
電気と石油で物を動かすのがキヴォトスなら、蒸気と神秘で物を動かすのが邸宅。
ジョウゼフに拾われた頃のアイツ──より正確には、チビで
私たちは異邦人で、キヴォトスの人間とは逸れている。
以前に聞かれた、「どうして亡霊狩りなる物に銃を使わないんだ?」と問われた時を覚えている。
その時に価値観の隔絶を感じたし、きっと真に分かり合うのは難しいんだなとも思った。それこそ『邸宅』が滅んで、自分の代から三つが経って、ようやく交われるような、それくらいに遠くじゃないと、キヴォトスと『邸宅』は交われない。
だから節約をしている。ポンポンと湯水のように使う、キヴォトス人とは違って。
そうしているうち、ウタハの口が開く気配を見せたので、思考の海から上がる事にした。
「それにしても、見れば見るほど技巧が凝られている。頭二つ分程度のスペースしかない機構部に、どうしてそこまでロマンも機能も詰められるか! 本当に感心する! ……ただ知りたいところがあって、爆発の仕掛けはわかるし、引き金も、炉の仕掛けもわかる。ただ、この火を長く持たせる方法がよく思いつかないんだ」
その鎚も、実際は完全な技巧オンリーという事は無い。
いやはや、勿論、「見せられる技術」一辺倒だけでも仕様に通り動いたりはするし、爆発もする。
ただ、熱で摩耗が早まるし、対亡霊共への威力は落ちる。血液水銀とて万能では無い。何より豪雨の環境だと火が付きにくい。つまりは『邸宅』向きじゃない。
「そこは、マア、……
「企業秘密か! ……勿論、勿論! そこは自分で探し出して、見抜いてみせるとも!」
そう言い、もしくはそうでなくては面白くないとでも言いたげな、不敵の態度を見せてくれた。まるで昔のホムラのように。
今の当主は知るまいが、亡霊共に何もかもを奪われたから、文字通りに自分の「
自分を壊しても良い相手がいて、何もかもを捨てる気持ちがあって、その上で叶えるための手段がある。それはこの金槌と同じ兵器を生む。
元が完成度の高いだけに、それ以上の最高を生み出せるだけの執念が生んだ代表例なのだ、この金槌は。
……あの子も友人が惨く死にさえしなければ、普通のロマン好きな子として生きていたのだろうか? それともどの道「これ」だったのだろうか?
……自分も「そう」なりたいとは思わない。というより、復讐先なんてずっといない。強いて言えば後輩たちを無惨に殺して、先輩を何も言わないピンク色の塊に変えたアイツらは憎いが、所詮何も思わないクソッタレで、……後悔も反省もしない、単なる災害だ。
災害を恨んだとてしょうがないのと同じだ。
……自分は、……ぼくはただの業者だ。技術者だ。困難を解決するべき義務がある。今はそれ以外に何をも思ってはいけないし、その為に生きる。可能な限り、今で終わるように願うのみ。
…………少しばっかり、らしくない感傷に浸りすぎたか? いけない。歳をとってジジ臭くなったか? あるいは『邸宅』育ちに一貫しやすい悪癖なのやもしれないけれども。ミツルもエリも、次いで言えば現当主もそうしやすいように見えるし。
目を閉じ、呼吸を意識して、目を開ける。コイツは気分を平常に上げるときのルーティーンだ。
今いるのはミレニアムだ。ミレニアムにしかない物を突き詰め、糧にする時間じゃないか! そう、その通りとも! こうしてつまらない感傷をしている場合では無かったとも!
さあ、探求せねば! 武器のつぎなる思索をせねば! 確かに感情を拗らせる人はいても、少数であり、全体を占めている訳では無いのだから!
引きずられるな、自分! 引っ張られすぎるな、ウチよ!
「うわぁーんっ! ごめんなさーい! 思わずコントローラー投げて当てちゃったのは謝るからーっ!」
「待てこの*ダッチスラング*! 今日という今日はもう我慢のならない! いったい幾つ見ても幾つ叱り付けても襲撃と面倒事ばかり持ち込んでくる! *コリアンスラング*して*チャイナスラング*から*スラムスラング*で*表記不可なレベルの大暴言*! 今から*人間としてダメなスラング*にしてやる!」
「助けてぇーっ! 怖い人が来てるーっ!」
……そう鼓舞していれば、誰かの叫び声と怒鳴り声が聞こえた。……間違いなく怒鳴りは当主のそれだ。とてつもないヤラカシをした時の自分にも向けられるスラングが聞こえてくる辺り、よっぽどの事をしたと見える。
「多分モモイじゃないかな、あの声は。今日は何か酷い事をしでかしたみたいだな、あの《非情な観測者》の怒りを買っているみたい」
「観測者? なんだよソイツ」
「安晶レイの事だよ。締切に厳しいし、感情論じゃまるで動かないからそんな渾名で言われてたりするんだ。……ホントはそれっぽい理屈さえ考えてくればポンポン予算を組んでくれるし、必要ならポケットマネーも出してくれるから、悪口ってほどでも無い」
イタズラっぽく笑うウタハの耳打ちを聞いて、カッカッと笑う。
思うよりは馴染んでるのか、アイツ。悪くない事だ。