嵐の吹き荒れる丘より。   作:■■■■■

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赤い評価バー「増える」
私「えっ」



三話 C&Cに新たに加入した、コールナンバーゼロファイブの最初の任務について

 ──メイドとバトラーとでは、意味合いが違う。

 

 邸宅に迎えられた存在──例えば、過去の私のように未来の見えていなかった子供や、行く先の無くなってしまった大人、一体何をとち狂ったのかここに入学を希望した*邸宅スラング*たち──が、まず最初に聞く言葉である。

 

 ──職に貴賤無し、しかして尊厳あり。

 

 邸宅へと属するにおいて、最初に行われる事は、教育施設への登録──ワザリング・ハイツ執事専門校──となるのだが、その最初の講義にて、必ず言い聞かされ、そして、ワーカー、バトラー、そしてハウンドの、いずれか三班に組みわけられる際の指標として扱われている。

 その中でも、友人とのたまっている桐藤ナギサでさえ、時折混乱する、「メイド」──「ワーカー」と「バトラー」について説明しておく。

 

 私たちで呼ばれる「ワーカー」とは、すなわち、清掃、洗濯、炊事といった、いわゆる家庭内労働の他に、弾薬の調合、銃器の製造、エングレーブ加工や出荷作業といった、あらゆる業務を行う使用人の事を指している。

 下働きを中心としており、とち狂った*邸宅スラング*たちが一番多く所属している班でもある。奉公──本来のメイドとしての手合いのつもりだろうが、すくなくとも「嵐が丘」における「メイド」の仕事は、限りなく多忙かつ重要な役目であるためで、参考にするべきでは無いように思われる。

 しかして邸宅が邸宅たる所以の、そのおよそ半分がワーカーたちの働きのためである。彼ら、彼女らがいなければ、邸宅は間違いなく今日(こんにち)まで存続出来ていない。下働きという存在とはいえ、決して愚弄してはならない役目を持つ集団なのだ。

 足を向けて寝られない存在である。

 次に、私たちで呼ばれるバトラーとは、すなわち、酒類や食器の管理、給仕、会計、衣服の準備──アイロンがけや収納を含める──も傍らに、異物の追放者としての役割を兼ねている使用人の事を指している。

 ここ、「嵐が丘」という所を来訪した経験のある人物が必ず一度は見かける事となり、また最も目立つ役割となる存在だ。なにせ給仕や追放者としての活動がある以上、彼ら、彼女らを見かけないという事はほぼありえない事柄であるからだ。

 侵入者の「穏便」な退出、食事や茶の給仕、その他にも財産管理、会計、経理。邸宅の状態のほとんどを取り仕切っているのは、そのほとんどがバトラーたちありきである。

 同様に、足を向けて寝られない存在である。

 さて、ハウンドたちについてだが、……これは本題では無いので、今は後回しにしておこう。今はとりあえず、亡霊狩りに取り憑かれた狂人集団、……とでも覚えておけば、さしたる問題は無いだろう。

 要するに、こけにできない度合いというのは変わらざれど、これほどまでに、邸宅という領地における「メイド」と「バトラー」とでは、意味合いが全く異なるのだ。

 

 

 

 ……さて、なぜ唐突に、邸宅に配置されている教育施設と邸宅内の班についての話をし始めたのか、というと。

 

「……この衣服を、着ろと言いますか……」

 

 ……素晴らしく遠回りな結論の出し方になったが、つまりは、メイド服というものをあまりにも着たく無いからであった。

 ──職に貴賤無し、しかして尊厳あり。

 その言葉は当然、私にもよくよく染み付いている。バトラー、ワーカー、そしてハウンド。この三班がいなければ、邸宅は立ち行かず、そして──断言しよう──何も残せないまま、ゴミのように、嵐にそのまま押し潰される。

 それゆえに、私は役割のどれもを、そして誰をも、差別も侮蔑も、当然侮る事の一つもしない。

 最も重要な土台を、どうして侮蔑の対象に出来ると言うのか。

 もしいたとして、そんな性根の腐っている人間を、地の底、嘆きの川に至るまで、袋に詰めて引きずり回しながら振り下ろしてやりたいくらいだ。

 ……だが、それはそれ、これはこれとして、私はメイド服を着たいと思ってはいない。

 当然、そんなものは個人の好みである事など既知である。スカートを履こうが、今の私が偏重して着用しているパンツを身につけようが、それを咎められる権利は存在しない。

 ……しかし、こう、足元の風通しが良いというのが、気に食わないのだ。

 ボロ布一枚の、服とも言えない何かを着ていた記憶が反射してくる、というのも否定は出来ない。むしろ、身につけようとしない訳の、その半分はそれに集約されている。

 ……しかし、反論を言うなら、スカートは、武器の収納に優れているのだ。

 邸宅では、バトラーやワーカーの服装には、燕尾服とクラシックメイド──皆が想像するような、丈の長いスカート──の格好を採用しているのだが、後者はスカートの内部に、弾薬の収納袋や補助の武器も入れる事が、理屈の上では可能なのだ。

 そして、手持ちの出来る──私も持っているようなトランクケースも割り振られる。それゆえに、単純な収納量だけなら、メイド服の方が優れている。

 更に言えば、可愛らしい格好をしたいというのもあるだろう。大抵の集められた孤児、あるいは捨て子たちは、可愛らしい服装でありたいというコンプレックスを抱えている。

 それゆえ、業務に支障をきたさず、かつ賓客に破廉恥と看做(みな)されるか危険視されるようなものでない限り、改造を認めるという方針に、メイド服というものは非常に適応している。

 対して、燕尾服は改造のしようが無いのだ。精々が小物を身につけるといったくらいである。

 なのもあって、燕尾服を着用しているワーカー、バトラーは極小数になっているのだ。

 ……失礼、話題が逸れた。

 つまり、改造の幅広さと収納量、その強い利点をかなぐり捨ててでも、足元が無防備であるというのが、どうにもこうにも気に入らない。

 つまりは私の、とてつもなくみっともないワガママである。

 そうであるために、目に入るものをよく認知しなければならない。

 ──筒状をした、一枚つなぎのように見せかけている、ヒダ付きの衣服。丈は目測にして、三十センチメートルほどであろうか。

 デザインは黒を基調に、下地には白、差し色に、ミレニアム・サイエンススクールのイメージカラーであろう、澄んだ青が使われている。

 デザインはさておき、なるほど、これはスカートである。

 それも、膝下の部分にも及ばない、凄まじく短い丈である。

 つまりは、これはミニスカート、略語に直してミニスカである。

 イメージするなら、早瀬ユウカが着用しているそれである。

 

「……なるほど、なるほど、……はあ、なるほど」

 

 ……今からのたまうそれは、嘲笑う意図など無いという事を留意していただきたい。ファッションの好みは千差万別であり、スカートを好む人間もいれば、パンツスタイルを好む人間もいる。

 そのため、必ずしも私の視点──素の感性で燕尾服を選ぶ側──から見たものが、まったく正しいという事はありえない。

 私も「私のEGO(じが)」という、容易くは取り外せない色眼鏡がある限り、偏ったものの見方になるという事を、よくよく承知していただきたい。

 その上で口を開けるなら、

 

「頭でもおかしいんじゃないのか……?」

 

 ……という、意見である。

 まず私が聞き及んでいるのは、C&Cが秘密裏に任務を遂行するエージェント集団である事だ。

 百歩譲ってスカートを履けというのは、不承不承(ふしょうぶしょう)ながらだが認められる。一人だけがパンツというのは、それはもうどこまでも浮くだろうというのは、まったく想像に難くない。それ程度、想像も出来ない畜生では無い。

 だが、それにしたってミニスカートは愚かであろう。

 愚かというより馬鹿者、馬鹿者というより考え無し、考え無しというより*スラムスラング*ではあるまいか。

 特殊部隊としてのやる気があるのか疑わしい。あのクソ脳筋、……では無く、暴力教徒、……でも無く、……そう、過剰防衛最適化集団の一つでも見習えと言いたくなる。

 アイツらでも全身を覆って肌の露出を最小限にし、止血帯を関節の節々にまとい、その上で、……いや。

 ……よく考えれば参考にならないな。ハウンドは、近距離での暴力沙汰に関しては、正真正銘の実力者集団だ。というより、心持ちが「本物」すぎる。これを見習うという方がおかしいかもしれない。

 だが、まあ、それくらいの精神は持てという事だ。これではコスプレ集団と言われてもおかしくはないように思われる。

 ……いや、しかし、待て。これがまだ、防護生地ですら無いという可能性は捨てきれない。

 それかどうかは、触ればわかる。防弾生地に親しみのある私であれば、その判別は不可能では無い。

 

「──……これ、は、……普通の布……」

 

 普通の布の質感であった

 気の遠ざかる感覚を覚えた。

 

「……と、と、……正気か、こんな布切れ程度で特殊部隊を……」

 

 そのまま倒れかけたのを、たたらを踏みながらも、どうにか立ち戻る。

 コイツらは馬鹿だ。大馬鹿だ。いや、馬鹿と言うでさえはばかられる。とんだ*キヴォトススラング**スラムスラング*だ。

 理解は出来ないが、こじつけは出来る。無理にねじ込むなら、「衣服の阻害によって高速移動に支障をきたさないため」とでも言えるだろう。あるいは「日常生活をする子供のように見せかけるため」とも。そうにしても、まあ、正直に言うと珍妙だが。

 だとしても、そこらにある単なる布であるのは、率直に言って*邸宅スラング*ではないか。

 邸宅でさえ、防熱、防水、防弾、防刃の機能を持つ品質の生地を使用しているというのに、ただの布?

 ……なんだ? 一種の傲慢さの表れなのか? 「普通の布切れだろうが負けやしない」という驕りの表層化なのか?

 ……だとしても、確実性は高めておくに越したことはないだろう。たとえ高価でも、万が一、億が一を想定するべきだ。

 ……邸宅の環境とここを比べるな? ……その通りだ、正論である。

 少なくとも現状復帰不可能なダメージを受ける事が無い、もしくは極小であろうキヴォトスと、支障をきたすほどの重傷になりやすく、医療隊が常時疲労状態にある邸宅とを比べるべきでは無いだろう。

 しかし、それはそれで、これはこれだ。ここの衣服は全て防護生地に入れ替える。必ずだ。

 ……出処は、まあ、私自身のポケットマネーで。

 そうして、私が密かに決意していた所に、ガラガラと、扉の開く音が挟まった。

 音の鳴った方向に視線を向けてみれば、そこには私の一年上の学年である、美甘ネルの姿があった。

 

「よーお、着替えは、……終わって無さそうだな」

「ええ、これといって全くですよ。似合うと思っててこれ渡したなら、本当に大したものですよ」

 

 度胸と頭の悪さが。

 言葉としては決して発しなかったものの、感情の中ではそう思いながら、私は話した。

 それを美甘ネルは、困ったような顔を浮かべながら、

 

「……だよなぁ。ああ、そうだ。コイツら、丈の長さは幾つか揃えてあっから、それを伝えてくれば渡してくれるはずだぜ?」

 

 ……美甘からそんな事を聞き。

 その真っ先に怒りの沸騰する感覚がほとばしり。

 ──まあ待てまだ怒る段階では無い、アンガーマネジメント、アンガーマネジメントだ、なあにこれよりも酷い事柄なんてよくあったじゃないか、それだから一旦落ち着くべきだそれに彼女たちに悪気はなかっただろうよ、それをなにムキになろうとしているんだ無様じゃないか無様だろうそう思うだろうだから怒るべきじゃないゆっくりと息を吸って吐いてそしてもう一度心を落ち着かせて明鏡止水の精神で呼吸を整えてから急所を殴り殺してぶち殺してやろうかこの*スラムスラング**邸宅スラング**スパニッシュスラング**メリケンスラング*野郎の*キヴォトススラング*

 ──つまり少なくとも中身まで押さえようとするなど十中八九不可能であり、それが表面へと全露呈しないよう、極めて努めて押さえ込み、

 

「……それなら、それを、最初っから言ってくださいよ……」

「まあ、そうだったな。それじゃあアタシが揃えてくるから待ってろよ!」

 

 少なくとも悟られない程度には対応出来たのだろうか、美甘ネルはこの場を離れて──言葉通りであるなら──別の種類のスカートを取りに行った。

 ……よく怒りを表出させなかったものである。昔であれば、誰彼構わず暴力性を振りかざし、面倒な事態に発展させていたであろう。それと比べたら、本当によく堪えられた。

 ……ただ、腹が立ったのには変わりないので、自分の左側の頬を殴った。

 やはり痛かった。

 ……とはいえ、リンチよりは痛くない。

 

 


 

 

 果たして、私はマキシスカートのメイド服へと着替える事を、不承不承ながらも受け入れて、着心地そのものは非常にいいものであり、伸縮性や通気性──夏用と冬用に別れており、今回は夏用らしい──にも優れていたが、やはり普通の布であるというのが、どうにも引っかかるような気分であった。

 そうして、軽いブリーフィングを受け、現在、私はC&Cの任務の一つに参加している訳である。

 内容は「盗み出されたミレニアム・サイエンススクールの機密情報の奪還」。資料や物品の奪還などは、目標が形状として実在しているため、C&Cに割り振られた任務では、比較的簡単なものであるらしい。ブリーフィングではそう説明されていた。

 とはいえ、今回に関しては、あくまでも現場監督員としての役目としての活動──つまり、セミナー側としての側面が強まっている。

 そのため、作戦に参加こそすれど積極的な戦闘は行わず、C&Cの、全体的な任務の遂行効率の観察、およびに改善点をまとめる事に努めた。

 

 ──さて、こういった内容には、必要な出費や必要なダメージ、またコラテラル・ダメージ──民間に対する被害──というものが、どうしてもつきものになってしまう。

 それを不必要な出費だ、過剰なダメージだ、コラテラル・ダメージを出すな、とは決して言うまい。

 もちろん、被害や出費の少ない事、可能なら皆無である事に越した事は無い。しかし、力という手段で解決する以上は、どうしても被害が出るものなのだ。邸宅でも、似たような事はよくあるものだ。

 例えば三班全てにおける、弾薬の不発、あるいは少量の無駄撃ち。

 対象は無駄に迎撃が面倒である以上、三発や四発の撃ち漏らしや、そもそもの不発は仕方がない。可能なら撃ち漏らしや不発弾の無く、出来れば近接で全てを収めてほしいものだが、そんな事は不可能も同然であるので、やむを得ない。コラテラル・ダメージである。

 次に、ワーカーやバトラーたちの、決して故意では無い皿を割るミスや邸宅設備の損壊。

 これもまた仕方がない事だ。可能なら皿を割らない、あるいは設備の損壊など一つも無ければ良いのだが、人間は残念ながら完璧では無い。皿だって割れば、うっかり何かを壊したり傷つけたりもするだろう。

 だからこそ、故意で無いならそれで終わりだ。

 それに、私とて別に完璧では無い。望めるなら完璧でありたいが、そんなものは手に届かない。だというのに、私はミスしてもいいが、他は認めないなど、それは偏狭なダブルスタンダードというものじゃないか。

 自分はどうこう言われたく無いが、自分は何を言ってもいい。自分は限りなく自由であらねばならないが、他人は自分の手で縛られているべきだ。──私の一番大嫌いな、どうせ甘やかされて育ってきたのだろう、どこまでも甘ったれでクソッタレなクズ野郎の一例だ。

 そして、現状の私が最もなりかねないために、最も気をつけなければならない、身の振り方だ。

 つまるところ、もう少し簡略化した言い方をするなら、「他人の間違いを正すなら、その指摘した間違いをするな」というもので、狭量である事は、いずれ自分の首を締める事に繋がるのだ。

 ……失礼、話を元に戻しておこう。

 さて、どこだったか、……そうだ、ワーカーやバトラーたちの所だった。

 つまるところ、私はまず絶対に間違えない、という確固たる自信も、クズであり続けようと開き直って指摘する度胸も無いので、何も言わないだけである。

 己に甘すぎるというのは、重々自覚している。自戒の精神を持たねば、私は甘ったれる。

 ……ただし、それはそれとして、故意であったり、隠そうとしたならば、多少の折檻(せっかん)はする。包み隠さずとも、名目上のため折檻はする。

 前者は、故意であれば石抱(いしだき)で、隠そうとしたなら厳重注意。後者は軽い口頭注意──次は慎重に、というくらいだ──。

 ちなみに、ヒースの花を荒らしたクソは、問答無用で石抱だ。

 

 さて、コラテラル・ダメージ等の話題も一度締めくくる事にして。

 

「紙に書きながらなんて、ここらの事を舐めやガリオンっ──」

 

 寄ってきた機械一機の頭部を、上段回し蹴りで砕きながら、書き記す。

 さて、今回において表記するべきだと捉えたのは、被害額、迷惑料、弾薬費、そして時間効率の計四つとなる。どれも「推定」という前置詞が付く事にはなるが、一定の目安にはなるはずだ。

 邸宅内では出していた評価点については、一旦忘れておく事にした。わざわざ顰蹙(ひんしゅく)を買わせるような趣味は無いためだ。

 もしセミナーのトップから「評価点を出してこい」と指示されていたなら、評価点を算出していたが、そうは言われていない。

 そのため、今回の私は、任務遂行時の効率、改善の出来る点を明記するだけに終える。あくまでも、セミナーの一人であるがため。

 ……だにしても、正直、……そう、言葉を濁して伝えるなら、賛否両論といった所なのだが。

 眉間にシワが寄っているのを感じながら、高く飛び上がり、

 

「お、俺を踏み台にしっ──」

「ガっ、ガイピヨナラっ──」

 

 一機を踏み砕き、もう一機の胸部を蹴りで貫き砕いた。ついでにどうのこうのと抜かしているのに向けて、角度を調整して頭部を蹴り飛ばし、計三機を撃破。黒いなんとやらとほざいていたが、所詮は烏合の衆である。

 こういった機械共──ロボットとでもいったか──は、間違えて死ぬ寸前にしてしまわないよう、適度に調整なくてもいいので、全力で蹴り砕いたり、殴り壊したり出来るものだから、破壊した感覚というのがしっかりと感じられる。

 それと、断末魔に癖がある。存外に面白い。

 まあ、それはともかくとしよう。

 まず、私が眉間にシワを寄せざるを得ない事柄であったのは、弾薬費の部分であった。

 いや、なにも、弾薬を使うなという極端な話をしている訳では無い。それは必要な出費である。

 ただし、辺りから、美甘ネルのサブマシンガンの連射音、一之瀬アスナのアサルトライフルの射撃音、そして(なぜかは知りたくないが)爆発音が、それはもう絶え間無く聞こえてくるのだ。

 キヴォトスにおける弾薬が如何に安いかは、街中に設置されている無人販売機を通して──時折こじ開けられているのも見るが──、十分に知っているつもりだ。つもりなだけかも知れないが。

 しかし、それでも、弾薬が安くは無い──むしろ血液や水銀の事情を考えれば、高値かつ限定の代物だ──所で育った身からしてみれば、私としては随分と気になってしまう要素の一つであった。

 ……ちなんで言うと、今回は、それに伴う騒音などについては除外するものとする。

 ブリーフィング後に一つ質問をしたのだが──具体的には、「企業に襲撃するのは、隠密であるべきでは?」という方向性で──、返答した上級生の曰くでは、「会社にカチコミを入れたりするのは、キヴォトスだとたまに見かけたりするようなもの」との事だった。

 事実、一年前の、……アビドス? という砂漠地帯でも、似たような事例はあるらしい。

 ……末恐ろしき(かな)、外の世界。

 まあ、一度脇におこう。……それにしても、今回は思考が横道に逸れる事が多い。

 悪い事では無いが、警戒心が途切れかけている。疲れているのだろうか。

 ……困った事に、思いあたる節が多すぎる。休息する暇など当然無いが、どこかの段階で一度気を緩めるのは、少しは考慮しておくべきか。

 そんな事を、大混乱状態になった企業内で考える。そろそろ一人くらいは通信を流してきてもおかしくないのだが、まだ回収出来ていないのだろうか。

 必要であれば、戦力になれるかはさておき、一応目標地点に移動するべきかと考え、──それと同時に、通信が入った。

 

《通しーん! ネルが目的の資料確保したってー!》

《まあ、……端がちっと焦げたけどな》

「焦げたってどうなのですか、焦げたって。問題にはならないんでしょうね、それ?」

《まあどうにかなるだろ! とにかく撤退だ!》

 

 ……どうにかならないのだろうな。どういう査定になるのだろうか。……今のうちに、なぜ被害を抑えられなかったのかの弁明について、言葉だけでも考えておこう。

 どうか杞憂に終わればいいのだが。私は憂鬱混じりの想像をしながら、撤退準備に入った。出入口の位置は覚えているので、後はスモークグレネードとやらを撒いて、さっさと出るだけだ。

 ……まあ、多分迷惑料が上乗せされるだろう。

 というのも、今回襲撃した企業は、悪徳ではあれど、しかし取り潰さねばならないほどの害悪ではない。区分上はグレーの段階である。

 つまり、おそらくだが、今回の事は過剰な攻撃にあたる可能性が、それなり程度にある訳だ。そのため、企業の被った被害額と共に、迷惑料を上乗せしなければならない必要もある訳なのだ。

 ……ユウカはどういう状態になるのだろうか。少なくとも喜ばしい顔で出迎えてもらえるようには思えない。良くて不満げか心配の顔つき、悪ければ説教。

 ……説教でなければ、後はもうどうでもいい。腹を括る準備はしておくに限る。

 半ば死んでいる目を更に死なせながら、私は適当なペンで書いていた報告書の締めくくりを書き終えた。

 

 弾薬費。──安価である事を考慮しても、使い過ぎのきらいがあると考えられる。攻撃対象を限定すれば、弾薬の使用は抑えられると推測される。

 被害額。──爆破物による建築物への被害が大きいため、爆弾の私的な使用を限定すれば、被害額を抑えられると推測される。

 迷惑料。──対人(現状は機械型の大人としておく)への支払いが主になっているように体感できるため、視界部か駆動部に攻撃を限定すれば、支払い金額を抑制出来ると推測される。

 総括。──改善の余地は大いにあり。しかし、現状ではマニュアルを書いておく程度に留めるべきであると推測される。以降は、「高度な柔軟性を維持しつつ、臨機応変に対応」していく方針が望ましいと考えられる。

 

 ──要するに、基本は何も変わらないという事である。無理に変えた所で、どこかで歪みが生じるだけなので、それならそのままにして、歪みが自然と治るであろう部分から改善していく、という事だ。

 これ以上を求めようとしたとて、おそらくはとてつもない爆弾の要素になるだろう。無理に改革しようとした結果、何十年も火種が燻るほどの大事故になったのは、「フランス革命」という、邸宅で知った歴史の事柄が証明している。

 第一、ミレニアムについて、さほど知識の無い私に、一体何を期待しているのか。国内事情に疎い国外学者が好き勝手に抜かした結果、何もかもが台無しになる事態になった、なんて事は歴史でよく見かける事柄だろう。

 海の事は漁師に問うべきであるように、ミレニアムの事柄はミレニアムの人間が始末を付けるべきである、というのが、私の最終的な意見である。

 

 

 

 ──さて、ここまで言い訳を並べ立ててきたが、つまる所は「もし改革したいならミレニアム側で主導しろ」という意味である。

 確かに、学生証上は同じミレニアム生であるのだが、私の心は邸宅側の存在なので、そう無責任な事はしたくないのだ。

 更に言えば、しょせん私は、C&Cにおける「ゼロファイブ」の身分でしかない故に。

 

「だから、私は言いましたよね!? 暴れないで下さいねって! 少しはセミナーの事も考えてください!」

「そ、その、悪かったよ……」

「まあ、まずは落ち着いて──」

「そういうレイもレイでしょ! どうにか出来なかったのは仕方ないとして、報告書が要するに『現状維持』ってどういう事よ! もう少しどうにかしようとする意思は見せてほしかったんだけど!」

「……私は一介の存在でしかないので……」

「目を逸らさない!」

「はい」

 

 結局、どの言い訳も使えなかったのがどうにもやるせない。

 私は半分ほど諦めた心地で、任務完了後に、美甘ネルと揃って正座をしながら説教されていたのだった。




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