樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

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1章11話:ピアノ椅子の2人

 鏡の前の美少女、それは僕だった。

 ってえええええええええええええ!?!? 女顔女顔言われてきたけどなんか本当に女の子になって……いやツいてる。僕のジョニー生きてる! じゃあドユコトこれ!?

 

「あそこは美人湯だから温泉パワーで美しくなったんだね〜」

「や、納得できないんですが!?」

「私可愛いものが好きだから、私の巫女であるほの囮には可愛くあって欲しいもの。うん、見込んだ通りの美しさだね、ほの囮〜」

 

 そう言って頭を撫でられると悪い気はしないというか寧ろ最高なので何も言えない。と、手鏡を見て再び自分の顔を確認する。

 艶のある濡鴉色の髪は長く伸び、その髪質は恐ろしいほどふわふわである(かみさまが櫛で溶かしてくれたりした)。睫毛も凄い伸び方をしてるし、肌も真っ白だし、何より髭どころか身体中の毛がない。……あの温泉なに、脱毛効果でもあるの? だとしたらなんで髪の毛伸びたし!

 元々身長が低く女顔であることを加味しても、最早少女……それもかなり美人な方の部類に入る外見になってしまった。これがかみさまの土地神パワーなんでしょうか……。

 

「美人になる湯って売り出せば儲かりそうですね」

「ほの囮の元々の顔立ちが綺麗なのだぜ〜? くすくす。ほの囮は私の巫女、巫女、私だけの可愛い巫女♪ ふふ、あははははは!!!」

「……悪い気はしないけど山を降りた時のことを考えると複雑ですねこれ」

 

 『変わりたい』は僕の口癖だけれど、こっちの方向で変わってしまうとは思わなかった。これ見た時の海知達の反応が怖いところであるが。

 

「可愛いから問題ないんよ〜。可愛いは正義っ!」

「その言葉昔あったんですか……?」

「くすくすくすっ、可愛いな〜、ぎゅー!」

「わ、わわわわわ!?」

 

 凄い撫でてくる。この温もりがとても心地よい。

 とまぁそんなこんなでサバイバル生活は毎日が驚きの連続な、多忙な日々となった。

 

「薪割りも上手くなったね〜」

「ほんと、ここに来て15日なのに色んなことが出来るようになりましたよ……」

 

 炊事洗濯、釣り薪割り、お掃除、もうスーパーほの囮です。あとヘアアレンジも上手くなりました。

 というのもここ数日で髪の毛がまた結構伸びてしまったので、かみさまによるヘアアレンジ講習会が始まってしまっていたのである。個人的にはポニーテールが楽なのでこの状態でいたいのだけど。……いや、サバイバルなのに女子力あがってどうする。

 

「今日もいい湯だった……」

 

 この湯に浸かるたびにかみさまにとって望ましい巫女の姿になっていくのだろうけど、この至福の時間を止めるというのは無理な話なので毎日お風呂には入っている。

 ふと、本殿の方から雫が落ちる音がした。

 

「……ピアノ?」

 

 本殿はあらかた見てまわったが、ピアノがあった記憶は……ああ。そういえば。

 

「やっぱりこの部屋」

 

 ギシリと軋む廊下。本殿の奥にその部屋はある。

 かみさまが眠っていたというお部屋。意図的に15日間開けずにいたが、かみさまは時々その部屋に出入りしていた。何をしていたかについては聞かなかったが、実際に部屋に入ると何をしていたかがよくわかった。

 

「………」

 

 お札としめ縄が張り巡らされ、真っ赤に塗られた部屋。しかしよく見るとそこの部屋は綺麗だった。

 部屋の真ん中に置かれた大きなグランドピアノの鍵盤を前に指を動かし音を奏でるかみさま。

 

 ーー異様な空間の中、彼女は恐ろしい程に美しい表情で音を紡いでいた。

 

「ねぇ」

「へ!?」

 

 目を閉じたままのかみさま。だが気配には気づいていたらしい。

 ピアノに向き合ったまま彼女は言った。

 

 

「ピアノ、弾かない?」

 

 これまた唐突だった。

 

「へ? や、僕ピアノは」

「いいの。ただ音を出してくれればそれで」

 

 かみさまに促されるままピアノ椅子に座る。その隣に座るかみさま。

 

「好きな鍵盤を押してみて。そうそう、好きなように、出鱈目に」

「は、はい」

 

 ぽつぽつとした単音。それに被せるようにかみさまは音色を紡いでいく。

 不思議と音楽が出来上がっていくので、なんだか悪戯してみたくなった僕は両手を使って本当にめちゃくちゃに弾いてみた。しかしそれでもかみさまは対応してきて、僕の出鱈目な曲は瞬く間に名曲に仕上がってしまう。

 

「ふふ、くすくす、悪戯っ子だ」

「……なんか悔しい」

「練習すればほの囮だって上手くなるよ。私が教えてあげるね」

 

 何だかピアノを教えてくれる流れになっていた。

 

「弾けるようになったらきっと楽しいよ〜」

「ピアノ、好きなんですね」

「うん! だからほの囮と一緒に弾けたらもっと楽しい!」

「やりますやらせてください」

「ほの囮って結構ちょろいよね?」

 

 ちょろくて結構! てことでそれから僕は夜通しピアノを練習した。かみさまの教え方は上手かったため、僕にもよく理解できる。

 

「弾けるようになったら山を降りるってことで!」

「そのモチベだと弾けるようにならないですね……」

「あはははそれ困るな〜、私現代の食べ物もっと食べたいから、ほの囮には上手になってもらわないと」

 

 かみさまは体を揺らし、ピアノを弾きながらそう言った。

 

 それからはお風呂上がりに毎日2人でピアノを弾いて過ごした。

 音楽は教える先生と本人のモチベーションが成長の重大な要素になる。かみさまに美味しいご飯を食べさせてあげるためにも、僕はピアノを上手くなる必要があるんだ!

 

 朝起きて水を汲み、神社を掃除して、ご飯を食べ、お昼には釣りをしたり食料採取。薪を割って燃料を蓄える。夕方には料理を作り、お風呂に入ったのちにピアノ。

 そんなこんなで樹海生活が60日近く経過した頃、いつものようにピアノ椅子に座って2人で演奏している時、かみさまが言った。

 

「作戦会議、しよっか」

 

◇◆◇

 

 なんとなくピアノを前に横並びになっている時が1番話しやすい気がする。

 ピアノ椅子に座り、そこで連弾をする。音楽理論やかみさまの演奏の癖なんかは頭に入っているので随分とマシな連弾が出来るようになってきた。とは言えかみさまの超絶技巧伴奏が無ければ平々凡々なピアニストではあるけど。

 

「1.2ヶ月で弾けるようになるのは凄いね、才能才能〜」

「教え方が上手いからですよ」

「だよね、だよね! 私天才!」

 

 上機嫌にピアノを弾く。

 そして、先ほどの言葉を紡いだ。

 作戦会議。それは、つまり……。

 

「免許皆伝ですか」

「少しは良くなったからね〜。ピアノも、顔色も」

 

 かみさまの人差し指が白鍵から離れてそのまま僕の頬に触れる。

 酷く冷たい指先だ。人形のように真っ白なこの手から、恐ろしく美しいメロディが作り上げられている。

 

「此処での生活は楽しかった?」

「勿論ですよ。戻らなきゃなのが惜しいくらい」

「あはは。色恋の神と村上ニコラは、此処から出たらきっと色々仕掛けてくるよ。ほの囮を『メス堕ち』だっけ? させる為に」

「……もう一生ここに引きこもってたい」

「私に美味しいもの食べさせてくれるんでしょ? それに、妹さんのことも」

 

 そう。僕は逃げている。現状から逃げているだけなのだ。いずれは妹のいる北湊に戻らなくてはならない。

 原因不明の病気で入院中の妹。妹を置いて自分だけ樹海に逃げたままというのは、流石に僕自身が許さない。だから、俗世を捨てる案はボツだ。2ヶ月の家出期間は、僕にとって絶対の指針だった。主に心の準備期間として。

 そうなるとニコラの言う『ゲーム盤』で闘わなくていけないのだけど、そのことを考えるだけでもう憂鬱である。まぁ、かみさまと出会わなかった世界線を考えるとそっちの方が憂鬱だが。

 

「そっか〜、私と会わなかったらほの囮は正真正銘の女の子になってたかもしれないんだね、くすくす。なんだか感慨深いよ〜」

「洒落になんない……。今頃海知か他の男モブとイチャラブストーリーが繰り広げられてたかもしれないと考えると……うぉぇ……」

 

 吐き気がしてきたのでかみさまを眺める。うん、今日も可愛い。美少女、天使、まじ眼福。と、実際に拝んでおいた。南無南無。

 

「え、なになに?」

「いえ。今日も僕のかみさまはお美しいしお優しいし素晴らしいなぁと」

「えへへ〜♪ 拝まれると何かしたくなっちゃうなあ。なでなで〜」

「ふぁ……」

 

 思わずあざとい反応をしてしまう程かみさまの撫でる手が優しい。これやばい、麻薬だ、触れる麻薬だ。

 

「えへへ、こんな可愛い巫女がここまで従順だと変な気持ちになりそうだよ、えへへ〜」

「な、なんか笑顔が怖いんですけど……」

「現代のお洋服も気になるし、樹海から降りたら色んなもの着せてあげるね〜?」

「ひえっ」

「ふふふ、くすくすくす。私だけの着せ替え人形〜、くすくすくすくすっ」

 

 うん。ニコラにメス堕ちさせられる前に、かみさまによってメス堕ちさせられそうな気がする。

 とはいえ、ここでの60日は僕にとって信じられないくらい幸せな日々だった。そしてこれからも、かみさまがいればきっと……。

 

「かみさまは……本当に山を降りて大丈夫なんですか?」

「ん〜? どうしたの?」

「いえ、だって、かみさまだし。それに、僕を助けてくれるってだけの理由で来てくれるのなら、天使すぎない? って思って」

「天使! 天使だって! あははは! おもっしい! おもっしいこというね、私は邪神だよ?」

「邪神は本人公認なんですね……」

 

 おかしそうに笑うかみさまだったが、一通り笑い終えるとその後は黙ってピアノを弾きはじめる。

 こんなことを聞いたのは、なんだか少し申し訳なくなったからだ。

 僕は僕の理由で山を降りるけど、かみさまにそこまでの理由はない。なのにこんな戦いに巻き込んでしまってよかったのだろうか、と。

 ぽつぽつとした音を立てるように美しい旋律が流れる中、かみさまは再び口を開いた。

 

「大丈夫、私にもちゃんと理由がある」

「……え?」

「これだけは絶対に譲れないっていう、強い理由。あ、手は止めなくて良いの、ただ聞くだけ。ね?」

 

 ピアノを弾きながらかみさまは語り始めた。

 

 

 

「私は、私をーー『私たち』を殺したこの街の闇を全部暴き出す」

 

 

 

 鍵盤を押す音が途絶え、僕の指が震えるのが分かる。

 

 ーーころ、した?

 

 衝撃を受ける。

 しかしかみさまを目を閉じながらピアノを弾く手を止めなかった。

 

「ふふ、おもっしいんだよ、この街。1000年以上の年月の中で紡がれた負の歴史はここに記憶として残ってる。ほの囮が思っている以上にこの街の闇は根深い」

「………」

 

 かみさまが何を言っているのか、僕には分からない。けれど、これがかみさまの心の内。

 底なし沼に足を突っ込んだような感覚に怖気がした。さっきまでピアノを弾いていた指はぴくりとも動かない。

 それでも尚、隣に座るかみさまは音を、言葉を紡ぎ続ける。

 

「私はね、ほの囮。ここから出て調べなくちゃいけないことがあるの。私の、私たちの奪われた歴史を。この街の闇を。今現在続いてる悍ましい真実を」

「かみ、さま?」

 

 突然の話に頭がついていかない僕を横目に、ピアノを弾き終えたかみさまは少し微笑んで言った。

 

「ごめんね。今日は少し感傷的。星がよく見える夜だからかな?」

「………」

「つまりね、ほの囮がここから出る理由があるのと同じように、私にもここから出るべき理由があるんだよ。ほらほらシリアスおしまい! かみさまと巫女は一蓮托生、比翼連理、呉越同舟!」

「それ使い方間違ってます……」

「あれれ? まぁいいや。それよりやるよ、作戦会議!」

 

 誤魔化した……。

 けれど僕はこの日、ようやくかみさまの心の一端に触れることが出来たんじゃないかって思う。

 それはとても、とても深い闇が広がっている気がして、この時の僕にはまだ踏み込む勇気がなかった。

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