樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

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1章12話:神憑り

 作戦会議の議題は無論、対ニコラ&色恋の神だった。

 色恋の神と組んで海知を軸に北湊を支配しているニコラ。彼女を打倒しなければ僕のメス堕ちエンドは回避されないだろう。

 そして何よりかみさまの目的の一つに色恋の神をボコボコにするというのがある。僕たちは目的を共有できている。

 

「私の巫女になった段階でほの囮は村上ニコラの『駒』じゃなくなったから、向こうは凄く警戒すると思うんよ。何処かの誰かがほの囮に干渉したんじゃないか、って」

「デスヨネ〜……」

「まずは様子見だね。少なくとも私がほの囮の背後に控えてることを悟らせないためにも、なるべく普通を装うことが重要かな」

 

 ニコラを欺く為にも、自分からかみさまと結託したんじゃなくて知らず知らずに誰かの干渉を受けているという体を装う必要がある。

 つまり僕自身はニコラに敵意を見せたり状況を積極的に打破しようとする姿勢を見せることは避けた方がいい。

 仕方ないとは言え彼女ら相手にニコニコしなきゃなのはキツイが背に腹はかえられぬ。

 

「その間に情報を探ること。出来る? 私の巫女さん」

「必ず。任せてください」

 

 かみさまの真剣な瞳に応える。此処に来るまで一人で戦わなくてはならないと思っていた僕にとって、かみさまの存在は本当に心強い。

 

 これにて下山の決意は固まった。

 

「さてと、それじゃ最後に仕上げをしよう」

 

 かみさまは軽快な足取りで神社の境内を進む。

 ちょうどその中央、月光に照らされる位置で、スポットライトを浴びる女優の如く彼女は大ぶりに手を広げた。

 

「ねぇほの囮。どうしてかみさまには巫女が必要なのだと思う?」

「……かみさまを助けるため、ですか?」

「そう、かみさまを助けるため。じゃあ助けるってなんだろうね?」

「たす、ける……」

 

 かみさまはそう言ってニコリと微笑む。そしてそのまま僕に顔を近づけた。え、ちょ、近……。

 

「か、かみさま!?」

「いいから」

 

 かみさまが手を僕の両目に当てる。ひんやりとした小さな手によって僕の視界は遮られた。

 何かがおでこに触れる。

 

 

 

 ーーそれが唇だと気付いた時、僕は心臓が宙に浮いたような感覚を覚えた。

 

 

 

 そして次の瞬間。

 

 

「交代♪」

 

 

 視界が暗転する。

 次に目を開けた時、僕は薄ぼんやりとした視界の中で微かな違和感を抱いた。その違和感は徐々に大きくなり、それが体の変化だと気付いた時には僕は僕ではなくなっていた。

 そう、僕は僕の中に居た。

 

「へぇ、やっぱり神を受け入れやすい体質なのかな」

(へ? あ、れ、勝手に喋って……)

「くすっ。ほの囮、ここだよここ。私はほの囮、ほの囮は私。さぁ鏡をどうぞ」

 

 かみさまの声。

 それに従うように僕はどこからか手鏡を取り出して顔を覗き見る。文字通り僕は手も足も出ないというのに。

 

 

 

 

(え)

 

 

 

 

 そこには女の子がいた。

 いや、その顔は見覚えがある。

 

 僕だ。犀潟ほの囮がいる。

 

 けれどその瞳は月光に照らされ、そのまま月光色に燦々と輝いている。そしてそれを強調するように神々しい雰囲気が滲み出ている。

 よく知ってる自分の顔の筈なのに、自分の顔だと認識ができない。

 

 

 

 

 ーーそこに居たのは紛れもなく『かみさま』だった。

 

 

 

「くすくすっ。どう? これで化粧でもしてみたら、きっと誰も私を犀潟ほの囮とは思わない。どう?」

(いや、いやいやいや、どうって……え、これなんですか!? 僕だけど僕じゃない!?)

「あ〜、安心してよ。ちゃんと身体もほの囮のままだよ? 確認する?」

 

 そう言って服を脱ぎ出そうとしたので慌てて止める。自分の体ゆえになんとなくわかる。性別は変わってないしこれは間違いなく僕の体だ。

 けれどその一挙手一投足から『犀潟ほの囮』を感じない。かみさまはそれほどまでに僕の体で『かみさま』を演出している。そう、演じているというのが正しい表現だろう。

 

「これが『神憑(かみがか)り』。巫女の最も大きな力。少なくとも、村上ニコラに憑いてる神も同じことができるだろうね〜」

(かみ、がかり……)

 

 神憑(かみがか)り。

 神霊が乗り移った状態をさす言葉だ。超人的な能力を持つ人を指し示すこともあるけれど、これはおそらく本来の意味だろう。

 

「私たち土地神はね、その土地の信仰によって実体化出来るかどうかが変わってくるんさ」

(信仰……ですか)

「そう、信仰。私が街で土地神として活躍するには信仰必須。信者獲得が大事なのです」

(で、それとこれとなんの関係……あ、待ってなんか嫌な予感する)

「ほの囮の体を使って目指せ信仰獲得だぜ〜!」

(ぎゃああああああああああああああああ!!!)

 

 言わんとしてることは分かる。実体化出来ないかみさまの代わりに僕が足になれということだろう。

 けどかみさまが体を好き放題出来る状態で、何されるか分かったもんじゃない……。

 

「ふふん、ほの囮の体で女王様でも目指そうかな」

(なんかよくわからないけどやめてぇえぇえ!!!)

 

 ニコラによるメス堕ち以上の危機かもしれなかった。

 

◇◆◇

 

「ふーんふふふんふん! ふふふーんふふーんふふー!」

(……………)

「元気ないね〜? 私は鼻歌絶好調だよ?」

(なんの曲ですか……)

「ルール・ブリタニアっていう曲なんだけど、知ってる?」

 

 後で調べたところ、イギリスの愛国歌らしかった。どういう選曲ですか。

 

「女神ブリタニアが世界を支配する、って曲。私の門出にはぴったりじゃないかなぁ? あはははは! なーんて、これがほんとのぶりてぃっしゅじょーく!」

(はは……はは……)

 

 無理やり英国要素をぶち込んできた……。

 

「テンション低いなぁ。変なことはしないよ〜。ほら、ほの囮の正体がバレずに動けることはメリットでしょう? 私も現世のお店堪能したいんだもん」

(ソユコトにしておきます)

 

 僕がアレだけ迷った樹海だったけど、かみさまは迷いなく進み続けた。

 20分ほど歩いただろうか。

『この先、禁足地。入るべからず』

 例の赤い文字の看板が見えた。ここから先は集落の気配がする"人の空間"だ。

 

「おお〜、神域を抜けたのは何年振りかな。うんうん、幽霊がいっぱいいることを除けば景色は大差ないかなあ」

 

 今さらっとヤバいこと言ったぞこのかみさま。

 

(え、いや、あの、僕を怖がらせる為にそんなことを)

「へ? ああ、ほの囮って視えないんだっけ? 私のこと見えてるからてっきり視えてるんだと思ってた。あー、でもほら、今は私と同調してるから、うんうん、目をよく凝らしてみて」

 

 看板の奥の方を意識してみる。

 するとどうだろう。ソレは確かにそこに"居た"。

 真っ黒な人影が通り過ぎる。目も鼻も口もない、真っ黒なマネキン。

 

 

 ーー明らかにこの世のものではないものが居た。それも結構ウヨウヨと。

 

 

(あ、ああ、う、ぁ、な、なに……)

 

 言葉が出てこない。

 目が眩む。

 けれど、そんな僕の心情を無視するかの如く、かみさまはくすくすと微笑をこぼす。

 一気に緊張感の糸が切れた感覚がした。

 

「くすくす、怖がってるほの囮、かわいい! あははは!」

 

 かみさまの笑い声。僕の口から出ている筈なのに全くそんな気がしない。声音まで彼女のものへと変貌している。

 けれどそんなかみさまの声によって、僕の恐怖心は完全に薄らいだ。

 さてそうなると分析する余裕が生まれてくるものだ。

 何度見てもこの世のものとは思えない真っ黒いマネキン達。ただ蠢いているだけでこちらに何かしてこようと言う気配はない。

 

「大丈夫、ほの囮は私だけを感じていればいい。あれは幽霊。生者には何も出来ない、魂の残り香」

(………)

「目、閉じて。暗示をかけるの。"視たい"と"視たくない"を切り分ける。さぁやってみて?」

 

 視たい、視たくないを切り分ける。意識しろということだろう。視たくないと強く念じてそしてかみさまに従って目を開ける。

 すると、さっきまでアレだけ見えていた黒のマネキンは跡形もなく消え去っていた。

 

「どう? ニンゲンには面白い感覚でしょ?」

(心臓に悪いんで先に言っといてくださいよ……)

「くすくすっ、私人を怖がらせるの大好きなの!」

(なんて性格の悪い趣味なんだ……)

「もっともっと怖がらせてあげないとだなぁ」

(僕ぁあなたが怖いです……)

 

 普段通りに返答出来るほど落ち着いてきた。

 しかしなんというか、一度視てしまったら今後視え続けてしまうんじゃないかという感じもする。心臓に悪いからあんまり視たくないな。

 

「うん、そうだねそうだね。やっと出れたんだから楽しいこと考えるべきだね。さぁ此岸(しがん)に来たらもう少しだよほの囮!」

 

 はしゃぐかみさまを見ていると、幽霊見てテンション下がっているのが馬鹿馬鹿しくなってきた。

 これだけびっくりさせられたんだ。今度は文明の進歩を見せつけてかみさまをびっくりさせてやろうではないか。

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