樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

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2章8話:歪んだ幼馴染たち

「ほの囮がボクの思い通りに動かない」

「あらあら、ご機嫌斜めねぇ。我同情ス」

 

 苛立ちが止まらない。おかしい。おかしいおかしいおかしい。

 ボクの力は絶対だ。ラブコメ様の力を借りてボクはボクだけのゲーム盤を作り上げた。それはいい。そこまではいい。

 だけど、

 

「記憶操作、軽い精神干渉、マインドコントロール、これで色んな種を蒔いた。海知周辺以外にも面白いラブコメを醸成してる。けど、肝心のメインストーリーが進まない……」

「まだ1週間しか経ってないのよぉ? 何をそんなに焦っているのかしらぁ? 確かに不確定要素は多い。けど、貴方は何も心配することないのよぉ?」

「あの、琵樹って子については大丈夫なの?」

「貴方が気にすることじゃあないわぁ」

 

 ラブコメ様はボクと同じ顔のまま、呑気に雑誌を読んでいた。BL雑誌だった。好きだねぇ。

 

「我のゲーム盤とて完璧ではないわぁ。けど、それなりに望んだ結果を生み出せる。時間さえかければどんなラブコメでも作り出せる。ならば時間をかけて極上の物語を作るのがニコラの役目じゃなぁい?」

「うっ、そうだけどさ……」

「焦りは禁物よぉ。ニンゲン、焦ると碌なことがない。さぁ、他の物語を我に見せて頂戴」

「ふーん、まあいいや。ちょうど1人目のエンディングが決まりそうだから見せられるよ、ぬふふふ!」

 

◇◆◇

 

 眼前に広がる光景に思わずほくそ笑む。

 バニーガールの格好をした人物。しかし筋骨隆々とした筋肉がその異質さを駆り立てる。学年を代表するような美形男子だった彼が、今、酷い姿になっていた。

 体育用具室。

 そこはある一部の生徒達によって本来とは違う使われ方をしている。

 イケメンはそこで多くの男子生徒達から"可愛がられ"ていた。

 

「うっ、うぐ……もう、やめて、くれ……」

「ひひっ、まだだ、まだ足りねぇ! ほら、おねだりしてみろよ!」

「うううああああ!」

「ほらほら、もっと粘れよバニーちゃーん」

 

 数人の生徒達から○的暴行を受ける少年。顔は苦痛と屈辱で歪んでいるが、その中に多少なりとも悦びが混じりつつある。

 まぁそれ、ボクが仕込んだんだけどね! ぬふふー。

 

「ほら、今助けにいけば彼は君のものだよ」

「あ、ああ、ああああ……」

「どうしたの? 彼のヒーローになるんでしょ?」

「わかってる、俺が、俺の方があいつのことを好いてるんだ!」

 用具室に突入していった男はいじめを行っていた男達を薙ぎ倒す。

 静寂が場を支配したのち、彼はバニーガール姿の少年を抱き上げた。

 

「けーちゃん!」

「ひか、る?」

「もう大丈夫だ! 俺が、俺がけーちゃんを守るよ! ずっと好きだったから……」

「あ、あああ……でも、僕には、ミサトが……」

「あの女がこいつらを嗾けてけーちゃんに酷いことをしたんだ!」

「そ、そんな! うそ、だ……」

「嘘じゃない! 俺なら、俺ならけーちゃんを守れる! 好きだ!」

「あ、ああ、うう、ああああ……うわああああああん!」

 

 泣きじゃくるバニー少年を抱きしめる男子生徒。そして2人は静かにキスをした。

 っしゃああハッピーエンドぉ! ぬふふっ! よく言うよね、あいつらけしかけてイケメンくんを散々いじめ抜き、自分で助けてモノにしてしまおうなんて酷いマッチポンプを考えてたのがあの光くんなのにさ!

 あー、キス以上にいこうとしてる。これだけ見ていこうかなぁ。バニー少年には被虐体質になるように洗脳を施したし、きっと相性は良いはずだ。

 バニー少年に彼女が居たのには焦ったけどそれすら寧ろスパイス。騙くらかして『メス堕ち』させることに成功した。

 親友くんの歪んだ愛情を増幅させ、指示を出し、道具を用意し、ここまで漕ぎ着けた。にしても、良い表情してる! 人の幸せを生み出す瞬間ってなんて楽しいんだろう!

 

「ぬふふ、お幸せにー」

 

 この通り、ボクは人の好意を操ることが出来る。精神に少しずつ干渉し、感情を揺さぶったり出来るし、性癖まで歪めてしまうこともできる。

 さてと、次は誰をおもちゃにしようかなぁ。持ち駒の中にもまだまだ遊べるのがたくさんいる。

 ボクは今、史上最高に充実している。なのに……。

 

「ほの囮、やっぱりおかしい。本当にボクの記憶操作きいてる? 女装趣味になるように毎日暗示もかけてるのに」

 

 ほの囮は月曜日からおかしい。見た目は何故か物凄く美少女になっていたから、もしかしてメス堕ちしたんじゃないかって期待した。

 けれど中身はその真逆をいくようだった。既に夏葉や海知への関心が消え失せ、かつてのオドオドした性格とはかけ離れたものになっている。

 ふざけんな。ボクの思い通りにならないやつなんているわけない。それも夏葉に可愛がられるあのクソ陰キャごときが。

 

 昔からほの囮のことが気に食わない。オドオドしてナヨナヨして暗いのに、夏葉に気に入られてる。許せない。

 海知に夏葉が取られることは万が一にもないと思う。夏葉も薄々気づいてるけど、海知はほの囮のことを性的な意味で好いている。ボクが教えてあげるまで本気で気づいていなかったのはほの囮本人だけだ。そんくらいバレバレ。

 だけどほの囮になら、夏葉が取られる可能性がある。ああ見えて夏葉はほの囮に執着しているのだ。そんなの許せない。

 

 だからほの囮をメスにする。夏葉になんて一切の興味を示さないほどメスに落として、万が一すら無くす。ほの囮が海知と結ばれてしまえば、それを見て夏葉は傷つくだろう。

 その時が狙い目だ。ボクは夏葉を洗脳する気はない。自分の恋愛は自分で叶えたいからね! だけど正攻法だと難しいから周りを使う。それが1番良い方法だと思っていたのに。

 

 

 ーー僕は絶対ヒロインにはならない。

 

 

「ムカつく、ムカつくムカつくムカつく!」

 

 ほの囮如きがボクに逆らっていいわけがない。あいつには徹底的に不幸で惨めな目に遭って貰い、最後には『街の花嫁』にされるという未来を提示してやる。

 次は何をしてやろうか。彼の義弟を動かしてみる? 海知にもっと積極的に攻めさせる? それとも、彼の大事な妹に……いやいやこれは最後まで取っておこう。ケーキのイチゴは後に食べる派なんだ。

 まずは直接的な手を使おう。さっきの彼と同じような手だ。ほの囮を徹底的に虐めて意志を砕き、心も体もボロボロになったところに海知をけしかける! これでハッピーエンド! 古来から使われてる有効な手段だよ!

 

 だけど不安要素もある。『琵樹』と名乗る少女の存在だ。ラブコメ様は特に問題ないとしていたけれど、やはり何か引っかかる。アレを野放しにしてはいけない、そんな予感めいた何かを感じた。

 だがラブコメ様の言う通り直近の脅威ではないだろう。些事に気を取られて大事を楽しめないのは損だ。今は直近のイベントを楽しみにしようじゃないか。

 

「中学の時とは比べものにならない程の虐め、ほの囮は耐えられるかなぁ? ぬふふふふっ!」

 

◇◆◇

 

 ほの囮が好きだ。 

 最近はそのことばかり考える。

 昔はもっと抑えられていたはずなのに、誰かに背中を押されるように最近はほの囮のことばかり考えてしまう。

 ほの囮は可愛い。

 男だなんて信じられないくらいに可愛い。俺の知ってるどの女の子よりも可愛い。

 

 そんなほの囮の唇を奪いたい。黒く艶のある髪を撫でたい。白い四肢を押さえつけてぐちゃぐちゃにしたい。

 駄目だ駄目だ駄目だ。最近はそんな黒い感情ばかり浮かび上がってくる。

 だがそれもこれも全て最近ほの囮が少し変わったのが悪い。

 

「ほの囮、おはよう!」

「ああ」

 

 反応が冷たくなった。まだあのことを気にしているのだろうか。

 先週の金曜日、俺はほの囮に気持ちを伝えようとした。それを察したのかほの囮は俺を避けた。

 そうか。まだ恥ずかしいのか。でも大丈夫、もうすぐほの囮は女の子として学校に通えるようになるんだ。

 その後、俺たちはほの囮が女の子として登校できるように取り計ろうとし、クラスのみんなもそれを温かく受け入れてくれた。

 セーラー服姿のほの囮と毎日登校できる。そう思ってたのに、

 

「絶対着ねぇよ!!! ばーーーーか!!!」

 

 ほの囮があんな普通に感情を爆発させたのは初めて見た。どうしてだ? 何が間違っていた?

 ニコラが慰めてくる。恥ずかしかっただけだろう、と。そうだ、そうに違いない。ニコラはいつも俺にとって正しいことを教えてくれる。今回もそうだ、きっとそうだ。

 

「ほの囮、俺がお前を女の子にしてやるからな」

 

 そう決意を固めた。

 それがほの囮の幸せであり、俺にとっての幸せであり、みんなにとっての幸せであると信じて疑わないのだから。

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