樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

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2章19話:あの日の呪い

 私ーー赤泊(あかどまり) 夏葉(かよ)には大切な幼馴染がいる。

 その子は小学校の時に転校してきた。

 初めて『彼』を見た時、なんて可愛らしい子なんだろうと率直に思った。女の子じゃないことが信じられなかった。明らかに生まれる性別を間違えている、そう思った。

 名前も可愛かった。ほの囮。少し内気でオドオドしていて、彼と喋っているとなんだか妹が出来たような気分だ。

 ほの囮に可愛い格好をさせてみたかったけど、彼はそういうの恥ずかしいらしい。けどいつかは着せたいな。

 この時私はほの囮のことを本当に妹のように可愛がっていた。お花の冠を作ってあげたり、リボンを髪につけてあげたり、女の子同士のような遊びをしていた。

 

「よっ、ほの囮、夏葉!」

 

 もう1人の幼馴染、柏崎海知。彼は控えめに言ってかっこいい。スポーツ万能、成績優秀、それでいていつも明るくて正義感に溢れている。

 私は海知のことが好き。悲しいことや辛いことがあるとすぐに駆けつけて慰めてくれる、私のヒーロー。

 私はこの恋を成就させたかった。彼のことを好いてる女の子は沢山いるけど、それでも負けたくなんてなかった。特別な何かを持ってるわけでもない私にとっての唯一のアドバンテージは、ほの囮だ。

 

「ほーのか! ゲーセンいこうぜ!」

「う、うん!」

 

 何故か海知はほの囮を気に入っていた。お兄ちゃんと妹、側から見たら彼らの関係はそんな感じ。とにかく海知はほの囮を構い続けた。

 内気なほの囮は私と海知しか友達がいない。私も海知もほの囮のことが好きだから、必然的に3人でいることが多くなった。ほの囮と居ると、普段ドキドキして話せない海知とも一緒に居られる。そんな下心がなくも無かったけど、純粋にほの囮のことも大切だった。

 

 そう、あの時まで私は、ほの囮のことを本当に妹のように思っていたのだ。

 

「好きです! ぼ、僕と、つ、つつ、付き合ってください!」

 

 告白を受けた時、私は彼が男の子だったことをやっと思い出した。

 そして恐れた。ほの囮が離れていってしまうことを。

 私は海知を諦めない。海知と結ばれるためにたくさん頑張ろうと思った。

 じゃあほの囮は? ほの囮のことも好きだ。でもそれは異性としてじゃなくて、家族同然として、だった。

 もし私がほの囮の告白を断ってしまったら、彼はどうなる? 

 

 ーー私から、海知から離れてしまう。

 

 そんなのは嫌だ。それに困る。

 私はほの囮が居るから海知と上手くやれている。ほの囮が居なくなっちゃったら、私は……。

 選択肢は決まりきっていた。

 ほの囮は、私の妹だ。それならもっともっと妹として扱ってしまおう。

 

 ーーそれが彼の気持ちを蔑ろにしてしまうなんて、単純なことも気付かずに。

 

◇◆◇

 

「あ、さ?」

 

 またあの日の夢を見た。これで何度目だろうか。

 髪の毛をセットしてメイクを施し、お気に入りの香水をかける。今日も少し自信のなさそうな女の子が鏡の前に立っている。だめだ、自信を持て。でなければ得られるはずの幸運も来ないし勝てる勝負も勝てない。

 

「よしっ!」

 

 朝ごはん。忘れ物のチェック。身支度を再度確認して玄関のドアを開けた。

 既に想い人はドアの前で待っていた。

 

「おはよう夏葉!」

「お、おはよ、海知」

 

 イケメンが朝から出迎えてくれるのは心臓に悪いわよ!

 今日も太陽のような眩い光を放っている海知はさりげなく道路側に回ると私の歩幅に合わせながら歩き始めた。……所作がイケメンだなぁって。

 たわいない話をしながら学校へ向かう。ああ、この時間がいつまでも続けばいいのに……。

 

「ぬふふー、お二人さん、朝からアツイねー!」

「きゃっ!? ニコラ!? なんでスカート捲るのよ! ちょ、見ないで海知!」

「わ、悪い! 見てない!見てないから!」

「見たでしょ……」

「ぬふふ、夏葉の照れ顔頂きましたぁ!」

「ニコラも、悪ふざけはやめなさい!」

 

 私のスカートを後ろから捲ってきた少女。栗色の髪をミディアムに切り揃え、黒縁の眼鏡をかけたおちゃらけた少女の名前は村上ニコラ。

 彼女とは中学の時からの同級生で、私、ほの囮、海知のメンバーにいつのまにが加わっていた。今では4人で遊ぶことが多くなっている。

 

「いつも通りのいい朝ですなぁ! 海知小テストどう? ボクは多分無理ぃ!」

「自信満々に言うなよ! 昨日あんだけ宿題手伝ったのに」

「3人で遊ぶのは久々だったねぇ。……ほの囮が来れないのは残念だったけど」

 

 そんなたわいない話をしているうちに、周囲の人間が増えていく。

 

「お兄ちゃん、置いてくの酷い、真冬、悲しい」

「海知せんぱぁい、おはよーございます♡」

「おはよう柏崎クン。鍛錬日和だなっ」

「ふん、奇遇じゃないこんなところで、べべ別にあんたのこと待ってたわけじゃないし!」

 

 私の目から見ても可愛らしい少女たち。困ってる人を見たら助けずにはいられない海知が助けた女の子たちだ。

 中学時代にモタモタしているうちにこんな可愛い女の子たちがライバルになってしまった。うう、私のばかばかばか!

 

「夏葉、早く行こうぜ!」

「う、うん!」

 

 今日も学校で彼女たちと鍔迫り合いが始まる。恋の戦いだ。

 でも最近は、4年近く片思いをし続けてるのに一向に進展しない自分を客観視して、自信をなくしてる。……はぁ。

 

「……私、だめだめだ」

 

 そうこうしてるうちに登校メンバー最後の1人、ほの囮の家についた。

 結構怠惰なほの囮は中学時代全然起きてこないため、私がよく起こしに行っていた。ニコラなんか時々ほの囮にイタズラを仕掛けて大騒ぎだったり、ふふ。

 

 けれどここ数日のほの囮はどこか違っていた。

 

「ほの囮、おはよう!」

「ああ」

「ああって、なんか反応薄いぞー、ぬふふ」

「寝不足でして」

 

 ほの囮は眠そうにのそのそと歩き出した。そんなほの囮はやっぱり可愛らしい。特に今週の月曜日から何故か髪が伸びたように見える。エクステ? ウィッグ? まぁともかく、見た目は完全に美少女だ。

 

 最近のほの囮はどこか影のあるダウナー系美少女にしか見えないのだ。オドオドした雰囲気は消え失せ、どこか近寄りがたい雰囲気を出している。

 2週間前までのほの囮は、なんというか余裕がない感じだった。原因は分かってる。

 私だ。

 ほの囮は今でも私のことが好き、なんだと思う。だから私が海知にベッタリだと嫌そうな顔をするし、どれだけニコラから嫌なことをされても私たちから離れて行こうとしない。

 

 

 ーーあの日、私が彼にかけた呪いは先週までずっと機能してしまっていた。

 

 

「ほの囮の気持ちは嬉しいの。でもね、私は海知が好き。そして、ほの囮も海知が好きなのよね? あ、誤魔化さないで! 私そういうの偏見ないから。ほの囮は自分のこともっと曝け出しても良いのよ? よーし! 姉妹対決、負けないから! 一緒に海知に好きになってもらおう!」

 

 ほの囮の気持ちをわかっていながらそれを塗りつぶした。ほの囮が海知のことを好きということにした、あの日私が作り上げた設定。

 ほの囮は私の大切な妹。だから、姉妹で同じ人を好きになってライバル対決。それならほの囮は離れていかないと思った。これがほの囮を振らないで済み、尚且つ彼を繋ぎ止めておく方法だ。

 ……我ながら酷い。けど私はどっちも失いたくない。幸いニコラも何故かほの囮と海知の仲を後押ししていた。

 けどやり過ぎた。ニコラがふざけて噂を流して回ったせいで、ほの囮は海知のことが好きなのだと街中が誤解した。街中がだ。

 

 それをラッキーだと思ってしまった自分が嫌い。これでほの囮が離れていかないと思ってしまった自分が嫌い。嫌い、嫌い、嫌い嫌い嫌い!

 ……私ほんとに、嫌な子だ。

 

◇◆◇

 

 私は登校中ほの囮に構ったりする。大抵は顔を真っ赤にして逃げ、それをニコラが追撃して海知が赤面しつつ止める。そんな流れ。だけど、

 

「ほの囮、前見ないと危ないわよ?」

「んー」

 

 珍しくほの囮が本に夢中になっていた。

 私が言うのもなんだけど、ほの囮は登校中頑張って私に話しかける。アピールする。自分がどれだけ男らしいかをだ。

 例えば腕立て伏せ何回できたか、とかそういうの。女の子の顔で、「どう、僕男らしいだろ」って表情で話しかけてくるから微笑ましい。

 ほの囮は可愛い。私に好かれようと必死になってて、そんなほの囮に罪悪感を覚えつつ微笑ましさを感じていた。けど。

 

「……北湊都の歴史、中世史?」

 

 ほの囮は私のことなど目もくれず、眠そうな目でそんなタイトルの本を読んでいた。まるで私にも、海知にもニコラにも、誰にも興味なさそうに。

 最近のほの囮はおかしい。

 なんだかほの囮じゃないみたいだ。

 そういえば最近ほの囮の顔をまともに見ていない気がする。目線が合わないと言う意味ではなく、その長い前髪と眼鏡のせいで顔がよく見えないのだ。

 だから、そこにいるのが本当にほの囮なのかどうかよくわからなくなる時がある。

 彼に何があったのだろう。

 少し、思い当たることがある。それは、数日前にほの囮が言っていたこと。

 

「さぁ? 友達と遊んでる、とか?」

 

 ほの囮に友達ができた。本人はそのあと誤魔化していたけれど、ほの囮が唐突に変わってしまったのは、きっと誰かの影響なのだ。

 ほの囮に私たちの知らないところで交友関係ができるなんて、そんなこと前まであり得なかった。私たちはいつも4人一緒で、ほの囮の友達は4人の友達でもあった。

 

「ねぇほの囮」

「ん?」

「友達、私に紹介してくれないの?」

「だからそんなの居ないって」

 

 まただ。

 またはぐらかされる。こんなことなかったのに。

 "何故か"ほの囮の友達はニコラがすぐ特定してみんなで仲良くなってたし、"何故か"彼らはほの囮から離れていく。だからほの囮の友達は私たちだけだった。

 ……私たちだけでよかった。

 

 ーー嫌だ。ほの囮が、私の妹が私から離れていくのは嫌だ。

 

「……突き止めなきゃ」

 

 ほの囮を変えてしまった何かを、私が、私たちが突き止める。それで元通りだ。

 いつものように私達4人で仲良く……でも本当にそれでいいのかな……いや、ほの囮は私の妹……ああ、何かに思考を邪魔される。

 

「仲良く、しなきゃ」

 

 私は無意識に呟いた。

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