樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

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2章23話:ABCのC

 翌日、4/26(土)。

 僕はお昼から街で月潟と会っていた。デートではない。理由は簡単で、金曜日の夜に3件目の襲撃事件が起こったからだ。

 その調査のため、無理やり交換させられたLINEに彼女からメッセージが届いて急いで駆けつけたのがつい先程のこと。

 

「………私服フツーだね」

「何を期待してたんだよ」

「私のお洋服あげよっか?」

「その探偵みたいなコートは要らない」

 

 月潟は相変わらず探偵みたいな格好をしていたが、その下にプリーツの白いスカートパンツを履いていた。寒そう……。

 僕は地味目な黒パーカーと黒スキニーだ。

 

「海知くんが聞きつける前に終わらせよっか。あのー、すみませーん。なんか事件でもあったんですかー?」

「あら可愛い子ねぇ。そーなのよ、なんでもまた誰かが殴られたらしくてねぇ」

 

 その場にいた主婦に話を聞く月潟。主婦は本当に噂好きだな。

 

「しかもね? これオフレコよ? あたしの旦那が警察官なんだけど、どうやらその被害者、薬物のバイヤーだったらしいのよ」

「へえ〜〜、怖いな〜」

「怖いわよねぇ。被害者はバイヤーばっかって話だから、多分貴方には関係ないかもだけど最近物騒だから気をつけるのよぉ」

「ありがと〜親切なおねーさん!」

「あらお姉さんだなんてそんな、おほほほ」

 

 月潟はその場を去ってこっちに向かってきた。

 

「うん、昨日警察官が無線で同じこと言ってたし、多分確定だね。被害者はバイヤーだ」

「北湊都警察が信用できない理由の一つがこれだよ、色んなとこがザルなんだ……」

 

 民間人に無線聞かれてんじゃねーよ……。

 

「事情聴取の時に仲良くなった刑事さんなんだ〜。たまたま昨日あったからちょっと盗み聞きしちゃった♪」

「やっぱ昨日は捜査してたのか」

「あ、私このあとバイトだからまたね!」

「は?」

 

 そう言って急いで駆けていく。なんだったんだマジで……。いや、僕もバイトだから準備しなきゃだけどさ。

 

◇◆◇

 

 もぐもぐとご飯を食べる月潟をみながら、僕はキッチンで次の料理を作っていた。お店のメニューを覚えるために一通りの料理を作らされているが、その料理は全て目の前の客と店員の胃袋におさまっていった。

 

「しっかし本当に料理上手よねぇ。あんた大学生じゃなくて調理の専門学生かなんかでしょ?」

「北湊都にそんなもんないですね」

 

 続いて厚焼き卵を作って提供した。開店前だと言うのに、何故か常連さんも一緒になって試食会をしている。16時から酒とはいいご身分ですね。

 

「くぁあぁ、いいねぇ。日本酒によく合うよ。どれ、琵樹ちゃん、バイオリンの演奏頼むわ」

「…………」

「琵樹ちゃん?」

「あ、うん、待ってて!」

 

 何か考え込んでいた月潟だったが、すぐに楽器を取り出して演奏を始める。チャイコフスキーのバイオリン協奏曲ニ長調。またいいチョイスをするな。

 聞き惚れるようなバイオリンの音色を楽しみつつ、今度はボロネーゼを作った。演奏を終えると、月潟は何故かじーっとこっちをみていた。

 

「どうしました? 琵樹さん」

「幽々火ちゃん、やっぱ可愛いなあ〜って」

 

 ボロネーゼを一口食べて、水を飲む。口に色々ついてるぞ……。

 

「なんか大人っぽいようで、時々子供みたいなんだよね、幽々火ちゃん。まずお菓子食べる時の口がちっちゃい」

「や、それはいいじゃないですか」

「音楽聴く時ゆらゆらしてる」

「……いい音楽だから乗っちゃうんです」

「欠伸が子供みたい」

「よく見てますね……」

「あと多分ノーブラ」

「「「マジで!?」」」

「うるさっ!?」

 

 客が一斉に反応した。その3度のハモリやめろ。

 

「いや、してますよ、はい」

「えー嘘だー私わかるもん。幽々火ちゃんノーブラだよ」

「ご飯だしませんからね」

「わ、うそうそ! 幽々火ちゃんめっちゃ可愛いブラしてるよ!」

「「「マジで!?」」」

「それやめてください!」

 

 どっちにしてもアウトじゃねえか。月潟もその手をわきわきするのやめろ美少女が台無しだぞ。

 

「まぁでも確かにわかるぜ。幽々火ちゃん、なんか大人ぶった妹感あるんだよなぁ」

「む、私は18歳なんですが」

「ほんとかしらねぇ」

「黙れマスター、給料天引きしますよ」

「払ってるのアタシなんですけど!?」

 

 マスターは初めから僕の年齢を疑ってたから余計なこと喋られると困る。

 開店の時間を迎えたことでこの場はなんとか乗り切れた。その後は月潟が歌ったり、客がたくさん料理を注文したり、色々とあったのですぐに時間が過ぎてしまった。

 22時になり、月潟を家の近くまで送る。今日は僕もこれで上がりだ。

 

「妹……妹か。うん、なんかでも幽々火ちゃんが妹って方がしっくりくるんだよね〜」

「私年上なのに……」

「なでなで〜」

「な、撫でないでください!」

 

 こいつに撫でられるの2回目だけど、普通に恥ずかしいからやめてほしい。

 

「顔赤いよ?」

「赤の女王に言われたくないですね」

「くすっ、寒いからだよきっと。ほら、手つなご?」

「…………いいですけどね」

 

 月潟の手は冷たかったが、繋いでいたら少しずつお互い温かくなっていく。お互いの間にあった氷を溶かすように少しずつ、しかし確実に融解していく。

 僕は、月潟とどう接していけばいいのだろう。バイト仲間で、クラスメイトで、助手で。もうすぐ5月で手を繋がなくても温かくなる。その頃までには答えが出せるだろうか。

 

◇◆◇

 

 さて、毎週日曜日の犀潟家はカオスの一言に尽きる。何故なら概ね全員が家にいる日なのだ。日曜は必ず全員で夕食を取る。だから自称父も自称母も自称祖父母も、家で各々の時間を過ごしている。

 自称姉は家に何人も男を連れ込み、自称弟も友達を家に連れ込んでいる。

 

 つまり、日曜の夜は最大のチャンスだった。

 

 ゴールデンウィーク前最後の日曜日は即ち今日だ。山の神事件なんて大掛かりな事件を起こしたのも、全てはこの為の布石である。

 ABC殺人事件風にいえば、

 Aは僕の起こした9件の事件。

 B は模倣犯が起こした3件の事件。

 そしてCは犀潟家の襲撃だ。

 

 ーー僕の目的、それは、犀潟家を襲撃して通帳と印鑑を奪取し、それを山の神の仕業に見せかけることである。

 

 家から僕が盗み出したんじゃ意味がない。あくまで外部の人間に盗まれることが重要なのだ。そしてこの犀潟家襲撃が目的であると悟られるのも良くない。容疑者が絞られ過ぎてしまう。

 故に山の神だ。山の神の噂はすでに町中に知れ渡り、もうどこを襲撃されてもおかしくない状態になっている。ならば、

 

 ブツン。

 

 ブレーカーを落とした。家中が暗くなり、各所で悲鳴が起こる。自称父が懐中電灯をつけようとするが、すでに電池を抜いてある。恐らくスマホをとりに戻らざるを得ない。

 

 さぁ、開演だ。

 この本命公演のためだけに、各所でツアーを行ったのだから!

 

 パリンッ!!!

 

 窓ガラスが割れる音が家中に鳴り響く。同時に僕は、盗んでおいた自称祖母の携帯から家電に電話をかけた。

 

 RRRRRRRRRRRRRRR!

 

 けたたましく鳴り響く電話。すでに家中大混乱だが、スマホを見つけた自称父と自称母が合流し、先にガラスの音の方を確認しにきた。

 自称母が受話器を取る。

 

「だ、だれ?」

「くすっ、くすくすくすっ」

 

 僕は、灯りが月光のみの状態となった部屋で、姿を表す。

 蝋燭台に火が灯り、白い和服の女が現れた瞬間、彼らは声にならない悲鳴をあげて尻餅をついた。あはは、滑稽。

 

「こんばんは、いい夜ですよね」

 

 身体中に巻かれた呪詛の書かれた包帯、口や目のついた真っ黒い手が体にまとわりつき、後ろに白い幽霊たち。

 明らかに人間じゃない存在の登場に、自称父は思わず呟く。

 

「や、やや、やまの、かみ……」

「おや、よくご存知で。可哀想に随分と怯えて。その震え、終わらせて差し上げましょうか?」

 

 僕は持っていた卒塔婆を突きつけ、自称父に言った。

 

「きっとすぐ終わりますよ。目を瞑って1・2の3です。簡単でしょう?」

「ひ、ひぃぃ! ひぃぃぃぃぃぃい!?!?」

「あははは、大の大人がみっともない。ほら、貴方も早くこの子達の仲間入りしましょうよお」

 

 自称父の足元に幽霊たちが集りはじめる。とうとう自称父は泡を吹いて倒れてしまった。そんな彼の顔に真っ赤な彼岸花を被せると、続いて自称母に向き直った。

 

「いや、いやいやいやいやいやいやいやいや、いやあああ、おげ、おげぇっ、うぇぇぇえ!」

 

 恐怖でおかしくなり、嘔吐する自称母。僕はそんな彼女の髪を掴み、こちらを向かさせた。

 

「ひぃ!?」

「貴方、ちゃんと見てます? その空っぽの瞳で、ちゃあんと見てくださいよ。貴方の旦那さんはああなっちゃいましたよ?」

 

 まるで『覆い打ち』のように、顔に被せられた彼岸花を見て、自称母は恐怖のあまり絶叫した。

 

「ひぃあああああああああああああ!? やめてやめてやめてやめてやめてぇぇぇえ!!!」

 

 そうのたうちまわった後、彼女は気を失って崩れ落ちた。

 僕はそれを一瞥し、自称母の部屋の引き出しから母さんの通帳と印鑑を回収。その後部屋を荒らしていくつか宝石類を確保したのち、犀潟家から脱出した。

 山の神モードを解き、木を登って自分の部屋に戻る。そして回収したものをすべて鍵付きの箱に納め、それから犀潟ヨハンの部屋に向かった。

 

「おい従兄弟、いるか?」

「お、お兄ちゃぁぁぁん!」

 

 部屋の中から涙目の犀潟ヨハンと、真っ裸で困惑している男2人が出てきた。こっちが困惑だわ。

 近寄ってくる犀潟ヨハンを押し除け、告げる。

 

「下で何か起こってる。犀潟カノンは?」

「お姉ちゃんなら多分まだ部屋でおじさんといると思う……。お姉ちゃん、いるー?」

「やめてぇ! アタシこういうの無理! まぢで無理! いや、いやああああああ!!!」

 

 と、迫真の声が聞こえてきたので、その場で待機してもらうことに。

 その間に犀潟ヨハンの友人に服を着るよう指示をし、僕は警察に電話した。

 

「もしもし警察ですか。実は……」

 

 

 

 

 

 警察が来てからはスムーズだった。1階からは気絶したまま彼岸花を被せられた犀潟夫婦が発見され、救急搬送された。

 ひとまず家にいた人物、自称祖父母、犀潟カノン、犀潟ヨハン、僕、犀潟カノンの愛人、犀潟ヨハンの友人×2の合計8名は事情聴取のため警察署に向かった。

 すでに内部犯の線が薄い以上、僕の部屋を物色されることは100%ない。ありのままに事情を話し、解放されたのは夜10時頃。その日はホテルに泊まることとなった。

 

「気の毒だったね……。でもご両親は無事だそうだ。明日迎えにいくから、今日はホテルで休むといいよ」

 

 そう言って警官は優しく語りかけていたが、犀潟ヨハンと犀潟カノンは終始怯え続けていた。

 僕はホテルの一室で寝転がると、ようやく笑みが漏れた。

 

「あは、あははは、あははははははは!!!」

 

 一通り笑って、眠りにつく。

 ああ、こんなに清々しく眠れる日が来るなんて思わなかった。もっと早くこうしてしまいたかった。僕はホテルのベッドで心ゆくまで眠った。

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