樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

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2章24話:無事で良かった

 翌日、僕はホテルのベッドで心地よい朝を迎えた。怒涛の展開だったが、ひとまず僕はやり遂げたといっていい。

 時刻は午前10時。身支度をして部屋を出ると、寝不足そうな犀潟家の兄弟が部屋の前に突っ立っていた。

 

「なにしてんの……?」

「お兄ちゃん、よく眠れるよね……ヨハン一睡も出来なかったよぉ……」

「アタシもぉ……」

「お爺ちゃんお婆ちゃんも眠そうだったもん」

 

 他に犀潟家にいたメンバーは既にパトカーで家に帰されたらしい。僕が寝過ぎたな。

 自称祖父母によってロビーに集まった一家は、ひとまず家に帰ることになった。その間終始みな無言で、実に居心地の良かったことこの上ない。

 

 さて、家の方は当然窓を割った部屋と叔母の部屋以外何事もなく、そのままにされていた。まぁ人が死んだわけでもないしな。

 警察の方で一通り調べがついたのか、現場を戻していいと言われたので、僕は昨日自分で荒らした部屋を元通りに掃除した。

 

「いやぁ、君はすごいな。あんなことがあったのに黙々と掃除して」

 

 残っていた警官の1人が、話しかけてきた。まさか僕を疑ってるわけではないだろうな?

 

「ま、別に何か大きな被害があったわけではないので。それで、盗まれたものってなんかあったんですか?」

「それについては所有者がまだ意識を取り戻してなくてな……。恐らく宝石類と通帳などがなくなってるとは思うんだが」

「犯人の目星は?」

「金銭目当ての強盗だろうな。一室から侵入した犯人が配電盤を壊して消灯し、その後夫婦に見つかったものの夫婦がショックで気絶。あとはご婦人の部屋から金目のものを盗んで再び一室から逃げた。……ああ、すまん、この家の人に聞かせることじゃなかったな」

 

 口が軽い警官だな。わざとやってるのかと疑いたくなる。

 

「困ったことがあったらなんでも相談してくれよ? 県警の『中之島(なかのしま)』だ。よろしくな、嬢ちゃん!」

「僕男なんで坊ちゃんでよろしくお願いしますね、中之島刑事」

「え!? まじかよ、北湊都はそういう人多いって聞いてたけど、びっくりだな。他のご兄弟よりよっぽど可愛い顔してるぜ?」

「はは……ども……。北湊都の人じゃないんですか?」

 

 どうにも引っかかる言い方だった。

 

「ああ、俺は県警本部から来てるんだ。色々あってよぉ……。これ電話番号な。あ! いっとくがナンパじゃないからSNSにあげたりとかすんなよ!?」

「あげませんよ……」

「今のわけぇ子はすーぐSNSにあげちまう。おおこわこわ。おっといけね、そろそろいかねぇと。それじゃあな、嬢ちゃん!」

「だから坊ちゃん……ああもういいや」

 

 今の若い子がどうの言ってたけど、ありゃ本人も30かそこらの若手だな。変な警官と知り合いになってしまったな。

 ともかく警官が去った今、直ぐにでも通帳を移してもいいのだが、どうするか。鍵付きのボックスをもって自転車に乗せ、周囲を確認してチャリを漕ぎ始める。さっきの警官がいたら困る。

 いつものように樹海に到着し、ボックスをもって山を登る。神社に到着すると、そこでようやく蓋を開けた。

 中には昨日入れたように、通帳と印鑑、そしてカモフラージュのために盗んだ宝石類が入っていた。これらは流石に叔母に返そうと思うので、のちほど匿名で自宅に送ろう。

 

 通帳を確認する。名義はそのままで、『笹神るり()。となっていた。母さんの名前だ。

 中身を確認すると、前に見た時よりさらに減っていた。明らかに大量におろしたあとが見える。そしてやはり……。

 

「クソ野郎からの養育費はなし、か」

 

 僕の実の父と母さんは何年も前に離婚している。理由は父の不倫、その際に養育費と慰謝料を支払う義務が発生している。慰謝料はその場でなんとか犀潟家の助けを借りつつ払ったらしいが、養育費はついぞ払われることはなかったらしい。その状況がこの通帳からありありと伝わってくる。

 

「……母さん」

 

 母さんの遺品はもうほぼ残っていない。こんな小さな通帳が、僕と母さんを繋ぐものだった。

 

「感傷はあとだ。今は、ち囮の転院か」

 

 叔母が目覚め次第、身元引受人である彼女から転院の許可を引き出す。精神的に不安定な今なら、付け込む隙があるかもしれない。

 そうと決まればと、再び自転車を漕いで自宅に戻る。

 

「お兄ちゃんどこ行ってたの!? お母さん目覚ましたって!」

「そっか。で、容体は?」

「う、うん。特に怪我とかもしてないんだけど、すっごいショックだったみたいで、さくらんじょうたい? って奴なんだって!」

 

 うーん、やり過ぎたかもしれない。罪悪感とかはないが、これで口も聞けない感じだったら普通に困る。

 

「取り敢えず、今日は安静にしとくか。僕は明日から学校行くけど、お前は?」

「よ、ヨハンは……友達の家泊まる……怖いもん」

「犀潟カノンは?」

「お姉ちゃんは愛人のおじさんの家に泊まるって。当分帰ってこないかも……。あ、でもでも、お爺ちゃんとお婆ちゃんは残るらしいし、明日にはお父さんも帰ってくるよ!」

「だいぶお早いご復帰のようで」

 

 それなら病院からの電話を取り逃がす心配はなさそうだ。

 それじゃ、明後日くらいには病院にいくとしよう。その前に片を付けなきゃいけない問題もあるわけだし。

 

 ピンポーン。

 

 今度はなんだ?

 誰も出る気がなさそうなので、ひとまず僕がドアホンを確認する。すると、

 

「ほの囮! 大丈夫か!? 俺だ、海知だ!」

「うわ……」

 

 学校を早退したのか、なんなのか、15時という早い時間にも関わらず海知、夏葉、ニコラ、情報屋、月潟の5名が家の前に立っていた。

 このまま開けたら海知のハグハグ攻撃でニコラが『キタコレぐ腐腐』というのは目に見えている。ふむ、それなら。

 

「おい犀潟ヨハン、海知が来たぞ、開けてやってくれ」

「え!? 海知お兄ちゃん!? もしかして、ヨハンのために!?」

 

 海知おにーちゃん! と叫びながら玄関のドアを開け、彼に突撃していく犀潟ヨハン。ごふっ! という声をあげて倒れ込む海知を苦笑いする夏葉と、不満げなニコラ。

 

「なんか用?」

「ぐ、ほ、ほの囮……無事でよかっ、た……」

「ちょ、海知お兄ちゃん!?」

「海知!?」

 

 夏葉と犀潟ヨハンが心配する中、情報屋が海知を担いで家に上がってきた。取り敢えずリビングで寝かせておこう。

 

「ほれ、お茶」

 

 家にあるテキトーな茶葉を使って紅茶を沸かした。安い茶葉でも淹れ方次第では飲めるお茶に変わる。かみさまに散々扱かれて教わった紅茶スキルだったが、存外役に立っている。

 

「え、美味しい……私紅茶にうるさい系女子なのに」

「あら、ほんとね! ほの囮が淹れたの?」

「茶葉が美味かったんでしょ。そんで、揃いも揃ってどうしたの?」

 

 おおかた山の神事件の調査だろう。と思ったのだが、

 

「友達の家が襲われたのに、心配するのはそんなに変かな?」

「…………………は?」

 

 月潟は何の他意もなさそうにそう言い切った。夏葉も同調してうんうんと頷く。

 

「朝行ってみれば警察の人が沢山いるし、ほの囮全然連絡つかないし、何かあったんじゃないかって心配したのよ! なんでLINE見てくれないのよ!」

「あ、電源切れてる……」

「ヨハン君にも電話したのに!」

「う、ヨハン怖くてスマホ切ってたの……ごめんなさい……」

 

 夏葉がすごい剣幕で怒ったので、僕は目を丸くしてしまった。犀潟ヨハンも同様にしおらしい。

 

「でも無事で良かったわ……」

「私も結構心配したもん。上司へのホウレンソウは社会人の基本だぞワトソン君」

「部下じゃねえし社会人でもねぇ」

 

 月潟なりに心配してくれたのだろうか。夏葉も、まさかここまで怒るとは思わなかった。なんか凄い罪悪感……。

 

「それはそれとして事件の話も聞きに来たんだけどね〜。一応話してくれる? 知ってることだけでいいからさ」

「んー、わかった。犀潟ヨハン、海知の介抱頼む。お前この話いやだろ?」

「きゅ、きゅん! お兄ちゃん、ヨハンを気遣ってくれるの!?」

「はよいけ」

 

 海知の介抱をしたい犀潟ヨハンと、そのBLを眺めたいニコラを追い出し、残ったメンツに事の顛末を話した。

 

「成る程ね、彼岸花が被せてあったなら山の神の仕業なのかしら」

「けけっ、これで13件目だな。どんどん被害が増えてるぜ……」

「ねぇ、犯人はあの窓から侵入したんだよね?」

 

 月潟が尋ねてくる。

 

「らしいな」

「ふーん、ちょっとご無礼」

 

 家の中を一通りウロウロする月潟。2階にあがろうとしたところで、彼女の肩を掴んで止める。

 

「何してんだよ」

「あ、ごめんごめん〜。でも変だなって」

「何が」

「犯人の行動が、だよ」

 

 やはり、コイツを家に入れるべきじゃなかった。テキトーな理由をつけて追い返せば良かったんだ。

 月潟ならこの事件を暴いてしまいかねない。それが示す先は……僕とち囮の破滅だ。

 

「これだけの人数が揃っている家にわざわざ侵入し、しかも誰にも見つからずに配電盤を破壊している。この間に誰にも会わないなんてことありえるのかな〜? 誰もいない和室から侵入し、そこから近くの風呂場にあった配電盤を破壊。部屋を物色して、和室に戻る。窓を割って逃げ道を確保してる最中に夫婦と遭遇。彼らを気絶させて逃走」

「…………」

「あまりにも家の内部を知り過ぎてると思わない? そしてあまりにも幸運すぎる」

「この家に来たことある人が犯人だと?」

「或いは、内部犯かもね〜?」

 

 月潟の目が鋭く光った気がした。僕は平静を装いつつ、唾を飲み込む。

 

「だとして、警察は事件を外部犯と断定して捜査してる。幸い死者はいないし、この家の捜査自体はそこまで重要じゃないだろうな」

「冷静だね」

「客観的事実でしょ。でもこの家のことを知ってる人間が犯人ってのは同意。ただし、この家は各々が人を呼びまくるから特定は難しいぞ」

「そっか。そだね。そうかもね。うん、戻ってお茶のもーっと」

 

 月潟はいつものように口元を袖で隠しニコリと微笑んだ。そしてリビングに戻る。僕もその後を追ってリビングへと戻った。首筋にかいた冷や汗を拭いながら。

 その後起きた海知に結局ガチで抱きしめられ、ニコラのぐ腐腐を聞いたところでこの会はお開きとなった。

 だが連中が帰る直前、

 

「明日は来てね。正義のヒーローに今回の作戦を説明するから」

 

 そうウィンクして、月潟はこの家から去っていった。

 はぁ、一先ず落ち着い……。ん?

 

「おい、海知……お前なんでまだいるんだ?」

「泊まる」

「は?」

「また犯人が来たらマズイだろ! だから俺も当分ここに泊まる!」

「………………………帰れ」

 

 本音を隠そうともしないというか隠したくないくらいイライラしてきた。

 

「え! 海知お兄ちゃん泊まってくれるの!? やったー!」

「ええ!? 海知ちゃんが泊まるなら、アタシもここ残ろうかしらぁ」

 

 犀潟ヨハンと、いつのまにか部屋から出てきた犀潟カノンが海知に引っ付き始める。

 

「え、ちょっ、やめてくださいって」

「いいじゃなぁい、お姉さんと素敵な夜、すごしましょ♡」

 

 ああ、うん、海知の相手は任せたぞ。

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