樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

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2章28話:私の彼女

「ね? 気になるでしょ? それなら泊まろ? 美味しいご飯にほかほかお風呂、あったかい布団で眠ろ眠ろ」

 

 暫く睨み合いが続いたのち、月潟はその場の空気を破壊するかの如くにへらっと笑って言った。思わず脱力してしまう。

 

「…………………つくづく傲慢ですね。何でもかんでも自分のペースに持ち込めるとでも?」

「全力でおもてなしするんだぜ? トランプもあるよ♪」

「うん泊まるー! ってなると思います? アホですよね、貴方普通にアホですよね」

 

 今日はこいつにペースを乱されっぱなしだ。誰が泊まるか馬鹿が。何を考えてそんなアホな提案を……。

 

「じゃ追加。君、この神社気になってるんでしょ? 調べてもいいよ。それには今日私の家に泊まることが条件」

「ーーーーッ!? な、何言って……」

「私の勘違いならそれでいいんだけど、どう?」

 

 ……確かにそれは大きなメリットだ。

 学校や市の図書館で山の神を探ることは無理だ。いくら資料を読んでも出てきやしない。だから僕はアルバイトを始めたのだ、山の神講から情報を仕入れるために。

 だがもう一つ、そもそも神社などのそう言った専門的な施設を調査するという手段がある。無論視野には入れていたし、ち囮の件の目処が立ち次第動くつもりではいた。月潟がこの神社の人間だというのなら、願ってもない機会である。

 だが、なんかすごく癪だった……。

 

「わ〜悔しそうな顔〜」

「……明日とかじゃダメですかね」

「今日泊まらないと2度とお家にいれてあげなーい。どうする? 私の家を襲ってみる?」

 

 犯人が割れてて、しかも来るとわかってるような家に入る空き巣が何処にいると言うんだ。

 葛藤の末、僕は月潟の条件を飲むことにした。なんか負けた気分である。

 

「じゃ、いこっか!」

「ちょ!?」

 

 月潟に手を引かれ、無理やり連れていかれる。恥ずかしいから手を離して欲しいけど、月潟は嬉しそうにずんずんと進んでいった。

 翠ヶ淵神社の社務所。その隣に一軒家が立っている。古風な瓦葺きの建物で、そこそこの広さがある。恐らく裕福な家庭であろうことが推測できた。

 玄関のドアを潜ると、そこは普通の邸宅とさして変わらない光景が見える。ドアの開く音が聞こえたのか、奥から人が出てきた。

 老婆だった。どうにも色素の薄い白髪をお団子にまとめ、和服に身を包んだ老婆。かなりのオーラを感じる人物だった。

 

「おや、おかえり琵樹。そっちの子は?」

「聞いて驚いて! 私の彼女っ!」

「おやまぁ!?」

「何くだらない嘘ついてんの!?」

 

 老婆は少し眉尻を上げると、こちらに向かって歩いてくる。そして僕に向かって口を開いた。

 

「よろしくねぇ、あたしゃ………………」

 

 僕の顔が見えるところまで来た時、老婆はその目ん玉を溢してしまいそうなほど大きく見開き、まるで幽霊でも見たかのように体を震わせた。驚いて二の句が紡げないのか、口をパクパクと動かしている。

 ようやく、老婆からかすかな声が漏れ出す。

 

「ろか、さま…………?」

 

 ……? 何を言っている。ろかさま?

 月潟の方を見やったが、彼女はいつものようにニコニコとしていて表情からは何も読み取れなかった。

 やがて老婆は床を見て、心を落ち着けたようだった。そして、

 

「お前さん……名前は……?」

 

 この場はどちらを名乗るのが正解だろうか。僕は今、どっちの立場でここにいる?

 少しの逡巡ののち、僕は答えた。

 

「笹神、幽々火です……」

 

 それを聞いた老婆は、妙に納得したような顔をして息を吐いた。暫くの沈黙ののち、老婆は眉尻を下げ、申し訳なさそうな顔をしていた。

 

「すまなかったねぇ。あたしの名前は月潟有栖(つきがたありす)。この神社の神主だよ。歓迎するさ、どうぞ中へ」

「……お邪魔します」

 

 この反応、間違いない。

 有栖さんは、笹神家を知っている。僕の顔を見て誰かを……『ろか』という人物を連想したんだ。

 笹神姓を名乗った甲斐はあっただろう。隣でドヤ顔で肩を叩く月潟は放っておく。

 

「そっちを名乗るんだね。私の彼女って話、合わせてくれてありがとねっ」

「合わせてないです……」

 

 ひとまず居間に案内され、そのまま荷物を置いた。

 

「お風呂を沸かしてある。ご飯が出来るまで少し待ってておくれ。ほら琵樹、着替えやタオルの準備をしな」

「わかってるよお婆ちゃん。幽々火ちゃん、こっちだよ」

 

 そう言われ、僕は浴室へと案内された。

 

「一緒はいる?」

「結構! です!」

 

 バンッ! と浴室の扉をしめ、シャワーをひねる。温かいお湯が冷えた身体に効く。今日は色々あったからどっと疲れが押し寄せてきたらしい。

 そうして湯船に浸かってから先ほどの冒頭の問いに戻る。何故かかなりゆっくりしてしまっていた。とはいえこれが条件だと言うのなら、僕は甘んじて受け入れるしかない。

 山の神事件含めて今回は月潟に負けっぱなしだ。あいつの目的もまだよくわからないのに、僕の正体だけ一方的にバレてしまった。なんて不用心、なんて愚か。

 悔いる点は多い。だがまだ何一つ終わってはいないのだ。やるべきことは沢山ある。後悔して立ち止まることが1番良くない。

 

「ふぅ……」

 

 湯船から上がり身体を拭く。そして浴室から出て脱衣所にて気づく。

 

 ーー僕の服、洗濯されてる……。

 

 凄まじいデジャブに襲われる。なんか前にも全くおんなじことがあったような。

 

「あ、幽々火ちゃーん。着替え置いてあるから」

 

 扉越しに月潟の声が響く。嫌な予感がしつつ、ギギギと首を動かして脱衣カゴを見ると、そこには確かに着替えが用意されていた。

 桃色の、長袖ルームワンピースととカーディガンタイプのルームウェア。そして同じく桃色のブラキャミと部屋着用のショーツが用意されていた。………………おい、悪化してるぞ!

 

「なんじゃごりゃあああああ!!!」

「私の私物だよ。安心して、彼女ができた時用に用意しておいただけで、未使用だからっ!」

「そう言うことじゃない! お前、僕男だぞ!? こんな悪ふざけに付き合ってられるか!」

「だって男性ものなんてうちにはないんだもん! だからそこは我慢して。それに、肌触りもいいから気にいると思うんよ?」

「じゃあ僕が買いに行く! そこを開けろ月潟!」

「へぇ? すっぽんぽんで?」

「………………………」

 

 ……嵌められた。確かに僕には今、着る服がない。これでは服も買いに行けない。

 だが着るのか……? 月潟の前で、これを……?

 

「う、うう、ううううううぅ」

「早くしないと風邪ひいちゃうぞー?」

「黙れ! うぅああううぅ……」

 

 葛藤のまま、僕はショーツとブラキャミに袖を通す。独特な肌着の感覚が伝わってくる。なんというか一線を超えてしまった感があった。  

 というのも、今まで女性モノの下着だけは着用しないようにしていたのだ。それがここにきて1番見られたくないやつに……うぅぅうううう!

 そのまま部屋用ワンピースに袖を通し、上からカーディガンを羽織る。そうして鏡の前にたった。

 

「……………ぁ、ぁう」

 

 鏡の前に居たのは、羞恥心から顔を赤く染めた濡れ髪の美少女だった。自分の容姿が少女のものだと言う自覚は、樹海暮らしの時から嫌というほど自覚していたつもりだったけど、今の僕はその表情すら初心であどけない少女であり、そのことが一層羞恥心を加速させる。

 加えて、月潟が「入るよー」とドアをあけてきた。え、鍵ついてなかったっけ!?

 

「10円玉ー。やっぱ鍵開けには必須アイテムな……ななななななななななな!? なにこの可愛い子!? お持ち帰り案件だよ!?!?」

「や、やめ……」

「え、なんでそんなに赤くなってるの? そんな可愛い女の子って反応されたら私の理性さよならバイバイしちゃうんだけどな?」

 

 月潟は、頬を染めながら目がガンギマっていた。僕は彼女を押し返そうとするが無駄に力が強くて押し返せない。

 

「ど、ドライヤーと化粧水だけ場所教えろ! ひとまず出てけ!」

「むり! ここで君を私のものにするっ! 髪の毛乾かしてあげるし化粧もさせたい!」

「寝る前だろうがああああ!!」

「がわいいがわいいがわいいゴフッ!?」

 

 背後からポカりと殴られる月潟。そこには有栖さんが立っていた。

 

「まーたこの子は……悪いねぇ幽々火ちゃん。ご飯できたから早く髪の毛乾かしちゃいな。ドライヤーはそこ、導入化粧水と化粧水、美容液と乳液はそこ、ヘアオイルやヘアミスト、ボディオイルも良ければつかっていいからねぇ」

「あ、はい……どうも……」

 

ということで先ほど挙げていただいたものを全部ふんだんなく使用し、保湿を完璧にした上で髪に櫛を通した。

 改めて鏡を見ると、紫のインナーの入った黒髪の美少女がいる。肩より下まで伸びた長い髪からは林檎の香りが漂っていた。

 なんとなくもっと可愛くしてみようと思って、美白パウダーと、色付きリップだけつけてみた。寝る前だからファンデとかは出来ないとはいえ、これでも充分である。

 

「……可愛いよね、うん」

 

 引くほど可愛い女の子顔が出来上がったところで、何してんだ僕、という感覚に陥る。かぶりをふって脱衣所を出た。

 居間に戻ると、そこには既に食事が並べられていた。11時と言う遅い時間なのに、用意していただいたことには感謝しかない。

 

「幽々火ちゃん」

「ひゃっ!? おい!」

「あ、ちゃんと履いてる」

「ぶち殺す!」

 

 ワンピースを捲ってくる月潟。慌てて裾を直し、月潟に向き直ると、今度は抱擁された。

 

「幽々火ちゃんから私の匂いがする〜、あ〜、私の彼女可愛すぎる〜〜〜」

「はーなーせぇぇぇ!! さっきからやりたい放題だなお前!」

「幽々火ちゃんが可愛すぎるのがよくないですー。あー、よくない、よくないんよ。私の部屋いこ? 今夜は寝かさないんだぜ」

「馬鹿なこと言ってないでさっさと食べな2人とも。寝る前だから量は少なくしておいたさ」

 

 有栖さんの介入もあってようやく落ち着いたが、食事中も終始月潟がニコニコ笑いかけてきたこともあり、僕はやはりムズムズしっぱなしだった。

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