樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー 作:紫陽花の季節に会いましょう
月曜日、俺の心は靄がかかったような感覚でいっぱいだった。
原因は分かりきっている。
ほの囮だ。
ほの囮が叫んで教室を飛び出して行ってから数日、ほの囮に対して連絡を取ることが出来ずにいた。もしかして学校に来ないんじゃないかとも。
ほの囮は学校に来てくれた。
しかも……なんか可愛くなっていた。
顔は見えない。けど、何故だろう。とてもドギマギする! 華奢な体型、ボブカットのようなシルエット、甘い香り、白い肌。全てが女の子のソレで、俺の心臓は鼓動を早める一方だった。
その日クラスの仲間になった琵樹という女の子の綺麗さに目を奪われたり、ほの囮の可愛さを目で追っていたり、なんだか疲労感を感じながらその日は帰宅することになる。
「今日は久々に1人だし、寄り道でもするか」
稽古の日ではないし、ゲーセンでも寄って帰ろう。小滝も誘えばよかったな。あいつ今何してるんだろ。
「いやっ! 離して! 触んないでよ!」
女の子の声がする。
その声を聞いた瞬間、俺は走り出していた。
繁華街の裏通りはあまり治安が良くない。だからあんまりこの辺を女の子が通ることなどないのに、その子は其処に居た。
金髪をツインテールに結んだ少女。そんな彼女は学ランを着た男子生徒たちによって囲まれていた。体格の良い男が7人で女の子を囲む図は、どう見ても仲良し8人組という構図には見えない。
俺は、有無を言わず飛び出していた。
「その子から離れろ!」
「………へ?」
腕を掴まれて怯えていた少女はポカンとした顔でコチラを見ていた。同様に不良たちもなんだコイツという顔をしていたが、そのまま笑みを浮かべてコチラに近づいてきた。
「なんだぁ、お前。王子様気取りかぁ? おい、この王子様の顔をぐちゃぐちゃにしちまおうぜ!」
「ぎぃはははは! いいなそれ! おい、コイツ捕まえとけよ!」
「や、やめなさい! あんたたちの狙いはあたしでしょ! その人は関係ない!」
必死になって逃れようとするも、男たちに掴まれて身動きが取れない少女。泣きそうな顔になりながら、少女は俺のことを心配していた。
「にげてぇぇぇぇぇえ!」
「おらあああああああ!」
フォームのなってない殴り方で拳を突き出す不良。そんな屁っ放り腰の拳なんて受けるものかよ!
「はっ!」
「な、なに!? ぐぉぉっ!?」
拳を避け、そのまま顎に一髪喰らわせる。意識を刈り取ったことを確認し、そのまま他の連中に目を向けた。
「さぁ。次はどいつだ?」
「く、くそぉぉぉ!」
懲りずに向かってくる連中、その一人一人を薙ぎ倒していく。残り3人。
目の前でバタバタと倒されていく不良たちを見て、残りの連中は顔を見合わせて逃げて行った。
「くっ、顔は覚えたからな!」
ふー、やれやれ。ダサい捨て台詞だぜ。手で制服についた汚れを払い、そのまま座りほおけている女の子へと手を伸ばした。
「大丈夫か? 立てる?」
女の子は手を取らない。
そのまま俺の顔をじーっと見つめていた。何か顔についてるだろうか?
10秒以上経っただろうか。
ようやく女の子は第一声を発した。
「べ、別に助けて欲しいなんて言ってないんだから! あたし1人でもなんとかなったし」
「え、あ、ああ……それはすまなかった。でも、なんか困ってそうだったし」
「は、はぁ!? 困ってなんかないわよ!」
「そ、そうか? まぁなにより無事でよかったぜ!」
そうやって笑顔を作ってやると、女の子は一瞬赤面して目を逸らしてしまった。ん? 俺なんかやったかな?
「あ、まだ自己紹介してなかったな。俺は柏崎海知! 多分、同じ学年、だよな?」
制服とリボンの色からして北湊都高校の1年生だろうな。なんとなく見覚えもあるし。
「あんた、あたしのこと知らないの?」
「え、あ、悪い」
「いやいいけど。京ヶ瀬千秋よ。い、一応、礼は言っておくわ」
「ああ、よろしくな千秋!」
「ぐぅ! なんでいきなり呼び捨てなのよ!」
「ダメだったか?」
「ダメ、ではないけど……。ていうか、あたしの名前聞いてもほんとになんも思わないわけ?」
「……? 可愛い名前だなとは思うぞ」
「か、かわっ!?」
ふくれ面になったり真っ赤になったりと忙しい子だな。
「ふ、ふん。あんたは他の男子とは違うかも。決めたわ、あんたあたしのボディーガードにしてあげる!」
「へ? ぼ、ボディーガード?」
「そうよ! そこそこ強いみたいだし、専属で雇ってあげる。お給料も出すわよ? これからあたしの家に住み込みで働いてもらうわ!」
少女が堂々と宣言するが、俺はボディーガードをするつもりなどない。ただ彼女が困ってそうだったから助けただけなのだ。
「折角だけどお断りするよ。んじゃ俺もう行くから。もうこういう危険なとこ彷徨いちゃダメだぞ」
「へ? あっ、ちょっと!」
今日は特売だからな。真冬も家で待ってるし、今日はカレーライスにするかぁ、ぐぇぇぇ!
後ろから首元を引っ張られ、思わず呻いてしまう。締まる締まる!
「な、何するんだ!」
「別に。あんたの家ってこっち?」
「そ、そうだけど、どうしたんだよ」
「決めた。今日の夕飯奢ってあげる。それでチャラよ」
「な、何言って……」
「爺や」
パンパンと手を叩くと、どこからともなく白髪の老人が現れた。燕尾服がピシリと決まっているイケおじだ。
「はい、お嬢様」
「コイツの家に料理の準備。あんた好物は? 家族のも良いわよ」
「へ? そ、そんな! それは流石に悪いというか」
「あたしは借りは作らないの! ほらさっさと好きなもの言いなさいよ!」
「……そこまで言うなら」
これが、少し強引な少女:京ヶ瀬千秋との出会いだった。