樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

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3章4話:イベントONイベント

 ゴールデンウィーク。

 それは日本人にとって救済の休暇だ。

 正月とお盆の中間にあるこの休みによって、人々は安らぎを取り戻し、最終的に5月病という病を発症するほどにはこの休みに縋り付く。

 僕にとってはち囮の転院手続きを進める大切な休暇とも言える。

 同時に叔母からカモフラージュの為に盗んだ宝石類をひっそりと返す作業も行った。これで足がついては元も子もないのでいろんな痕跡を消して犀潟家へと返却した。

 結局警察はその送り主を特定できず、犀潟家はまたびくびくと怯えるような生活が始まった。

 

「退院おめでとうございます」

「あ、ああ」

 

 叔父が帰ってきたものの、どこか覇気がない。よく悪夢を見るらしく、夜中はちょいちょいうるさいものだ。昼間はそれを紛らわすかの如く賭博に出向いているらしい。

 ちなみに叔母は未だに入院している。結果、柏崎真冬によって引き取られたはずの海知は再び犀潟家に住もうとしていたので、彼の嫁たちを動員してなんとか引き取らせた。この調子では事あるごとに泊まりにきそうである……。

 

 ゴールデンウィーク中は少しでもお金を稼ごうと、バイトに励んだ。僕が笹神幽々火の姿になると、月潟はよく抱きついてくるようになった。

 

「あら……あんたたち付き合い出したりでもした?」

「うん! これ私のオンナ!」

「違います! ほらそこ盛り上がらないでください!」

 

 常連たちがアホみたいに盛り上がっていたので茹でる前のマカロニを額にぶつけてやった。

 

「でもなんか雰囲気甘いわよー? ウチは、従業員同士の恋愛OKだからネっ!」

「それは琵樹さんだけでしょう?」

「あんたもなんだかんだ許してるじゃない。そういうところから恋は始まっていくもんなのよ」

「うっさいですね、原価の高い食材ばっか使ってスペシャルメニュー作って安値で売り出しますよ?」

「地味にキツイからやめなさい!」

 

 最近、常連さんの口コミのお陰か、ピアノバーとしての評判が上がってきて新規のお客さんも増えてきた。必然的に月潟はよく客の前で歌うようになる。

 やはりビブラートが上手い。わざとらしすぎず、小鳥のように繊細。囁くように歌う彼女の歌い方は、カラオケや音楽の授業とはわけが違う。まさしくプロの歌い方だ。

 それに合わせる僕のピアノは三流。だがそれがバレないように必死で合わせる。その歌声にピアノを合わせる事自体はとても楽しく、聴いてくれるお客さんは最後には盛大な拍手で迎えてくれる。

 

 こうして5日間の連休の中で4日間もバイトにいった僕の怒涛のゴールデンウィークは終わった。ち囮の転院の目処は立ち、半月後には転院の運びとなる。ひとまずは山場を抜けたと言っていい。

 そんな訳で登校日が来たわけだが、さて、どうしたことか。クラスが割と元通りになっている。

「うぇーいウチらやっぱ最強じゃん!」

「いやー、Eくんみたいな奴より好きだわー」

「アイツただの虐めクソ野郎だもんな」

「ほんそれ」

 あ、違う、別のターゲットが出来てソイツを貶めるために他の連中が仲良くなってる! 醜い! 明確なイジメはなくなったが、それ故にクラス内冷戦が幕を開けている。みんな表面上は仲良しを取り繕い、裏で壮絶なグループ争いが起きているのだ。

 

「ねぇ、夏葉ちゃん。俺たち友達だよな?」

「琵樹ちゃん、ゴールデンウィーク何してたー? 俺さーずっと琵樹ちゃんのこと考えててさー」

「小滝ー、今度俺らのグループで遊ばね? 海知も呼んでくれたら嬉しいんだけどさあ」

「に、ニコラちゃん……今度あたし達とご飯いかない?」

 

 言わずもがな、このクラスの中心はいつメンな為、彼らの奪い合いが始まる。おいニコラ、お前これどうすんだよ……。

 

「あの、犀潟くん、きょ、今日の宿題はやったかい?」

「……………あ?」

 

 なんかコッチにも来たぞ……。えっと、アレだ、委員長だ。委員長っぽいと思ったらガチ委員長だったので、この渾名は続投である。

 しかし彼もどうやら不憫なキャラで、ゴールデンウィーク中のクラスLINEで彼らを仲裁するようなそぶりを見せた結果、いろんな奴からハブられ無視されて立場がなくなってしまったらしい。あまりにも不憫……。

 北湊都高校は地元の有力者の子供も通ってるので、スクールカースト意識が強い。下位カーストだと判断した相手のことはとことん抑圧し、下位カーストになるまいと彼らは自己アピールを欠かさない。

 その点このクラスはまだ恵まれている。何故なら最上位のカーストである柏崎海知という存在がいるからだ。コイツが揺らぐことはまずないだろう。なんてったって主人公様である。主人公はスクールカーストとか気にせずに自分のやりたいことをやってるので、海知にその自覚は薄い。

 

「主人公特権か……これ不平等条約では?」

「さ、犀潟くん? 聞いてるかい?」

「ん? ああ、ごめん、なんだっけ委員長。日米修好通商条約の話だっけ」

「違うよ!?」

 

 不平等条約に引っ張られすぎていた。

 

「宿題の話さ! ゴールデンウィークはちゃんと勉強したのかい!? 学生の本分は勉強、そうだろう?」

「初日に終わらせたけど……」

 

 こんなくだらないものにGWの時間を取られるのは馬鹿馬鹿しいので、初日に速攻で終わらせた。この辺の授業はまだ中学に毛が生えた程度の内容なのでそこまで時間をかけるものではない。

 

「す、凄いじゃないか! このクラスのみんなは大半宿題をやってない。やはり犀潟くんは僕が見込んだ通りの人だ!」

「……………逆に大半やってないの? まじで?」

「ああ、今みんなの宿題を集めているんだが、どうも提出率が悪い。くっ、こんなことでは先生に怒られてしまう」

 

 今彼の手元にあるのは、海知・夏葉・月潟・僕・委員長のものだけだった。……ニコラと情報屋は出さなそうだな。出さない他の連中は嫌がらせか何かか? このクラス40人いたよね?

 

「やはり君しかいない! 僕と一緒に勉強をするようにみんなに呼びかけるんだ! 目指せ、提出率100%!」

 

 めんどくさすぎる……。こういうのは最適な人間を上手く使うんだよ。

 

「………海知、委員長が宿題集められなくて困ってる。代わりに集めたら?」

「え!? さ、犀潟くん、何を!」

「そうなのか委員長!? わかった。協力するぞ! おいみんな! 今日の宿題のことなんだが……」

 

 声を張り上げて宿題を回収する海知。彼の言葉に渋々何人かは宿題のノートを提出する。やってきてない人も居るんだろうけど、その人にも海知は真剣に諭し、一人一人ノートの回収を行った。うん、流石主人公。

 あらかた集め終わったのち、それを委員長に差し出した。

 

「集まったぜ。なんかあったら頼ってくれよな、委員長!」

「あ、う、うん……そうだね……」

「はは、委員長は中学の時のほの囮みたいだな。林間学校の班も同じだし、仲良くしよう!」

「う、うん! 僕もか、か、海知く、んと仲良くしたい、です……」

 

 緊張してるのか、委員長は口が回っていなかった。こういう奴には海知ぶつけとけば大抵のことは解決する。僕が頑張る必要なし。

 

「琵樹GPT、GW中のクラスLINEで何があったか要約して」

「はいなっ。えっとね〜、彼、色んな人の仲裁を買って出ただけじゃなくて、他の人のコミュニティにまで口出してその結果はぶられた感じだね〜。クラスの嫌われ者ランキングの上位陣だよ。因みにほの囮くんも5位にランクイン!」

「また要らん情報を……」

「大丈夫、私は好きだぜワトソン君」

「………………」

 

 しかしまぁ、それでも全員の虐め対象ではなくなっただけマシか。他4人がハブられまくってるせいかお陰か、僕に実害はないし。

 

「また2人一緒にいるわね。なんか相談事?」

 

 夏葉が間に入ってきた。なんだかジト目でこっちを凝視している。

 

「そんなに一緒にいないだろ」

「そだね、居ないね」

「なんか息ぴったり……。それに警察に行った時も2人一緒だったじゃない」

 

 そういえば僕と月潟は海知・夏葉・情報屋とは別々のパトカーに乗ったんだった。

 

「アレは夏葉に気ぃ遣っただけだから。それをあのクソキモストーカーめ……」

「ああ、小滝くんは邪魔だったよね……可哀想な夏葉、なでなで」

「なんで撫でるのよ!?」

 

 ぼっちパトカーすればいいものを、なんでわざわざメインヒロインと主人公の恋を邪魔するかね。

 

「来週からの林間学校、このギスギスっぷりで大丈夫かね。なぁニコラさんよ」

 

 他の女子生徒をあしらって、ニコラが戻ってきた。ニコラはニコラで月潟を警戒しているらしく、夏葉との間に割って入る。まぁ月潟は百合っ子を公言してるし、夏葉を取られる可能性がある相手に近づけさせたくはないだろう。

 

「ぬふふっ、ほの囮、ほの囮が文字通り一肌脱いであげればいいと思うよ? ね? ほの囮は男の子が好きだもんね?」

 

 ニコラが軽く指をぱちっと鳴らす。僕はそれを冷めた目で見つめた。ここまで来れば馬鹿なニコラでもそろそろ気付くだろう。僕に洗脳が効かないことを。

 

「固まってどうしちゃったの? ニコラちゃん?」

「へ? うひゃい!? 何これ!?」

「購買の冷凍ブルーベリーの袋〜。これからの時期重宝したい一品だよね」

 

 ニコラの首筋にブルーベリーの袋を押し付ける月潟。モサモサとブルーベリーを頬張る彼女だったが、ニコラの所作に気付いたようだった。そしてその上で、それが僕に効いていないことを見届けた。……やはり抜け目のない少女である。

 ニコラは「なんで、どうして、効かない? ていうかなんでブルーベリー?」などとブツブツ呟いていた。まぁソイツのわけわからなさに関してだけは同情する。

 

 まぁひとまずは何もないから安心だ。最近は家も快適だしJOINTの消滅で放課後束縛されることもない。久しぶりに樹海温泉にでも浸かりながら、ゆっくり本でも読もうか。

 など思っていたのだが、僕は昨日逃げたツケを早くも支払わさせられることとなる。

 

「ほの囮! 琵樹! クラスメイトの仲を取り持つのに協力してくれ!」

 

 ……ニコラのテコ入れがようやく始まったのである。予想はしていたけれど、イベントの上に余計なイベントを重ねやがって。

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