樹海のかみさま ー 因習村の花嫁ENDを回避したい男の娘ヒロインは、美少女かみさまと共に闇堕ちして街ごと全て滅ぼすことにした ー   作:紫陽花の季節に会いましょう

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1章8話:山の神の少女

 何処か感じる既視感。

 月光に照らされた少女、樹木に囲まれた状況、鳥居、獣道。

 僕は、前にも此処に来たことが……。

 そんな僕の思考を遮るように、少女が再び口を開く。

 

「取り敢えず、平気そう。えっと少年、あれ? 少女?」

 

 よく見ると少女の髪は月光に照らされなくても煌びやかな金色ーー透明感のあるナチュラルな月光の色をした髪だった。そこから垂れ下がるようにそなえ付けられた真っ赤な彼岸花も、さっきまで恐怖の対象だったこともなんのその、可愛らしいアクセサリーと化している。更に髪と同じように満月が埋め込まれたような月光色の双眸は、僕を見下ろして何か逡巡していた。

 今までに見たことない程綺麗であどけない少女。テレビ越しに映る芸能人か何かと疑いたくなるほどの"美少女"が手を差し伸べてくれている状況に混乱する。

 

「『山の神』としては、あまり女の子を入れる訳には行かないらしいけれど、でも迷子だよね。うん、どうしようかな」

「あ、いや、男、です」

「そうなんだ! 良かった良かった。じゃあ着いてきて」

 

 手を差し出して、少女は朗らかに笑う。

 よく考えなくてもこんな所にこんな綺麗な女の子が居るなんておかしいのだが、今の僕はどうやら恐怖で感覚が麻痺していたらしい。

 それに、

 

 ーーあの時の声に似てる。

 

 なんとなく彼女が教室での声の主な気がした。根拠はない。ただでさえ記憶にない声なのだから。

 けれど少しは信用できるだろうかと彼女の手を取り、言われるがままに着いていくことにする。脚は、不思議と痛くなかった。

 鳥居と樹木を掻き分けていく少女の足取りは軽く、まるで自宅の庭のごとく歩き慣れている様子だった。そんな彼女はとてもご機嫌なようで、握りしめた手は熱を帯びていた。

 

「あったかいなぁ。あったかい。ふふ」

「……え、と、貴方は……」

「知らないの? 嗚呼、うん、でも容姿は伝わってないんだ。うん、そう、きっとそう。ええと、君はこの周辺の子供?」

「え、あ、はい……」

「気付いてるとは思うけど此処は禁足地(きんそくち)で、普通の人間は絶対に入っちゃいけないし入れないの。だから、びっくりすると思うの」

「……………………え?」

 

 20分ほど歩いただろうか。それでもあまり長いとは感じなかった。

 

「ついたよ〜、はぁ、長かった。こんな辺鄙なとこに作らなくてもいいのにね」

「え、と?」

 

 石灯籠と白く長い紐が張り巡らされた異様な石段をずっと登っていたのだが、どうやら登りきったらしい。そして、

 

 

「鳥居に、お、お社……? こんなところに!?」

 

 

 石段の終わりには朱塗りの巨大な鳥居。そして奥には大規模かつ豪華なお社が建っていた。

 手水には花まで浮かべてあり、石灯籠も苔一つ生えておらず、しめ縄も新品のようにしっかりしたものであった。というかこんなところに神社があるなんて聞いてないけど……。

 少女は「ただいま〜」と言って境内に進んでいく。いつのまにか手が離れていた。

 ある程度歩くと、くるりと振り返り少女は月光の下で微笑みながら言った。

 

「私はこの神社に祀られた『かみさま』。よろしくね、大大大歓迎するよ、ニンゲン♪」

 

◇◆◇

 

 北湊都の街には旧市街と新市街地(ニュータウン)がある。

 太平洋戦争時の空襲によって甚大な被害を受けた北湊都市はニュータウン建設によってその都市機能をなんとか再建し、今では県内有数の港となった。

 一方で僕が住む旧市街地は酷い閉塞感が漂っており、昔の風習も幾つか残っているようなところだ。

 そんな旧市街地には数多くの伝承が残されているが、そのうちの1つに『禁足地に座す山の神』の伝承がある。

 曰く、山の神は山仕事をする男達に恩恵を齎す神であり、一方で非常に嫉妬深いことから女性は山への侵入を禁じられる程、女性嫌いの神であったという。

 

「形式上はね女の子侵入禁止なの。でも私は可愛いものが好きだから、別に入れてあげても良いんだけどね〜」

「は、はぁ」

「君は可愛いし、しかも男の子だから私にとって都合の良いニンゲンなんだ、ふふ」

「喜ぶべきなんだろうか……」

「もち」

「なんか言葉フランクですね……」

 

 言葉遣いだけならただの朗らかな美少女だ。もっと威厳のある話し方をされたら別だったんだけど、いかんせんフランク過ぎる。

 斯くいう僕はあまり女子との会話に慣れていないので何ともやり難いのだが。

 

「それで君の名前は?」

「あ、えっと、そうですね、名乗ってなかったですね。犀潟ほの囮、15歳です」

「おー、同い年だ、親近感親近感」

「ねぇ本当に神様なんですよね!?」

 

 冗談なのか本当なのか、この子の態度のせいで分からなくなってきた。

 

「ほの囮、ほの囮ね。女の子みたいな名前だけど、良い名前。それで、ほの囮は何でこんな所にきたのかな〜? 駄目だよ、禁足地は危ないんだぜ〜?」

「……それ、は」

「ズバリ家出?」

「ぎくっ」

「うふふ、じゃあ帰らなければいいよ。このまま私の話し相手になって欲しいな」

 

 その時の少女ーーかみは歪んだ三日月の如き不気味な笑みを浮かべて、手を差し伸べていた。

 民話とかなら目に見えて分かる死亡フラグなのだが、今の僕にその話はあまりにも魅力的過ぎる。

 なので、その手を取ってしまった。

 

「あ、あれ?」

 

 キョトンとする少女。

 

「どうしたんですか、かみさま」

「えへへ、かみさま、かみさま、えへへ」

「なんでちょっと照れ臭そうなんですか!?」

 

 目の前で顔を赤くしつつ頬っぺたに手をやっているかみさま。その仕草は見た目相応の女の子である。

 神様、なんだよね?  

 僕がこうやって信じ込んでしまってるのには、先日のニコラの一件が大きい。あれは明らかに人間じゃなかったし。

 

「で、かみさま。どうかしました?」

「ああええっとね、こうやって誘って手を取る人流石に居ないだろうなぁと思ったからちょっと驚いちゃって」

「えぇ……」

 

 民話とかならこのまま神様に連れ去られて神隠しENDな訳だけど、どうやらかみさまはそういう即死系トラップを仕掛けられるタイプじゃないらしい。

 

「えっと、何か悩みあるなら聞くよ〜? ほら私一応神だし?」

「滲み出る善人感! いや、あー、でもなぁ……」

「そうだね、そうだね、立ち話は良くないね、取り敢えずお家にご招待するよ、うん、それが良い」

「お家?」

「さてさて、さてさてさて、ちょっと古めかしいかもだけど、どうぞどうぞ〜」

 

 呆れながらも、実は嬉しい気持ちが込み上げてくることに僕は気付いている。

 何故なら、僕にとってこれが、初めて"ニコラ達が絡まない交友関係"になるかもしれなかったからだ。それと同時に漸くニコラ達の知らない僕が生まれたことに歓喜している。

 こうやってニコラ達の知らない僕を作っていく事が、彼女らへの細やかな反抗になるかも知れない。そう思って僕は本殿へと歩いていくのだった。

 

◇◆◇

 

「あ〜、それ色恋の神かな」

「いろ、こい……」

 

 本殿、縁側にて話し始める前、僕たちは社務所と呼ばれる建物を訪れた。

 

「え、火、出るの……」

 

 やかんでお湯を沸かし始めたかみさまを見て驚愕する。こんな山奥の謎神社にガスが通ってるのだろうか?

 

「通ってるわけないじゃん、あっははは! ほの囮おもしろーい!」

 

 だとしたらこのお茶は何なのだ。出された茶に口をつけるとちゃんと温かい、それに美味しい。

 

「意外と身体が覚えてるもんだね、人にお茶出すなんて久しくやってないから失敗すると思ってたよ。さ、お話聞こうか」

 

 かみさまに人生相談、ということで茶飲み話と言わんばかりに本殿の縁側に座って月を見ながらぽつりぽつりと話し始めた。

 幼馴染の事、学校のこと、家族のこと、街のこと、そして……寝たきりの妹のこと。

 他人にここまで話したことはない。というか何故か話そうとすると海知やニコラに見つかり会話が中断されてしまう。で、翌日には話そうとした相手がニコラ達に懐柔されていたなんてことはザラにある。

 しかしかみさまは本当に不思議な女の子で、なんというかなんでも話してしまっていいような雰囲気が出ている。お陰で出会ってから1時間近くかけて今までの生い立ちについて全て話してしまった。かみさまはその間もうんうんと嫌な顔ひとつせず聴いてくれた。本当に不思議な人だ。

 

 そうして話し終えて彼女が出した結論が先ほどの言葉だ。

 

「うん、『色恋の神』。明らかにその、柏崎海知って人間に都合の良すぎる事が起こってるって思ったことはあるかな? あるよね。うんうん。それはその子が『神の祝福』を受けているからだよ」

「……神の祝福?」

「うん。神に魅入られたニンゲンはその神の用意した状況を手繰り寄せる渦の中心になるの。そっかぁ、今北湊都の街は『色恋の神』が牛耳ってるのか〜」

「何て迷惑な神なんだ……」 

「で、その色恋の神の巫女(みこ)がほの囮の友人の村上ニコラって人間、と。君は神に好かれやすいのかもね」

 

 色恋の神、か。

 そんな神に魅入られたから海知は周囲にその状況を作り出してしまうわけだ。

 つまりこの場合、村上ニコラには色恋の神という神が取り憑いているということになるのかな。

 

「色恋の神が村上ニコラに乗り移り、柏崎海知を軸とした舞台装置を動かして街一つ丸ごと観劇の舞台にしてるんだね。ふふ、面白い面白い。外様(とざま)の神如きが私のお庭で大暴れとはいい度胸じゃない、あはははは」

「怖い怖い怖い怖い……」

 

 黒く笑うかみさま。それすらも綺麗だなぁと思ってしまうけど。

 とにかく僕の目はこの儚げな少女に奪われっぱなしであった。彼女の一挙手一投足に目がいってしまう。僕こんなに女子慣れしてなかったのか。

 

「普通はそんじょそこらの土地神が街一つに影響を及ぼすなんてあり得ないけど、まぁ北湊都はドブのような閉塞感でどろっどろの街だから仕方ないよね〜。私が街に居た頃からなーんにも変わってないのは少し面白いなぁ」

「言い方に凄い棘がありますね……」

「私この街嫌いだからね。

 

 ああ、そうだ、折角ならほの囮以外滅ぼしてあげようか?」

 

 微笑むかみさま。目が全く笑っていない。

 

「や、その……」

「冗談だよ?」

 全然冗談のトーンじゃない……。

 

「ほの囮ってなんでも信じちゃうね。これは確かに神に魅入られやすいかもね〜」

「うう……」

 

 人を信じないと決めたのにこのザマ……いや、かみさまは神だから例外でいいだろう。

 

「それじゃあそんな何でも信じちゃう可愛い可愛いほの囮に、信じられないようなものを見せてあげるよ」

「……?」

 

 かみさまは悪戯っ子のように笑って言った。

 

「お風呂、入りたくない?」

「……へ?」

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